作品タイトル不明
第15話 難儀な資質
「 弓使い(アーチャー) なんて……。そんな私には無理です」
戦士(ウォーリアー) 用の装備をした少女は戸惑いがちに言った。
「そんなことないよ。君には 弓使い(アーチャー) 向きのスキル『 鷹の目(ホークアイ) 』が……」
「ちょっと、何勝手なこと言っているんですか」
ロランが 戦士(ウォーリアー) の少女に説明しようとすると、一人の若者が割り込んできた。
「モニカは、彼女は 戦士(ウォーリアー) としてこれまで順当に育てて来たんです。ようやくここまで来たっていうのに、今さら 弓使い(アーチャー) に転向だなんて。勝手なこと言わないでくださいよ」
「えっと……、君は?」
「私はウィリク。『魔法樹の守人』の専属鑑定士です」
「鑑定士……」
「特別顧問だなんて聞いたからどんな人が来るのかと思っていましたが、案の定ですよ。私がちょっと目を離した隙にこれだ。モニカを今更 弓使い(アーチャー) にコンバートするなんて。冗談じゃない。ロランさんって言いましたっけ? 特別顧問だかなんかだ知りませんけれどね。ウチにはウチで、今まで培ってきたものがあるんです。いきなり外から来た人にこんな無茶苦茶やられてはたまったもんじゃありませんよ」
彼はまくし立てるように言った。
まるで自分がいなければこのギルドは何一つ立ち行かない、とでも言わんばかりの振る舞いだった。
「ウィリク。言ったはずですよ。ロランさんは特別顧問。今後は彼の指導を何にも増して優先してもらうと」
ロランが戸惑っていると、リリアンヌが咎めるように言った。
「リリアンヌさん。いや、でもですね。せっかく今までやって来たことを……」
「ウィリク。あなたにも考えがあるのは分かります。しかしあなたがモニカを担当してもう三年目です。これ以上、進歩がないようであれば、彼女にも後が無くなります」
リリアンヌがそう言うとモニカはビクッと肩を震わせる。
「いや、でもですね……。いくらなんでも錬金術ギルドの鑑定士に……」
「どうしてもと言うのならあなたの鑑定でロランのスキルを見てみなさい。それであなたも納得が行くはずです」
「彼のスキルを……?」
ウィリクは鑑定でロランのスキルを見る。
スキル鑑定S
人材育成A
(なっ。スキル鑑定Sに人材育成A!? まるで人材の発掘と育成に全てを注いだかのようなスキル構成……)
上位4つのスキルしか見れず、限界値も分からないウィリクだが、それでもロランが自身よりはるかに上の鑑定士だと言うことは分かった。
しかし、彼はすぐに皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「ふっ。スキル鑑定Sとは恐れ入りましたね。しかしそんなスキルを持っていても肝心の適性選びが間違っているようでは何の意味もありませんね」
「? どういうことですか?」
リリアンヌが怪訝そうに尋ねる。
ウィリクは説明した。
モニカを 戦士(ウォーリアー) にした背景。
彼女が 弓使い(アーチャー) に向いていない理由。
「『 俊敏(アジリティ) 』が低い?」
「ええ、そうです。モニカはステータスのうち 俊敏(アジリティ) が並以下のレベルしかありません。おそらく鍛えてもせいぜい、C(並み)といったところでしょう」
「そんな……」
「つまり、 弓使い(アーチャー) には向いていないということです。 弓使い(アーチャー) は何よりも有利なポジションを取るための機動力が必要なジョブ。 俊敏(アジリティ) のない彼女には向いていませんよ」
ウィリクはピシャリと言った。
モニカはシュンとして俯く。
彼女も元は 弓使い(アーチャー) 志望だった。
しかし、 俊敏(アジリティ) が低く、実戦で優位なポジションを取れないことから、 弓使い(アーチャー) 失格の烙印を押されてしまい、 戦士(ウォーリアー) へのコンバートを余儀なくされた。
(確かに 弓使い(アーチャー) はアジリティが最も重要な職業。それが無ければ大きなハンデになりかねない。ロランさんはどうするつもりなのかしら)
「一方で 腕力(パワー) と 耐久(タフネス) には優れています。なので彼女の適性は 弓使い(アーチャー) ではなく前衛の 戦士(ウォーリアー) なのですよ」
ウィリクがそんな風にしたり顔で言っているうちに、ロランはロランで彼のスキル鑑定を済ませていた。
スキル鑑定C→C
ステータス鑑定B→B
(なるほど。『スキル鑑定』が微妙な分、『ステータス鑑定』で補っているということか。だが、彼には見えていない。モニカのユニークスキル『 鷹の目(ホークアイ) 』が)
「大丈夫だよ。モニカ。君には 俊敏(アジリティ) の低さを補うスキルがある」
「 俊敏(アジリティ) の低さを補うスキル? そんなスキルが私に?」
モニカは意外そうにロランの方を見る。
ウィリクはなおも何か言おうとしたが、ロランは先に喋って機先を制する。
「ウィリク。悪いけれどもここは僕に任せてくれないかな。二人の指導者が同時に別のことを言うと彼女も戸惑ってしまう」
「聞きましたかウィリク? ロランさんには何か考えがあるとの事です。ここはお任せしてみましょう。ではこれ以上は私達がいてもロランさんの邪魔になるだけです。ウィリク、あなたには別に頼みたいことがあるので、一緒に来てくださいませんか?」
リリアンヌはそう言って体よくウィリクを連れ出そうとする。
「……っ。もう僕は知りませんよ。どうなっても」
ウィリクは不満げにそう言うと、荒々しく扉を開けて、演習室を出て行く。
(リリアンヌさん。ありがとうございます)
ロランが心の中でリリアンヌにお礼を言いながら軽く頭を下げると、リリアンヌはロランにこっそりウィンクしながら入口の扉をくぐって行った。
ロランは二人が出て行くと改めて冒険者たちの方に向き直る。
「さ、モニカ以外の人も僕のところに来てくれ。一人一人、鑑定して、隠されたスキルや資質がないか見たいんだ」
ロランは全員を横一列に並べて、一人一人の顔を見、スキルを鑑定して行った。
その結果、モニカ以外にエースになれそうな人材が二人見つかった。
一人はシャクマという攻撃魔導師だった。
彼女は黒髪ショートカットで左目に泣き黒子のある小柄な少女だった。
炎魔法C→C
雷魔法D→C
岩石魔法→C→C
(攻撃魔導師か。けれどもこれでは到底Aクラスの火力には敵わないな)
ロランは他のスキルも探ってみる。
地殻魔法E→A
幻影魔法E→A
攻撃付与D→A
防御付与D→A
「ふむ。君は支援型の魔法スキルの方が向いていそうだね。なぜ攻撃魔導師に?」
「いやー。私も昔は支援型の魔道士スキルを磨いていたんですが……」
シャクマは恥ずかしそうに頭を掻きながら攻撃魔導師にコンバートした理由を説明した。
支援魔導師は後衛から部隊を援護するのが基本だが、彼女には戦闘が始まるとどうしても前に出てしまうクセがあった。
「クセを治そうと思って色々と試したのですが、結局治らなくって。雄叫びや武器の鳴る音を聞いてしまうとどうしても前に出たくなってしまうんですよね。それで毎回、敵に狙われて部隊の足を引っ張ってしまうんです」
「なるほど。確かにそれは厄介だね」
(けれども。伸ばせるスキルを伸ばさないなんてありえない)
「シャクマ。支援魔法が嫌いというわけではないんだよね?」
「ええ、私は支援魔法大好きですよ!」
シャクマは屈託のない笑顔で言った。
「君のそのクセはきっと解決できるよ。もう一度支援魔導師のスキルを伸ばしてみよう」
「はい。お願いします」
もう一人の人材もモニカ同様、 戦士(ウォーリアー) 姿の少女だった。
彼女もモニカ同様、 戦士(ウォーリアー) としての資質は並程度にも関わらず、鎧と剣を着せられて盾役にされていた。
どうもウィリクは適切な職業が見つからない場合、とりあえず盾役にするという方法で対処しているようだった。
単体回復魔法B→A
広範囲回復魔法C→A
(広範囲回復回復魔法がC、将来的にはAにも関わらず、 戦士(ウォーリアー) ? 一体どうして……)
「君は広範囲回復魔法を持っているにも関わらず、 治癒師(ヒーラー) ではないんだね。それなりにスキルを育てているのに、一体どうして? ステータスにも問題がないように思えるけれど」
ロランが彼女のステータスを調べてみると、 俊敏(アジリティ) も魔力も問題なく、 治癒師(ヒーラー) としての資質には問題がないように思えた。
「私は命中率が低過ぎたため、 治癒師(ヒーラー) の適性がないと言われました」
(あっ、そっちか)
ロランが急いで彼女のステータスを鑑定してみると確かに彼女の命中率は酷いものだった。
この世界では 治癒師(ヒーラー) にも命中率が求められた。
治癒魔法を発動する場合、治癒対象のいる範囲を指定しなければならないのだが、その範囲を味方に正しく合わせるには命中率が高くなければならない。
「以前、味方を回復させようと治癒魔法をかけましたが、逆にモンスターを回復させてしまいまして……。それで部隊を危機に陥れてしまいました。それ以来私は 治癒師(ヒーラー) としてダンジョンに入ることを禁止されました」
ユフィネは別に悲しむでもなく淡々とした調子で言った。
あまり感情を表に出さないタイプのようだった。
「分かった。けれどもこれだけ強力なスキルを活かさずに放置するなんてありえない。どうにか、活かす方法を探ってみよう。君には 治癒師(ヒーラー) にコンバートしてもらう」
「はい。分かりました」
ロランはとりあえず、モニカ、シャクマ、ユフィネのこの三人をエース候補として集中的に伸ばすことに決めた。
他の者については大幅なコンバートはせず、ちょっとしたアドバイスをするに留める。
「じゃあとりあえず今日はここまでにしよう。お疲れ様。来週までに僕が今言った課題をきちんとこなして来るように」
ロランは全員の鑑定とアドバイスを終え、訓練の内容を言い渡した後、集まりを解散させた。
30人近い冒険者の鑑定を終えたロランはその場に座り込んでぐったりする。
(ふう。さすがに疲れたな)
Sクラスの鑑定士とはいえ、これだけの人数を一度に鑑定するのは流石に骨の折れる作業だった。
しかし、ロランにはまだやるべきことが残っていた。
(コンバートするだけじゃダメだ。彼らをAクラス冒険者にするために必要なもの。それは適切な装備と適切なクエスト)
『魔法樹の守人』を後にしたロランはその足でクエスト受付所へと向かった。
「ちょっと大丈夫なんですか。リリアンヌさん。あいつ無茶苦茶ですよ」
ウィリクはロランの提出した育成計画を片手にリリアンヌに訴えた。
「モニカとシャクマ、ユフィネはこの職業では使い物にならないからわざわざみんなコンバートしたっていうのに。せっかく形になりかけていたのが、これじゃあ元の木阿弥ですよ」
「大丈夫です。ロランさんはこれまで何度も難儀な資質を持った人達の育成に成功してきました。それに……」
(このくらい大胆なことをしなければ、『金色の鷹』には勝てない。私達はもうロランさんの手腕に頼るしかありません。ロランさんの鑑定士としての勘を信じましょう)
ロランが『魔法樹の守人』で特別顧問に就任している頃、『金色の鷹』本部では出資者のための総会が開かれていた。
そこには街一番の地主、銀行家、各ギルドの代表者など錚々たるメンバーが集まっていた。
この出資者達こそ、『金色の鷹』が街一番のギルドに成長できた原動力である。
彼らの資本力を味方につけたからこそ、ギルドメンバーに払われる高水準の給与と錬金術ギルドの支配体制など、現在の『金色の鷹』一強体制が確立したのだ。
このように潤沢な資金の提供を受けられた『金色の鷹』だが、その一方でギルドの代表者はこの総会において毎月、ギルドの成績について説明しなければならない決まりだった。
ルキウスは出資者を集めていつも通り、先月の成績について説明していたが、総会では、のっけから出資者達による厳しい質問が浴びせられた。
出資者達は、主に『魔法樹の守人』にダンジョンを一つ攻略されたことについて、指摘した。
「一体どういうことかね? ダンジョンを一つ取られるとは」
「由々しき失態ですな」
「君の話では『魔法樹の守人』はもう虫の息で、『金色の鷹』の傘下に降ったも同然だという話だったじゃないか。なぜ傘下も同然のギルドに遅れを取るのかね? おかしいじゃないか」
「来月もダンジョンを取られたとしたら、これは君の責任問題だよ」
「ご安心ください。既に原因は究明し、手は打っております」
ルキウスは内心の苛立ちを抑え、ニッコリと笑って平静を装った。
「今月、ダンジョンを一つ取れなかった原因はハッキリしています。それは部隊長マルコの判断ミスによるものです。彼はダンジョンのボスを目前にしながら、退却するという失策を犯しました。このミスは、マルコの消極的な判断によって起こったものです。ギルドでは既に彼を降格処分し、新たに適任の部隊長を選任しているところです」
「選任している? まだ決まっていないのかね?」
出資者の一人が眉をしかめながら聞いた。
「我がギルドは人材豊富ですからね。それは皆さんもご存知の通りです」
ルキウスはあくまで余裕を維持して言った。
「重装騎士ジルと錬金術師ドーウィンはどうなんだ? 彼らはAクラスの器と言っていたじゃないか。そろそろ部隊長に任命してもいいんじゃないかね?」
出資者の一人がそう言うと、ルキウスの眉がピクリと動いた。
それは彼の苛立ちの段階が一つ上がった時に現れるクセだった。
「彼らを部隊長にするのは時期尚早というものです。彼らはまだ若い。今はまだ個人成績にこだわるべき時期です」
「時期尚早ね。この二人もいつまでBクラスのままでいるんだか」
「育成係は何をやっとるんだ」
「ええ、本当に不甲斐ない。育成係にも発破をかけるつもりです。もっと気合を入れるように……」
「まあダンジョンを取られた件についてはよしとしよう。ではエルセン伯主催の品評会に関してはどう言い訳するつもりかね?」
ルキウスの眉がまたピクリと動いた。
エルセン伯の件は、彼が今一番触れられたくない話題だった。
今度は目元だけに留まらず、ほっぺたまで巻き込んで顔が引きつってしまう。
「おお、そうだ。確かエルセン伯も出資者に引き込むという話だったじゃないか。その件はどうなったんだ?」
「エルセン伯の資本提供により、『魔法樹の守人』の有力な冒険者を引き抜いて完全に封殺する。そういう段取りだった、と記憶しているが?」
「それが他のギルドに品評会の最優秀賞をかっさらわれたそうだよ」
「品評会? さっきから出ているが、一体何のことだ?」
「エルセン伯が主催で開いた銀細工品評会だ。それで最優秀の銀細工を提出したギルドは表彰されるわけだが、表彰され、エルセン伯に近づいたのは『精霊の工廠』というギルドらしい」
「『精霊の工廠』? 聞いたことがないな」
「『金色の鷹』の傘下にあるギルドではないな」
「そんなどこの馬の骨とも分からぬギルドに賞をかっさらわれたっていうのか? 街中の錬金術ギルドを配下に収めておいて? ルキウス! 何をやっとるんだ君は!? んん?」
ルキウスは少しの間、沈鬱な面持ちで俯いた。
それは叱られて落ち込んでいるようにも見えたし、怒りを抑えているように見えた。
出資者達は彼の反応を見守る。
やがてルキウスは顔を上げた。
その時にはすっかりいつもの余裕のある笑みを取り戻していた。
「ご安心下さい。『精霊の工廠』は所詮弱小ギルド。鉱石流通ルートの封鎖及び協業ギルドへの各種圧力など、既に手は打っております。『精霊の工廠』が干上がるのも時間の問題です。やがては我々の傘下に入れてくれと泣きついてくるでしょう」
「まあ、君がそう言うのなら問題ないのだろうが。だが分かっているだろうね。もし、来月また『魔法樹の守人』相手に遅れをとるようなことがあれば……、君の進退にも関わることになるよ」
「重々承知しております」
出資者達はまだ納得のいかない表情をしていたが、それ以上追求するネタもなく渋い顔で黙りこくった。
ルキウスは心の中でホッと胸を撫で下ろす。
(少しばかりしつこく追及されたが、どうにか乗り切れそうだな。やれやれ)
「質問は以上で終わりですね? ではこれにて総会は終了とさせていただき……」
「待ちたまえ」
出資者のうち、メガネをかけた神経質そうな男が手を挙げる。
「ここに。鑑定士を一人追放処分にしたとあるが……」
ルキウスは真顔になる。
それは今、彼が最も指摘されたくないことだった。
「追放した際に払われている退職金。これは少々勿体無いのではないのかね?」
彼は手元の財務に関する資料を指差しながら言った。
ルキウスは追放処分自体に異議が唱えられたわけではないと知って、緊張から解放される。
「ああ、鑑定士追放の件ですか、彼については失態が酷過ぎたものでして。あのまま雇っていれば、ギルド全体の士気の低下に関わっていました。それでやむなく追放処分にしたまでです」
「それにしてもだね。別にわざわざ退職処分にせずとも契約切れまで飼い殺しにしておけばよかろう? 盾役にでもなんでもコンバートして使い潰すなどやりようはいくらでもあっただろうに。こういう無駄な経費が組織の紐帯を緩めて云々……」
その後も彼は費用の削減がいかに重要かについて延々ルキウスに説教した。
その態度はまるで、一から十まで教えてやらんと君は分からんだろう、と言わんばかりのものだった。
ルキウスはしばらくの間、延々続く彼の説教に大人しく耳を傾けなければならなかった。
「皆様、お疲れ様でした。帰りの馬車とお土産をご用意しております」
総会が終わるとディアンナが出資者達を出口まで案内する。
彼女は愛想よく応対して、出資者達を出口まで見送った。
出資者達はいかにも「我々は出資者だ」と言わんばかりの態度で肩をいからせデカイ態度で建物の廊下を出口まで歩いて行く。
ルキウスは一人、会議室に残される。
彼は誰もいなくなると棚に飾られた剣を取り、出資者達の座っていた椅子に斬りかかって、八つ当たりした。
「くそおおおおあ。あの豚共がぁ。たかがダンジョン一個の失敗で俺のやることに一から十まで偉そうに口出ししやがって!」
ルキウスは椅子を全て斬り終わるとようやく剣を鞘に収め、棚に向かって投げつける。
「それもこれもロラン! あいつのせいだ。たかが一鑑定士の分際で生意気にも俺の邪魔をしやがって!」
ルキウスは先ほどぶった斬った椅子を蹴り飛ばす。しかしそれでも腹の虫は収まらない。
「今に見てろよ。ロラン。この屈辱、必ず晴らさせてもらうぞ」
「あ、ロランさん。いらっしゃいませ」
クエスト受付所、受付嬢のクラリアはにこやかにロランに挨拶した。
一時期の彼女はロランに対してオドオドしていたが、彼の人となりを知るや否や(ロランが「そんなにへりくだらなくていいよ」と言うと)すっかり懐いてしまって、今では、すっかり気心の知れたお得意様のようになっていた。
「やあ。こんにちはクラリアさん」
「いつもありがとうございます。本日はどういったご用で?」
「それなんだけど、今日はちょっと混み入った話だから……」
「かしこまりました。では、こちらの個室へどうぞ」
彼女は立ち上がってロランを個室へと案内した。
個室に移ると早速、ロランは要件について話し始めた。
「冒険者用のクエストで頼みたいことがあって」
「冒険者用? 錬金術のアイテムに関することですか?」
「いや、違う。 弓使い(アーチャー) と支援魔導師、それに 治癒師(ヒーラー) 向けのクエストだ」
「えっ? それでは……ロランさんは冒険者に?」
「冒険者と言っても育成係だけどね」
ロランは照れたように言った。
「『魔法樹の守人』の特別顧問になったんだ」
「まあ。では、出世されたという事ですね。おめでとうございます」
「あはは。どうも。まあ、そういうわけで 弓使い(アーチャー) と支援魔導師、それに 治癒師(ヒーラー) 向けのクエストが出現したらこっちまで教えて欲しいんだ」
ロランは彼女に連絡先を渡した。
「はい。きっといの一番にお伝えします」
面談が済むと、ロランはクラリアに出口まで丁寧に送迎された。
(さて、クエストの準備もできたし、後は装備だな。彼ら向けの特注品を用意しないとね)
受付嬢のクラリアはロランを見送った後、依頼内容を書き留めて、自分のお仕事リストの最優先の場所に置いておく。
(ふう。ロランさんいい人だな。さてと。もうすぐ新しいダンジョンが出現するし、ロランさんのために準備しとかなきゃね。以前は失礼なことしちゃったし挽回しなくっちゃ)
クラリアが書類整理していると、また受付に誰かがやって来る。
「いらっしゃいませ。……あっ!?」
「こんにちはクラリア。相変わらずの八方美人っぷりね」
「ディ、ディアンナさん」
「久しぶりね」
「え、えっとお久しぶりです。珍しいですね。クエスト受付所に来られるなんて。ハハ」
クラリアはディアンナの顔を見て動揺したように冷や汗をかきはじめる。
彼女がおどおどするのも無理は無かった。
実際、ディアンナは笑っているのに、彼女の笑みにはどこか威圧的で身を竦めさせるものがあった。
「さっき、個室で話していたのはロランよね」
「えっ!? え、ええまあ。そうですね。ハハハ」
「酷いじゃないのクラリア。私達との約束を破ってロランにクエストを紹介するだなんて。もうあなた達は私達よりもロランと仲良くした方が良いということね」
「い、いえいえ。そんな。決してそんなことはございません。ディアンナさんは大切なお客様ですし。私達クエスト受付所は『金色の鷹』様との繋がりを何よりも大事にさせていただいていますよ」
クラリアはしどろもどろになりながら言った。
「そう。それは良かったわ」
ディアンナはニッコリと笑った。
クラリアには何よりもその笑みが恐ろしかった。
「じゃあ教えてくれるわよね? ロランは一体何のクエストを受けるためにここに来たのか。どんなことをここで話して行ったのか。包み隠さず教えてちょうだい」
「う、うう」
クエスト受付所には顧客からの相談内容を漏らしてはならない守秘義務があったが、クラリアに選択の余地はなかった。
「全く。特別顧問だなんて。ただでさえ、『金色の鷹』と『魔法樹の守人』の間の緊張は高まっているというのに。リリアンヌも思い切ったことをしたものね」
ディアンナはやれやれといった様子でクエスト受付所を後にした。
「ま、いいわ。これでロランを潰す糸口が見つかったというものよ」
(育成計画が失敗すればロランと『魔法樹の守人』の関係にもヒビが入る。この状況。利用しない手はないわ)
クエスト受付所を後にしたディアンナはその足ですぐ様ルキウスに告げ口しに行った。
ルキウスはロランの育成計画を潰すべく、部隊の編成に着手する。