軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33.テネリタスの砦

私の通り抜けないウィンドディヴィジョンがかなり便利なことに気付いた。

平面の小さな足場として使えるのだ。

余計な時間は掛けたくなかったので、上へ上へとウィンドディヴィジョンを展開してそれを踏んで飛ぶ。次の足場を作って着地、飛ぶを繰り返してなんなく砦に入ることができた。

途中矢が飛んできた。まあ、不審人物にしか見えないだろう。しかしそれも矢筒の矢がなくなったあたりであちらで何やらやりとりがあったらしく止んだ。

飛んできた矢がつかめるほどに、相手の弓手の腕はよかった。正直我が領地に欲しいほどである。

「セラフィーナ様!」

弓手の直ぐ横にいた人物が声を上げる。

「アーロン?」

手を振る姿にこちらも振り返す。最後のひと飛びで壁の縁に乗った。

「アーロン! 元気そうね」

白髪交じりの老兵で、ルーカスのお目付役でもあった。旧知の仲だ。

「魔法を習得したのだとお聞きしましたが、なんとも今までに無い魔法ですな……空中を歩くことのできる魔法、ですか」

「ふふ、違うの。でも、そうね。歩いてくることができたわ。……ルーカスは?」

私が尋ねると、アーロンはにやりと笑う。

「足をやられておりますが元気です。足も癒やし手のおかげですぐ回復することでしょう。今は重傷者が多くそちらを先にと言ってやせ我慢をしておられます」

「魔力回復薬や傷薬を持ってきたの。使って」

背中から荷物を降ろすと、ありがたいと言ってアーロンは受け取る。

「こちらへ。ルーカス様がいらっしゃいます」

「ありがとう。あ、これ。返すわね」

弓手に握っていた矢を渡して、アーロンの後をついていった。弓手はおかしな顔をしていた。まあ確かに、宙を歩いて来ているのだ。そんな顔になるのも頷ける。

途中通路にも負傷した兵士たちが座っている。砦の中は最悪の状況だった。ルーカスはテネリタス領主の息子だ。上がいなければ彼が指揮官となるのだろう。

部屋の中には数名の騎士たちが何やら難しい顔をして話し合っている。

「ルーカス!」

「セラフィーナ!?」

足をやっているのは本当のようだ。ソファに座り、足置きに右足を乗せていた。

「怪我の具合は? 立つのは難しそう?」

駆け寄り彼の側に膝をつく。しばらく見ないうちに頬がこけていた。かなり苦労したようだ。これほどの魔物相手に、砦を囲まれ絶望的な気持ちであったろう。

「セラフィーナ、どうやってここに……外の魔物は……」

「うん、魔物はいっぱいいた。兄様に飛龍で送ってもらったの。魔物をクッションにして飛び降りたから私は無事よ。怪我も何もないわ」

手を取る私に、ルーカスは驚きながらやがておかしそうに笑う。

「さらに常識から離れだしたな」

「フォルツァの人間なんてこんなものよ」

「レナード様が全力で否定しそうだが……ああ、もう会えないかと思っていたから……」

私の手を引き寄せ、額に押し当てる。

まあ、こんな状況ならそう思っても仕方ない。だが、私はこれを終わらせに来たのだ。

掴まれている手と反対の手、左手で腰から魔道具を取り出す。

そしてするりと彼から離れると、後ろに立っていた男を引き寄せ組み敷き、首に輪をはめた。拘束具だ。

「セラフィーナ様!?」

「セラ、何を……」

「ローグレイル・カンデュース、魔晶石の核をどこに埋めた?」

私の低い声に慌てて止めようとした周囲の者が動きを止める。

耳だ。特徴的な耳がルーカスの側にいたことに私はめまいがした。

「ルーカス、誰でもいい、これがいつからここにいる?」

「せ、セラフィーナ様、そのものはローグといって、テネリタスで雇い入れた知識人でして……」

「いつから?」

「もう一年以上前からです」

アーロンの言葉に彼の方を見る。

「一年以上前からどこに?」

「この砦ですが、その、砦の環境保全といいますか、衛生管理の向上を……」

「これは、ここで何をした? いや……深い穴を掘ったりしたか?」

「セラ、いったい何を?」

ルーカスたち皆が戸惑っている。だが魔晶石に関してこれだけの人数に暴露していいものだろうか。

聞きはしたが、今拘束具でこの男は話すことすらままならない。身体を動かすことを許可していない。

「ルーカス、私はこの危機的状況を脱するための手がかりを持っているの。この男が元凶であり、この男のせいで魔物が砦に押し寄せている可能性がある」

ほぼ確実なのだが、それを説明するには色々とばらさなくてはいけなくなる。国が全力で隠してきたことだ。私の一存でこの人数に話すのはためらわれた。

「地中を掘るようなことはしていない?」

周囲の男たちの中から一人が手を上げる。

「一年半前に、井戸をいくつか掘りました。ただ、うまく水が上がってこなかったので放置しているところがあります」

そこだ。

私の下で、ローグレイルも反応した。

「この男の拘束を解かないように。案内してくれる?」

答えてくれた男に求めると、彼は頷いた。

「セラ」

呼びかけながら立ち上がろうとするルーカスを止める。

「彼はローグレイル・カンデュース。元学園の研究者よ。悪い研究をしていたみたい。危ないし待ってて、ルーカス。昔からそうでしょう? 考えるのは貴方。動くのはセラフィーナ」

今回は私もだいぶ考えたけどね。

案内された井戸になりえなかったものは、砦の西の端にあった。

「水は出てないのよね」

「はい。結局東側に井戸を掘り、そちらで出たのでここは放置されました。埋めないといけないなといいつつこのままに。なかなか人手が足りなくて」

「たいまつを」

井戸の中に落とす。それほど深くはないようだ。そして何かが反射した。

間違いなさそうだ。

自分なら、核を放り込んで少しだけ土をかぶせる。それで一応地中だし、影響を与えたいのならむしろ地表に露わになる方がいい。

井戸は大きめで、私が両手を広げられるかくらいの円形だ。

「ここに、楔がある……縄ばしごで降りたのかしらね」

こっそり人目につかぬ時間に降りて、研究を重ねていたのかもしれない。

「ちょっと降りてくる。もしかしたら地鳴りがするかもしれないけど……まあ、魔物の咆哮に比べたらましかもね」

どの程度育っているのだろう。

核の周りに魔晶石ができるので、自然と核は中心になるらしい。

「空気がなくなると困るから、たいまつを放り投げるわ。当たらないように気をつけてね」

腰の鞄から明かりの魔道具を取り出す。落として深さを確かめるには惜しいお値段でケチってしまった。

ひょいっと井戸の縁を乗り越えると、両手両足を広げて、落下速度を抑えながらたいまつの側に辿り着く。すぐさま上に向かって思い切り投げた。少しだけ角度をつけるように。無事、外側に落ちた。

さて、明かりに地面がキラリと反射する。

魔晶石だ。

魔晶石はとても硬い。専用の工具でガリガリと削る。

と、上が騒がしい。

「はは、それでどうするつもりだ! 魔晶石を掘り出す魔道具すら持っていないくせに! お前たちは全員終わりだ! 私は私の研究成果を世に知らしめるのだ」

うるさい。

誰かが拘束具の条件を緩めたらしい。困ったものだ。