軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

47.ダンジョンの匂い

『……むむ?』

王都へと続く道をのんびり歩いていたら、急にシロルが立ち止まった。キョロキョロあちこちを見ながら、鼻をクンクンさせている。

「どうしたの?」

『なんだか、嫌な匂いがするぞ……』

匂いは進行方向の左手側から漂ってくるみたい。シロルにとってはかなり不快な匂いらしくて、その顔はくしゃりと歪んでいる。

「うーん、私にはわからないよ。トルトは?」

「僕も特には」

同じように鼻をクンクンさせていたハルファは、諦めて首を振った。僕も同じだ。何か変わったようには感じられない。

『二人にはわからないか。これはダンジョンの匂いだ! それもとっても濃いやつだな!』

シロルがドヤァとふんぞり返る。わざわざ2本足で立って。でも、頭が重いからコロンとひっくり返った。

その姿は可愛らしいけど、僕とハルファの頭は疑問符でいっぱいだ。

「ダンジョンの、匂い……?」

「どんな匂いなの?」

『むぅ、説明は難しいぞ。ダンジョンに入ると、僕にはなんとなくわかるんだ。普通はここまではっきりとは匂わないんだけど』

うーん、なるほど?

匂いと言ってるけど、気配みたいなものなのかも。ダンジョンの強い気配が向こうからするってことかな。

「この辺りにダンジョンがあるって聞いたことはないよ」

『そうなのか? でも、あるのは間違いないと思うぞ』

シロルは自分の感覚に自信があるみたい。ダンジョンがあることを疑ってない様子だ。

『うぬぬ、気になるぞ!』

「それは“匂いが濃い”から?」

『そうだぞ! 普通とは違う美味しいものが、たくさんあるかもしれないだろ!』

あ、うん。そういう感じか。シロルらしいけどね。

「どうしようか?」

「行ってみようよ。私も気になるし」

ハルファにも異論はないみたいなので、僕らは街道を外れて歩き出した。

しばらくすると森に入る。途中でホーンラビットとかフォレストスパイダーといった魔物に出くわしたけど、弱い魔物だから苦労はしない。ホーンラビットはお肉のために確保、フォレストスパイダーは食べないから破棄だ。素材としての質はそれほどでもないしね。

『あれだぞ』

と、シロルが示したのは大岩だった。近寄ってみると、その一部に入り口らしき穴がある。

「これは、たしかにダンジョンっぽいね」

「キグニルのダンジョンに似てるね!」

ハルファの言う通り、入り口の雰囲気は近い。穴の先は階段。下っていけば、この先に地下迷宮が広がってそうな感じだ。

ただ周囲の様子は全然違った。だって、僕ら以外に人がいないもの。当然、ギルドの出張所もない。人気がないダンジョンなのかな。

「どうする? 入る?」

「せっかくだし入ろうよ!」

『美味しいもの、見つけるぞ!』

そんな軽いノリでダンジョンに入ることになって、僕は内心ドキドキしていた。だって、事前情報がないんだもの。浅い階層は危険が少ないとはいえ、油断はできない。

石の床と石の壁。迷路のような構造は、慣れ親しんだキグニルのダンジョンと変わらない。けど、狭いね。通路はギリギリ3人並べるかなってくらいの窮屈な道幅だ。暗いので灯りは必須。僕がランタンを持って移動している。

ようやく安心出来たのは、最初の魔物に遭遇してからだ。

「ゲヒヒ!」

現れたのはゴブリン3匹。キグニルダンジョンで散々戦った相手だ。

「これなら大丈夫そうだね」

『アイツらは食べられないぞ……』

「私に任せて!」

ハルファが名乗りを上げて、弓を構えた。

僕は待機だ。通路が狭いので、下手に動くと邪魔になる。ここは素直に任せることにした。

ひとつ、ふたつ、みっつ。

矢が放たれるたびに、ゴブリンは倒れる。さすがの腕前だ。

まぁ、お馬鹿なゴブリンたちは狭い通路でお互いの体をぶつけ合ってまともに進めていなかったので、ハルファじゃなくても苦労はしなかったろうけど。

ゴブリンは死骸を残さず消えて、魔石だけが残されている。キグニルダンジョンのゴブリンは棍棒をドロップしたけど、それさえないみたい。欲しいわけじゃないからいいんだけどね。

ともあれ、死骸が消えるってことは、ここがダンジョンなのは間違いないはずだ。

『ぬぅ……食べ物……』

「まぁ、まだ最初の敵だから」

「奥には美味しそう魔物がいるかもよ!」

すっかりテンションが下がったシロルを励ましつつ、迷宮を進む。地図がないので迷ったら大変だ。一応、マッピングはしてるけどね。

「あ、行き止まりだ」

「本当だ……いや、待って。あれ!」

迷路みたいに入り組んだ道は当然行き止まりもある。けれど、僕は暗がりに何か見つけた。引き返そうとするハルファを引き止めて、ランタンで少し先の足元を照らす。

『おお、宝箱だぞ!』

「え、本当!?」

「間違いないよ」

見間違いじゃなかった。袋小路の隅にポツンと小さな箱がある。とはいえ、ハルファが見落とすのも無理はない。その宝箱は、僕らの知るものよりも小さかったんだ。

「こんなサイズの宝箱もあるんだ?」

「うーん、僕もキグニルダンジョンしか知らないから、何とも」

『中はでっかいから、あんまり変わんないんじゃないか?』

まぁ、シロルの言う通りか。宝箱の中は不思議空間になってるから、大きさに合わないアイテムも普通に入ってるものね。

「罠は……ないみたいだね」

「何が入ってるかな?」

『食べ物がいいぞ!』

「じゃあ、開けるよ。二人は下がってて」

念入りに調査したけど、罠は見当たらなかった。念の為、ハルファとシロルを下がらせて宝箱を開ける。

中に入っていたのは、宝箱を一回り小さくしたような箱。見覚えのあるそれは――――パンドラギフトだ!