軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第160話 勇者は再び島を去る

港ではウェインがエドガーを組み敷いて、マウントポジションを取っていた。

「ハァハァ。手こずらせやがって」

「くっ。はなせ」

「神妙にお縄につきやがれ。メデスと一緒に仲良くムショにぶち込んでやるぜ」

「ふざけんな。なんで俺があんな野郎と……」

「自業自得だろうが。歯ぁ食いしばれ!」

「ぐふっ」

ウェインはエドガーの横っ面を 強(したた) か殴りつけて気絶させた。

「ザマァねえな。クソ野郎。どうだ。臥薪嘗胆、艱難辛苦の末に俺は復讐を成し遂げたぜ」

ウェインはミミズ腫れした顔で天に向かってガッツポーズする。

周囲の景色を無視して、彼の立ち姿だけにスポットライトを当てれば、苦闘の末、何かを勝ち取った男の姿に見えなくもない。

「まったくよく言うわ」

アイナが呆れたように言った。

「私達が駆けつけなければ、危なかったでしょうにね」

リゼッタも同調するように言った。

2人は鎧を身に纏い『竜穿弓』と『 火槍(ジャベリン) 』を装備している。

その後ろではギルバートを鎖で縛り上げているロディとアイズの姿があった。

パトはその傍らでのびており、リーナの介抱を受けている。

順を追って話そう。

エドガーとギルバートに威勢よく挑みかかり、しばらく互角の殴り合いを演じていたウェインとパトだったが、徐々にエドガーとギルバートの方が優勢になっていった。

そうして危うく負けそうになったところに、リーナから2人の様子がどこかおかしいと聞いたアイナ、リゼッタ、ロディ、アイズらが武具を装備し、応援に駆け付けたというわけである。

『竜穿弓』と『 火槍(ジャベリン) 』を恐れたエドガーは、目に見えてへっぴり腰になり、次第にウェインに押され始めた(ギルバートはあっさり降伏した)。

そしてアイナ達が若干白々しい気持ちで見守る中(「手を出すな。これは俺の喧嘩だ」とウェインが言ったため、手を出さず見守った)、ついにウェインがエドガーを倒してマウントポジションを取ったというわけである。

こうしてエドガーの 企(くわだ) ては失敗に終わった。

2人は仲良くメデスと一緒に当局へと送還され、メデスの反社時代に蓄えられた金は押収された。

『竜の熾火』の共有資産は無事金庫へと返される。

次の日、『精霊同盟』が街へと帰還した。

『 巨大な火竜(グラン・ファフニール) 』の竜核を携えての堂々とした帰還に人々は歓呼の声で応えた。

十数年ぶりの『 巨大な火竜(グラン・ファフニール) 』討伐成功に街は歓喜の渦に包まれた。

ジル・アーウィンはダブルSの称号を授かった(カルラのアシストがあったとはいえ、『 巨大な火竜(グラン・ファフニール) 』遭遇前の貢献を加味すれば十分Sクラス討伐の要件は満たしていると判断された)。

アーチー、リズ、アイクなど新たにロランの鍛錬を受けた冒険者達も順当にAクラスの認定を受けることになった。

『精霊の工廠』の名声は海を越えて世界中に響き渡るだろう。

街では誰もがこのめでたき日を喜び、飲めや食えやのお祭り騒ぎに興じるのであった。

吟遊詩人は『 火竜(ファフニール) 』を倒した数々の冒険者達を讃え、曲を作り、歌を歌った。

そうして宴もたけなわ、街の盛り上がりも最高潮に達しようとしていたが、ロランとジルの冒険にも終わりが近づいていた。

港に『冒険者の街』行きの船が到着したのだ。

カルラは港まで来て、ロランを見送っていた。

「『竜葬の一族』の復興上手くいきそうなんだってね」

「うん。『竜葬の儀式』が成功したことで街の人々の注目と敬意を再び集めることができそうだ。島の外に移住した一族からも前向きな返事が返ってきた。来年はもっともっと立派な儀式を執り行えると思う」

「そうか。よかった」

「……本当に、もう行ってしまうのか?」

カルラは名残惜しそうに言った。

まだロランを帰したくない。

もっとこの島にいて欲しかった。

「僕はこれから『冒険者の街』に帰って溜まりに溜まった内務を処理しなければならない。流石にギルドを留守にし過ぎた。これ以上は執行役としての面目にかかわるからね」

「ロランさん、出港の準備ができたそうです」

すっかり従者のようになったジルがロランの下に来て言った。

「うん。ありがとうジル。すぐに行くよ」

ロランが船に乗り込もうとすると、カルラは袖を掴んで引き止めた。

「なぁ。せめてもう少しだけこの島に留まったらどうだ? 街で鑑定士に名誉を与えようという動きがあるんだ。せめてそれまで待って……」

「カルラ。僕はもう十分名誉を受けたよ。『竜葬の儀式』の復活、地元ギルドの復興、『精霊の工廠』支部の設立、『 巨大な火竜(グラン・ファフニール) 』の討伐。これら全てのことで僕は色んな人々の成長を促進し、手助けすることができた」

「でも、お前自身が。まだS級鑑定士自身は街から何の栄誉も受けていないじゃないか!」

「みんなを助けることができた。僕はそれで十分なんだ」

尚も名残惜しそうにするカルラに、ロランは微笑みながら告げる。

「カルラ。これからだよ。『 巨大な火竜(グラン・ファフニール) 』を討伐して、竜族の力が弱まり、『火山のダンジョン』では新たな種族が力を伸ばしつつある。『竜葬の一族』の伝統を守るためにも、君はこれから奮闘しなければならない」

「……」

「次に僕がこの島に来るまで、『竜葬の一族』の伝統と『精霊同盟』を守っておくれ」

「……うん。分かった」

ロランはカルラと抱擁を交わして、船に乗り込む。

カルラは船が出港しても埠頭に立ち続けた。

少しでも長くロランの顔が見れるのではないかと期待して。

ロランとジルも甲板に立って、港に立つカルラや他のみんなに向かって手を振り、別れを惜しんだ。

「さらばだ。『竜葬の一族』カルラ。また会おう。今度はきっと『冒険者の街』に君を招待するよ」

やがて船は水平線の向こうへと去って行った。

「ロラン。ありがと」

カルラは船が見えなくなったところで、呟いた。

街からは吟遊詩人達の演奏に乗って、サキの歌声が聞こえてきた。

この島の人間であれば誰でも知っている歌、消えた勇者の歌、それをアレンジしたものである。

今後、おそらく次の勇者が現れるまで人々の間で歌い継がれるであろう歌だった。

かつて、この島には勇者がいた。

彼は錆びついた錬金術を鍛え直し、朽ちかけたギルドに光を当て、埋もれた才を見出して『 火竜(ファフニール) 』を討ち果たした。

やがて勇者は立ち去った。

ああ、あなたは一体どこへ行ってしまったのか。

その身に浴すべき名誉も受けずに。

竜の踊り子の想いも知らずに。

おかげでこの島に恋を知る娘はいない。

あなたは厄災と一緒に私達の恋心まで持ち去ってしまった。

勇者は二度と現れない。

あなたのような勇者は二度と現れない。