軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第96話 違約金

『三日月の騎士』が撤退した。

そのことによりあるはずだった『竜の熾火』の仕事はなくなり、エドガーはギルド長室でメデスに怒られていた。

「エドガー! どういうことだ? お前、言ったよな? 鉱石の拠出を渋れば、『三日月の騎士』からより多く金貨を搾り取れるって。それがどうだ? あいつら金を落とすどころか、島から引き上げちまったじゃねーか」

「あ、あれー? おっかしいなー。情報によると、あいつらはまだ3回目の探索を残してるはずなのに……」

「この期に及んで3回目もクソもねーだろ。ツメが甘いんだよお前は。普通に支援してりゃあ3回目の製造・修理費も取れたかもしれないのに。お前のせいでオジャンだよ。テメェこの責任どう取るつもりだ? ああ?」

(くっ。このヤロォ。俺一人にだけ責任取らせるつもりかよ。自分もノリノリで俺の案にゴーサイン出してたくせによぉ)

「エドガー、お前先月も目標未達だっただろ。今月も無理だったら、お前分かってんだろーな? ただじゃおかねーぞ」

エドガーは小一時間説教されるのであった。

メデスの怒号はカルテットの作業場にも聞こえてきた。

「エドガーの奴、だいぶ絞られてるね。大丈夫かな?」

シャルルが心配そうに言った。

「ふん。欲かいて調子に乗るからだバカが。人の仕事横取りしやがって」

「ほんとそれ」

ラウルとリゼッタは素っ気なく言うのであった。

『竜音』の 竪琴(ハープ) と魔石杖の製造に成功した『精霊の工廠』では、ロランがウェインとパトを育てるために新たな課題を言い渡そうと悩んでいた。

しかし、それを待たずウェインはパトを捕まえてとある企みの誘いを持ちかけていた。

「装備の質を下げる?」

パトは今しがたウェインの口から出た言葉に眉をしかめた。

「ああ、今のヌルいやり方じゃいつまで経っても『竜の熾火』にゃ勝てねえ。『竜の熾火』を潰すには客を奪うしかねーだろ。そのためには値段だ。値段を下げれば、こっちになびいてくる客も現れる。値段を下げるにはある程度装備の質を下げるしかねえ。粗製乱造でもいいから、とにかく客を掴むんだ。なあに、心配はねーよ。この島の冒険者なんて目先のことしか考えねえバカばっかりだ。多少、質が下がってもバレやしねーだろ」

「ダメだよ。そんなの。それは『精霊の工廠』のやり方に反する」

「そうだな。まずロランは反対するだろう。だが、だからこそ今なんだよ。実績を上げた今なら、ロランも俺達の提案を無下にしたりしないはずだ。二人で進言すれば絶対通るって。仕事を任されりゃこっちのもんよ。客が増えるのを見りゃあ、ロランの奴も考えを変えるはずだ。とにかく客を増やして利益をこさえて、金払いのいい外から来たギルドの仕事だけ丁寧にやる。そうすりゃ、安い装備はすぐ壊れて売り上げは増えるし、外部冒険者の名声を利用してブランド力は誇示できる」

「それじゃ『竜の熾火』のやり方と一緒じゃないか」

「いいんだよ、同じで。そうしなきゃ『竜の熾火』を倒せないんだから。よく考えてもみろって。ロランは冒険者一人一人に合わせて装備を作ってんだぞ。こんなやり方じゃやってけねえって。俺達が動くしかない。俺達で反逆を起こそうぜ。なっ」

「ウェイン!」

パトはいつになく厳しい顔つきでウェインに迫った。

「な、なんだよ」

「君が『竜の熾火』を憎んでいるのは分かるよ。僕だって納得がいかないことは多々ある。けれども、だからといって『竜の熾火』を潰すためなら何をやってもいいという考え方には賛同できない。僕は地元の冒険者にきめ細やかなサービスができるという理由で『精霊の工廠』にいるんだ。君が利益に目を眩ませて、道を外すというのなら。君と僕の仲とはいえ、見過ごすわけにはいかない。そういった行為を見かけ次第ロランさんやアイナさんに報告させてもらう。それじゃ」

「おい、待てよパト。おいったら」

ウェインはパトの背中に呼びかけたが、パトはこれ以上話すことはないと言わんばかりに先へと行ってしまう。

(くっ、パトの奴、こういうところは相変わらずだな。いい奴だけど堅物なのが玉に瑕だぜ。しかし、パトの協力を得られないとなればやりにくいな。……どうすっかな)

リーナは壊れた鎧を砕き、それをこねた上で精錬していた。

(よーし。いい感じ)

廃品だったはずの鉄片は、みるみるうちに以前の姿を取り戻していく。

精錬が終わって取り出された鉄は過去最高の品質だった。

「ロランさん。『 廃品再生(リサイクル) 』終わりました。見てください」

「お、どれどれ」

ロランがリーナの持ってきた鉄を鑑定すると、鉄Bだった。

(鉄Bか。これまでで最高の出来だな)

【リーナ・ハートのスキル】

『 廃品再生(リサイクル) 』:B(↑1)

「よくやったね、リーナ。これまでで最高の出来だよ」

「はい。ありがとうございます」

「これなら十分Bクラスの装備を作るのに使える。アイナにもBクラスの鉄を作れたこと教えてあげて。今後のBクラス装備製造計画に組み込めるだろうから、打ち合わせしてみてくれ」

「はい!」

リーナはすぐ様、アイナの下に『 廃品再生(リサイクル) 』した鉄Bを持って行った。

「アイナさん。鉄Bの『 廃品再生(リサイクル) 』に成功しました。ロランさんから、今後の生産計画に組み込むようにとのことです」

「分かったわ。それじゃあ中古のBクラス装備の『 廃品再生(リサイクル) 』も頼んでいいかしら?」

「分かりました。アイナさん。高い 腕力(パワー) がないと効率よく壊せない装備があるので。ロディさんのお力をお借りしていいですか?」

「分かったわ。ロディ。設計は午前中に終わらせて、午後からはリーナのサポートに回ってあげて」

「分かった」

アイナはリーナのスキルアップに応じて、すぐに計画を変更した。

ロランはリーナの仕事ぶりを観察していた。

(まだ、ここに来て日が浅いというのに、すでに『精霊の工廠』の協力し合う社風に馴染んでいる。組織の風土に難なく自分を合わせられる適応力の高い 娘(こ) だ)

リーナはすでに自分の家のように 工房(アトリエ) 内を歩いて、働いていた。

(彼女はすでにこの 工房(アトリエ) に馴染んでいる。あの件についても言ってよさそうだな)

「リーナ。ちょっといいかい?」

「はい?」

「お昼休みが終わったらちょっと話したいことがあるから、ギルド長室に来て欲しいんだ」

「分かりました」

ロランはリーナを 工房(アトリエ) の屋上に連れ出した。

二人以外誰もいない場所になる。

「『 廃品再生(リサイクル) 』のスキル、Bクラスになってたよ。よく頑張ってるね」

「ありがとうございます」

「さて、それはそうと……」

ロランは視線を背けながら言った。

「リーナ。君、何か隠してるよね?」

「えっ? な、何ですか?」

「『竜の熾火』からこんな物が届いたんだ」

ロランは訴状を取り出した。

その内容は、パトとリーナの二人を『竜の熾火』との契約期間が残っていると知りながら、引き抜いたことについてだった。

リーナはキュッと唇を結んで固まってしまう。

「パトにも聞いてみたんだ。彼は本当に何も知らないようだった。でも君は違う。そうだろう?」

「えっと、その……」

「契約違反でここに来たのだとしたら、当事者である君達にも訴状が届いているはずだ」

「……」

「教えてくれ。ギルド長として早急に対応しなければならない。君達のためにも」

「……はい」

ギルバートは『竜の熾火』の廊下をうろついていた。

(まさかユガンのやつ帰りやがるとは。アテが外れちまったぜ。次の手はどうすっかな)

誰か利用できるバカはいないものかと探していると、向こうの方から彼のよく見知った人間が歩いてくるのが見えた。

ロランだった。

(はぁっ?)

ギルバートは慌てて柱の陰に隠れる。

「ちょっと。困りますよ。勝手に施設内に入られては。ねえ、ちょっと」

ロランは止めに入る受付の者も無視してずんずん奥に入っていく。

ロランをやり過ごしたギルバートは、見つからないようにそろそろと後をつけていった。

(ロランのやつ、一体なんでここに? まさか俺がここで工作してんのを嗅ぎつけたのか?)

「はあー、ったくあのジジイ。小一時間も説教しやがって」

エドガーは首をコキコキ言わせて、凝りをほぐしながら愚痴った。

「はは。災難だったね」

シャルルが笑いながら言った。

「災難なんてもんじゃねーぜ。こっちの身にもなれっての」

「話長いからねぇ、ギルド長も。あれ? あの人って……」

シャルルは通りの向こうを見て、目を丸くした。

「あん?」

「『精霊の工廠』のギルド長じゃ」

エドガーが見ると、確かにロランだった。

二人は何とも言えない表情でロランが通り過ぎるのを見送る。

ロランはエドガーを一瞥して鑑定した。

【エドガー・ローグのステータス】

腕力(パワー) :80-100

耐久(タフネス) :90-100

俊敏(アジリティ) :80-90

体力(スタミナ) :100-120

(基礎ステータスがいずれも80以上。が、深く考える力には乏しい。典型的な脳筋タイプ。思考力の高いパトと上手く組み合わせれば、いいパートナーになったかもしれないのに)

ロランはリーナとのやり取りを思い出す。

彼女は言った。

「パトは今、大事な時期だから。なるべく集中させてあげたかった。ロランさんに迷惑がかかると知ったらパトはきっとここを出て行くって言い出すから……」

リーナはそう言った。

「ロランさん、本当にごめんなさい」

やがてロランはメデスのいるギルド長室前に辿り着く。

折しも、メデスが部屋から出るところだった。

メデスはロランを見て、ギョッとする。

「アンタは……ロラン!? なんでここに」

「呼ばれたから来たまでですよ」

ロランは訴状を取り出して、メデスに突きつけた。

「パトとリーナの契約違反について、この訴状をこちらに送ってきたのはあなたでしょう?」

影から見ていたエドガーは慌てた。

(おい……、まさかパトとリーナをウチに戻すつもりか? やめろよ。せっかく二人を追い出して『精霊の工廠』対策の責任が有耶無耶になりかけてんのに。蒸し返すなよ!)

ロランとメデスのやり取りは続く。

「そうか。それで何をしに来たんだ? ん? また性懲りも無くウチに取引を持ち掛けに来たのか? それなら生憎だが、帰ってもらおうか。ウチにはアンタの見え透いた詐欺に構っている暇はないんでな」

「私もあなたと取引するつもりはない!」

ロランは厳しい調子で言った。

「この島に来て、あなたに協業を断られ、錬金術ギルドを開いてから、私なりにずっと観察させてもらいましたよ。『竜の熾火』の業態、島の冒険者の立ち回り、外部冒険者達の末路。その結果、よく分かりました。『 巨大な火竜(グラン・ファフニール) 』の災禍は、『竜の熾火』とあなたの杜撰な経営によって引き起こされたものだ! 私は『金色の鷹』幹部として、ギルドにあなたとの取引を勧めるわけにはいかない!」

メデスは呆れ返ったような顔をした。

「なんだアンタは。そんなことを言うためにわざわざここに来たのか? こっちは忙しいんだが……」

「ええ。だからもう二度と会わなくてすむよう、話をつけに来たんです。これを……」

ロランは金貨の入った袋を取り出してメデスに放り投げる。

「……これは?」

「パトとリーナ、二人の違約金です。これで二人への訴訟は取り下げてもらいたい。あの二人は今、伸び盛りの大事な時期なんです。あなた方の横槍で成長を阻害されるわけにはいかないんです」

((なんだ。そんなことで来たのかよ。ビビらせやがって))

柱の陰から聞き耳を立てていたギルバートとエドガーは、自分達の悪事がバレたわけではないと知って、ホッと胸をなでおろすのであった。

ロランは誓約書を取り出して、メデスに突き出した。

そこには金貨と引き換えに訴状を取り下げる旨書かれている。

「これにサインを。そうすればもう今度こそ私がここに訪れることはありません。あなたも私の顔を見なくて済むでしょう」

「……いいでしょう」

メデスはため息をつきながら書状にサインした。

ロランは控えを取って立ち去る。

「やれやれ。一体なんなんだあいつは……」

メデスはそうボヤきながら、ロランを見送るのであった。

ウェインは『竜の熾火』に向かって走っていた。

ロランが『竜の熾火』に向かったと聞いたためだ。

「あの野郎っ」

彼が『竜の熾火』にたどり着いた時、ちょうどロランが『竜の熾火』から出てくるところだった。

「ロラン、テメェ……」

ウェインはロランの胸ぐらを掴みかねない勢いで詰め寄った。

「ウェイン? なんでここに……」

「なんでもクソもねぇ。てめぇ、何勝手に俺を差し置いて一人で『竜の熾火』に殴り込みに行ってやがんだ」

「殴り込みじゃないよ。大人の話し合いをしたまでさ。それに今回の件は、君とは関係ないよ」

「ああ? いつまでそんな寝ぼけたことを……」

「ウェイン、よせ」

ウェインを追いかけて来たパトが後ろから肩を掴んで止める。

「ロランさん、すみません。僕のせいで迷惑をかけて……」

「パト。『竜の熾火』のギルド長とは話をつけてきた。訴状は取り下げてもらうことになったよ。今後、君は間違いなく『精霊の工廠』の職員だ。まさか、辞めるなんて言わないよね?」

「……はい。誠心誠意あなたの下で働かせていただきます。たとえ何があってもあなたについていきます」