軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32.ミッションはおいといて

「新しい仲間、シロルを歓迎して、乾杯!」

レイの挨拶に合わせて、みんなで「乾杯!」とグラスを掲げた。

『も、もう、食べて良いのか? 食べるからな! むぐむぐ』

乾杯までお預けを食らっていたシロルが、早速、目の前の料理を攻略しにかかった。今日は豪勢に頼んだから、テーブルには料理がいっぱいだ。シロルがどれくらい食べるかはわからないけど、きっと満足してくれることだろう。

ギルドマスターとの面会を終えた後、ミルたちと合流して山猫亭の食堂にやってきた。打ち上げのときは山猫亭というのが、早くも習慣化してきたみたい。料理もおいしいし、お客も荒っぽい人がいない。酒場じゃないからお酒のみには物足りないみたいだけど、その分、面倒な酔っ払いもほどんといないから、僕たちには都合がいい。

ちなみに僕たちのいるリーヴリル王国においては、十六歳以上で成人と見なされる。栄光の階では一番年長なのがレイとミルだけど、二人でも十五だから実は大人が一人もいないんだよね。

飲酒の年齢制限みたいな法律はないんだけど、やっぱり慣習的に子供には飲ませないみたいだから、僕たちも基本的に飲んだりはしない。だから、乾杯も葡萄ジュースだ。

『おお、なんだこれ、美味しいぞ!』

「あぁ! シロル! 口の周りが大変なことになってるよ! 拭いてあげるから、じっとしてて」

『お、おお? ハルファ、ありがとな。美味しいけど、食べにくいなぁ、これ』

シロルが絶賛しているのは、ウサギ肉のシチュー。山猫亭の名物料理だ。たっぷりのウサギ肉をブラウンソースのルゥでじっくりコトコト煮込んだ逸品。これが本当に美味しいんだ。夢中になって食べちゃう気持ちはとてもよくわかる。

ただ、シロルはお皿から直に食べているから、口元のモフモフの毛が赤黒く染まってスプラッターな光景になっている。ハルファが頑張って拭ってるけど、それじゃあ色が落ちないよね。あとで〈クリーン〉をかけてあげよう。

「スプーンを使って、掬って食べるのよ。さすがにシロルには難しいかしら」

『おお、これを使うのか。確かにこれなら汚れないな!』

ミルがお手本を見せると、シロルは意外にも上手にスプーンを使い始めた。もちろん、手ではなくて【念動】スキルでスプーンを動かしているみたい。かなり繊細なコントロールができるんだなぁ……と感心していたら、スプーンが口ではなく鼻に突っ込んだ。

『ぷぎゃ!? ぬぁ、熱いぞっ!?』

「ふぁ~、大変っ!」

やけどしちゃったみたいだけど、サリィがすぐに〈ファーストエイド〉で回復させている。さすがに、【念動】で細かい作業をするのは難しいみたいだね。でも、食いしん坊なシロルなら、すぐにうまくなりそうな気がする。

そんな風に賑やかに食事をしながら、ミル、サリィ、ハルファにギルドマスターとの面会の話も共有しておいた。

「ふーん。そうなのね。でも、やることは今までと変わらないのよね」

「そうだな。せいぜい、隠し通路や隠し部屋、そんなものがないか少し丁寧に探すくらいだな」

ミルとレイが話している通り、僕たちの方針はこれまでと変わりない。慈雨の祈石を見つけて欲しいと言われたけれど、手がかりがあるわけじゃないからね。少しずつダンジョンの探索範囲を広げるしかないんだ。一応、地図に記載のある端あたりでは、特に気をつけて探索してみるつもりだけど。

「その黒狼が倒されちゃえば問題ないんだよね」

「そうだよ~。ルーンブレイカーまで渡したんだから、ぱぱっと解決して欲しいな~」

黒狼退治の切り札になるルーンブレイカーは、ギルドマスターに預けてきた。ギルドマスターから実力も信頼もある冒険者に託されることになっている。僕たちの探索範囲はまだ第三階層までだし、僕たちの実力では黒狼を倒すのは難しいだろうからね。

ただ、ルーンブレイカーを預けると言ったときのギルドマスターの表情が理解不能な物をみるような目にちょっと傷ついた。

いや、貴重な物なのはわかってるよ。でも、街の危機だから貸すわけだし、そんな顔しなくてもね。

もちろん、ちゃんと感謝もされたんだけど、受け取ってもらうまで何度も「本当にいいのか」と確認された。

まあ、戦いの最中に紛失してしまうことだってあるし、託した冒険者が持ち去ってしまうことだってあり得るわけだから、ギルドマスターの心配もわかるけどね。

とはいえ、僕にとってみれば、ルーンブレイカーよりも街の平和の方が大切だ。のんびりと冒険者生活をするには街が平和じゃなきゃね。問題を解決してくれるなら、ルーンブレイカーはあげちゃってもいいくらいだ。サリィは怒るかもしれないけど。

「まあ、僕たちは僕たちのできることをやっていこうよ」

『おぉ。僕もトルトたちに協力するからな! だから、これからも美味しい物を頼むぞ!』

シロルが前足を振ってアピールする。

うん、それもあったね。一応、シロルに美味しい物を食べさせるのが使命らしいから、ちょっとは頑張ってみようかな。せっかく調理技能があるわけだしね。

調味料や調理器具が充実していないから、前世の知識をそのまま使った料理を作ることは難しい。でも、この世界には魔法がある。うまく使えば、調理器具の代用にはなるかもしれないよね。もうちょっと、本格的に魔法を習得してみようかな。

そうだね。魔法の習得と調理技能を向上させて、シロルに美味しい物を食べさせてあげよう。食べ物なら、他のみんなも喜んでくれるはず。

うん、やる気が湧いてきたぞ!