軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

216.送り還す

僕らは銀の腕を異界に送り還すための作戦を練った。

ネックとなるのは、やはり攻撃が無効化されてしまうこと。しかも、異形兵よりも厄介なんだよね。試しに遠くからシュレッディングストームをぶつけてみたけど、銀の腕は平然としていた。いや、平然とはしていないか。怒り狂って大量の異形兵を生み出したから、ちょっと大変だった。

『あれほどの大きさになると核が複数存在しておるんじゃろう。もしかすると、同時に破壊せねばならんのかもしれん。それに、核が体の奥深くに存在している場合、お主の攻撃ではやはり火力不足じゃ』

というのがガルナの推測。核への同時攻撃はともかく、僕の攻撃が火力不足なのは確かだ。シュレッディングストームでは、あいつの表層を切り裂くことしかできない。攻撃が届かなければ幸運を発揮する余地もない。

「トルトでも難しいか……」

ローウェルが腕を組み、呟く。みんなの表情も心なしか暗い。

奴を倒す手段が思い浮かばないのかな? でも、僕には腹案があるんだよね。

「僕の攻撃では無理かも。でも、ハルファなら倒せるんじゃない?」

「私?」

「うん。ショックボイスは有効なんじゃないかな」

「あ!」

ショックボイスは物理的な障害があっても、衝撃が浸透してダメージを与える。銀の腕や異形たちにはうってつけの魔法だと思うんだよね。

試しに異形兵を釣り出して使ってみたところ、確実にダメージを与えることがわかった。だけど、問題がなかったわけじゃない。大集団だと一度で倒せるのは先頭の数体だけだ。二度、三度と放てば殲滅することは可能だけど、威力の減衰は思ったよりも大きいみたい。今までこれほど効きが悪かったことはないので、これも異形たちの特性なのかも。

「腕に迫ってしまえば異形たちを盾にして威力を軽減させることはできないだろうが、奴自身も同じ特性を持っているなら今の威力では厳しいな」

「そうだね」

ローウェルの分析はおそらく正しい。異形たちの親玉のような銀の腕が減衰特性を持っていないとは考えにくい。しかも、あの巨体だ。至近距離で放ったとしても、核に届くほど衝撃が浸透しないだろう。

「いつかみたいに歌を増幅すればいいんじゃない? アイングルナでやったでしょ?」

「うーん。でも、ショックボイスだとゴーレムが壊れちゃうかも」

「あ、そっか」

スピラの案は悪くないと思う。アイングルナでやったように声帯模写できるゴーレムを拡声器代わりに使えば、歌唱魔法の一種であるショックボイスも増幅することは可能なはず。問題はハルファの言うとおり、ゴーレムが衝撃に耐えられないことなんだよね。

「うってつけの素材はあるんだけど……でも加工ができないんだよね」

そう言って僕が取り出したのは、オリハルコン。以前、邪教徒の企みによってダンジョンの下層に転移させられたときに確保しておいたものだ。耐久性が高いから、これでゴーレムを作ればショックボイスにも耐えられると思うんだけどね。

問題は加工難度。並の鍛冶屋では手も足も出ないんだよね。クリエイトゴーレムで変形させようにも、マナ消費が激しく諦めるしかなかったんだ。

『そういうことなら、僕らが力になるよ。協力してくれるよね?』

『そうね。こんな状況だもの』

『世界の内側の事柄に関して過度な干渉は禁じられているが、今回については外からの侵略を撥ねのけるため。他の神もうるさくは言うまい』

『神々が軽々に力を貸しては人の成長に差し障る……じゃが、そうも言っておれんか』

廉君の呼びかけに、他の神様たちも応えてくれたみたい。神様たちがそれぞれひと撫ですると、オリハルコンの塊は少しずつ輝きを増し、虹色の光を纏った。

『さあ、これで加工しやすくなったはずだ。試してみなよ』

廉君の言葉に従い、オリハルコンに向けてクリエイトゴーレムの魔法を使う。

以前試したときと違い、明らかにマナの通りが良い。普段作っている土ゴーレムと同じように、思い通りの形のゴーレムができあがった。拡声器型ゴーレムだ。メガホンに持ち手がついているようなアレだね。

「これがゴーレム?」

「また不思議な形状の……」

「ま、まあトルト君だからね」

『いつものことだぞ』

何故か、みんなの評価が厳しい。今回は狙い通りの形に作れたんだけどなぁ。

さて、いよいよ、本番だ。

作戦は単純。巨大化したシロルに乗って銀の腕に迫り、ハルファが拡声器ゴーレムで増幅したショックボイスを放つ。これだけだ。妨害してくるであろう異形たちは僕とスピラ、ローウェルで防ぐ。

「じゃあ、そろそろ始めるよ。準備はいい?」

「うん! 任せて!」

『僕も大丈夫だぞ!』

みんなの準備が整ったことを確認して、壁となっていたゴーレムを土へと還す。銀の腕が異形兵を呼び出す反応を見せたけど、シロルは構わず駆けだした。

ぐんぐんと縮まる距離。だけど、僕らを阻むように異形兵が生まれる。前方の敵はシロルが突進ではじき飛ばした。僕は左右に向けてシュレッディングストームを放つ。嵐の壁で異形兵を寄せ付けない。

間近に出現した異形兵はスピラとローウェルが対処する。

スピラは自分から生やした氷の蔦で異形兵を掴むと、放り投げてるね。うまくシュレッディングストームの範囲内に投げ入れることができれば数を減らせる。

ローウェルは樹属性の魔法剣を使ってるみたい。斬りつけた瞬間に異形兵の体内に蔦を這わせて接合を防いでいる。しかも、じわじわと侵食させているらしくて、異形兵の何体かは砂に還った。

そうこうしているうちに、ついに銀の腕の目前だ。ハルファは拡声器ゴーレムを構えて――……

「きゃ!?」

「ハルファ!?」

ショックボイスを放とうとした直前、銀の腕が暴れだした。抉りとるかのような勢いで地面に叩きつけた手のひらは、無数の石塊を飛び散らせる。運悪く、その一つがハルファの方にも飛んでいったようだ。咄嗟に避けたみたいだけど、バランスを崩してシロルから転がり落ちてしまった。

気付いた僕もすぐに後を追う。

「大丈夫?」

「うん! でも……」

異形兵たちが群がってくるけど、それ自体は問題ない。僕の攻撃は普通に通るし、ハルファもショックボイスで対処できる。

問題は暴れ回る銀の腕だ。飛来する石弾への対処が面倒だし、狙いも定められない。どうにか奴の動きを止めたいところだけど、次々と襲いかかってくる異形兵たちの対処で手一杯だ。

「異形は俺たちが防ぐ。トルトはあいつの動きを止めろ!」

「ローウェル! わかったよ」

ローウェルたちが異形たちを無力化しながら僕らの側に駆け寄ってきた。シロルも巨大化状態を解いて合流している。彼らが異形兵へと対応してくれるのなら、奴を拘束できる!

使う魔法はもちろんクリエイトゴーレム。巨大ゴーレムで銀の腕と力比べだ。

銀の腕の暴れぶりは、かなりのもので巨大ゴーレムも数秒で崩されてしまう。だけど、気にしない。とにかく、ゴーレムを次々と生み出して、数で勝負する!

何度もゴーレムが生み出されては壊されて、周囲の地面はボコボコになっている。それでも、ついに三体のゴーレムで銀の腕を押さえ込んだ。

「今だよ、ハルファ!」

「うん!」

今度こそ、絶好のチャンス。

ハルファは大きく息を吸ったあと、拡声器を構えた。そして――……

「もう帰ってぇぇぇえええ!」

ハルファの声が轟音となって辺りに響いた。魔法の効果範囲にいないはずなのに、ビリビリと空気が震えているのがわかる。

『のわぁ!? 耳が変だぞ!』

シロルの叫び声だけが聞こえる。他のみんなもそれぞれ何か叫んでるみたいだけど、何も聞こえない。轟音の影響で聴力が一時的に失われているようだ。

圧倒的な破壊力。これには銀の腕も耐えることができなかったみたい。

はっと頭を上げて見た先ではサラサラとした銀の砂が風に攫われて消えていくところだった。