軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第144話 アイナの1日

『黒壁の騎士』が『竜の熾火』との契約を解消している頃。

『精霊の工廠』のリゼッタの下には、『翼竜の灯火』の 槍使い(ランサー) 、アイク・ベルフォードが訪れていた。

「アイク。どうしてここに?」

「水臭いですよリゼッタ。『精霊の工廠』に移籍したのなら、なぜ我々に知らせてくれないんです?」

「でも、あなたのギルドはまだ『竜の熾火』との契約期間が……」

「私はあなたの作る 火槍(ジャベリン) に惚れ込んで『竜の熾火』と契約していたのです。あなたがいなくなった以上、『竜の熾火』と契約し続ける意味などありません」

「アイク……」

「我々『翼竜の灯火』は『精霊同盟』に加入します。S級鑑定士と共に作った最高の逸品を我々に見せてください」

ウェインはイライラしながら『精霊の工廠』に出勤していた。

(くっそー。あのガキども。夜遅くまで隣の部屋でバカ騒ぎしやがって)

ウェインの隣の部屋は若者の溜まり場となっており、そのバカ騒ぎはしばしば夜遅くまで続いた。

しかもなぜかウェインの寝室と接する側の壁を何度もドンドン叩いたり蹴ったりしてきて、ウェインとは何度も揉めていた。

にも関わらず彼らは態度を改めることなく、昨夜も怒鳴り込んだウェインと深夜近くまで口論をすることになった。

おかげでウェインは寝不足だった。

(あー。ムシャクシャするぜ)

「おはようウェイン」

ウェインは声をかけられて振り向いた。

「あ、アイナか」

「どうしたの? そんな不貞腐れた顔して」

「それがよー。昨日、隣の奴が夜中まで騒いでてよぉ」

「また? ほんの数日前もそんなこと言ってたじゃない」

「あいつら、全然反省しねぇんだよ」

「もう引っ越したら? 寝不足になって仕事に差し支えるでしょ?」

「引っ越しかぁ。まじで考えてみっかな」

その後もアイナはウェインの愚痴を聞き続け、雑談を交えてウェインをリラックスさせていった。

ウェインもだんだん顔からイライラが消えて、スッキリしていった。

工房(アトリエ) に辿り着く頃には、すっかり調子を取り戻していた。

「それじゃ、今日もしっかり頼むわよ。今日からは『黒壁の騎士』の装備も担当するんだから。あなたにもしっかり働いてもらうわよ」

「おう。任せとけ」

ウェインはキビキビとした足取りで 工房(アトリエ) の中に入っていく。

(まったく。世話が焼けるんだから)

アイナはウェインの背中を見ながらため息をつく。

ウェインが 工房(アトリエ) に悪影響を与えないよう注意を払うのは、彼女の最優先事項だった。

気分の上下が激しくムラが大きい一方で、周囲の空気を変える影響力があるため、こうして朝イチで声をかけて嫌な空気を振り撒かないよう毒気を抜いておくのだ。

(さて、ウェインの『調整』も終わったし、私は『黒壁の騎士』受け入れの準備しなきゃ)

『精霊の工廠』の第一の使命は、冒険者の探索をサポートすること。

とはいえ、利益を出さなければやっていけない。

クオリティを追求するとしても、利益もきっちり出るようにコストと納期も厳密に計算しなければ。

もうすでに『黒壁の騎士』隊員のスキル・ステータスデータはロランから預かっており、把握している。

そこから推定される装備の予算とコストも出ている。

あとはきちんと 工房(アトリエ) を計画通り動かして、可能な限りコストを圧縮するだけだった。

アイナが作業室に入ると、すでに各々が作業を開始していた。

ウェインは熱心に魔石を削っていたし、パトは物静かに考え事をし、リーナは鼻歌混じりに鉱石を窯にくべていた。

(うん。いい感じ。みんな集中している)

とりあえずAクラス錬金術師達は全員調子が良さそうだった。

これなら新規の受注が入っても十分対処可能だろう。

やがて『黒壁の騎士』が装備を預けに来たが、アイナ達は滞りなく装備を受け入れる。

「アイナさん」

アイナが『 外装強化(コーティング) 』作業をしていると、リゼッタが話しかけてきた。

「ん? どうしたの?」

手を止めて、リゼッタの方を向く。

「実は今朝、『翼竜の灯火』から装備を作って欲しいという注文が来ました。引き受けてもよろしいでしょうか?」

「ふむ」

アイナはリゼッタから渡された注文書に目を通した。

リゼッタはアイナの一挙手一投足も見逃すまいと注視した。

(予定外の注文。アイナさんの上司としての実力を図るまたとない機会ですわ)

アイナは頭の中でこの依頼に必要な鉱石と予算、納期を概算で弾き出す。

「ふむ。まあ、これなら予算以内に収められそうね。納期の面でも問題なさそう」

(私が一時間ほどかけて行った計算を一瞬で……)

「『精霊同盟』とS級鑑定士のことは説明してる?」

「はい。彼らは『精霊同盟』の傘下に入り、S級鑑定士の鑑定も受け入れると申しております」

「いいでしょう。リゼッタ、この依頼あなたに任せます。いいわね?」

「はい」

「ロランさんの鑑定作業を踏まえて、3日以内にできる?」

「!? 流石に5日はかかるのでは?」

「あなた一人でやればね。でも、Bクラス以下の装備については夜勤組でも問題ないでしょ? 夜勤組はちょうど手が空いてるし、仕事を振ればいいわ。あなたには銀細工に集中して欲しいし」

(むむ。さすがにロランさんから 工房(アトリエ) の管理を一手に任されるだけのことはありますね。まさかここまで腕を上げているとは……)

「分かりました。そのようにします」

アイナの方でも、すぐに意図が伝わるリゼッタに感心していた。

(リゼッタ。流石にカルテットをやっていただけあって優秀ね。手間がかからなくて助かるわ)

「アイナさん」

今度はリーナがやってきた。

「ん? どうしたの?」

「鉄Aが足りなくて……」

リーナによると『翼竜の灯火』の注文が新規で来たために鉄が足りなくなったということだった。

「そんなはずないでしょう? 鉄は十分在庫があったはず」

「その、ロランさんからの指示で。Sクラス重装騎士が来るのに備えて、鉄Aを取っておくようにとの指示が……」

「ああ、なるほど」

「新しい鉄が入ってくるまで時間がかかりそうですし、このままでは『黒壁の騎士』様への納品が遅れてしまいます」

「分かった。それじゃ、銀で代用しましょう。余っている銀を精錬しておいてもらえる?」

「いいんですか? 銀だとコストが嵩むことになりますが……」

「そこはウェインの『 魔石切削(カッティング) 』で何とかしましょう」

「分かりました」

アイナがウェインとロディに相談したところ、銀を使ってもどうにか予算以内に収められそうだった。

ウェインの『 魔石切削(カッティング) 』を取り入れて設計図を描き直した上、リゼッタに回す。

アイナはこれらの作業を終えて、一旦休憩に向かおうとした。

通路を通っていると、製品を運んでいるアイズに出くわした。

「アイナさん。これ、ケインの作った剣10本完成したのですが、どこに置いておきますか?」

「ああ。それなら明日出荷だから、出荷場に置いといて」

「分かりました」

アイズは出荷場へと台車を押していく。

そこでアイナははたと足を止める。

(ん? 新人のケインに頼んでいた剣10本がもう終わってる?)

アイナは違和感に気づいた。

(おかしい。ケインのスキル『金属成形』はまだCクラス。剣10本作るには最低6時間はかかるはず。それがもう終わってるということは……)

「アイズ。ちょっとケインを呼んできて」

アイナはやってきたケインを前にして、出来立ての剣をハンマーで叩く。

すると剣はあっさりと割れてしまう。

ケインの顔は真っ青になった。

「ケイン、これはどういうこと?」

「う、そ、それは……」

「鉄はきっちり練り込まなきゃダメって言ったでしょ?」

「す、すみません」

(危ない。危ない。もう少しで品質の低い製品を出荷してしまうところだったわ)

「ん? なんだそれ壊れてんのか?」

通りかかったウェインが尋ねる。

ロディも一緒だった。

「ケインが作ったの。鉄の練り込みを怠ったみたい」

「ったく何やってんだよ。これだから新人はよぉ」

「ウェイン、もう突っ込んでやらないぞ」

ロディが言った。

その後、アイナはケインに厳重注意を言い渡した上で、彼のミスを取り返すべく、テキパキと仕事を振り分けていった。

俊敏(アジリティ) の高いアイズに急ぎの分を作らせて、残りの分は仕事を欲しがっている夜勤に回す。

アイズの仕事はアイナがやっておいた(アイナはこの時すでに自分の分の仕事を終えていた)。

こうしてアイナの適切な差配のおかげもあり、新規の受注と思わぬトラブル、予定変更があったにもかかわらず、今日も『精霊の工廠』職員達は定時で帰れるのであった。

アイナはロランに本日の業務報告をしにいく。

ロランはアイナの仕事ぶりにいたく満足した。

(素晴らしい管理能力だ。これなら 工房(アトリエ) のことも全て任せることができるな)

【アイナ・バークのスキル】

『工房管理』:A(↑1)