軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第149話 意見の擦り合わせ

『精霊の工廠』では、人事異動が行われていた。

ロランは 工房(アトリエ) の職員全員が一堂に会する場で昇進者を発表した。

新 工房(アトリエ) に移る前からギルドに所属していた者はほとんどが昇進して役職を与えられた。

アイナには支部長。

ウェイン、パト、リーナには上級専門職員の肩書きが充てられる。

ロディ、アイズ、ルーリエ、メリンダにはサブリーダーの肩書きが充てられる。

それぞれ専用のバッジと賞状が配られ、賞状には給与が増額されることも付記されていた。

「うっし。肩書き付きになったぜ」

「うん。こういうのあるとやる気が出るよね」

ウェインとパトは互いの新しい役職を見て、誇らしげにうなずきあった。

この時点では、概ね予想通りで誰にとっても驚きのない発表だった。

「さて、それじゃあ最後にリゼッタ」

「はい」

「君には対『 巨大な火竜(グラン・ファフニール) 』用装備の開発主任をやってもらう」

「はい。全力で務めさせていただきます!」

予想外の発表にその場は騒めく。

「なっ、おいマジかよ」

ウェインが食い付いた。

「いくらカルテットだったとはいえ、入ってすぐの奴をいきなりそんな抜擢すんのか?」

「『 巨大な火竜(グラン・ファフニール) 』用の装備ともなると、アイナさんの『 外装強化(コーティング) 』された武器の方がよいのでは?」

パトもウェインの意見に同調した。

「ああ。そうか。言っていなかったね。リゼッタは新しくユニークスキル『統合設計』に目覚めたんだ」

「『統合設計』?」

「なんだそれ。また聞いたことのないスキルを……」

「『統合設計』は各人のユニークスキルを統合して設計書を作成できるスキルだ。いわば、普通の『製品設計』の上位互換に当たるスキルだね」

「上位互換……」

ロディが不安そうに呟く。

ロディの様子に目敏く気づいたロランはすぐ様フォローを入れた。

「ロディ、君の仕事が無くなったわけじゃないよ。リゼッタには複数のユニークスキルを用いた装備の設計を手掛けてもらうことになる。まあ、主に外部冒険者ギルド向けだね。地元ギルド向けの設計はこれまで通り、ロディ、君に手掛けてもらうよ」

ロランがそう言うと、ロディは目に見えてホッとした。

「なるほど。分かりました」

「まあ、そういうわけで、彼女はウェインの『 魔石切削(カッティング) 』やアイナの『 外装強化(コーティング) 』も統合して、装備を作ることができるってわけだ」

「そうか。それで最近、リゼッタは一人で作業していたんですね。ユニークスキルを目覚めさせるために」

「何かコソコソやってると思いきやそういうことかよ。ま、それじゃどんなもんか見せてもらおうじゃん」

パトとウェインも一応納得したように言った。

ともあれ、『精霊の工廠』は新体制の下、動き出した。

リゼッタは早速、アイナとウェインのユニークスキルを用いて作られた装備の設計図を片っ端から見ていった。

すると、二人のユニークスキルが想像以上に強力なのが分かってくる。

(まさかこれほど強力なスキルだったとは。しかもそれだけじゃない。使い方も 巧(うま) い……)

リゼッタは改めてロランの人材発掘能力及びその使い方の 巧(うま) さに舌を巻くのであった。

ユニークスキル『統合設計』を身に付けたリゼッタは、立ち所に2人のユニークスキルについて理解を深めていく。

そして2人のユニークスキル及び自身のユニークスキルを統合した設計図を作成していくのであった。

リゼッタの作成した設計図を見たウェインは、目を細めた。

(ほう。なるほど。こりゃよく出来てる)

アイナも一目見ただけでリゼッタの設計の秀逸さを理解した。

『火弾の盾』、二重 外装強化(コーティング) の鎧、そして銀の毒剣。

いずれもジルのステータスを考慮した上で、各々のユニークスキルが存分に活かせるよう設計されていた。

3人はすぐに製造に取り掛かる。

『火弾の盾』も『 青鎧(リフレクト・アーマー) 』もすぐに完成する。

残るは銀の毒剣だけだった。

銀の毒剣は最も複雑な製造工程になっていた。

まずリゼッタが銀剣の型を作り、ウェインが『 魔石切削(カッティング) 』で重さを減らす。

そして、アイナが刀身に赤い『 外装強化(コーティング) 』を施して完成である。

この剣の難しいところは、刀身に毒を行き渡らせるため、溝が掘られているところだった。

この溝があるがために複雑なデザインとなっていた。

しかも『火弾の盾』と『 青鎧(リフレクト・アーマー) 』に重さを割いているため、ギリギリまで重さを切り詰めなければならなかった。

設計上では問題ないはずだったが、製作にあたって少しでも誤差が生じれば破綻する。

ウェインがどこまで軽量化を緻密にこなせるかに全てはかかっていた。

(さて、どうなるか)

リゼッタはウェインが軽量化工程を終わらせるのを待った。

「ちょっとウェイン。どういうことよ、あの剣!」

アイナが休憩室で一息ついていると、リゼッタの怒声が響いてきた。

「あん? リゼッタ? どうしたんだよそんなにいきり立って」

「どうもこうもないわよ。設計図の内容と全然違うじゃないのよ」

リゼッタは机に設計図をバンと叩き付ける。

「これじゃあ、刀身に毒薬を行き渡らせる仕組みが台無しになるでしょう?」

「ああ、そのことか」

ウェインは事もなげに言った。

「それならこっちの方が軽くできるからこれでいいんだよ。直しとくぜ」

ウェインは設計図に新たに線を書き込む。

「なっ。何勝手に修正してんのよ。この装備の開発リーダーは私なんだから、私の言う通りにやりなさいよ」

「いや、だからこっちの方がいいんだって」

「それじゃあこの装備のコンセプトが崩れるのよ」

その後、2人は言い争いをしたが、一向に収束しなかった。

リゼッタが設計図に従えと言えば、ウェインは設計図の方が悪いと返す。

ついには、リゼッタはアイナにウェインを開発チームから外すように要求した。

(うーん。困ったな)

アイナはロランに相談することにした。

「ウェインとリゼッタが言い争ってる?」

「ええ。設計図通りに作るか、修正するか」

「そうか。そんなことが……」

「どっちの言うことにも一理あるように思えて。どうしたらいいんでしょう?」

(リゼッタの『統合設計』はBクラス。3人分のユニークスキルを統合するにはまだ何か越えなければいけない壁があるということか)

「よし。分かった。それじゃあみんなでウェインの作業を見てみよう。それで何か分かるかもしれない」

ロランはリゼッタとアイナを伴って、ウェインの作業を見ることにした。

元々の設計図でウェインに好きなようにやらせてみる。

リゼッタは不満気にしながらもウェインの作業を見守った。

ウェインもバツが悪そうにしながらも銀の剣を削っていく。

そうして見ていると、ウェインの作業が想像していたのと大きく違うことにリゼッタは気づいた。

(あ、分かったかも)

ウェインが一度の作業で行う切削は思いの外大削りだった。

これだけ削るとなると、確かに現行の設計図のように形を整えるのは厳しいように思えた。

やがてウェインの作業が終了する。

「ほらな。こうやって削っていくと結局この形に……っておい」

ウェインがいい終えるのも待たず、リゼッタは部屋を飛び出していた。

その後、リゼッタは設計図を書き直してウェインの下に持ってくる。

その設計図を見たウェインはハッとした。

設計図を見ただけで、完成した剣の姿が浮かび上がってくる。

(ここまでくっきりイメージできたのは初めてだ。これが『統合設計』の真価……)

実際に作業してみたところ、ピッタリその通りの設計図が出来上がる。

【リゼッタ・ローネのユニークスキル】

『統合設計』:A(↑1)

(リゼッタは壁を越えれたようだな。これで銀製の毒剣も作れる)

『精霊の工廠』がリゼッタとウェインの問題をクリアしている頃、『竜の熾火』でも逆転を賭けて『白狼』用に装備が作られていた。

Bクラス以下の冒険者しかいない『白狼』で、どのようにしてSクラス冒険者ジル・アーウィン率いる『精霊同盟』に対抗するか。

(しのごの迷ってても仕方ねぇ。もう後がねえんだ。どれだけ勝ち目が薄くても可能な限り、ジャミル達の装備を強化するしかない!)

久しく自分より強い敵と戦ったことのないラウルだったが、それでも必死に知恵を絞り出してどうにか案を思い付く。

(これだ。これしかない!)

ラウルの案は以下のようなものだった。

『 竜頭の籠手(ドラグーン) 』の強化は頭打ちになっている。

そこで『魔法細工』は捨て、彼の残りのスキル『銀細工』Aを活かし、銀製の 短剣(ダガー) 、及び長剣、鎧、弓矢を作り、『製品設計』Aによって適合率を限界まで上げる。

ラウルはこの案をギルド長であるエドガーに提出した。

「うーん。却下」

「は?」

エドガーの言葉にラウルは思わず間の抜けた返事をしてしまう。

「だから却下だって。やり直してこい」

「なっ、待てよ。この案の一体どこに問題があるんだよ」

「問題? ったく、しょうがねぇなぁ」

エドガーは面倒くさそうにラウルに向き直る。

さも、いちいち説明しなけりゃわかんないかね、とでも言いたげに。

「ここ。この『適合率を可能な限り上げる』。なんだよこの項目は?」

エドガーはトントンとペンで紙を叩きながら言った。

「こんなことしたら、コストが嵩んでしまうだろ? こんな利益率の低い製品、ギルド長として承認できるわけねーだろ」

「なっ。予算って。そんなこと言ってる場合じゃねーだろ。今は少しでも『白狼』を強化しねーと」

「とにかく却下だ。今すぐ書き直してくるように」

「なっ、テメ」

「まあまあ」

ラウルがエドガーに掴みかかりそうになったところで、シャルルが割って入ってきた。

「今はギルドが大変な状況なんだから。ここはみんなで協力していこうよ。ねっ?」

「くっ……」

その後、シャルルが指導してラウルの案を修正していった。

しかし、それは意見を擦り合わせて協力するとか力を合わせるといった類のものではなく単なる企画の骨抜きであった。

こうしてラウルの案を無力化する一方で、エドガーは自身の案『黒弓・改』にはふんだんに予算を注ぎ込んでいた。

(よし。これで成功すれば、手柄は俺のもの。失敗すれば、ラウルに責任を押し付けられるぜ)

ギルド長としての地位が不安定になる中、エドガーとしては下手に自分より手柄を上げる者を出すわけにはいかなかった。

そのためには自分より実力のあるラウルをいざとなれば追放できるよう口実を作っておくのが先決だった。

まったくエドガーのような上司にかかれば、どんな天才部下も 形無(かたな) しである。