軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12.危険な花束

ヴィクトリア王女が仮病を使っている間、毎日花が届く。とても綺麗で、王女は喜ぶと同時に後ろめたさを感じるようだ。

それでも必要なことだと言葉を尽くしていた。

花が届くのは、大体昼過ぎだ。

それが今日は午前中に扉がノックされた。

ルシールが私に目配せし、テリーサを止めて私が応対する。

「こんにちは。デルウィシュ王子殿下からのお花ですか」

つとめて笑顔で問うと、相手の男性も笑顔で頷いた。

「ヴィクトリア王女様へとのことです」

見かけない顔だ。

この花束を持ってくるのは、学園に出入りしている業者だった。最初から昨日まで、ずっと同じ少年が運んできている。

「そうですか。……残念ですけど、実はこの花、姫様はアレルギーがありまして」

男は目の奥で動揺する。

話しながらも私は後ろ手に扉を閉め、素早く四回ノックしていた。

鍵を閉め、開けるな、という合図。

どうしましょうねと、悩んでいると、見ていただくことだけでも出来ませんかと言われる。

「申し訳ございませんが」

殿下のお心配りは伝えておきますと答え、あちらも仕方ありませんねと引き下がった。

「玄関までお送りしましょう。花を届けに来る者は多いですが、外に出て行くのは珍しい。女子寮ですし、咎められることもあります」

そういって促すと、男は大人しく着いてきた。

だが前方に、花束を抱えた少年が現れる。

そう、いつもの少年だ。

動いたのは男か、セラか、それとも同時だったか。

花束に何かがあるのはわかっていたので、私は男の後ろ頭を思い切り掴むと、床に打ち付けた。

だが、目の端に、赤く燃える花が目に入った。

男の手を離れた瞬間のことだ。

つまり、彼は――、

「ウィンドディヴィジョン!!!!」

両手の中に、あの、防御の魔法を。

私の手の内に、花束とともに!

この両手の中に閉じ込める!!

衝撃が、手の中の空間から伝わって、私の骨をしびれさせる。

だが、周囲に影響はなく終わった。

「お姉さん、大丈夫ですか? お花、握りつぶした……?」

「ふふ、大丈夫。ありがとう。いつものお花よね? 今日だけノックを五回してちょうだい」

私は額から血を流している男を担ぎ上げると、少年に手を振る。

「救護室に行ってくるわね。お花、よろしく」

そう言って少年に背を向けると、私は駆け出す。こういった者を連れて行く場所は決まっていた。

懲罰房の中は魔法が使えない。

男を縛り付けて、いったん外に出る。頭はどこにも損傷はなかったし、額の傷は酷いが、そろそろ血も乾いてきている。

「セラフィーナ!」

「グレイドル先生」

「入り口の警備員はがっつり叱っておいたが……お前、その両手、治療してもらった方がいいな。何をした?」

言われて私は自分の手を見る。

確かに、気付かなかった。血まみれだ。急にズキズキと痛みが湧いてくる。

「花束が爆発物だったようで、両手にこう、握りしめて、その手の中に閉じ込めるようにウィンドディヴィジョンを」

実演して見せる。

こうね、ぎゅっぎゅっと。

「……ほら、ここはそう簡単に出ることはできないし、救護室に行くぞ」

言われれば言われるほど痛くなってきたので、私は大人しくついていくことにした。

「もうしばらくしたら騎士団が来る。そうなったら状況説明やらなんやらで大忙しになるだろう」

救護室で手当をしてもらいつつそんな話を交わしていると、外が騒がしくなる。

騒がしさがすさまじい音とともにやってくるのだ。

グレイドル先生が警戒の態勢を取るが、私は気配でわかっていた。

「先生、兄です」

バァンと扉が開かれ、騎士の正装を着た次兄、レナードが現れた。表情は……厳しい。

座っていた私もしゃんと背筋を伸ばして敬礼する。

「怪我はっ!?」

「はっ! 額に深い傷はありますが、現在は出血も止まっており、懲罰房につないでいます」

「そうじゃない、セラの怪我だ」

あれ? 私のことか。

それには両手を見せるのが一番だ。

優秀な癒やし手でもある救護室の先生が綺麗に治してくれていた。

「すっかり元通りになってます」

兄は盛大なため息をついたあと、癒やし手に礼を言う。

「セラフィーナ、説明を聞きたい」

どうやら兄は自分の騎士団を連れてきているようだ。

第三は王族の警護の一端を担っている。

用意された部屋に、私はグレイドル先生と一緒に入った。五名ほど他に騎士がいるようだ。

グレイドル先生は帰ろうとしていたのだが、レナード兄様が誘った。

「それではセラフィーナ、状況の説明を」

「はっ! ヴィクトリア王女は軽い風邪を引いてしまい、この一週間は部屋で安静にしておりました。それに対してデルウィシュ王子殿下が、毎日花束を贈ってくださり、それを運んでくるのは少年です。彼は身元も明らかです。が、今日はその花束の時間が早く、持って来た男は見知らぬ者でした。アレルギーを理由に花を断り、玄関まで送るところで運悪く、早く来た少年と鉢合わせをしました。あちらも大きな花束を持っており、私は瞬時に男の頭をこう、後ろから床に打ち付けました」

おう……と騎士たちが声を漏らす。

「ただ、そのとき男の手から花束が空に放り投げられ、花びらが燃え上がるのを目の端に捉えたので――」

「爆薬か?」

「たぶん、そう、判断しました」

「一時期流行った方法だな」

「その男ははなから知っていたのだろうか」

「花束を見てもらうことだけでも出来ないのかと部屋の中へ入りたそうにしていたので、たぶん……」

「セラフィーナ、続けて」

「はい! 燃え上がり、爆薬と判断したので、手で握り潰すように、ウィンドディヴィジョンを展開しました!」

「はっ?」

皆が皆、同じような反応をすることに戸惑う。

「えと……こう、花の爆発が、周りに広がると危険なので、ぎゅっと。花を包み込むように作ったウィンドディヴィジョンを、さらにぎゅっとこう、手で握りつぶすように……」

私の発言に騎士たちは一様に首を傾げ、兄は眉間のしわに指を当てて何やら考えている。私の前世のイメージからの発想を伝えるのはなかなか難しい。そうだ、実演すればいいのか。

「そうですね、例えばこの花瓶の花を」

と言って、花瓶から花を抜く。綺麗な花だが、兄様たちに状況を説明するのにはやってみせるのが一番だろう。

「ウィンドディヴィジョン」

花の周りに風の防御壁を張る。さらに今度は手でぐっとその防御壁を、手の中に閉じ込めるよう、満身の力を込めて、ぎゅぎゅっとぎゅぎゅっと。

すると、オレンジの可愛らしい花がぐっと小さくなり、やがて私の手の中に収まった。風を解除し、手を広げると、花だったものがパラパラと落ちる。

「さすがに爆発の衝撃で風が最後は解けてしまい、多少手に傷を負いましたが、被害は最小限に抑えられたと思います!」

私のその魔法に、次兄も、グレイドル先生も、騎士たちも目を剥いている。

ふふ、魔法使えるようになったんだよ!