軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

299.不気味な笑い

「ブレスが来るぞ!」

レイが叫ぶ。それに応えたのはスピラだ。

「任せて!」

一瞬にして僕らとドラゴンの間に氷の壁ができあがる。遅れて轟と燃えさかる火炎の音。ドラゴンのブレスは、壁に阻まれて僕らには届かない。十数秒の奮闘でも分厚い氷を溶かしきることができなかったドラゴンは、諦めてブレスを止めたみたい。隙と見て、スピラが氷の壁を消す。抜群のタイミングで飛び出したのはローウェルだ。

「はっ!」

紫電の一閃。雷を纏った斬撃がドラゴンの太い右腕に深い傷を刻む。

それだけでは終わらない。ローウェルの剣がさらに数度煌めいた。剣が振るわれる度、ドラゴンの傷は深くなる。そしてついに、その右腕が切り飛ばされた。

――――ギャグァァアアア!

その叫びは悲鳴かそれとも怒りの咆吼か。いずれにせよ、ドラゴンは狙いをローウェルへと定めた。だけど、そんなことはローウェルも承知の上だ。襲い来る顎を後方へと退いて躱した。

ドラゴンは壁から出られないみたい。必死に首を伸ばして噛みつこうと藻掻くけど、間合いを見極めたローウェルにはギリギリで届かない。あえて大きく退かないのは、ドラゴンの気を引くためだ。そちらに注意が集中しているドラゴンは、左腕に接近する存在に気づけない。

「はっ!」

「だぁりゃ!!」

ミルとレイ、二人の剣がドラゴンの左腕を切りつける。深手とはいかないけど、小さくないダメージを負わせたみたい。

ドラゴンが首をもたげて、そちらへと対処しようと動き出す。けれど、そうはさせてもらえない。

「〈バーストブリッド〉」

大きめの火球がドラゴンの鼻先に着弾した。直後、小さな爆発が起きる。驚いたドラゴンが体勢を崩した。どうと首を倒して地に伏す。

このチャンスを逃す手はない。合図はないけど、みんな一斉に動いた。総攻撃だ。

ローウェル、ミル、レイの剣が首を狙う。スピラは氷槍を鼻孔に飛ばした。ハルファも光の矢を飛ばしてそれに加わる。僕とシロルは雷撃だ。ドラゴンの目に雷を落とす。プチゴーレムズには後方への警戒をしてもらっているけれど、これなら邪魔が入る前に終わりそうだ。

最後はローウェルが決めた。魔法で拡張した雷の刃が、ドラゴンの首を両断する。直後、ドラゴンの体とそれが生えてる壁が崩れはじめた。妙な見てくれだけど、ダンジョン内の魔物だ。倒すと煙のように消えるのは他と変わらないみたい。

終わった……と思ったのは油断だった。

――ギッギッギッ

最後に残ったドラゴンの首が変な声で鳴く。大きくはないけれど、まるで笑い声のようで不気味だ。

「ご、ご主人! 壁が!」

アレンの慌てたような声に、僕は右手側の壁を見る。さっきまでは、ごく普通の石壁だったはずだ。それが今は波紋を描きながら揺らめいている。まるで、ドラゴンの笑い声に共鳴するかのように。

はっとして後ろを振り向く。逆側の壁も同じように、揺らめいていた。揺らめく壁は少しずつ変質していく。ごつごつしていた表面がつるりと滑らかな材質に変わった。

「退こう! 壁がへんてこになってる!」

僕が言い終わる前に、みんなも走り出している。変化が終わる前にプチゴーレムズのところまで戻れたので挟み撃ちにされるのは避けられた……のだけど。

「トルト! そこの壁も揺れてる!」

「嘘!?」

ハルファに言われてすぐそばの壁を見る。僅かだけど、確かにその壁も波打っていた。

「首はどうなってる!?」

「ドラゴンの首なら消えた! それよりも新手だ!」

レイから怒鳴るような返答。慌ててそちらをみると、さっきまで僕らがいた場所の両側から何かが生えている。片方は胴回りが人の数倍はある大蛇、もう一方は巨大な獅子の頭だった。

「来るぞ!」

ローウェルが鋭く声を発する。その直後、大蛇が突っ込んできた。

「うわぁ!?」

「ハルファ!」

危うく丸呑みされそうになったハルファを、壁際に引き寄せる。

「みんな無事?」

「ピノが呑まれました!」

「嘘!?」

大事件だ。ピノはゴーレムだから例えボディが壊れても載せ替えることはできるけど、あの等身大ボディをもう一度用意するのは難しい。職人さんの特別製だからね。

「早く出さなきゃ!」

「要注意。巻き込みの恐れがある」

逸るミリィをシャラが諫める。無闇に攻撃すると、中にいるはずのピノに被害が及ぶ。シャラの警告は正しい。

『お、ここを見ろ! どんどん揺れてるぞ! ここにいるんじゃないか!』

シロルは大蛇の動きを止めるため、巨大化していた。そのとき、両前足で押さえつけた場所のすぐ近くが中から叩かれていることに気がついたみたい。何かといえば、呑まれたピノしかない。

ピノの居場所さえわかれば、そこを避けて攻撃すればいい。幸い、大蛇はドラゴンほど強くなかった。身動きとれない状態で総攻撃を受けた大蛇は数秒という短い時間で息絶えた。

「わ、助かった~」

消えた胴体からは、意外と平然としたピノが出てくる。だけど、すぐに僕の意識は別の場所に向いた。蛇の頭だ。

――ギッギッギッ

「まずい! 声を止めろ!」

「わかってる!」

ローウェルの指示に、頭のそばにいたレイが動いた。盾の殴打を受けた大蛇の頭が溶けるように消えていく。笑い声は小さくなったけど……完全には消えなかった。

「なんで!?」

「あっ!? あっちの頭だよ!」

スピラが指さすのは、残った獅子の頭だ。どうやら、あの不気味な笑いはトドメを指すときだけのものではなかったみたい。反響する笑い声を受けて、さざ波のようだった壁の揺らめきが激しくなった。