軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18.闇市に行く

防具屋さんで思わぬ浪費をしてしまったので、次の魔術師ギルドでは自重した。買ったのは〈クリエイト・ウォーター〉と〈ディテクト・マジック〉のスクロールだ。前者は銀貨5枚だけど、後者は銀貨10枚とちょっとお高い。まあ、どちらも今の所持金なら躊躇なく買える。でも、買いたいものはまだ別にあるから、ここで使うお金は最低限にしておいた。

さて、本命の買い物に移りたいところだけど、まだ日が高い。たぶん、売っているとしたら、闇市なんだよね。偶然だけど、今日はキグニルに闇市が立つ日なんだ。

闇市は盗品や違法な物など、表だって捌けない物品を扱う非合法な場所だ。衛兵による取締を逃れるため、開催は不定期。開催場所はキグニルの少々治安が悪い区画にあるんだけど、それすらもたびたび変更されているようだ。通達は独自のネットワークによってのみ伝えられるらしい。なので、普通に生きる一般人はいつ、どこで開催されているのかも知らないみたいだ。

それなのに、何故、僕が知っているのか。理由は単純で【短剣】講習のドルガさんに教えてもらったからだ。雑談の中で少し話を振っただけなのに、まさか本当に知ってるなんてね……。

あの人、本当に堅気の人なんだろうか。ちょっと心配になるよ。

フラフラと街を歩いて時間を潰して、日が沈むのを待つ。目的地に近付くにつれて、柄の悪い人が目につくようになってきた。まあ、柄が悪いって言ったら冒険者も大差ないかもしれないけどね。強面の人が多いし、そんな人が武器を持ち歩いてたら、ねえ?

それはともかく失敗したかも。山猫亭の夕食の時間はそれほど長くはない。食べてから来るんだったかな。まあ、ぱぱっと目的のものを探してぱぱっと帰れば間に合うよね。たぶん。

そんなことを考えていると、闇市が開催されている場所までたどり着いた。入り口では目つきの鋭いお兄さんが目を光らせている。

あれ、もしかして、入場資格みたいなものが必要なのかな?

そう思ってビクビクしていたけど特に咎められることもなく中に入ることができた。ただ衛兵の人たちを警戒してただけなのかも。

闇市は、一般の人には知られていないはずなのに、それなりの人で賑わっている。篝火や灯りの魔道具が灯され、一帯を煌々と照らしているので不自由も感じない。衛兵の目を盗んで細々とやってるのかと思ったけど、意外にも大規模だね。

もしかして、黙認されてるのかな? それにしては衛兵を気にしてる様子なんだよね。一部の衛兵を抱きこんで誤魔化してるのかもしれない。

おっと。夕食のこと考えるとあんまりのんびりもしていられない。怪しげな露店を次々に覗いていく。

色々な物が売ってるね。なんだか呪われそうな鏡とか、いわく有りげな短剣だとか、誰が何のために買うんだろう。買い手がつかないから残ってるのかもしれないけど。

そんな風に露店を見て回っていると、ついに目的の物が売っている露店を見つけた。店主は不景気な顔をしたおじさん。文字通り、景気が良くないんだろうね。おじさんのお店は閑古鳥が鳴いているから。

おじさんのお店に並べてあるのは、ダンジョン産の微妙なアイテムだ。所持を禁止されているような違法品ではないけど、デメリットが大きくて真っ当で堅実な考えの人ならまず使わないようなアイテムが集められているみたいだ。

例えば、護衛者の呪符。これは周囲で発生したダメージをすべて使用者が引き受けるというアイテムみたい。状況によっては使えなくもない気がするけど、基本的にはいらないアイテムだ。味方のダメージだけを請け負うのなら、もう少し使い道があるのに。

博打打ちの錫杖は、ランダムで魔法弾を打ち出す魔道具。そう聞くと便利そうだけど、魔法弾の射出に成功する確率は1/8程度。一度使用したら再度使用できるようになるまで少し時間がかかるので連続使用もできない。その上、1/4で破損、1/8で暴発するらしい。危険すぎて使えないアイテムだ。

他にも、そんなアイテムばかりだった。しかも、変に良心的というか、律儀にも全部の商品に効果を説明した木板が用意されてるんだよね。そりゃあ、誰も買わないよ。

でも、その中にひとつだけ僕の目的のアイテムがあるんだよね。それはもちろん、パンドラギフトだ。サリィには釘を刺されたけど、やっぱり気になるよね。一応、約束を守って開封はしないつもりだけど……。

いや、いつかもっと幸運値が高まって全くのリスク無しで開封できるようになるかもしれないからね。買い集めておくことは、無駄ではないはず!

「おじさん、売れてる?」

「……子供? なんだって、こんなところに? 見ての通り、売れてねぇよ! ちくしょう。パンドラギフトを集めてる奴がいるっていうから仕入れてきたのに全く売れやしねぇ」

どうやら、このおじさん、元々は真っ当な行商をしていたみたいだ。資金も貯まり、そろそろどこに店を構えようかと考えていたところにパンドラギフトの話を聞いたらしい。伝手を頼りにパンドラギフトを確保して、最後の一儲けをしようとして、全く売れずに途方に暮れてるようだ。

そのパンドラギフトを集めてたっていうのは、たぶん、僕の元ご主人だろうね。でも、僕が霊薬ソーマをあっさりと引き当てちゃったから、必要なくなっちゃったんだろうな。このおじさん、運がないね。

「そのパンドラギフトっていうのは幾らなの?」

「そんなこと聞いてどうするんだ? まあ、ひとつ大銀貨2枚だよ。これ以上値段を下げたらそろそろ赤字だ……」

うわっ、博打要素が強いアイテムなのに結構高い! けど、ダンジョン産で、それほど大量に出回らないなら、そんなもんなのかな? それともおじさんが騙されてるとか。なんかどっちもありそうだね。

店先に出ているパンドラギフトの数は4つ。全部買ったら大銀貨8枚か。うん、買えるね。

「パンドラギフトはここにあるので全部?」

「そうだが……。まさか、買う気じゃねえだろうな? やめとけやめとけ! 説明にも書いてあるだろう。たいていは不運な結果に終わる。お前みたいな子供が大金出して手を出すようなもんじゃねえ!」

うーん。このおじさん、いい人だね。というか、商売向いてないんじゃないかな。

「大丈夫だよ。珍しいものを集めてるだけだから。全部で大銀貨8枚だよね。金貨で大丈夫?」

「あ、いや、すまん。今は釣りが無いんだ。ほら、やっぱり考え直したほうがいいんじゃないか?」

ええっ!?

僕も大銀貨は持ち合わせて無いんだよね。なんだか面倒になってきたなぁ。

「じゃあ、金貨一枚でいいよ。よくわからないけど、仕入価格ギリギリなんでしょ? とにかく、絶対に買うつもりだからね」

「わかったわかった。とはいえ、一度提示した値段を引っ込めるのもな。そうだ、それなら他のアイテムも持っていってくれ。それで取引成立だ!」

うわぁ。正直、いらない。

いや、確率で破損したりするアイテムはひょっとしたら幸運補正でなんとかなるかも? 交渉を続けるのも大変だし、素直にもらっておこう。