軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

寝起きのミックは走り出す

その日の夢はいつもよりも不思議な気がした。夢はいつでも痛みを伴うと決まっていたのに、その日は不思議な声に問いかけられたからだ。

それでもお前は生きたいか。

その声はそう問いかけ、ミックはそれにどう答えたのかを覚えていなかった。覚えているわけもない。夢の中の事を何から何につけてまで暗記している方が驚きだ。

そんな事を思いながら、ミックは意識が浮上したので目を覚ましたのである。外はもう真っ暗で、キッドが言っていたとおりに、確かにあたりは昼よりも遥かに騒々しい気配で満ちている。

シャンティは夜のほうが騒がしい。それは海賊が群がる島特有の感覚かもしれないと、ミックはなれない明るさに目を細めながら思った。とにかく火の光で眩しいのだ。……眼帯で隠している方の義眼が、ぎりぎりと痛みだす。眼帯をつけたまま寝てしまったせいだな、とミックは眼帯を外した。

この眼帯を外すのには少しのコツが有り、ミックはそれを外すのにももう慣れてしまったけれども、あんまり知らない人は簡単に外せないようにできていた。それはルークが、この義眼を有象無象に取られてはたまるものかと考え、眼帯をそういうふうに作ってしまったせいである。

魔道具であるミックの義眼は、それだけ価値があったのだ。価値があっても使いこなせる人間が一人もいないで今まで来てしまった以上、役立たずという評価も正しいかもしれない。

がちゃがちゃと義眼を外す。義眼は久しぶりの明るさに戸惑った獣のように、ミックの視界を一瞬奪った。

見えないものが見えてくる。見たくないものも見えてくる。見えたはずのものが見えなくなる。それは義眼がミックの視界を奪う時特有の状態で、それに慣れてしまったミックは、胃の中のものを吐き出さないように、それだけを意識した。上等な宿の寝台に、嘔吐とは洒落にならないだろう。掃除の代金がべらぼうに高そうなのは、それは上等な宿だからである。幸いたらいなども完備されているけれども、わざわざ胃の中のものを吐き出したいとも思わなかった。

なんだろう。ミックは義眼の視界が遥か遠く、船着き場を通り越して、海原に行く事に疑問を持った。普段だったらこんな風にはならない。もっとめちゃくちゃに視界が切り替わって、船酔いを超えた気持ち悪さをミックに与えてくる義眼が、何かの意思を伝えようとするように、一点だけを進んでいくのだから不思議だろう。

義眼の視界は遠く遠くに行く。距離はそこまででもないだろうが、島から海原というのは遠くである。

……たくさんの船が見えた。軍船だ。どれもかなりの装備を積んでいて、武器弾薬あれこれをもたっぷり積んでいるに違いない。

それは一直線な調子で、どうしてだろう、今まで見つけ出せなかったはずのシャンティを目指して進んでいる。

海賊の港は隠されていないと色々厄介だ。そのために海賊船も、シャンティに入る際には目立たないようにしているのに、たくさんの軍船がシャンティを物々しい調子で目指していた。

とにかく大変な事が起き始めるという現実が近づいているのはわかって、ミックはとっさにキッドの姿を探した。

だがキッドはミックが寝ているからどこかに出ていったのか、寝台にはいなかった。

どうしよう。

考えたミックは義眼を隠さずに、そのまま義眼をむき出しにした状態で、キッドを探すべく意識を集中させた。

ルークが以前言っていたのだ。この義眼はおそらく、誰かを探すのにとても適している能力を持っている、と。

探したい人間を頭に思い浮かべて意識を集中させれば、確実にその誰かを探し出すに違いないとも。

それをミックは信じたのだ。信じて意識を集中させて……ミックはついに見つけ出した。

それは宿の一階の光景だった。ここの宿だ。見覚えがある。そこでキッドは受付に何かを話していた。何を話しているのかは、まだ読心術を極めていない下っ端にはわからない事だった。でもキッドはそこにいる。そこにいるならすぐにいかなければ。大変ななにかが始まる前に。

立ち上がったミックは靴を履くのもおざなりに、宿の扉を開いて走り出した。

「どうしたんだ。そんなに慌てた調子で。それに眼帯をどこに置き去りにしたんだお前は」

キッドが駆け寄ってきたミックに気づいてそう呆れた調子でいう。その気持はわかるけれども今はそれよりも大事な話がある。

「お頭、軍船が来る」

「はあ?」

「ここに、軍船がたくさん来る! 本当なんだ、見えたんだ、お頭」

この下っ端がそんな嘘を付く阿呆ではないと知っているキッドの顔が変わる。真顔でキッドは問いかけた。

「どれくらい先だ」

「三日以内だ」

「……それじゃあ、船が直り次第急ぎでここを離れたほうがいいな」

「だめだ、お頭。それじゃあ間に合わない」

「なんで間に合わないんだ?」

「見えた軍船はかなり遠くまで大砲を飛ばせる装備だった。三日もここにいたら、湾を出る辺りではもう、軍船が湾の周りを包囲してる」

それに対して、宿の受付は呆れたように言う。

「何かの悪い夢でも見たのかい、下っ端くん。そんな事は普通じゃない。軍船って言ったって、旗はどの旗だった」

「聖具に剣が2つ刺さってた」

その言葉を聞いて受付の顔色が青くなった。

「ちょっとまってくれ、それって神殿の兵団の旗印だ。……悪い夢だよ坊主。神殿の旗を掲げた軍船なんてものが来たら、こんな場所はひとたまりもないからな」

「……」

キッドがやや目を伏せた。何かを考える構えを取り、ミックに問いかけた。

「他に何が見えた」

「その前に見えたものでもいいのか」

「そうだ。何をお前はいくつ見た」

「頭に白い頭巾を被ったばあさまが、封印が解かれたとか言っているの」

「他には」

「国に見つかる前に、神殿が見つけ出さなきゃいけないとかいう感じの言葉」

キッドはわずかに口を開けた後にこういった。

「驚きだぜ、白い頭巾は神殿の大神官だけがかぶれる装備だろう。頭巾の印は」

「あれに葉っぱが絡んでた」

ミックは宿の一階にある祭壇を指さした。祭壇には聖具が掲げられている。これは一般的な祭壇だった。

「聖具に葉っぱ。真面目に大神官のみが許されている印だな」

「キッド、おれはどうしたらいい」

「今からベッグのところに戻るぞ。船の修理を急がせる」

「キャプテン・キッド、そんな子供の言う事を真に受けるのかい」

受付の人間がいうが、キッドはそれに対して笑ったりしなかった。

「こいつは見えるのさ」

それだけは、信じてもらって間違いのない、ミックの義眼のなせる技だった。