軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第19話 クエストと内通者

ロランが目を覚ますと、丁度街に帰ってから24時間が経過していた。

ダンジョンから帰ってきた時はいつもこんな感じだった。

丸一日ぐっすり眠ってしまう。

ロランは、眠り過ぎたせいであちこちなまっている体をほぐしながら、ベッドから起き上がった。

急いで用事を済ませなければならなかった。

再びダンジョンに潜るまで時間がない。

自宅を出たロランはまず工房に顔を出すことにした。

自分がいない中、ランジュ達だけで上手くやっているか心配だった。

ロランが工房に顔を出した時はすでにその日の生産活動が始まっていた。

工員達は担当している配置で各々作業に励んでいる。

三日ぶりの工房だったが、その様子は以前と変わりなかった。

ロランは一通り工房の在庫や備品、書類をチェックしたが、不審な点は一つも見当たらなかった。

原料と製品の在庫はあといくつあるのか参照すればすぐに分かるよう整理整頓されていたし、全ての備品は使いたい時に取り出せるよう適切な場所にしまわれていた。

全ての工程には無駄がなく、入荷から製造、出荷までが計画的に行われていた。

(さすがはランジュだな。管理が行き届いている)

ロランが全てのチェックを終えた頃にランジュがやってきた。

「ロランさん。お帰りなさい」

「ただいま。工房の方はうまくやっているみたいだね」

二人は再開の挨拶もそこそこに控え室に入って打ち合わせを始める。

「僕がいない間、何か変わったことはなかったかい?」

「ええ。万事つつがなく計画通り進んでいますよ」

「チアルの方はどうなってる?」

「順調です。明日には例のものが完成するかと」

「そうか」

「いよいよ。オリジナルの武器が完成しますね」

「ああ」

「それとクエスト受付所のクラリアという方から手紙が届いていますよ」

「! 来たか。見せてくれ」

ロランはクラリアからの郵便の封を切り、中の書類を取り出した。

そこには 弓使い(アーチャー) 、支援魔導師、治癒師向けのクエストに関する情報が載っていた。

(よし。注文通りだ。これをクリアしていけば、より一層彼女らの成長に繋がるだろう)

次の日になり、2回目のダンジョン探索の日が訪れた。

ロランがダンジョンの入り口の前に来た時にはもう部隊のメンバーらが集まっていた。

「ロランさん。部隊、全員集結しています」

ロランを見かけたモニカが、報告する。

「そうか。よし。それじゃみんな聞いてくれ。今回のダンジョン探索について説明する。今回はクエストの攻略を狙うよ」

ロランがそう言うとモニカ、シャクマ、ユフィネの3人は一様に緊張した。

これまでの部隊行動と違い、それぞれの職業について個人レベルでの真価が問われる。

「それとモニカ、シャクマ、ユフィネについては個別に課題と目標を設定する。まずモニカ」

「はい!」

「前回は白兵戦前の敵兵力の削減と対空戦力の迎撃だけだったけれど、今回はさらに注文をつける」

「注文……ですか?」

「敵とエンカウントする際、毎回、必ず最も強いモンスターから倒すこと。また必ず10体以上倒すこと」

モニカは心臓がギュッと掴まれるような感触に襲われた。

(プレッシャーが一段階上がった)

部隊の他のメンバーもロランの要求の高さにゴクリと唾を飲み込む。

一度の遭遇で10体以上、しかも強いものから順番に倒すとなれば、この街で同じことができる 弓使い(アーチャー) はいないだろう。

「次にシャクマ。君の目標は一回の戦闘中に、三つ以上の支援魔法を使うこと」

「三つ以上……ですか?」

「もちろん戦いを長引かせたり、部隊を消耗させてはならない」

(三つ以上ともなれば、今迄の速さでは到底足りない。相当な判断スピードが要求されますね)

シャクマは難しい顔になった。

「最後にユフィネ。君の目標は部隊が戦闘中に使う回復アイテムをゼロにすること」

「……ゼロ」

現状、ユフィネは単体回復魔法で負傷したメンバーを回復しているに過ぎなかった。

単体回復魔法では、戦闘中負傷した全てのメンバーをカバーすることはできない。

ユフィネの単体回復魔法で間に合わない者達は、戦闘の合間にポーションを飲んで補っていた。

(ポーションを使わず部隊全体をカバーするとなると……、単体回復魔法では間に合わない。『広範囲回復魔法』を使わないと。広範囲回復魔法の命中率はまだ安定していないっていうのに)

「もちろんこれらが非常に高く厳しい目標であることは分かっている。簡単には達成できないだろう。しかし、君達なら必ず到達できると信じている」

ロランは三人以外のメンバーにもそれぞれ簡潔に目標と課題を述べた。

三人ほど厳しくはないものの、それでも前回よりも高い水準のクオリティーを要求して向上を義務付けた。

白兵戦部隊のメンバーについては防御力の比較的高い者については、盾を装備させた。

この部隊は 弓使い(アーチャー) の射撃や支援魔法が主な攻撃手段であったためだ。

部隊の全員に課題と目標を伝え終わった頃、アイテム保有士を伴ったランジュとチアルがやってきた。

「おっと。届いたようだな。モニカ、シャクマ、ユフィネ。君達には特別にプレゼントがあるよ」

「プレゼント?」

ランジュの連れて来たアイテム保有士は、袋の中から銀の弓、銀の鎧、銀の杖を取り出した。

「モニカ。『銀製鉄破弓』だ。君専用の武器だよ」

「私専用の装備……」

それは銀細工の技術で作られた銀製の弓矢だった。

デザインは『鉄破弓』に酷似しているが、銀という材質で作られているため、比べ物にならないほど手間暇をかけられていた。

「さ、装備してみて」

『銀製鉄破弓』を受け取ったモニカは実際に照準を合わせてみて、その持ち心地を試してみる。

(『鉄破弓』よりもさらに重い。でもしっくり来る)

「どうだい?『銀製鉄破弓』の感触は?」

「はい。とても体に馴染んでしっくりきます」

「だ、そうだよ。チアル」

ロランがチアルの方を振り返って言った。

チアルは褒められてはにかんで見せる。

「あなたが作ってくれたの?」

「はい。モニカさんの背丈や腕の長さに合うようミリ単位で調節しました」

「ありがとう。大切に使わせてもらうね」

モニカはチアルと同じ目線になるように腰を屈めて、お礼を言った。

チアルは照れ臭そうにほっぺを赤らめている。

「モニカ、『銀製鉄破弓』は以前の『鉄破弓』に比べて威力、射程、連射性能、そして耐久性も格段に上がっている。クエスト攻略の心強い味方になってくれるはずだ」

「はい。ありがとうございます」

シャクマは銀製の鎧を身に付けていた。

「おや? この鎧は以前の鎧よりもずいぶん軽いですね」

「ああ、ただし支援魔法を使うと鎧に宿った精霊の力が働いて、重くなるようになっている」

「うぐ。やっぱり重くなるんですか」

装備の確認と装着が終わったところで、ロラン達は再びダンジョンの中に潜って行った。

ショートカットの指輪を使って、5階層へと部隊ごと転送させる。

「よし。行くぞ。まずは8階層にいる『ハガネワシ』討伐クエストからだ」

6階層からはそれまでとは比較にならないほどモンスターが強靭になった。

6階層で出てくる鬼族はほとんどが 鎧をつけた大鬼(アーマードオーク) だ。

5階層までは 武装した小鬼(ホブゴブリン) が弓矢を担当していたが、ここからは弓使いも 大鬼(オーク) が担当する。

大鬼(オーク) は 小鬼(ゴブリン) に比べてパワーが桁外れに高いため、弓矢の射程距離も格段に長くなった。

ロランの部隊で 鎧をつけた大鬼(アーマードオーク) の射程に対抗できるのは『銀製鉄破弓』と『鉄破弓』を装備した 弓使い(アーチャー) だけだった。

つまり射撃戦はモニカの肩に全てがかかっていた。

部隊は『銀製鉄破弓』を装備したモニカと『鉄破弓』を装備した 弓使い(アーチャー) を最前列にして進んだ。

ロラン達が森のダンジョンをクエスト攻略に向けて進んでいると、モンスターの雄叫びが響き渡って森に木霊した。

今までと比べてはるかに大きく禍々しい叫び声だった。

それを合図にモンスターの群れが現れる。

モンスターの先鋒は無論、弓矢を装備した 鎧をつけた大鬼(アーマードオーク) だった。

5体のオークはロランたちの部隊に矢を浴びせようと射程距離に入ろうとする。

しかしモニカが弓矢を放つ方が早かった。

『銀製鉄破弓』はオークの装備している大弓よりもはるかに射程距離が長く、オークが弓を構える前に敵を仕留めることができた。

モニカの放った矢は 鎧をつけた大鬼(アーマードオーク) の頑丈な鎧を貫いて、さらに『一撃必殺』のスキルも発動し、瞬く間に5体のオークを壊滅させていく。

次に来たのは 鎧をつけた狼(アーマードウルフ) だった。

鎧をつけた狼(アーマードウルフ) はこれまでの狼族と違い、素早いだけでなく攻撃力と防御力にも優れている。

鎧をつけた狼(アーマードウルフ) が左右に5体ずつ分かれ側面に回り込んできたかと思うと、少し遅れて 鎧をつけた大鬼(アーマードオーク) 20体が大斧や大剣を持って突撃してくる。

しかしロラン達の方も準備は万端だった。

前回5人だった盾を装備している 戦士(ウォーリアー) は15人になって部隊全体の防御力は格段に上がっていた。

盾隊のうち、素早さの高い者は左右に展開して、防御力が格段に高い者は中央でどっしりと構えた。

モニカは敵が近づいてくるギリギリまで射撃し続け、さらに5体の 鎧をつけた大鬼(アーマードオーク) を仕留めてから、後衛に下がった。

白兵戦が始まる。

鎧と鎧、武器と武器がお互いにぶつかり合って激しい金属音が鳴り響いた。

全ての前線で激しい戦いが始まったが、左翼のまだ盾の扱いに慣れていない者たちは苦戦して、次第に押され始める。

ユフィネは新しく装備した銀製の杖を使い、回復魔法を唱えた。

この杖には命中率を上げる精霊が宿っており、ユフィネの命中率を格段に上げた。

(部隊の全ての人間を回復させるのは無理だけど、部隊のうちの片翼だけならっ)

「行くわよ。『広範囲回復魔法』!」

ユフィネが呪文を唱えると、杖の先から光が発して、辺り一面に魔法陣が浮かび上がる。

ほとんどの魔法陣は見当ハズレの場所に浮かんだが、左翼に展開している盾隊の足元にはきっちりと魔法陣が浮かび上がる。

みるみるうちに彼らの生傷が消え、体力が回復し、狼達を押し返していく。

(やっぱり片翼をカバーするので精一杯か)

ロランはユフィネの外した魔法陣を見て、彼女の命中率をチェックしておく。

一方でシャクマは鎧の重さに歯がゆさを感じていた。

彼女はすでに中央の盾隊に『防御付与』の魔法をかけていたが、そこで自らの鎧が重くなってしまい攻撃部隊に『攻撃付与』の魔法がかけられずにいた。

(うぐぅう。今、右翼に『攻撃付与』をかけられれば勝負を決められるのに)

事実、先ほどからこちらの右翼に攻撃してくる狼達は攻めあぐねている上に、相次ぐ突撃の失敗で消耗していた。

今、右翼に『攻撃付与』をかければ、たやすく突破できるであろう。

「攻撃部隊、シャクマの近くに行くんだ。『攻撃付与』の魔法を受けてこい!」

ロランがそう命じると、後衛に控えている長剣を装備した 戦士(ウォーリアー) 達がシャクマの元に駆け寄って来る。

(あ、そうか。自分が動けないのなら、相手に来て貰えば良いんだ)

支援魔導師は後衛で動き回るもの、と勝手に頭の中で決め込んでいたシャクマはこの簡単な事実に気づいて目から鱗のような気分だった。

「ロランさんありがとうございます。行きますよ。『攻撃付与』!」

シャクマが『攻撃付与』の魔法を唱えると、攻撃部隊の5人は赤い輝きをその身に纏う。

そのまま、右翼側に加勢して盾隊の援護を受けつつ敵を蹴散らしていく。

敵の戦線は崩れ、やがて敵は背を向けて敗走し始めた。

ロラン達は逃げていく敵の追撃はほどほどにして、ダンジョンの探索に戻った。

今回の目的はスキルを上げることよりもクエスト攻略が主眼だったためだ。

ロランは先ほどの戦闘で、無事課題を達成できたモニカとユフィネを褒め、課題を達成できなかったシャクマにはアドバイスを与えた。

また、3人で話し合いをさせ部隊間の連携について認識を深めさせた後、ダンジョンの探索を再開する。

「よし、もうすぐ8階層『ハガネワシ』の巣だ」

『ハガネワシ』はこれまでの飛行モンスターとは一線を画するモンスターだった。

その翼は銀色に輝いており、鋼のように硬い。

おまけに『ハガネワシ』はその羽の一本一本を飛ばして攻撃してくる。

これまでの飛行モンスターは上空から冒険者を攻撃するといっても、爪とクチバシを使った近接攻撃だけだったが、『ハガネワシ』ははるか上空からの遠距離攻撃を仕掛けてくるのだ。

そのため、剣や槍では仕留めることができず、本当に 弓使い(アーチャー) の力のみが頼りだった。

『ハガネワシ』を仕留めてその羽をクエスト受付所に持って行けば、Cクラスの 弓使い(アーチャー) とみなされて、Aクラスのクエストを紹介してもらえるようになる。

(本当はBクラスのクエストでも問題ないんだけれどね)

ロランはモニカのスキル構成を鑑定する。

『弓射撃』B→A

『一撃必殺』B→A

『ホークアイ』B→S

『サイレントラン』C→A

技術的には既にBクラスの 弓使い(アーチャー) に匹敵した。

(だが、彼女は着実に経験を積んで行くタイプだ。これだけの資質だし、本当はもっとエースとして頑張ってほしいところだけれど、一人で部隊の全てを背負えるようなタイプじゃない。焦りは禁物だ。彼女が成長していくのをじっくり待とう)

ロラン達は連携と戦術を改善しながら敵を倒しつつダンジョンを進み、瞬く間に8階層にある『ハガネワシ』の巣に辿り着く。

しかし、彼らがそこに辿り着いた頃にはすでに『ハガネワシ』の巣はもぬけの殻だった。

そこでロラン達は別のクエストを攻略しようと、『レッドオーク』の巣や『大蛟』の巣に向かったが『レッドオーク』も『大蛟』も既に狩られた後だった。

(なんだ? 狙っていたクエストがことごとく他のギルドに先回りされている? これは一体……)

「ロランさん。これはさすがにおかしくありませんか?」

ユフィネが怪訝な顔をして言った。

「行く先々で狙っていたモンスターが狩られています。まるで私達がこのクエストを狙っているのを知って先回りしているかのようです」

ロランはユフィネの顔を見た。

彼女もロランの方をじっと見つめ返してくる。

「こんな風に先回りされるなんて、相当レベルの高いギルドの仕業としか考えられません。例えば『金色の鷹』クラスの……」

遡ること1週間前、『金色の鷹』では各部隊の編成について最終的な決定が終わり、各会員に通達が降りていた。

彼らの顔には笑顔もあれば落胆もあった。

主力部隊に入れて喜んでいる者、主力部隊から外されてしょげ込んでいる者、ホッと安心しているものもいるし、諦めの表情を浮かべている者もいる。

コーター三兄弟は落胆している側の人間だった。

「はぁ。今回も主力部隊からは落選か」

「もうかれこれ一年間、ずっとこんな調子だぜ俺達」

3人は一応Bクラスの 弓使い(アーチャー) 、支援魔導師、治癒師だったが、主力部隊に入れるかどうかは常に当落線上で不安定だった。

なるべく早く主力部隊に定着したいというのが彼らの望みだった。

『金色の鷹』ではそのくらい主力部隊に入れるかどうかで待遇には雲泥の差があった。

「あ、時間だ。そろそろ行かないと」

「はあ。今日も今日とて主力部隊の皆様への敬礼か」

彼らが黄昏ていると、控え室にディアンナが入ってきた。

「あっ、ディアンナさん」

「ど、どうも」

彼らは急いで立ち上がり敬礼した。

ディアンナがルキウスの愛人で彼女の機嫌を損ねればギルド内での出世の道が断たれることは周知の事実だった。

「あら、探してたのよ。あなた達。ルキウスが呼んでいるわよ」

「えっ? 俺達を?」

三人は互いに顔を見合わせた。

主力部隊に入れなかった彼らに、ルキウスが一体何の用事があると言うのだろう。

「おお、来たか。三人共。まあまずはかけてくれたまえ」

ルキウスは団長室に来た三人をいやに丁重にもてなした。

コーター三兄弟は緊張でギクシャクしながら訪問者向けの柔らかい椅子に腰かけた。

「君達をここに呼んだのは他でもない。ちょっとした特別な任務に当たって欲しくてね」

「えっ?」

「特別な任務……でありますか?」

「ああ。最近、『魔法樹の守人』と我がギルド間で対立が深まっていることは聞いているかね?」

「ええ、まあ……」

「噂程度には……」

「彼らは我々に対抗してもう一つの主力部隊を育成するつもりのようだ。こちらとしては相手の試みをなんとしても阻止したい」

「はあ……」

「そこで『金色の鷹』は新しく部隊を編成することにした。『魔法樹の守人』の新部隊育成を妨害する部隊だ。その指揮を君達に担当して欲しい」

「えっ? 俺達にですか?」

「ああ、君達のギルドに対する貢献の数々は私の耳にも入っている。そろそろ何か重要な役割を与えなければと考えていたところだ」

「は、はい」

「そこまで評価していただいていたとは」

「身に余る光栄です」

「部隊の妨害と言ってもそう難しいことではない。10階層以下で彼らが狙っているクエストを先にクリアするのだ」

「なるほど。そうすれば冒険者ランクが上がるのを妨げられますね」

「しかし、彼らの狙っているクエストなんてどうやって知れば……」

「すでに彼らの狙っているクエストについての情報は入手してある」

「えっ? そんなこと一体どうやって……」

「そこは君達が深く考えなくてもいいところだよ」

「あっ、はい」

「し、失礼しました」

「君達ならできると信じているよ。やってくれるね?」

「は、はい。是非とも!」

「必ずやご期待に応えてみせます」

ギルド長の部屋を出た三兄弟は、お互いの喜色を浮かべた顔を見合わせた。

「やったぜ。ギルド長から直々の特命任務だ」

「しかも念願だった部隊の指揮だ」

「これに成功すれば、ギルド長の側近になるのも夢じゃないな」

「よし。そうと分かれば早速善は急げだ」

三人は意気揚々とその場を立ち去って、任務の準備を始めるのであった。

「これで良かったんだよね? ウィリク君?」

ルキウスは三兄弟からは仕切りがあって見えない場所、部屋の隅に向かって声をかけた。

「ええ、モニカ、シャクマ、ユフィネの三人はそれぞれ 弓使い(アーチャー) 、支援魔導師、治癒師として問題を抱えています。『金色の鷹』に所属するBクラス冒険者の力を持ってすれば造作もなくクエスト攻略を阻止できるでしょう」

ウィリクはしたり顔で言った。

「彼らは10階層以上には辿り着けないということで間違いないのですよね?」

ディアンナがウィリクに飲み物を出しながら、尋ねる。

ウィリクを寝返らせたのは他ならぬ彼女であった。

ロランが特別顧問に就任したと聞いて、ウィリクが不満を持っていると思い、接触して内通するよう持ちかけたのだ。

「おお、ありがとうございます。ええ。そもそも彼らは10階層にも辿り着けないからコンバートしたのです。なのにあのロランとかいう鑑定士ときたら。彼女らのためにもなりませんよあんなこと」

「全くだ。いや、彼には我々も手を焼いていてね」

ルキウスが同調するように言った。

「彼が育成者としてそれなりの成果を上げられたのは、大手ギルド、つまりは『金色の鷹』のバックアップがあってこそのものだ。それをさも自分の力とばかりに勘違いして図に乗って独断専行ばかり……、おっと済まない。愚痴っぽくなってしまったね」

「いえいえ、お気持ちはよく分かりますよ」

「何にしてもこれ以上彼のやりたい放題を黙って見ておくわけにはいかない。君は今後も我々に協力してくれるね?」

「はい。『金色の鷹』のスパイとして活動すればいいんですよね?」

「スパイだなんて人聞きの悪い。情報提供者と言ってくれないか? これは両ギルドがこれからもうまくやっていくための活動なのだ。そこを勘違いしないで欲しい」

「あっ、これは失礼しました。まあとにかくあの3人にBクラスはおろかCクラスの 弓使い(アーチャー) 、支援魔導師、治癒師になんてなれっこありません。10階層以内のCクラスクエストを潰しておけば十分です。後は私が今進めているCクラス 戦士(ウォーリアー) の育成を成功させれば、それでロランは私の指導下に入ります。それで後はルキウスさんの思うまま煮るなり焼くなりご自由に、ですよ」

ウィリクはそう言って出されたコーヒーをすすった。

ルキウスは満足気に頷く。

「君には期待しているよ。もしロランを上手く『魔法樹の守人』から追放できたのなら君には『金色の鷹』の特別顧問の地位を約束しよう」

「おお。私如きにそのような……」

ウィリクは愉悦に浸った。

(『金色の鷹』にさえ加入できれば『魔法樹の守人』になんてもう用はない。あんな奴らとはおさらばして、最大手のギルドで街一番の鑑定士としてその名を歴史に刻もうじゃないか)

ウィリクはもうすでに将来のポストを手に入れたような気分になって、手に入れられるであろう名声の数々を夢想した。

「ルキウスさん。この仕事精一杯頑張らせていただきます。必ずや成功させましょう」

ウィリクは屈託のない笑顔を浮かべてルキウスと固い握手を結ぶのであった。

時を戻して現在。

クエストの攻略対象がことごとく先に狩られていることを不審に思ったロランは、一旦街へと戻っていた。

クエスト受付所を訪れて、クラリアに面会を求める。

個室で二人きりになるとロランはクエストのことについてクラリアを問いただした。

なぜか君からもらったリストに載っているクエストが誰かによって先に攻略されている。

一体どういうことなのか?

どこかから情報が漏洩しているとしか思えない。

何か心当たりはないか?

事と次第によっては君だけではなくクエスト受付所の権威にも関わるので何か知っているのであれば教えて欲しい。

そのようにしてクラリアを厳しく問い詰めると、彼女は涙をポロポロと零しながら話し始めた。

実はロランと例の面談をした後、ディアンナという女性が訪れて、自分に面談の内容について包み隠さず教えるよう脅しをかけられた。

上司にも相談したが取り合ってもらえずむしろ、『金色の鷹』のような上客の機嫌を損ねたら君の責任問題だぞ、と言われた。

自分の立場でこれらの圧力に逆らうのは難しく、結局ディアンナの求めてくる情報を求められるままに明け渡してしまった。

クラリアから以上の内容を聞いたロランは、すぐさま裁判所に駆け込み、事の次第を告発した。

事態を重く見た裁判所はロランの告発を受け入れた。

これらの手続きをするのにロランは二日間を費やさねばならなかった。

「くそっ。こんなことしてる場合じゃないっていうのに!」

クエスト受付所の担当を変更して後顧の憂いを絶ったロランは、再度クエストを紹介してもらった後、部隊と合流してダンジョンへと戻って行った。

ここ数日で発生した新規のクエストの地図を片手に獲物のいる場所へと急行する。

数日後、裁判所から秘密保持義務違反と威力業務妨害の罪で、クラリアには給与三ヶ月分の罰金が、『金色の鷹』にも同額の罰金が科されることになる。