軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第46話 足元の崩れる音

「何してるの! 前衛遅れてるよ。ちゃんと壁作って!」

モニカは叱咤しながら、前衛の穴となっている部分に駆けつけて弓射撃でカバーする。

出遅れてしまったリックは、肩で息をしながら悔しそうに前衛の戦いを見守る他なかった。

(くそ。なんて人達だ。ずっとハイペースできているにも関わらず、疲れている素振りすら見えない)

リックはすでに腕が震えていた。

(くそぉ。腕が上がらない)

ロランもリックの様子がおかしいことに気づいた。

(リックの動きが鈍くなっている……)

ステータス鑑定してみる。

【リック・ダイアーのステータス】

腕力(パワー) :40ー90

俊敏(アジリティ) :10−40

( 腕力(パワー) が40ー90に。それに 俊敏(アジリティ) も下がってる。大して高くない 俊敏(アジリティ) で優位に立とうとするから 腕力(パワー) が消耗するんだ)

リックは白兵戦の時、 俊敏(アジリティ) で敵の攻撃をかわして側面や背後に回り込もうとするクセがあった。

しかし、結局、 俊敏(アジリティ) で優位に立つことはできないため、いたずらに 腕力(パワー) を消耗してしまう傾向があった。

(せっかく 耐久(タフネス) が高いんだから、もっと 耐久(タフネス) を活かした戦い方をすればいいのに。メンタルだけじゃなく、経験値も足りないか。なんにしてもこの 腕力(パワー) では15階層以上『冥界』では通用しないな。かろうじて使えるのは……)

ロランは他のステータスに目を転じた。

【リック・ダイアーのステータス】

耐久(タフネス) :70ー80

( 耐久(タフネス) だけか)

「ううー。もうダメです」

別の場所でマリナがへたり込む。

ロランはマリナのステータスも鑑定した。

【マリナ・フォルトゥナのステータス】

魔力:10ー90

(今回はホントに疲れてるみたいだな)

ロランは苦笑した。

(よし)

「リック!」

「は、はい」

「装備を変更だ。剣を外して」

「えっ? 剣を?」

「ああ、もう君の 腕力(パワー) は限界だ。剣を外して鎧と盾だけならまだ動けるはず。今後攻撃はいい。壁役に徹するように」

「待って下さい。俺はまだ……」

「ダメだ。『冥界』ではその 腕力(パワー) では通用しない」

リックはそれを聞いてハッとした。

(そうか。16階層からは『冥界』。Bクラス以上の冒険者でなければ通用しないと言われている。必死になって主力部隊に付いて来ているうちにもうそんなところまで来てしまったのか)

16階層を経験したとなれば、街では一角の冒険者と認められる。

「『冥界』ではステータス70以上を発揮できなければ、通用しない。今の君の 腕力(パワー) は40−90。不安定過ぎるんだよ」

「う……」

「もし、これ以降も剣を装備したまま戦うというのなら、部隊から外す他ない。どうする?」

「ぐ、分かりました」

「マリナ。リックの剣を仕舞ってあげて」

「はい」

マリナはスキル『装備保有』でリックの剣を収納した。

リックはフッと体が軽くなって、動きやすくなるのを感じる。

「それとマリナ。『串刺』はここまでだ。今後は部隊へのアイテム支給に徹するように」

「はーい。分かりましたー!」

マリナは満面の笑みで答えた。

ユフィネはそんなマリナの態度に顔をしかめる。

(自分のタスク減らされたのに、素直すぎるでしょあんたは)

ロランは指示を続ける。

「モニカ。今言ったように『串刺』はもう使えない。今後は『一撃必殺』を中心に戦術を組み立てる。一撃で倒せない敵は前衛で削った後、『一撃必殺』でトドメだ。V字型の陣形、覚えてるね?」

「はい」

「シャクマ。全体の指揮は君が執るように」

「はい」

「ユフィネ。今後は君が隊長だ。もし、部隊が岐路に立ち、選択を迫られたら、君が決断を下すように」

「はい。分かりました」

ロランは五人の他にもそれぞれ指示を出していった。

最も攻撃力の高い剣士に声をかける。

「フレディ、君はリックの背後についてくれ」

「俺の攻撃力でリックの 腕力(パワー) 不足をカバーする……ってとこっすか?」

「そうだ。戦術としては、まずリックが敵の攻撃を盾と鎧で受け止める。その後、背後から君が飛び出してスイッチし、態勢を崩した敵に斬撃を食らわせる」

「了解っす」

「シャロン!」

ロランは部隊で最もアジリティの高い 弓使い(アーチャー) に声をかける。

「君はマリナのアイテム支給を支援するんだ。遠くの位置にいる隊員にアイテムが必要になったらマリナからアイテムを受け取って届ける」

「了解」

「もし、アシッドスライムとゾンビ・アーチャーが両側から現れたら……」

ロランはその他にも隊員一人一人に細かい指示を出して、ステータスの消耗を互いにカバーできるように微調整した。

リックは肩で息を整えながらロランの指示を聞いて、改めて畏敬の念を覚えた。

(メンバー一人一人の特性と消耗度に合わせてタスクの微調整まで。ただの鑑定士にできることじゃない。本当に……この人は一体……)

全ての指示を出し終えたロランは、もう一度メンバーのステータスをチェックする。

「もし、20階層まで辿り着いてもボスが現れなかった場合、一旦街に戻ってくるように」

(さて、僕は……ここまでだな)

15階層でロランは部隊から離脱した。

ロランから新たな指示を受けたモニカ達は瞬く間にダンジョンを攻略していき、アリク隊が15階層に辿り着く頃には、17階層に到達していた。

クエスト受付所の占星術部では、占星術師がダンジョンを監視していた。

(17階層にゾンビ・ウィザードが出現したか)

水晶を通して、クエスト対象のモンスター出現を確認した占星術師は、

傍の書記官に語りかけた。

「17階層にゾンビ・ウィザードが出現。32-41だ」

「は。17階層、32-41にゾンビ・ウィザード」

書記官が白紙の用紙に地図とゾンビ・ウィザードを書き加えて行く。

この後、この地図はクエスト部に持って行かれ、報酬を決められた後、正式にクエストとして発表される。

書記官は地図と書状を持って、部屋を出て行った。

(まあ、おそらく意味は無いだろうがな)

占星術師はため息をついた。

ゾンビ・ウィザードの下にロランの部隊が向かっている。

案の定、1時間も経たないうちにシャクマの支援魔法によってゾンビ・ウィザードは倒される。

(これでシャクマもAクラス冒険者か)

「君、先程のゾンビ・ウィザードについて追記だ」

占星術師は先程とは別の書記官に指示を出す。

「は。内容は?」

「討伐済みだ。既にゾンビ・ウィザードはダンジョン内にいない」

彼女はピクリと眉を動かして、一瞬驚きを顔に浮かべるが、すぐに自分の職務を思い出し、書状を 認(したた) めた後、立ち上がって、クエスト部に走って行く。

(それにしても凄い速さだな。ロラン隊)

先程からAクラス、Bクラスのモンスターが何度も立ち塞がっているのに、全く攻略ペースが落ちる様子がなかった。

アリク隊との差は広がるばかりだ。

(この分だと三日後には……ん?)

占星術師は水晶の中に突然灯った黒い影に眉を顰めた。

(黒い影。しかも大きい)

それは強力なモンスターが現れた証だが、彼は今まで務めてきた中で、これほど大きな影を見たことがなかった。

(これは……12階層? まさか!)

彼が目を凝らして、その部分をクローズアップすると、そこには全ての皮と肉がこそげ落ちて骨だけになったにもかかわらず歩いている巨竜が見えた。

(スカル・ドラゴン。やっぱり! Sクラスモンスターだ!!)

「君!」

占星術師は残っている書記官に声をかけた。

「はい」

「スカル・ドラゴンが現れた」

「えっ? それって……」

「Sクラスモンスターだ」

室内に緊張が走る。

「この案件は、私の一存でクエスト部に持って行くわけにはいかない。所長に連絡だ。急いで!」

書記官はバタバタと部屋を飛び出して行った。

すぐに所長を交えて対策が協議される。

クエスト受付所はSクラスモンスターの出現を大々的に報じて、討伐クエストへの応募者を募った。

ただし、クエスト受注には厳格な条件が付けられた。

Cクラス以下の冒険者は参加不可。

Bクラスでも上位レベルのみ。

Aクラスでも単独では不可。

無条件にクエストを受けられるのはSクラス冒険者のみ。

「皆さん! Sクラスのモンスターが出現しました。それに伴い我々は早急に討伐クエストを受注してくださる冒険者を募集します。ただし、安易にSクラスモンスターには近づかないでください。並みの冒険者では返り討ちにされるのがオチです。Cクラス以下の冒険者は決して『鉱山のダンジョン』12階層に近づかないでください。Bクラスでも危険ですのでクエスト受付所でステータスとスキルの鑑定を受けてからにしてください。今後は我々が認定した高ランク冒険者以外は『鉱山のダンジョン』に立ち入ることを禁止します。どうか皆さんの間でも他の冒険者の方々にこの情報を周知してください。いいですか? 決して……」

「おいおい。Sクラスモンスターだってよ。お前どうする?」

「バカか。俺達の手に負える相手じゃねーよ」

冒険者達は口々にこのニュースを噂しあった。

そんな冒険者達に混じって、ディアンナはクエスト受付所のアナウンスに耳を傾けていた。

(クエスト受付所から特別な報告だって言うから、なんのことかと思ったら。Sクラスモンスターが現れるなんてね)

しかし、どちらかと言うと気になるのは『鉱山のダンジョン』におけるアリク隊とロラン隊の戦いだった。

掲示板に示された両部隊の差は2階層に渡っている。

(チッ。アリクの奴、旗色悪いわね。差が2階層になってるじゃないの)

ディアンナは苛立たしげに爪を噛んだ。

「うわー。モニカさん達、もう17階層まで辿り着いたんだ」

ディアンナは聞き慣れた声にハッとした。

「あなたは……クラリア」

「あら、ディアンナさん。またお会いしましたね」

「あなたも掲示板を見に来たの?」

「ええ。しがない使いっ走りですから。どんな雑用でもやらなきゃいけないんですよ」

クラリアは溜息をつく。

「この後もお仕事が目白押しで。ほんと嫌になっちゃいますよ。かと言って少しでもサボればすぐクビになりそうですしねー」

ディアンナは少し不思議そうにする。

「あなた、ロランの愛人になったんでしょう? 少しくらい仕事免除してもらえばいいじゃない」

「何言ってるんですか。なってませんよ」

「そうなの? 秘書なんだから二人きりになる瞬間なんていくらでもあるでしょう?」

「それが全然なんですよ。ロランさん、ガード固くって。競争も激しいし」

「へえ。そうなの」

「まあ、何番目かに滑り込めればってとこですかねー」

クラリアは少しスレた調子で言った。

「あら、そう。それは残念だったわね。アテが外れて」

ディアンナは愉快そうに微笑んだ。

「それはそうと、ねぇ、ディアンナさん。そろそろ頃合いじゃありません?」

「頃合い? なんの?」

「ルキウスさんを捨てる頃合いですよ」

クラリアは声を潜めて、ディアンナの耳元に囁くように言った。

ディアンナは一瞬顔を強張らせる。

「ルキウスさん、はっきり言ってもう落ち目でしょう? 乗り換えの時期なんじゃありませんか?」

「……」

「こっちの味方になりません? ロランさんは寛大ですよー。きっとあなたの無礼も水に流してくれるはずです」

「バカなこと言わないでちょうだい」

ディアンナは余裕を見せながら言った。

「見くびってもらっては困るわ。確かに少しばかり劣勢なのは認めるけど、このくらいで足場が揺らぐほど『金色の鷹』は……」

「ああ、そうですか。では結構ですよ。別の方に当たりますので」

そう言って、クラリアはさっさと向こうに行ってしまう。

(くっ。この小娘……)

Sクラスモンスター討伐クエストが発表されて数時間後、『金色の鷹』本部に一人の男が招かれていた。

ルキウスは常にない丁重さでその男のことを迎える。

「よくぞ来てくださいました。ユガンさん」

ルキウスの前にはソファに背と腕をもたれさせ、足を組んでいる『三日月の騎士』のSクラス冒険者ユガンがいた。

『金色の鷹』に招かれたというのに大して光栄そうでもなく、むしろ不承不承といった感じだった。

ルキウスはユガンの態度に苛立ちを覚えるものの、どうにか自分を抑える。

(アリクが期待できそうにない今、もはやこいつに頼るほかない)

ダンジョン攻略において不利を悟ったルキウスは、狙いをSクラスモンスターに定めることにした。

Sクラスモンスターを討伐すれば、ダンジョン攻略に匹敵する利益を得られる。

出資者達もどうにか溜飲を下げてくれるかもしれない。

そうしてクエスト攻略の手段を講じていたところ、折良く、Sクラスモンスターの出現を聞きつけたユガンがこの街に現れたのだ。

ルキウスはすぐ様ユガンにオファーを出して、ギルドまで来てもらった。

「あなたが我がギルドについてくだされば百人力です。差し当たっては……」

「勘違いするなよ」

「えっ?」

「俺が依頼を受ける気になったのは、ひとえに金のためだ。お前らに与するつもりはない。名義は『金色の鷹』ではなく、あくまでも『三日月の騎士』で参加させてもらう」

ルキウスは内心で不満を感じながらも、どうにか微笑み続けた。

「2千万ゴールド」

「えっ?」

「前金として2千万ゴールドいただく。成功報酬として1億ゴールドだ」

(くっ。2千万ゴールドに1億ゴールドか)

「流石にそれはいくらなんでも法外では?」

「いやなら構わない。俺は仕事を断らせてもらうだけだ」

「……分かりました。なんとか工面しましょう」

その時、ギルド長の部屋に駆け込んで来る者がいた。

「ギルド長! 大変です。ジル・アーウィンがSクラスモンスターの討伐に……あっ、し、失礼しました」

伝令はルキウスとユガンが交渉中なのを見て、顔を青ざめた。

(くっ、このバカ、ユガンの前で余計なことを……)

ルキウスは伝令をジロリと睨む。

しかしユガンはむしろ愉快そうに伝令係に言葉をかけた。

「あー、いいよいいよ。ちょうどそのSクラスモンスターのことについてギルド長殿とお話ししていたところなんだ。で? ジル・アーウィンがなんだって?」

「え、は、その……」

伝令係はルキウスの方にお伺いをたてるようにチラリと視線を移す。

「構わん。続けろ」

ルキウスは捨て鉢気味に言った。

「は、ジル・アーウィンが『魔法樹の守人』名義でSクラスモンスターの討伐クエストに名乗りを上げたとのことです。すでにクエスト受付所で承認を得て、ダンジョンに向かっています」

ルキウスは怒りに拳を握りしめる。

(おのれ、ジル。最後まで俺の邪魔をするのか)

「おいおい、ジル・アーウィンっていえば、確か『金色の鷹』期待の新人だったんじゃないのか? 確かSクラス候補って聞いたぜ。そいつがSクラスモンスターを狙ってるって……、しかも『魔法樹の守人』名義で? いいのか? このまま俺がSクラスモンスターの討伐進めちゃって」

「問題ありませんよ。ジルの造反行為に対する法的措置はすでに進めています。それに、ククッ、それ以外にも彼女への手立てはすでに打っていますよ」

「ふーん? そうなのか?」

ユガンはそう言って興味なさそうにしながらも、内心では呆れ果てていた。

(ギルドがバラバラじゃねーか。ギルド長とエースがこんなあからさまに対立してるとか聞いたことねーぜ。なんかさっきからデモらしき声まで聞こえるし)

デモはルキウスの退任を叫んでいる。

(このギルドはもう長くねーな。貰うもん貰ってとっととズラかるのが一番か)

「ま、とにかく俺はSクラスモンスター討伐を進めていいんだな? それじゃさっさと行かせてもらうぜ」

「ククッ。俺は悪くない。悪いのはあの女なんだ」

ルキウスは俯きながら暗い笑みを浮かべていた。

(なんだこいつ。さっきから何考えてんだ? 気味悪りぃな)

一方その頃、ジルは数人の支持者のみを連れて、ダンジョンの前に辿り着いていた。

「よし。行くぞ。Sクラスモンスター、スカル・ドラゴンを討伐しに!」

(もう、ギルドのしがらみも、私の命運すらどうでもいい。ロランさんの実力を証明する。そのために私は……)

ジルは覚悟を胸にダンジョンの中に潜っていく。

ジルが『鉱山のダンジョン』に入る頃、ダンジョンから帰還したロランは、二十四時間の睡眠を経て、目を覚ましていた。

また、クラリアの用意してくれた馬車に乗り込んで、一緒に『魔法樹の守人』に出勤する。

「『鉱山のダンジョン』ではモニカさん達が、17階層に到達しました。アリク隊はまだ15階層です」

「そうか」

ロランはそれを聞いてホッとした。

(よかった。モニカ達、僕がいなくてもちゃんとやれているようだな)

「他のダンジョンはどうなってる?」

「はい。『森のダンジョン』は現在、『魔法樹の守人』が9階層、『金色の鷹』も9階層を探索中です。『魔界のダンジョン』では『魔法樹の守人』が9階層、『金色の鷹』が8階層を探索中。全体的に見ても『魔法樹の守人』が優勢ですよ」

「『森のダンジョン』はまだ拮抗しているというわけか。念のため何か対策を講じた方が良さそうだな」

ロランは呟くように言った。

「それと、Sクラスモンスターなのですが……」

「! やはり出たのか?」

「はい。『鉱山のダンジョン』の12階層に。すでにジルさんが向かっています」

「そうか……Sクラスの武器の方は?」

「それが……、まだ完成していません。なのでジルさんは以前までの装備のままで……」

(ステータス的には申し分ないから、Sクラスのモンスターと戦っても死ぬことはないだろうけど、果たして討伐までいけるかどうか……)

「分かった。それじゃ、僕は『魔法樹の守人』でギルド長と会った後、『精霊の工廠』に向かうよ」

「『精霊の工廠』に?」

「ああ。Sクラスモンスターはすぐには討伐できない。恐らく数日がかりの作業になるだろう。間に合うかどうかわからないけど、Sクラスの武器が完成したらすぐジルに届けられるように準備しておきたいんだ」

「分かりました」

その後、ロランは『魔法樹の守人』本部でリリアンヌと会って、ダンジョンについての対策を講じた。

『鉱山のダンジョン』は現状の優位を維持して、20階層で一旦モニカ達が帰って来たら追加戦力を配備できるように準備しておくこと。

拮抗している『森のダンジョン』にはリリアンヌが加わること。

『魔法樹の守人』にはロランが残り、ギルド長代理を務めること。

それらを決めると、ロランは『精霊の工廠』に向かった。

打ち合わせ通り、『森のダンジョン』から部隊が帰ってくると、補充要員とともにリリアンヌが部隊に加わって再度ダンジョンに潜入した。

補充要員の中にはレリオの姿もあった。

ロランは二人をダンジョンの前まで見送る。

「ギルド長は指揮官としても一流だ。レリオ、勉強させてもらえ」

「はい」

リリアンヌはダンジョンを前にして、緊張よりもむしろ、ギルド長の業務から解放され、安堵を憶えていた。

(やはり私の本分は冒険者ですね)

「では、リリアンヌ隊行きましょう」

リリアンヌがそう言って、ダンジョンに潜って行く。

リリアンヌとレリオが部隊に加わると、今までかろうじて拮抗していた両ギルドの均衡は崩れ始め、『魔法樹の守人』がリードを広げ始めた。

その次の日には、モニカ達が20階層から街へ帰って来た。

24時間の睡眠を経て、再びダンジョンへと向かう。

20階層もの間をハイペースで駆け抜けて来たにも関わらず、モニカ、シャクマ、ユフィネの3人は極めて元気だった。

リックとマリナは1日では回復できなかったので、一旦部隊から外れて『魔法樹の守人』で待機する。

ロランはその他にも部隊から外れるメンバーを指名して、『魔法樹の守人』本部に待機させた。

それから二日後ようやくアリク達が20階層から街に帰還した。

必死でモニカ達を追いかけるアリクだったが、その差は一向に埋まらなかった。

それは絶望的なまでの差だった。

(部隊の運用でも全く敵わない。これが解放されたロランの真の力なのか)

魔力の使えなくなったアリクは剣を振るってどうにかダンジョン攻略に貢献したが、足手纏い感は拭えなかった。

一日の回復期間をおいてもステータスが全快することはなく、アリクは部隊から離脱することになった。

それでも何かできることはと思い、せめてダンジョンの前まで自分の部下達を見送ることにした。

ダンジョンに向かう道中で彼らが見たのは、『魔法樹の守人』の『魔界のダンジョン』攻略部隊だった。

「あれは……? 『魔法樹の守人』の部隊か? 」

「『魔界のダンジョン』へ向かうようですね」

「さあ、皆さん行きますよー」

シャクマが先頭に立って部隊を率いていた。

「あれは……、ロラン隊に所属していた支援魔導師か?」

「なぜ彼女が『魔界のダンジョン』に?」

それを見てアリクはロランの意図を悟った。

『鉱山のダンジョン』における趨勢は決まった。

もはや、Aクラス冒険者を3人も投入する必要はない。

(ロラン、もはや、俺には全力を出す価値すらないというわけか)

「くっそおおおおおお」

その二日後、モニカ達は危なげなく26階層のボス、ゾンビ・キングを倒して、『鉱山のダンジョン』を攻略した。

ダンジョンが現れて10日目のことであり、ダンジョン攻略の最短記録だった。

「『魔法樹の守人』が『鉱山のダンジョン』を攻略しましたー」

クエスト受付所の職員が掲示板の前で報告する。

冒険者たちの間で歓声が沸き起こった。

「うおお、スゲー」

「早過ぎる!」

「記録更新かよ」

ディアンナは青ざめた顔で掲示板を見ていた。

(ウソでしょ。こんなに早く攻略するなんて)

他の二つのダンジョンも軒並み『魔法樹の守人』が優勢だった。

しかもこれからは、ロランの部隊に所属していたAクラス冒険者達が他の部隊にも合流するのだ。

情勢はますます悪くなることが予想された。

「あらあら大変ですね。ディアンナさん」

「あなた……クラリア……」

「ダンジョンを三つも取られて、出資者様はお冠なんじゃないですか? 今月の収入ほぼゼロでしょう?」

「まだ……まだSクラスモンスターの討伐が残っているわ」

「それだってジルさんが先行しているようですし。決して盤石じゃないでしょう? それに……」

クラリアはディアンナの耳元に口を近づけた。

「『精霊の工廠』はついにSクラスの装備を開発したんですよ」

「!?」

「悪いけれど、今月は全部うちがもらいますね。私のロランさんが全部……ね」

クラリアはニヤリと勝利の笑みを見せた。

ディアンナは自分の足元がガラガラと崩れていく音が聞こえるような気がした。

ただ、クビになるだけでは済まない。

ディアンナはルキウスのしていた会計処理に関する不正のアレコレにも関与していた。

もし、それが発覚すればどうなるのだろうか。

犯罪者として追われる。

ルキウスと一緒に夜逃げする。

貧困に喘ぎ、世間の目に怯えながら、逃げ回る毎日。

(イヤよ。そんなの。なんとか、なんとかしなければ)

しかし、事ここに至っては手立てなど何も無かった。

「あ、それじゃあ私そろそろ行かなくちゃ」

クラリアは時計を見ながら言った。

「ディアンナさん。これから大変だと思いますが、就職活動頑張って下さいね。私はいつも応援していますよ。それじゃ」

ディアンナは呆然としながらクラリアの背中を見た。

しかし、すぐにハッとしてクラリアを追いかける。

「待って!」

ディアンナはクラリアの背中に必死で呼びかけた。

「お願い。ロランに会わせて! ルキウスのしてる不正、弱みなんでも話すわ。ルキウスの不利になることならなんでもするから!」

モニカ達が『鉱山のダンジョン』を攻略した頃、ジルは11階層に辿り着いていた。

(鉱山からゴーストが逃げて行く……。ロランさんの部隊が『鉱山のダンジョン』を攻略したのか。早いな最短記録を更新したんじゃないか?)

モンスター達がダンジョンを去って行く。

しかし、それにもかかわらずジルは感じていた。

Sクラスモンスターの存在を。

スカル・ドラゴンの敵意は弱まるどころかむしろどんどん強くなっているような気すらする。

「ふっ。ダンジョンの主が去ったというのに、まだ居残るとは。最短記録でダンジョンをクリアされたのが余程気に入らないとみた」

ビリビリと空気が震えている。

1階層先にいる敵だというのにすでに殺気が伝わってきた。

人間の血が欲しくてたまらないようだ。

ジルはかつてないほどの強敵を前に武者震いしながら、ダンジョンを進んでいった。