軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第135話 秘密協定

『精霊の工廠』の新しい 工房(アトリエ) にたどり着いたロラン達は、その建物の堂々とした 佇(たたず) まいに感嘆した。

「これが俺達の新しい拠点か」

「立派な建物だな」

「店舗も併設されてるぜ」

「俺達はどこから入ればいいんだ?」

「みんな、同盟関係者用の入り口はあっちだ。付いてきて」

ロランの案内に従って、同盟の冒険者達は 工房(アトリエ) の中へと入っていく。

大所帯でも滞りなく出入りできる大きな入り口だった。

ロラン達が専用の入り口から入ると、広い空間が待っており、アイナが出迎えてくれた。

「皆さん、お帰りなさい。装備はここでお預かりします。脇にある台車の上にお乗せ下さい」

部屋の脇を見てみると、確かに装備を乗せることができる台車が多数並んでいて、そこに 工房(アトリエ) の職員が控えている。

冒険者達が台車に装備を乗せると、職員らは速やかに台車を奥に運んで、また新たな台車を押した職員と交代した。

装備を解除することができた冒険者達は、思い思いに手足の凝りを解し始める。

「やはりいいねぇ。『精霊の工廠』のこのサービス精神は」

「ああ。かゆいところに手が届くよな」

ロランもアイナ達の仕事の手際の良さに満足した。

「おつかれアイナ」

「あっ、ロランさん。お帰りなさい」

「新しい 工房(アトリエ) 、うまく稼働できてるようだね」

「ええ、そうなんですが……」

「ロランさんっ。おかえりなさいませ」

リゼッタがアイナを突き飛ばさんばかりの勢いで割り込んできた。

「リゼッタ!? どうしてここに」

「先日、『竜の熾火』を退職して、『精霊の工廠』に移籍することにしましたの。よろしくお願いしますね。ロランさん」

「リゼッタ……、あんたって 娘(こ) は……」

「そうか。来たのか」

ロランは改めてリゼッタのことを見た。

「リゼッタ。ウチで働くというのがどういうことか、その意味は分かっているのかい? 僕達のプロジェクトは次の段階に移りつつある。つまり地元の冒険者を育てることから、『竜の熾火』を倒すことへ。『竜の熾火』との直接対決はいよいよ間近に迫っているんだ。うちで働くということは君にもそれを手伝ってもらうことになるよ?」

「望むところです。むしろ私は『竜の熾火』と戦うためにここへと来たのですから」

(私を追い出したエドガーに復讐する。そのためにもロランさんとの繋がりを確かなものにしなければ。あのアイナさんが短期間でここまで成長したのだから、私もロランさんの力を借りれば、今より向上することができるはず)

「『竜の熾火』を倒すためだったら、どんなことでもします。ですから、どうか私の錬金術を鍛え直してくださいませ」

「それを聞いて安心した。君を『精霊の工廠』に歓迎するよ」

「はい。よろしくお願いします」

「よし。それじゃ、新たなスキル習得については追って指示を出すとして、とりあえずはアイナの下で働いてくれるかな」

「うぐっ。分かりました」

「まずは台車で装備を運ぶことからね」

リゼッタはアイナの指示に従って、軽い弓矢の運搬から始める。

ウェインは台車を押してリゼッタの隣を通り過ぎてしたり顔で言った。

「ふっ。ついにカルテットの一人が来やがったか。『竜の熾火』と同じ働き方がここでも通用すると思うなよ」

「お前がそれ言うか」

ロディが同じく台車を押して隣を通りながら言った。

同日中にロランは『精霊同盟』の発足を宣言した。

『精霊同盟』は『精霊の工廠』同盟からさらに一歩踏み込んだ同盟で、それまでのギルド同士の緩やかだった連帯をより一層強固にしたものだ。

『精霊同盟』に加盟したギルドは、『精霊の工廠』から優先的に武具装備の提供を受けられる一方、特段の事情がない限り『精霊同盟』の要請に応じなければならない。

また、ダンジョン探索で得られた戦果は、各ギルドの貢献度によって公平に分配され、同盟への在籍歴が長ければ長いほど恩恵が受けられる。

『暁の盾』、『天馬の矢』、『二人の魔導師』、『鉱石の守人』、『銀鷲同盟』、『山猫』といった同盟常連のギルドはすぐ様加盟することを表明した。

それを受けて他のギルドも続々加盟する。

ロランは『精霊同盟』の第一回目の会議を新 工房(アトリエ) にて開催した。

議題は『精霊同盟』の今後の目標について。

先のダンジョン探索で、『大同盟』に2連勝したこともあって、会議の場には楽観ムードが漂っていた。

「前回の探索でもう今月分の目標は達成したようなもんだ」

「『賢者の宝冠』は思ったより大したことなかったな」

「こっちには『アースクラフト』も豊富にあるし、もう勝ったようなもんじゃないか?」

「となると、次の目標は部隊の強化か?」

「そろそろ装備をアップデートしたいよな」

「ロランによると、エリオもAクラス相当のスキルを身に付けたんだし、『不毛地帯』へ行ってもいいんじゃないか?」

「そうだな。それもありかもな」

「どうかな。僕はまだ時期尚早だと思うけれど」

会議に居合わせたほとんどの者の顔色に反して、一人だけ難しい顔をしたロランが言った。

「時期尚早だって? いつになく弱気だな」

「何か心配事でもあるのか?」

「『精霊同盟』が『不毛地帯』に行くにはまだ足りないものがある」

「足りないもの?」

「なんだよそれは」

「僕達に足りないもの。それは容赦の無さだ」

「容赦の無さ……」

「みんな『賢者の宝冠』にはすでに勝ったかのような見方をしているが、僕はそうは思わない。むしろ今が最も危険な時だ。『賢者の宝冠』との戦闘はこれ以上ないくらいに有利に進んでいる。だが、ここが問題なんだ。最後の最後で勝ち切ること。それが何より一番難しい。手負いの獅子ほど怖いものはない。『賢者の宝冠』も僕達の実力は痛いほど分かったはずだ。3回も同じ手を食うほどバカじゃない。弱者の戦いに徹して、必死の抵抗をしてくることが予想される。そんな中、今までと同じような戦い方をしていれば、足元を掬われることも十分ありうる。『賢者の宝冠』に完全に勝ち切る。そのためには弱り切った相手に対して、容赦なくトドメを刺す。そんな覚悟が必要だ」

一同静まりかえる。

(やはりこいつは普通の人間とは一味違う)

レオンは改めてロランに対して畏敬の念を抱いた。

(誰もが楽勝ムードになって気を緩ませている中、こいつだけは逆にますます緊張感を高めている。これが超一流の人間なのか)

その後、ロランの意向もあり、『賢者の宝冠』をこの島から完全に駆逐するまで痛めつけることが、『精霊同盟』の最優先目標であると定められ、会議はお開きとなった。

『精霊の工廠』に遅れること数日、『賢者の宝冠』も街へと帰還した。

彼らは今回も『白狼』にいいように翻弄され、戦果は無いにも等しかった。

流石のニールも口数を少なくして、意気消沈してしまう。

もはや資金も底を尽き、撤退するしかないかのように思われた。

が、ここで意外な勢力が援助を申し出てきた。

『竜の熾火』と『白狼』である。

彼らの望みはただ一つ。

『精霊の工廠』に打撃を与えること。

それさえしてくれるのなら、『竜の熾火』は装備代を割引するし、『白狼』の方でも『大同盟』の捕虜を身代金なしで解放した上、戦いに当たっては援護に当たろう。

こうして『賢者の宝冠』と『竜の熾火』、『白狼』の三者によって対『精霊同盟』秘密協定が結ばれるのであった。