軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25.魔物の急襲

事件が起きたのはヴィクトリア殿下が城に帰る日だった。私はもちろんマキナ先生の元で魔道具の制作準備だ。魔道具の設計図から、部品を作る。素材を使って作るのだ。

「ここで裁縫をすることになるとはっ……」

「セラフィーナさんの魔道具は、手袋の上から着けて使うものですから」

普段剣を握るときにしている手袋の上にはめるような形になるのだが、手袋の方が衝撃で破けてしまわないよう、手袋を丈夫にする魔法陣を縫い付ける。糸も素材だった。厳選された素材で縫い付けなくてはならない。

「素手にはめれば問題ないのかもしれませんが、これを使おうというときは、たぶん手袋をしているときだと思うので、先に対策を講じておくのがよいかと」

以前言われた手の方がダメージを受けるというやつだ。私の体には薄くだが魔力の層がある。そして鍛えればその層を厚くして身体強化を行うことができるのだ。この魔道具で殴る瞬間、手の魔力の層を厚くすれば私の手と、力を発揮する魔道具は無事。だが、手袋がそのたびに裂けるという危機に陥る。

かといって素手では、長い時間戦っていると手に汗をかいたり、また疲れから握力が落ちてきたりということもある。普段から手袋をしているのは握る手のひらの疲れを軽減するためでもあり、摩擦による衝撃を緩和し、また摩擦を増やして滑り落ちるのを防いだりするためだ。

「セラフィーナさんは刺繍もこなしていたと聞きますが」

「この一年間一切せずにいたらこの有様です」

手が覚えてはいるのだが、ルーカスに渡すハンカチの刺繍任務を終えた後は一切針をもたなかった、プラス、裁縫は苦手な私の意識に引っ張られている気がする。

とにかく丁寧に、時間がかかってもいいと自分に言い聞かせてはみるものの、早く終わらせたいという気持ちが手元に出ている。

「少し、休憩します……」

「ふふ、先ほども休憩されていたではないですか」

嫌な言い方でなく、さらに彼女は席を立つとお茶を淹れてくれる。休憩が有意義になるよう努めてくれるのだ。

以前ルーカスの話を聞いてきた彼女もまた魔道具に興味のある、今年一年の学生だった。

「ハンナさん。セラフィーナさんを甘やかしすぎてはなりませんよ」

「ふふ、私もお茶をいただきたかったのです」

結局部屋の各地へ散っていた学生たちが皆集まり、お茶の時間になった。

そうしてゆったりした午後を過ごしていたのだが、突然目の奥からストンと何かが落ちたような感覚に襲われた。

落ちたそれは私の腹で広がり全身の毛が逆立つ。手や足に鳥肌が立った。

瞬間的に、立ち上がり剣の柄に手を掛ける。

「セラフィーナ!?」

マキナ先生が叫び、生徒たちは反応できずに固まっていた。

「ウィンドサーチ」

説明する暇が惜しく、最近さらに改良された私のウィンドサーチが走り出す。

方角はわかっている。本能的に。

今見据えている、前方。ずっと先。学園の外だ。あちらには森がある。

習ってから何度も練習し、サーチのスピードを上げていた。その先に触れたモノに戦慄する。

「魔物がっ! 先生、避難を」

前方には窓がある。

私はそこから飛び出した。

三階の窓から飛び降り、衝撃は転がることで受け流した。そのまま魔物がやってきている方角へ走り出す。

右手に午後のひとときを過ごす生徒が写る。

「直ぐに校舎へ!! 寮へ戻れ! 魔物が来るっ!」

怒号とも言える私の命令に初めは驚き固まっていた生徒が、慌てて走り出した。これだけじゃダメだと、拳を空へと向かって打ち出す。

「ファイアボール!!」

とにかく異変を知らせなければ。

学生は、何か起きたと感じたら、直ぐに寮へ走るはずだ。校舎へ向かえば教員がいる。戦闘に長けたものが多少なりとはいる。

「セラフィーナ!」

名を呼ばれて少しほっとする。グレイドル先生だ。

「先生! 魔物がやってきます!」

「サイラスから聞いた。サーチしたのか?」

「はいっ! バーベラントだと思います」

「……何体だ!」

「私のサーチに触れた個体に弾かれたので一体しかわかりませんでしたが、感覚が三体以上と告げております」

話しながらも走る足を止めない。

「一体は確実に俺が受け持てるが……」

「押さえ留めることを第一目標とします」

応援が来るまでの間。とにかく校舎に向かわせないことが大切だ。バーベラントはサルの魔物だ。大きく、知能も高い。側の森に現れたことはなかったはずだ。もっと奥の方で生息している魔物である。

「先生、見えました」

目視で四体。

「ウィンドサーチ」

「おい!」

「個体数を把握することが第一です」

他に隠れていてそちらを取り逃がすのがまずい。

ぞくぞくと、腿のあたりが震えた。

これは、セラフィーナの感覚だ。ぶるりと腕が震える。

武者震いだ。

「五匹です、先生。奥に一匹。たぶんそれがリーダー」

「えらいことになったな」

「第一目標は応援が来るまでアレをここへ留めることです」

「わかった」

ふぅと息を吐いたグレイドル先生の気配が変わる。

殺気が、ウィンドサーチのように円を描いて広がっていく。

私は少し距離を取ってそれをまった。

グレイドル先生の殺気が、

バーベラントの一匹に触れる瞬間を。

それが、試合開始の合図だった。

相手は私たちの二倍の背丈を持ち、十倍以上の筋力を持つ。とうてい素手では敵わぬ相手だ。それを一匹は押さえ込めると言うのだから、グレイドル先生はやはりすごい。

殺気に触れた一匹が真っ直ぐグレイドル先生へと向かう。ここでやらなければという焦りからの行動だ。本能で、立ち向かうしか道がないと悟ったモノの、後がない攻撃だった。

半瞬遅れて、他の三匹が援護に向かう。うち一匹は先生の殺気に紛れた私の獲物だ。バーベラントの皮膚は厚く、剣に魔力を通してオーラとせねば切れぬほどの硬さだ。しかしそうすれば早い段階で私は気を引いてしまう。

だから、一発目は拳。

素早く繰り出した拳が、相手に到達するところで発動する。

「ウィンドカッター」

風の刃が、私の拳の速度にのってバーベラントの左脇腹に入る。

先生が殺気を隠しもせず、挑発するように迫ったのは、バーベラントの昼間の視力がそこまでよいものではなく、気配や殺気、怒気、つまり魔力で相手の位置を測るからだ。

奇襲で確実に一匹は殺る。

突然現れた魔力の塊と、同胞の絶叫に走り出していたバーベラントたちは一瞬困惑した。その一瞬さえあれば、先生の殺気に触れていたバーベラントが真っ二つになる。

「お見事!」

「ここからだ、気を引き締めろ」

奇襲と、不意を突いたこの攻撃はもう決まらない。私も剣を抜いて剣先に魔力を纏わせた。