軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30.突然のもぐもぐタイム

『よろしくな、マドルス。僕が聖獣のシロルだぞ。何か用か?』

「むぅ。確かに意思疎通できるようだ。だが、本当に聖獣かどうか……」

ギルドマスターはシロルの挨拶に驚いたみたいだけど、それだけで聖獣と信じるつもりもないようだ。まあ、聖獣という言葉から抱く印象と、シロルが結びつかないのはわかる。シロルはヌイグルミ向きの容姿だからね。

「トルト、鑑定ルーペをギルドマスターに貸してもらえないか?」

「あ、うん。いいよ」

レイの提案に応えて、僕は鑑定ルーペをギルドマスターに手渡した。種族表記があるから、一番手っ取り早いよね。

鑑定ルーペでシロルを見たギルドマスターは「ぬぅ」と苦しげなうめき声を上げている。

現実との折り合いがつかなかったのかな? かわいい聖獣がいたっていいじゃない。

そのあと、ドルガさんもシロルを鑑定したんだけど、こちらは「お、本当に聖獣だな」と軽い感じで受け入れていた。対照的な二人だね。

ギルドマスターがシロルを聖獣だと認識したところで、レイがシロルに関する経緯を話し始めた。理路整然というか、話がまとまっていてわかりやすい。おかげで僕は特に口を挟む必要もなさそうだ。

『なあ、トルト。この話はいつまで続くんだ? 帰ったらダメか?』

『えぇ? どうだろう。もうちょっと我慢してよ』

『むぅ。僕は退屈だぞ。ああ、そうだ。何か美味しいものを食べさせてくれ。そうしたら、我慢するぞ!』

困ったことに、シロルが退屈してしまっている。さすがに、この状況で食べ物を出すのはちょっとなぁ。でも、聖獣の話をしているのにシロルを帰していいものか。

『トルト、まだか~?』

ああ、シロルが完全にお食事モードだ。期待するような目で僕を見ている!

……うん、端のほうでこっそり食べれば大丈夫だよね。きっと。たぶん。

僕は隅っこに移動して、シロルを床に座らせた。さて、何を食べさせてあげようか。といっても、こっそりと食べられる物なんて多くないんだよね。とりあえず、僕が作ったお菓子みたいな何かをあげよう。

小麦粉と砂糖と水を混ぜて捏ねて、フライパンで焼いた何かだ。本当はクッキーを作りたかったんだけど、卵もバターも市場には売ってないんだよね。卵は高級品だけど多少は流通してるみたいだけど、バターは影も形もない。少なくともこのあたりでは流通してないみたいだ。

オーブンはあるんだけど、火加減の調整がとても難しくて燃料費もかかるので気軽に試せる感じじゃないんだよね。で、出来上がったのが、今シロルが食べているものだ。まあ、厚くなったクレープの生地みたいな感じかな。

そんな適当なお菓子でも、シロルはむぐむぐと必死に頬張っている。

『変わったパンだけど、甘くてうまいな!』

砂糖だけは奮発してたくさん使ってるからね。シンプルだけど材料費はそれなりにするんだ。

「コホン!」

シロルの様子をぼんやりと見ていると、特大の咳払いが部屋に響いた。発信源はギルドマスターだ!

いつの間にか、レイの説明も終わっていたみたい。シロルの食べっぷりに気を取られて気が付かなかったよ。不覚!

シロルもちょうど食べ終わったタイミングだったので、抱き上げてギルドマスターに向き直る。

「……うむ。ひとまず、従魔印については了承した。ニーナが用意してくれているだろう。ところで、私の方からも聖獣であるシロルにたずねたいことがある」

『おお、やっとか。なんだ? なんでも聞いていいぞ』

「実は近頃、ダンジョン内で見慣れぬ黒い獣が確認されている」

そう前置きして、ギルドマスターが話し始めた。

ギルドマスターの言う黒い獣は主に第五階層以降でたびたび目撃されているようだ。第八階層以降の深層を主な活動領域としているような凄腕の冒険者にとって、倒すのは難しくない。しかし、中層を探索するような中堅冒険者には油断できない相手らしい。

しかも、厄介なことに、黒い獣の爪や牙で傷を負うと発熱に発疹といった症状が出て、徐々に衰弱してしまうようだ。すでに数人の冒険者に被害が出ていて、ひどい者は意識が戻らないような状態らしい。

「黒い獣……? もしかして、あのときの……」

黒い獣といえば、僕にも心当たりがある。僕が冒険者になる前、ルドヴィスたちに連れられて潜ったときに遭遇したあの黒狼だ。

関係があるかどうかわからない。だけど、あの黒狼は他の魔物にはない異質さを感じた。小さくなる前のシロルに感じた神聖さとは真逆の、禍々しさだ。

「僕も見たことがあるかもしれません」

僕はギルドマスターに黒狼の話をした。ついでにルドヴィスたちの悪行についても。復讐する気はなくても、偉い人に直接訴える機会があるなら逃す手はないよね。

「ルドヴィス……あいつらか」

ギルドマスターは顔を顰めている。

ルドヴィスたちは、たびたびトラブルを起こすため評判はよくないみたいだ。それはニーナさんからも、他の冒険者たちからも話を聞いている。

「そういえば、トルトもその黒狼に傷を負わされたと聞いたが、発熱はなかったのか?」

「うん、そんなのはなかったよ。だから、別の魔物かもしれないけど」

レイの指摘した点が、ギルドマスターの言う黒い獣と僕の言う黒狼との違い。

とはいえ、見慣れぬ魔物が同時期に二種類も現れるとは考えにくいんだよね。そもそもダンジョンに出現する魔物というのは、ダンジョンごとに定まっているものだから。極稀に未発見のレアな魔物が見つかることはあるけど、そんな珍しいことが同時に起こるよりは同一の存在だったという可能性の方が高いと思う。

僕の推測を話すと、ギルドマスターも重々しく頷いた。

「そうだな。私もそう思う。実はその獣については心当たりがあるのだ。古い文献に記述があってな。かつて、この地方で厄災をもたらした存在がいる。当時、聖獣を連れた英雄がダンジョンに封じたという話なのだが……」

そこでギルドマスターが、シロルに視線を向ける。その視線に気づきもしないで、シロルは何やら唸っていたんだけど、不意に「わふっ!」と大きな声を上げた。

『おお、思いだしたぞ! そいつは 疫呪(やくしゅ) の黒狼とかいうやつだな!』