軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第13話 貴族のお墨付き

品評会に参加した錬金術ギルドは、各々腕によりをかけて作った銀細工をブースにて披露するが、その銀の質、造形の美しさ、独創性、どれを取っても『精霊の工廠』が最も優れているのは明らかだった。

ランジュは自分のブースに集まってきた見物客の対応で大わらわだった。

「皆さん。ここにありますは何の変哲も無いただの水。ところがどっこいこうしてこの銀細工に入れると……」

ランジュが試供用の銀のゴブレットに水を入れると、透明な水はたちまち赤色に濁っていく。

その場には発酵したような香りが広がる。

見物客はざわついた。

「水が赤くなった!? 何だこれは? 一体どういう仕組みだ?」

「それよりもこの香り……、まさかブドウ酒?」

「このゴブレットは水をブドウ酒に変える精霊が宿った、世にも不思議な銀細工です。さあ皆さん、どうぞ。味見してみてください」

ランジュが差し出すと見物客達は順番にゴブレットの中身に口をつけて、回していく。

「これは! 確かにブドウ酒の味」

「しかも上質だぞ」

「信じられん。本当に精霊が宿っているのか」

そんな風に言って盛り上がるわ、なんとも芳醇な香りが漂ってくるわで、他のブースを見物していた客達もこぞって『精霊の工廠』のブースが気になり、集まってくる。

ロラン達がやってきた頃には、てんやわんやの大騒ぎで、ランジュは大変だった。

「うわ、凄いお客さんだね」

「あ、ロランさん。早くこっち手伝ってくださいよ。これ以上は俺一人じゃ無理っす」

ランジュが右手に水を入れた瓶、左手に銀細工のゴブレットを持ち、顔だけロランの方に向けて言った。

「よし。アーリエは水をくんで来て、チアルは銀細工のメンテナンスを」

「「はい」」

「このゴブレットを作ったのは君なのかね?」

とある客がランジュに聞いた。

「あ、いえ、俺じゃないっす」

「では君かね?」

次はロランが聞かれる。

「いえ、僕ではありません」

「となると……」

「まさか……」

ロランはチアルの手を取って、見物客の前に差し出した。

「皆さん。ご紹介しましょう。『精霊の工廠』の銀細工師、チアルです」

まだ年端も行かない少女の登場に見物客達はより一層ざわめく。

「何とこんな少女が……」

「しかもエルフじゃないか」

「道理で精霊が宿っているわけだ」

チアルは注目されて恥ずかしそうにしながらも、驚きと賛辞の声を一身に浴びる。

エルセン伯は『精霊の工廠』のブースに人々が集まる様子を感動しながら見ていた。

(これだ。これこそ私の求めていたものじゃないか)

弱小の錬金術ギルド。

無名だが、新進気鋭で、底知れぬ才能の持ち主。

しかもエルフ族の錬金術師。

これらの要素は、彼の物好きと未来志向を満足させた。

ルキウスは『精霊の工廠』のブースを見て呆然としていた。

(バカな。なぜこんな事が……)

「ほぉ。あの女の子。まだまだ設計は甘いですが、なかなか筋が良さそうですね。この街にあんな錬金術師がいたとは」

ドーウィンはどこか他人事のように感心して言った。

「おい、どういう事だ。なぜ奴らが銀Aを所有しているんだ」

ルキウスがドーウィンに食ってかかる。

「知りませんよそんなこと。ギルドの締め付け担当者に聞いてみてはどうですか?」

「くっ」

ルキウスの戸惑いを他所に、その後も『精霊の工廠』のブースは盛況を見せ、一人勝ち状態が続いた。

結局、チアルの作った『精霊の宿るゴブレット』が最優秀作品に選ばれる。

表彰式が行われる。

チアルは仮設ステージの上の椅子に座るエルセン伯の娘ヒルダの前に跪いて、銀細工を献上する。

ヒルダに手渡された銀細工は、試供品と一味違い、より一層輝きの増した銀細工であった。

ヒルダはゴブレットを受け取り、厳かに告げた。

「あなたに第一回エルセン領銀細工品評会、最優秀賞を与えます」

「はい。謹んでお受けいたします」

(ほんの少し前まではろくに金属に近寄れなかったというのに。銀細工師になれただけでなく、このような栄誉まで受けることができるなんて。全部ロランさんのおかげだ。ありがとうございます)

チアルの頰に一筋の涙が伝う。

ヒルダは動揺した。

「どうされましたの? 表彰されたというのに。一体何が悲しくてあなたはそんな風に涙を流しておられるのですか?」

チアルは涙を拭いながら喋り始めた。

この度、品評会で評価していただいたものの、自分の所属する『精霊の工廠』は弱小ギルド。

どれだけ良い品を作っても店に卸すことができず、一向に収入が入ってくることはない。

このままでは経営は立ち行かず破産する。

そうなれば自分もこれ以上銀細工を作ることができなくなってしまうでしょう。

何より私がここまでたどり着くためにサポートしてくれたギルドのメンバーに申し訳が立たない。

それを思うとどれだけ立派な賞が与えられようとも悲しみに暮れずにはいられないのです。

「まあ、そのような事情が」

ヒルダは傍のエルセン伯の方を振り向いた。

「お父様。お聞きになられましたか?」

「うむ。全て聞いた。そのような事情があったとは。才能ある錬金術師がそのような事情によって、活動できなくなるのは由々しき事態。即刻、エルセン家の名にかけて『精霊の工廠』を保護しよう。『精霊の工廠』に我がエルセン家のお墨付きを与える。今後、どのような活動を行うに当たっても我が家の家紋と名前を利用することを許可する」

会場に歓声が上がった。

チアルに祝福の拍手が捧げられる。

チアルはロランの方を向いてペロッと舌を出した。

ロランはチアルの世渡り上手に半ば感心、半ば呆れながら苦笑した。

(チアルの奴。ウソではないけれど、いい加減なことを言って。エルセン伯に気づかれなかったからよかったものの)

会場が拍手に包まれる中、空に一つ、黒い飛来物が現れた。

箒に跨り空を飛ぶリリアンヌだった。

「どうやら表彰式、間に合ったようですね」

「リリアンヌさん。来てくれたんですか?」

ロランが嬉しそうに言った。

「ええ、もちろんです」

リリアンヌがウィンクして見せる。

ロランはリリアンヌの手を取って着地を手助けした。

「リリアンヌ……というと『魔法樹の守人』のAクラス冒険者の?」

エルセン伯が意外な闖入者に驚く。

「ええ、彼女は我々のギルドの出資者です。なんの実績もない僕らのために草創の時期からギルドを援助してくださっている方ですよ」

「チアルさん表彰おめでとうございます。私も出資者として誇りに思いますよ」

「ありがとうございます」

「では、どうですかな。リリアンヌさん」

エルセン伯がリリアンヌの方に近づいて話しかける。

「この後、チアルさん及び『精霊の工廠』のメンバーを晩餐にお誘いする予定です。出資者のあなたもご一緒されては?」

「あら、構いませんの? ではお言葉に甘えて」

ルキウスはリリアンヌを見てようやく合点がいったという顔をしていた。

(リリアンヌだと? ロランと『魔法樹の守人』が繋がっていた? そうか。そういうことだったのか。これで合点がいったぞ。どうやって銀Aをこしらえたのかと思ったが、『魔法樹の守人』の資金援助によって、精錬師を育てたのか。そして『アースクラフト』を『魔法樹の守人』に供給していたのもお前というわけか。ロラン!)

ルキウスはロランを睨む。

(ただの弱小ギルドとして細々とやっているだけかと思ったが、こうなった以上見逃しておくわけにはいかない。『金色の鷹』の総力を上げて、潰させてもらうぞ。ロラン!)