軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第7話 鉱山の管理

ダンジョンから帰ってきたマルコは、ギルド長の部屋に呼び出されていた。

「……以上が、ダンジョンで起こったあらましです」

マルコは自分のした判断やリリアンヌがなぜか『アースクラフト』を大量に保有していたことを報告した。

ルキウスは話を聞き終わると、つぶっていた目を開いてマルコを睨む。

「つまりこういうことか。君はダンジョンの最下層に辿り着きながらも、一戦も交えること無く引き返そうとした。それどころかライバルギルドがダンジョンを攻略しようとしている場面に立ち会いながら何もせず、指をくわえて見ていた。そういうことだな?」

「ギルド長。お言葉ですが、あの時、部隊は消耗していました。アースクラフトも無しにあの状態で骸骨戦士100体と戦うのは……」

「言い訳をするな。貴様はそれでも『金色の鷹』の上級会員か」

「う、申し訳ありません」

「もういい。下がれ」

マルコはガックリとうなだれながら、部屋を出て行った。

ルキウスは不機嫌そうにため息をついた。

(全く。これだから使えないやつは困る。貴族との繋がりもできて、ここがこの街を支配できるかどうかの瀬戸際だというのに)

ルキウスはいつになく難しい顔をした。

(エルセン伯は我々が街一番のギルドだから接触してきたんだ。こんな時にダンジョン攻略をかっさらわれたなどという評判が伝わったらどうするんだ)

「ディアンナ。マルコは降格だ」

「はい。新しい隊長は誰に?」

「そうだな。誰か手頃な人材はいないかね?」

「ジルなどはどうでしょう? 彼女は今、乗りに乗っていますし実力も十分です。抜擢しても文句を言う人はいないかと」

「ジルか……」

ルキウスは口元に手を当てて少し考え込んだ。

(確かロランの育てた女だったな)

「いや、待て。彼女はまだ早い。他の人間にしたまえ」

「? 分かりました。リストを作っておきます」

「うむ。頼む」

ルキウスは以前から、なるべくロランの育てた人間を高い地位につけないよう腐心していた。

そんなことをすればすぐに、ロランの育てた人間で幹部が埋まってしまうことになりかねなかった。

ギルドの幹部がロラン派で占められればやがて、「ルキウスよりもロランをギルド長に」という声が出かねない。

ロランはもうすでにいないが、今でも幹部の構成は自派の人間で固めることに余念はなかった。

「それはそうと、なぜ『アースクラフト』を『魔法樹の守人』が持っている? 街中で『アースクラフト』を精錬できる錬金術師は我々が押さえているはずだが……」

「おそらく、どこかの錬金術師ギルドが裏切ったのではないかと」

「すぐに錬金術師ギルドの代表者達を集めろ。締め上げて裏切り者を炙り出すんだ」

ロランとリリアンヌは喫茶店で会っていた。

誰でも気軽に立ち寄れるため、カップルや仕事の打ち合わせに使うのに最適な喫茶店だった。

「今回は久しぶりに我がギルド『魔法樹の守人』が『金色の鷹』よりも早くダンジョンをクリアすることができました。それもこれもロランさんのお陰ですわ」

「そんな、僕は大したことはしていませんよ」

「先月はジルさんに撃破ランキング1位の座を取られてしまいましたが、今月はなんとか奪還できそうです」

「おめでとうございます。一人で骸骨戦士を35体も倒したそうですね。すごい戦果ですよ」

「それもこれもロランさんがアースクラフトをたくさん供給してくださったおかげですわ。本当はもっと撃破することができたのですけれど、まあ、今の私は個人成績よりも部隊全体のことを考えなければならない立場ですしね」

リリアンヌは静かにお茶をすすった。

今日のリリアンヌはいつにも増して美しく見えた。

今の彼女からは仕事が充実している女性特有の優雅さが漂っていた。

「大変ですね。Aランク冒険者の座を守るのは」

「ええ、そうなんです。それはそうと、ダンジョンの中に鉱山が見つかったので、『アースクラフト』の鉱石を多数取得できそうですの。また『精霊の工廠』の方で『アースクラフト』の精錬、引き受けてくださいますよね?」

「ええ、もちろんです。是非やらせていただきます。ところでお願いがあるのですが」

「あら、なんですか?」

リリアンヌはロランが自分にお願いと聞いて、やにわに身を乗り出してきた。

「今、僕のギルドに『鉱石採掘』と『鉱山管理』のスキルを持っているメンバーがいるのですが」

「ふむ。ロランさんがそう言うということは余程の才能の持ち主のようですね」

「彼もダンジョンの採掘に参加させてくださいませんか?」

「それはもう、ちょうど、ダンジョンからアイテムを回収するのに人手が足りないと思っていたところです。そのような人材がいるなら、こちらからお願いしたいくらいですわ」

リリアンヌはその場で紙を取り出して、ダンジョンへの入場許可証を書いてくれる。

「どうぞ。これをそのメンバーに渡せばいつでもダンジョンに入ることができますよ」

「ありがとうございます」

「いえいえ。あら、もうこんな時間。私これから打ち合わせがありますの。この辺りで失礼しますね」

「ええ、また今度」

「では、朝礼をはじめまーす」

『精霊の工廠』の工房では、ランジュが今日の予定を記したボードを片手に朝礼を始める。

彼は工房のこういった連絡事項を伝達することも担当していた。

「今日の予定ですが、私は先日、『魔法樹の守人』が攻略したダンジョンで鉱石を掘ってきますので、午前中一杯、工房を空ける事になります。なので、午前中、アーリエさんのサポートはギルド長の方でよろしくお願いします」

「はい」

「アーリエさんの今日の予定はアースクラフト30個の精錬です」

「はい」

「では、今日も元気にやっていきましょう。朝礼終わります」

ランジュが朝礼を終えると、各々作業に取り掛かる。

ランジュはツルハシを片手にダンジョンに向かう準備をし、アーリエは窯に火を入れ、ロランは鉱石と道具を倉庫から抱えて精錬の準備を始める。

ロランは出かけるランジュに向けて一言声をかけることにした。

「ランジュ、今回は、君の『鉱山管理』スキルを伸ばすチャンスだ。『鉱石採掘』するだけでなく、『鉱山管理』にも着手してくれ」

「はい。やってみます」

「『鉱山管理』について必要な人材については君の求めるだけの人間を集めるから。好きなように要望を出してくれ」

「はい。じゃあ、早速ダンジョンの鉱山視察に行ってきます」

ランジュは愛用のツルハシを持って工房を後にした。

ロランはアーリエのサポートをしながら、ランジュの整理した鉱石倉庫に感心した。

(やっぱりランジュに任せておいて正解だったな)

今朝、ランジュのスキルを鑑定したら、すでに彼の『工房管理』はBになっていた。

(手際の良さとコスト管理については申し分ない。あとは人材の管理までできるようになれば、もうこの工房は彼に任せておけば間違いはないだろう)

「アーリエ。調子はどう?」

ロランはアーリエが窯に向き合っているのを見ながら尋ねた。

「はい。いい感じです」

アーリエは窯からまだできていない『アースクラフト』の鉱石を取り出した。

「もう取り出しちゃうの?」

「はい。ここで一度冷ました方が、『アースクラフト』の質が高くなるんです」

「へー、そうなのか」

「少し時間がかかっちゃうんですけどね。ランジュさんの指摘のおかげで気がつきました」

「そうか」

アーリエは取り出した鉱石を少し金槌で叩いてから、また窯の中に戻した。

今のアーリエは熱された鉱石をどのタイミングで叩けばいいのか手に取るように分かった。

(不思議だな。以前はこんなこと全然できなかったのに。今は簡単にできるようになってる。ロランさんのおかげだな)

ロランはアーリエが成長しているのを見て複雑な気分になった。

もはや彼女はロランの手を超えて成長していた。

やがて人は育成者の手を超えて成長してしまう。

彼がそのことで寂しく感じたことは一度や二度ではない。

そして今まで彼が育ててきた人間同様、アーリエも自立しようとしていた。

「ロランさん。そろそろ石炭を用意して欲しいのですが」

「おっとゴメン」

感慨に耽っていたロランはアーリエの声で現実に帰る。

「ダメだな。最近、ランジュに任せっきりですっかり勘が鈍っている」

「ええ、あの人は本当に凄いです。おかげで作業がすごくやりやすくなって」

「ランジュには敵わないな」

「でも、最近、ロランさんが側にいないことが多くなって、少し残念かな」

アーリエは恥ずかしそうに顔を赤らめながら、小声で言った。

ロランにはよく聞こえなかった。

「えっ? なに?」

「いえ、ロランさん。ありがとうございます」

「えっ? う、うん。どうしたの。急に」

「私、ロランさんと会うまではずっと一つ仕事に就いたと思ったら、クビになっての繰り返しで。こんな風にスキルを高めることができるなんて。『精錬』の分野で才能を発揮できたのは本当にロランさんのおかげです」

「そんな。僕は君の中に眠るものを呼び覚ましたにすぎない」

「ロランさん。もしよければ今夜……」

その時、ロランは窯から黒い煙が出ていることに気づいた。

「ちょっ、アーリエ。鉱石焼けてるよ。大丈夫?」

「えっ? あっ、あああっ」

アーリエは急いで火を止めて鉱石を取り出した。

一つ無駄にしてしまってシュンと落ち込む。

「ダメだね。やっぱりランジュがいないと。僕がいると君の気を散らしてしまうようだ」

「いえ、そんなことは」

アーリエはひたすら顔を赤くしてモジモジとしていた。

ロランのことを考えていたせいで失敗したなどと知られれば、恥ずかしさで死んでしまいそうだった。

それからアーリエはつつがなく『アースクラフト』を作っていくが、その日は最初の失敗が響いて、『アースクラフトA』は9個しか作れなかった。

午後になると、ランジュが鉱石を持って帰ってきた。

「お疲れ。どうだった? ランジュ」

「いい鉱石が取れましたよ。今まで、色んな鉱山を掘ってきましたが、今回の鉱山ではかなりいい鉱石が取れそうです」

「よし、打ち合わせしよう」

ロランとランジュはいそいそと工房の中に入って、打ち合わせを始める。

鉱山の広さ、鉱石の質、必要な人員。

「『鉱山採掘』B以上の人間を5人、運搬に必要な人を5人用意してもらえますか? そうすればアーリエさんの精錬する『アースクラフトA』を1日15個まで伸ばすことができますよ」

ランジュは自信ありげに言った。

「鉱石の質によってそんなに変わるものなの?」

「ええ、やっぱり鉱石の質が良ければ、その分、精錬された『アースクラフト』も良くなりますね」

「そうか。分かった。人員については僕の方でなんとかするよ」

「よろしくお願いします」

「もうすぐ、アーリエの休憩が終わる。僕はクエスト受付所に行って、仕事を依頼してくるから。君はアーリエのサポートの準備をしてあげて」

「はい」

ロランが早速、人材の確保に出かけようとすると、表に誰かが入ってくる気配がした。

(誰だろう?)

工房の玄関に行くとそこには思いがけない人物がいて、ロランはギクリとした。

「ディアンナさん……」

「ごきげんよう。元気だった? ロラン」

彼女はその口元に冷酷な笑みを湛え、蔑むような目でロランのことを見ながら工房に入ってきた。