軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第35話 精霊の楽しいこと

翌朝、ディルクさんに突撃して昨日の夜思いついた説明すると、意外にも彼は即座に承諾してくれた。

「相談をしてくれたことに感謝する。俺もついて行こう」

「えっ良いんですか!」

精霊のことだから、と二人きりにさせてもらった執務室で私が驚いていると、ディルクさんは私の疑問を察したらしい。

「あの場所は秘密にしなければならないが、君の提案は現状のまま、死魔の森の精霊を外側に呼び寄せられないか試すのだろう? ならば是非お願いしたい。失敗しても一つ試行結果が増えるだけだ。ただ俺もこの目で見てみたいんだ」

そんなわけで、すぐ都合をつけたディルクさんは馬に飛び乗って私についてきてくれた。

「領主様――!! 書類仕事が――!!!」

「役人さんの悲鳴、聞こえた気がするけど大丈夫?」

ディルクさんの横で杖に乗って飛びながら尋ねると、彼は朗らかに言った。

「君が俺の代わりに魔獣の討伐を引き受けてくれたおかげで、いつもより採決は進んでいる。仕事は際限なく湧いてくるものだから、適宜切り上げないと俺が書類で埋もれるんだよ。緊急性の低い案件は潔く置くことは、君も覚えておくと良い」

「なるほど、覚えときます」

と、いうわけで、再びやってきたカルブンクス領の死魔の森である。

森に一歩入ったとたん、私たちは大量の精霊に取り囲まれた。

『マタキタ!』

『アソブ? アソブ?』

「わーまってまって!」

めちゃくちゃ嬉しそうにきゃっきゃっとする精霊達があの花園に連れて行こうとする気配を感じた私は、全力でストップを掛ける。

ディルクさんなんて、マントと髪をつままれて空中に浮きかけている。ちょっと面白い。

いけないいけないここからが重要なんだ。

こほんと咳払いした私は、彼らに向けてこう切り出した。

「今日はお散歩に誘いに来たの!」

精霊達にだって意思がある。人間達とは違う基準だけれど、死魔の森に愛着があるのに移住なんて言い出したらちょっとなあっとなってしまうだろう。

だから、あくまで散歩。遊びの延長とすることで、お手軽感を演出してみた。

そしてさらに興味をもってもらえる秘策を、私はちゃんと持ってきた。

精霊達が首をかしげる中、私はおもむろにバッグからリンゴのコンポートが詰められた瓶を取り出す。

きゅぽんっと開けたとたん、死魔の森にはない、甘酸っぱい香りが広がった。

「このおいしい果物がある場所まで。一緒に行かない?」

これを食べたとき思ったんだ。庭園に実っていたリンゴもおいしかったけど、あの村のリンゴも負けないぞって。

結果を言うと、精霊達は大いに釣れた。

リンゴのコンポートひとかじり、一緒に詰められた蜜ををひと舐めした精霊達は大張り切りして私達をさらうと、死魔の森の結界なんてなんのその、空中を駆けてその日のうちにリンゴの村にたどり着いたのだ。

「!?!? 聖女様にりょ、領主様!?」

「な、なんで空中から?」

「っその周りにいる、ちみっちゃいものは……?」

強面領主様の登場にびびり散らかし、私の存在に困惑しながら、ぶるぶる震えて村人達は平伏する。

あ、そうだった。半分忘れかけてたけど、ディルクさんの顔は怖いんだったね。

そんな領民達の反応にディルクさんは慣れているらしく、楽にするように呼びかけても震えたままの村人達へ鷹揚に切り出した。

「今日は、聖女殿が先日の件について話したいことがあるのだそうだ。俺はまあ付き添いだ」

村長さんは顔を上げないまま体がぴょんっと跳ねた。

「や、やはり儂らどもの対応がよろしくなかったのでしょうか……!」

あ、そっか。わざわざもう一回来たら、不手際を罰しに来たと思ってもおかしくないか。

また悪いことしてしまったな、と思いつつも私は精霊に食い尽くされて空っぽの瓶を村長さんに差し出す。

戸惑う村長さんに、私は道中何度も練習した台詞を話した。

「この間は、ごめんなさい。でもコンポートとってもおいしかったんです。精霊達に分けたら気に入ってくれて、みんなで遊びに来ました」

「こ、こここのまるっこくてちいさい方々が精霊様!?」

驚きをこらえきれずにどよめく村人達の周りを、精霊達はくるくると駆け抜ける。

すると一人のご婦人の周りに集まり出す。

『リンゴ、リンゴ!』

『アマイヤツ』

『オイシーノ』

『チョウダイ!』

「ひ、ひえええ……」

どうやらあの人がこのリンゴのコンポートの作り手らしい。鼻が良いなぁ。

未知の生命体、それも自分が今まであがめていた精霊に取り囲まれてしまったご婦人は腰を抜かしている。

ごめん、ここまで気に入るとは思わなかったんだ。

私は助けるために近づくと彼女の前にしゃがみ込む。

「ひ、聖女様っ」

「まだあれば、コンポートをごちそうしてくれませんか。あとジュースもおいしいって聞いたので、そちらもよければ。この村の良いところ、精霊達に知って欲しくて」

『ジュース?』

『ナニナニ!』

『オモシロイ?』

「ううん、面白いものじゃなくておいしいものだよ」

すかさず訂正しつつ、私は村長さんを振り返る。

顔が赤くなったり青くなったりしている村長さんは、ディルクさんに精一杯の勇気を出して確認しているところだった。

「せ、精霊様が、儂らの村に、あ、遊びにきて、くださった、と……?」

「ああ、聖女殿が貴殿らのもてなしの礼にと、精霊様達にご相談してくださったのだよ」

「そんな、とんでもない……! 儂らの配慮が足りませんでしたのに」

私が勝手に出て行っちゃったお詫びなんて言ったら余計に恐縮するからって、ディルクさんが考えてくれた建前とはいえ、こ、こそばゆい!

聞いていられず、私は大きな声で割り込んだ。

「今日は、その、精霊と一緒に滞在させてもらえたら、と思って」

「冬の備えについては俺が責任を持つ。存分に精霊達にごちそうしていただけないか」

ディルクさんにまで言い添えられて、ざわ、ざわ……と村人達がざわめき出す。

「聖女様が、ご滞在くださる……?」

彼らの視線は自然と村長さんに集まった。

ぶるぶる震えていた村長さんは、ばっと拳を突き上げた。

「宴じゃ―――!!!!」