軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第50話 ギルド再建

「条件?」

銀行家は訝しげに聞き返した。

「ええ、もしこの条件を呑んでいただけないのであれば、この話は辞退させていただきます」

「……」

室内はにわかに緊張に包まれた。

銀行家は葉巻を取り出して、火をつける。

「ふむ。聞かせてもらおうか」

「まず僕の待遇ですが、『金色の鷹』のギルド長と共に、現在就任している『精霊の工廠』のギルド長と『魔法樹の守人』の役員、これら二つの役職との掛け持ちを許していただきたい。その代わり『金色の鷹』での給与はゼロでも構いません」

「なるほど。まあ、問題なかろう。他には?」

「半年間、赤字を我慢していただくことです」

銀行家は渋い顔になった。

「ロラン、流石にそれは……。我々も遊びでやっているわけじゃないんだ」

「分かっています。ただ、行き過ぎたノルマが『金色の鷹』をおかしくしてしまったのもまた事実。そして今のボロボロになった状態でいたずらに利益を追求しようものなら、また傾くことになるのは必定です。そもそも僕が『金色の鷹』を追放されたのも成績不振を責められたためです」

「……う……む」

銀行家は難しい顔をしながらも一応頷いた。

「そして、最後の条件ですが……」

「まだあるのかね?」

流石に銀行家は呆れたような顔をした。

「はい。共同代表者を指名する権利を下さい」

「共同代表者?」

「現状、僕は『精霊の工廠』と『魔法樹の守人』の役員を兼ねています。どちらの仕事も手を抜くことはできません。『金色の鷹』を留守にせざるを得ないこともあるでしょう。代理として働ける人物が必要です」

「それで? その共同代表とは誰のことかね?」

「それはまだ未定です。しかし、必ず見つけてきます」

「なるほど。つまりこういうことか。我々は半年間の赤字を我慢した上、さらにどこの馬の骨とも分からない者を経営者として迎え入れるリスク、そのリスクにも耐えなければならないと」

「そうです。僕の給与がなしでいいというのはそのためです」

銀行家は顔をしかめる。

(いくらなんでも無茶苦茶だ)

銀行家はロランにオファーしたのを後悔し始めた。

今からでも取り消そうかと思ったが、すんでのところで思いなおす。

(揺さぶりをかけてみるか)

「よかろう。ただ、そこまで条件を出された以上、我々、投資する側としても黙ってはいられない。君にも相応のリスクを背負ってもらうよ」

「リスク?」

「もし、半年を過ぎても黒字化できなかったのなら、ジル・アーウィン。彼女を他のギルドに売却して、損害を補填してもらう。また、君にも損害賠償を請求させてもらうよ」

「ええ、構いませんよ」

ロランはあっさりと承諾した。

「……」

室内にはまたもや沈黙が訪れた。

(こいつ、本気か?)

銀行家はロランの腹を探るようにその瞳をジッと見つめた。

ロランもロランで銀行家のしたたかさに感心していた。

(流石に一筋縄ではいかないな。ルキウスも彼と交渉するのは大変だっただろう)

銀行家はしばらく葉巻の煙を燻らせたり、考え事をするかのように視線をあらぬ方向に漂わせたりした。

しかし、しばらくすると、葉巻を灰皿に押し付けて立ち上がる。

「……君の言いたいことはよく分かった。だが、これだけの条件を私の一存で決めるわけにはいかない。他の出資者達の了承も得る必要がある。全員と話し合った上で、返事はまた後日させてもらう。それでいいかね?」

「ええ、構いません」

「では、失礼するよ」

銀行家は他の出資者達の前で、ロランの提示した条件をありのまま話し、伝えた。

ロランの条件に対し、出資者達の意見は割れ、一時紛糾したが、結局、彼らはロランの出した条件を受け入れる。

ロランは『金色の鷹』のギルド長に就任することとなった。

朝、冒険者の町の道路が出勤する人々で満ち溢れる中、ジルは先を急いで走っていた。

まだステータスが回復していないため、少し走るだけで身体中が悲鳴を上げるのだが、それでも早く、できるだけ早く、目的地にたどり着きたいという一心で、一歩でも先に足を進めていく。

彼女はまるで10年来の恋人に会いに行くかのように、無垢な情熱の赴くまま、ひたすら目指す場所に向かって全力疾走していた。

街角で人にぶつかりそうになったり、石畳に足を引っ掛けて転びそうになるのも構わず、彼女は街路を走り抜けた。

「うわっ、なんだ?」

「気をつけろよ」

ジルとぶつかりそうになった往来の人は顔をしかめる。

「すまない。急いでいるんだ。道をあけてくれ」

街行く人々は彼女を不思議そうに見やる。

彼女が目指しているのは『金色の鷹』本部建物。

そこで行われる信じられない発表を聞くために彼女は急いでいた。

(こんなことが起こるなんて。信じられない。でもだからこそ、行かなきゃ。自分の目で確かめなきゃ)

ジルは『金色の鷹』に到着すると脇目も振らず講堂に駆け込んだ。

そこにはすでに『金色の鷹』の主だった会員から、末端会員までが一堂に会していた。

『金色の鷹』の社風に則って、クラス別に列を作り、理路整然と並んでいる。

誰もが講堂の奥にしつらえられている一段高いステージの方を向いていた。

ステージには演説を行うための演台が置かれている。

演台の後ろには『金色の鷹』の紋章があしらえられた垂れ幕がかかり、ギルドの旗がたなびいていた。

それらの荘厳な装飾は、これから演台に立って演説を行う者の権威を否が応にも高めることになるだろう。

人々は不安げに、あるいは好奇の目をもってステージを見守り、これから起こるであろうことに備えていた。

「おい、あれ……」

列に並ぶ誰かが声をあげた。

「どうした?」

「ジルだ。ジル・アーウィンがいるぞ」

近くの人々が一斉に彼女に注目する。

彼女の到着は瞬く間に講堂全体に伝わって行く。

人々は様々な反応を示した。

驚きの表情を見せる者、苦々しい表情を見せる者、好奇の視線を送る者、はっきりと敵意を示す者。

しかし、今のジルには大して気にならない。

彼女の瞳は壇上に向かって一心に注がれていた。

あそこに立つ人物、それをこの目で確かめなければならない。

そして、その壇上には今まさしく、これからギルド長に就任する者、すなわちロランが立とうとしていた。

(ああ、まさかこんな日が来るなんて)

全身が歓喜に震える。

嗚咽を漏らさないように口元を両手で覆わなければいけなかった。

彼女にはロランの姿が神々しくさえ映った。

(ロランさん。まさかあなたが『金色の鷹』に、それもギルド長として戻ってきてくださるなんて。よかった。これで私は名実共にあなたに仕える騎士に……)

ロランは簡単に挨拶だけすると、今後のギルド経営方針について話し始めた。

「まず、『金色の鷹』が没落した原因。それはひとえに個々のスキルやステータス、装備の質を伸ばす育成を軽視したため、そう僕は考えています。『金色の鷹』には改革が必要です。したがって……」

ロランはその後も演説を続けた。

『魔法樹の守人』との共存共栄やダンジョン攻略と装備の買い叩きに頼らない収益モデルなどをスローガンに掲げて数十分ほど喋り続ける。

「僕からは以上です」

会場からはまばらな拍手が起こった。

人々の間にはなんとも言えない困惑した雰囲気が漂っていた。

どんな過激なリストラが断行されるのか、戦々恐々としていた彼らは、思いの外、穏当な内容で拍子抜けしていたが、多くの者にとってロランの演説は耳に馴染みのないものばかりだった。

彼らはロランを歓迎してもいいものかどうか分かりかねていた。

ロランは会場を見渡してため息をついた。

(無理もない。『金色の鷹』は今までルキウスのやり方に凝り固まってきたんだ。組織の考えを変えるのは簡単なことじゃない。けれども、必ずやり遂げてみせる。ジルの居場所を守るためにも……)

「ギルド長からの所信表明演説は以上になります。皆様お疲れ様でした」

さも当然のようにロランの傍にいるディアンナが、にこやかにアナウンスした。

彼女はここに立てるのが嬉しくて仕方がないといった様子だった。

所信表明演説を終えたロランは、早速ギルド長室で執務を開始した。

各種資料をチェックする。

ロランは財務表を見て思わずため息を漏らした。

(ルキウスの奴、予想以上に無駄遣いしてるな)

ロランの見立てでは今月末までに2000万ゴールドの収入が必要だった。

(来月までに2000万ゴールドか……。とりあえずはダンジョン経営への参加だな。『魔法樹の守人』のダンジョン経営を手伝って、その上でダンジョンへの入場料を支払うのは待ってもらおう。ただ、それだけじゃまだ足りない。もっと赤字を減らさないと)

「場合によってはまた『精霊の工廠』経由で資金注入か。はあ」

ロランは気の遠くなるような借金に、またもやため息をつくのであった。

(ダンジョン経営への参加で売上を確保するのはいいとして、問題は各部隊が僕の言うことを聞いてくれるかどうかだな)

『金色の鷹』の各部隊は、伝統的に利己的で、協力するよりも自分の部隊の利益を追求する傾向があった。

しかも以前在籍していた時には、誰もがロランのことを侮っていたし、それは現在も変わっていないに違いない。

一度追放されたロランが、ギルド長になったからといって、「ハイそうですか」と素直に命令に従うとは思えなかった。

すでに各部隊の隊長には、ギルド長室に来るよう指示しており、この後面談することになっている。

それを考えるとロランの気は重くなる一方であった。

(まあ、悩んでいても仕方ないか。とにかく一人一人、話を聞いて調整していくしかない)

「どうかされましたか?」

ロランが物憂げな面持ちでいると、ディアンナが声をかけてくる。

「えっ? い、いや、なんでもないよ」

「そうですか? 何か心配事があるように見受けられましたが……」

そう言ってディアンナは心配そうにロランの顔をのぞいてくる。

その表情に一切の虚飾は感じられない。

部下になったとはいえ、以前冷たくされた記憶が生々しく残っているロランは、彼女に声をかけられるとついギクリとしてしまうが、こうして普通に接してもらう分には本当に感じの良い女性だった。

冷たかった彼女と部下としての彼女、果たして二人は本当に同一人物なのかと疑うほどだった。

「いや、大丈夫だよ。それよりもアリクは?」

「すでにお見えになっていますよ。控室にて待機しております」

「そうか。それじゃ通してあげてくれ」

「かしこまりました」

ディアンナは一礼して恭しく下がった。

「アリク。ギルド長がお呼びよ。入りなさい」

「ああ」

ディアンナに声をかけられたアリクは、沈鬱な面持ちで重厚なギルド長室の扉をくぐる。

彼はいつもこのギルド長室に入るのが苦手だったが、今日はことさらに気が重かった。

実際、何もなしで済まされるとは思えない。

ロランがどのような経緯でギルド長に選ばれたのかは謎だが、『魔法樹の守人』か出資者、いずれかの意向が反映されるのは明らかだった。

彼の部隊も弱体化か、リストラの憂き目に遭うのは免れまい。

(あれだけ完全敗北した以上、お咎めなしとはいくまい。だが、せめて部下達の待遇だけはどうにか守らなければ)

アリクがギルド長室の重厚な扉をくぐると、これまた重々しいギルド長の机の向こうにロランが座っているのが見えた。

アリクは複雑な気分でロランの前に立つ。

「久しぶりだね。アリク」

ロランは朗らかに微笑みかけた。

「君がまだBクラスだった時、一緒にダンジョンを探索して以来だっけ?」

「ああ、まさかこのような形で再会しようとはな」

「まあ、そう構えずに。座ってくれ」

ロランはギルド長の机の前にある、来客用の空間、そこに備え付けられている低めの机とソファを指し示した。

ロラン自身も、ギルド長の席を外してアリクの対面に座った。

アリクはロランの思いの外、丁重な態度に少し驚いた。

このような腰の低さは、ルキウスがギルド長だった頃はあり得ないことだった。

「それで、まずアリク隊の今後の件についてなんだけど……」

(来たか)

アリクは身構えた。

「アリク隊は今のまま存続させようと思う」

アリクは耳を疑った。

「何だと?」

「アリク隊は現存する唯一のAクラス部隊。『金色の鷹』の屋台骨として今後も働いてもらいたい」

「しかし、大丈夫なのか? 経営状況は……」

「もちろん苦しいよ。それが目下の最重要課題だ。だが、それでも僕はアリク隊をどうにか存続させたいと思っている」

「ロラン……」

「差し当たってはダンジョン経営に関することだ。『魔法樹の守人』の方でも大規模な鉱床を開発できる部隊を必要としている。協力してくれるかい?」

「ああ、無論だ。部下達を守るためならどんなことでもする」

(変わってないなアリク)

ロランはアリクに接して懐かしい気分になった。

昔から責任感の人一倍強い男で、ロランもアリクのそういうところを尊敬していた。

「ただし、全くの無条件というわけにはいかない」

「む? なんだ?」

「僕の考える改革に協力して欲しい」

「改革……。演説で言っていたことか。一体どうしようというのだ?」

「演説でも言った通り、錬金術ギルドを通して『鉱山のダンジョン』の運営および武器製造によって利益を得るスタンスは、もう『魔法樹の守人』の手に渡った。これについて『金色の鷹』が『魔法樹の守人』に対抗するのは無理だと思う」

「……やはり……そうなってしまうか」

「早急に新しい収益源を見つける必要がある。そこでまずは『魔界のダンジョン』の経営に着手しようと思う」

「『魔界のダンジョン』の?」

「ああ、『鉱山のダンジョン』からは錬金術用の鉱石、『森のダンジョン』からはポーション用の材料が取れるが、『魔界のダンジョン』には、まだどのように活用できるのか未知数なアイテムがたくさんある」

「そこに着目しようというわけか」

「うん。至急スキル『アイテム鑑定』とステータス『観察』の高い冒険者を育てる必要がある」

「う……む」

アリクは頷いたものの、釈然としなかった。

果たして『魔界のダンジョン』でそこまでの収入を得られるアイテムが見つかるのだろうか。

にわかには信じがたいことだった。

「まあ、何はともあれ君には明日までに部隊を『魔界のダンジョン』に連れて行く準備をして欲しいんだけど、頼めるかな?」

「承知した。なんとかしよう」

その日のアリクとの面談はそれで終わった。

(とりあえずは協力を取り付けられたってことでいいのかな?)

ロランは立ち去り際のアリクの顔つきを思い出す。

(まだ全てを納得した、というわけじゃなさそうだったな)

ロランは会員達の不安を払拭する必要性を感じた。

「ディアンナ」

「はい」

「この文章を建物内のあらゆる掲示板に貼っておいてくれ」

ロランがディアンナに渡した書面には、『金色の鷹』のあらゆる冒険者は、現在の契約期間が終了するまで契約が解除されることはない旨が書かれていた。

ディアンナはそれを見て眉をしかめる。

「……よろしいのですか? このようなことを約束して」

「ああ、アリクと面談して分かったことだが、思っていた以上に会員達は待遇面に不安を抱いている。この際だから、契約解除することはないっていうのをはっきりさせておこうと思う。」

「……かしこまりました」

ディアンナはすぐに手配するべく取り掛かった。

その際、彼女が不満げな表情をしていたことにロランは気づかなかった。

「さてと。次はジルと面会しないとな」

厳しい表情で入ってきたアリクとは打って変わって、ジルは満面の笑みを浮かべながら入室してきた。

ロランに仕えるのが嬉しくて仕方ないという様子だった。

「ロランさん、ギルド長、就任おめでとうございます。演説、感動いたしました」

「ありがとう」

ロランは彼女の笑顔を見ただけで、それまでの重苦しい気分が和らぐのを感じた。

やはり彼女には、そこにいるだけで、場を華やかに彩るオーラがあった。

「さて、早速本題だけど……」

ロランは気を取り直してジルとの面談を始める。

「『金色の鷹』の財政状況は未だ予断を許さない状態だ」

「はい」

「Sクラス冒険者である君には、稼ぎ頭になって貰う必要がある」

「はい。なんなりとご命令ください。ロランさんのためなら火の中水の中、どんな試練でも乗り越えてみせます」

ロランは苦笑した。

「分かった。それじゃあ差し当たってだが……」

ロランは今後ジルに取り掛かって欲しい仕事について話していった。

「Sクラスモンスター専用部隊?」

「ああ、Sクラスモンスターを討伐するのはダンジョン一つ攻略するのと同じくらいの収益が見込める。とはいえSクラスモンスターはどこに現れるか分からない。街の外に出稼ぎに行く必要があるかもしれない。そのためにも既存の部隊とは違う専用の部隊を作る必要がある。君にはその部隊の隊長を務めて欲しいんだ」

「はい。微力ながらロランさんの改革をお手伝いできるよう全力で取り組ませていただきます」

ジルはアリクと違ってロランの改革を全面的に信じていた。

彼女からすればロランを疑う必要などどこにもない。

「うん。期待してるよ」

「はいっ」

「よし。話は以上だ。部隊の編成については追って指示を出すから」

「はい。あの、他に何かお手伝いできることはありますでしょうか。もし、何かあれば、なんなりと……」

「ジル、その辺りにしておきなさい」

ディアンナが横から口を挟んできた。

「あなたがギルド長と懇意なのは知っているけれど、ギルド長も忙しいんだから、いつまでもあなた一人にかかずらわっているわけにはいかないわ。そうでしょう? 指示があれば追って私の方から伝えるから。下がりなさい」

ジルはムッとしながらディアンナの方をにらむ。

(確かにそうかもしれないが、なんでお前に言われなきゃならないんだ)

ジルはもっとロランと対面していたかったが、仕方なくギルド長室を退室する。

次にギルド長室に呼び出されたのはドーウィンだった。

「ドーウィン、参りました」

「よく来てくれた。さ、掛けてくれ」

「はい」

「君を呼んだのは他でもない。今度新しく作る部隊の隊長を務めて欲しいと思ったからだ」

「僕が新しい部隊の隊長ですか?」

「ああ、ダンジョン経営専門の部隊だ」

「ダンジョン経営専門の……」

「うん。もはや部隊の強さでは『魔法樹の守人』との差は開ききっている。一朝一夕にこの差を埋めるのは難しいだろう。そこで今後、『金色の鷹』はダンジョン経営で差を作る必要があると思ったんだ」

「なるほど」

「手始めにまず『魔界のダンジョン』で新しい収益源になるアイテムの発掘だ。アリクからはすでにダンジョン経営協力の了承を得ている。君もアリクと一緒に『魔界のダンジョン』に赴いて支援してあげてくれ」

「は、かしこまりました」

「あと、それと」

「それと?」

「『精霊の工廠』との業務提携も続けて欲しいんだけど……。頼めるかな?」

「ええ、もちろん」

ドーウィンは今日一番の笑顔をロランに向けた。

彼はすっかり『精霊の工廠』での働き方が気に入っていた。

ジルはギルド長の部屋を退室した後、ドーウィンの作業部屋まで行って愚痴を言っていた。

「ディアンナのヤツ、なんなんだよアイツは。まるで初めからロランさんの側近であるかのように振舞って! 元はと言えばアイツがさぁー……」

(はぁ。またうるさいのが帰って来たよ)

「聞いてるのか、ドーウィン? なぁ、ドーウィンったらぁ」

ジルはドーウィンの肩を掴んで揺する。

「うるさいなぁ。今、こっちは作業中だっての」

(ま、でも悪くないか)

まだ一日しか経っていないにも関わらず『金色の鷹』の雰囲気は変わりつつあった。

ロランの出した掲示が効果を発揮したのだ。

今すぐクビになることはないと知った会員達は一様に皆安心して、業務や訓練に取り組むようになっていた。

ギスギスしていたギルド内の雰囲気は和らいだ。

ドーウィンは日常が正常に戻りゆくのを感じて、頰を綻ばせるのであった。