軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そして二人の結末は

船が出港する。足の早い帆船が、装備を整えて堂々と、国の港から新たな船旅に向かうのだ。

キッドはその船の上で、あれこれと指揮を取っていた。

この船が新たな彼の船なのである。

「お頭、こっちはどうだ」

「もっと帆を緩めろ、このままだとうまくいかない」

「了解」

船員達も慣れたものという調子で、彼の指示に従う。まさかこんな結果になるとは、とキッドは驚いてしまって仕方がない。

この船はそもそもはキッドの船であり、船長を決める投票の結果、追い出されたはずの場所だった。

魔神が消え去った後に残されたのは莫大な寮の黄金だった。

それをありったけかき集めた船員達の半数は、これからは陸でも遊んで暮らせるようになる、と新たな生活への希望を抱き、船を降りる選択をしたのだ。

残されたのは、船を愛する者たちばかりで、キッドはそれがおかしいなんて欠片も思わない。彼もその側だったのだから。

船に乗り続けたい集団は、船を動かすために新たな船員を募集し、その募集に乗ったキッドが顔を合わせてそこで、事情を知ったのである。

キッドを再びお頭にすること、それにもともと乗っていた船員達は否やとは言わなかった。

彼はそれだけ腕のいい船長であり、鼻が利き、船員達を導いてきた実力をもっていたからだ。

またキッドにお頭になってほしいと頼んだ彼らに、キッドが言った条件は一つだけ。

「キッド、どの航路を取るんだ?」

目立つ桃色の髪を短く刈り込み、その上からバンダナで覆った少女が、くるくると働いて話しかけてくる。

「ミック、こっちの航路だ、何が見える?」

少女の義眼はぎょとぎょとと動き、彼女がこう答える。

「東の航路は幸先が良い。何故って天候に恵まれているのがよくわかるから」

「よし、予定通りだな」

キッドはそう言ってミックの頭をグシャリと撫でる。この少女を船に乗せること、それがキッドがお頭として再び船に乗るための条件だった。

船員達はためらったものの、ミックが乗っていても海神は何一つ彼らの船に非道いことをしなかったという事実があるので、仕方がないかと了承した。

それを了承するくらいには、キッドの船長としての腕前に価値があったからとも言える。

頭を撫でられたミックは嬉しそうだ。

「ミック、こっち来て手伝え!」

「はい!」

船員の一人が、下っ端船員にするようにミックに呼びかける。ミックは言われるがままにそちらに走っていく。

「お頭、本当にあの子を船に乗せちまってよかったのか。……ルークから多少は聞いたぞ、あの子はとんでもない魂の器になっちまってるってな」

「ああ。本来なら神殿で恭しく扱われるだろうが、あいつはそもそも神殿にも聖職者にもいい感情がない。あいつにとってそこに閉じ込められることは地獄で、貴族社会に入れられることも悪夢だ」

問いかけてきたベッグにキッドがあっさりと答える。

それは真実だった。

フェデル王は意識を取り戻したミックにもキッドにも謝罪をした。国王直々の謝罪は相当なものだったが、キッド達が行った魔神討伐のことを考えるとそれもありかもしれなかった。

王はお詫びとして二人に領地をあたえて、貴族の地位につけることを申し出た。

そもそもの聖女に成り代わろうとした公爵令嬢の家の土地を分割した形で、である。

しかし、キッドはそれを断ったし、ミックは自分を地獄に追いやろうとしたのが貴族だからか、王様の言葉なんて耳も貸さずに早く王宮から出たがった。

「お詫びをもらうなら財宝と許可証だな」

キッドの海賊らしい言葉に王はそれくらいならと頷き、国の秘宝を与えた。清浄な水が尽きない樽である。

遠い黄金の時代に作られたそれは未だに力を宿しており、船という水に苦労する場所で生活する男にはこれ以上ないお宝だった。

ミックの方はというと、ルークが目を覚ました彼女を検査した結果、魔神を体に宿したことにより、尋常ではない魂の器になってしまったことが確認できた。

それは、神を降臨させても正気を失わないという、とんでもない体質になったことを意味していた。

これに神殿は、彼女を保護したいと申し出たわけだが、ミックはそれをすべて拒絶した。ミックにとって神殿も聖職者も聖女も、すべて拒否の対象だったのだから。

神殿は納得しなかったものの、ここでフェルダ王が介入し、強引に神殿に軟禁するということにはならずにすんだのだ。

神殿側は納得がいかなかった様子であったのだが、ミックが直接

「聖女関連のことで俺に謝罪したいと思うなら、神殿に来いなんて言うな」

とこきざみに震えながらもきっぱりと言いきったことにより、その意思を曲げたときの方が、何が起きるかわかったものではないという認識が神殿側に芽生えたことにより、なんとか大きな争いにならずに済んだのだった。

聖女とは最初の出会いの後は会わなかった。

ただミックの方は、胃液の入ったたらいをひっくり返した後ろめたさがあったので、それを謝っていたことを、聖女に言付けてもらった。

聖女はそもそも持っていた力が、魔神の魂を削って与えられていたものだとわかった後は、神殿から腫れ物のように扱われているらしい。

力は素晴らしかったけれども、その大本が受け付けないというわけだ。

彼女が全て悪かった訳では無いが、自分が居なくなった後に、力のない民がどうなるかに付いて思い至らなかったことが、悪いこととされた。

何しろ暴走したのは王子と公爵家令嬢だけだったのだから。

他の怠惰な聖女たちも、神殿で、今までのように恭しくは扱われなくなったものの、他に行くところなどなく生活しているという。

そして、全ての元凶である追放劇を行おうとした王子と公爵令嬢はというと……行方が知れなくなった。

ある日、彼らを確認しに向かった使用人が目にしたのが、それまで中身があったかのように寝台の上に残されていた衣類だけで、中身の王子も令嬢も行方不明になったのだ。

これはおそらく天罰だろうと噂され、災の元凶であるゆえに誰も憐れんだりしないことこそ、彼らへの罰に等しかった。

「海賊を辞めてお宝探しの冒険者ってので、納得されてるのが不思議だぜ」

「略奪行為がない分、海賊との争いはあっても神殿からも許可証がもらえたってのがでかいだろうよ」

「神殿は大陸のあっちこっちにあるからな。そもそもそこから許可証をもらうってのが普通の待遇じゃねえしな」

「違いない。それもミックがいるからなんだろう?」

「そうさな」

キッドはそう言って目を細めた。

それを見てベッグが言う。

「身内だったんだろう?」

「は?」

「ミックだ。お前の目を見れば多少は気づく」

「ああ。……おふくろの連れ子でな。俺が十三の頃に親父もお袋も死んだ後、借金取りがあいつの方に降りかからないように、孤児院に預けた義理の妹さ」

「その頃のことをミックは覚えていないんだろう?」

「当たり前だろまだ三つになるかならないかだったんだからな」

「いつ教えるんだ?」

「一生教えないぜ。そうすりゃ他人の船長と下っ端のままでいられるからな。身内だから贔屓したとか思われたくないしな」

彼の言葉にベッグは苦笑いをした。たしかに船では身内だからと贔屓する行為は争いの種になる。キッドの判断は正しい。だが。

「ミックは家族が欲しいと思うぞ」

「まあそれはいずれ」

キッドはあっけらかんと笑い、号令をかけた。

「準備は整ったか! これから出港する! 行き先は東! 宝島だ!」

その声に答える船員達は意気揚々としており、キッドのもとにミックが駆け寄る。

「お頭! 行こう、新しい冒険だ!」