軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第114話 守るために

(ロランは指揮能力に優れているだけじゃない。奴は育成に特化した鑑定士。『スキル鑑定』S、『ステータス鑑定』A、『アイテム鑑定』A、『育成』A。このスキル構成なら理論上、いくらでもユニークスキル持ちやAクラス冒険者を発掘し、育てることができる。いや、すでにそうなりつつある。やはり俺の勘は正しかった。『精霊の工廠』同盟はここで叩いておかなければ。さもなくばいずれさらなる脅威となって『白狼』の前に立ちはだかるだろう)

しかし、そんなジャミルの決意とは裏腹に『白狼』は同盟を捕まえることができず、ついに裾野の森付近の高原までたどり着いてしまう。

好機と見たロランは程よいところまで『白狼』を誘い込むと、反転して布陣した。

「いいか。街まであと少し。これが最後の戦いだ。ここで敵に一撃を与え、追撃する能力を奪い、勝負を決めるぞ」

ロランはそう言って全員の士気を鼓舞すると、各員の配置を指示した。

「エリオ。君はとにかく『盾突撃』で敵の戦列を崩すこと。突入場所及び、タイミングは君に任せる」

「分かった」

「ジェフ。『弓射撃』で敵の前衛を削った後『 火竜(ファフニール) 』が来ないようなら、セシルと一緒に退却戦の準備」

「おお」

「レオン。君はエリオの後ろについて、指揮をとってくれ。エリオの『盾突撃』を支援して守りつつ、戦果を拡大すること。戦況によっては君も斬り込んでいい」

「分かったぜ」

「セシル。君もエリオを支援だが、森での退却戦に備えて『罠設置』するだけの 体力(スタミナ) は残しておくこと」

「はい!」

ロランはエリオが前回のように後ろに気を取られないよう、右翼の背後に厚みを作っておくのも忘れなかった。

(右翼はこれでいい。問題は 斧槍(ハルバード) の男とスピアの男が攻めてくるであろう左翼の方だな)

カルラはロランが指示を出しているのを後ろから見ていた。

(あの総崩れの状態からまさかここまで持ち直すとは。やはりこいつは危険だ。今、ここで消しておかなければ)

カルラはロランの背中に忍び寄りながら剣の柄に手をかける。

(やるなら今だ。ロランがこちらに背中を向けている今なら。今の私には『回天剣舞』がある。例え、 青鎧(リフレクト・アーマー) を纏っていようとも同士討ちくらいには……)

「カルラ!」

「!!」

ロランが振り向いたので、カルラは慌てて剣の柄にかけていた手を離した。

「今回はエリオの後ろではなく、僕の後ろについてくれ」

「……お前の?」

「ああ、エリオは優秀な盾使いでかつ突撃要員だが、戦術眼は微妙だ。敵の陽動に対処しきれない。勝負所で確実に君を投入するためにも、君は僕の後ろについていてくれ」

「……」

「敵で気を付けなければいけないのは、 斧槍(ハルバード) とスピアの使い手だけだ。彼らが出てきた時、僕と一緒に行くよ。いいね?」

「なんで……、なんでお前は……」

「えっ?」

「……っ」

カルラはその後の言葉を続けることなく、踵を返した。

同盟の足を止めようと先を急いでいた『白狼』は、高原で待ち構えているロラン達を見ると、慌てて自分達も戦闘態勢を整える。

(しまった。誘い込まれたか)

ジャミルはすぐに自分がまんまとロランの注文にはまってしまったことを悟った。

(くっ。さっきまで逃げの一手だったのに、まさかここで仕掛けてくるとは)

同盟は 弓使い(アーチャー) を前に並べて、後ろには 戦士(ウォーリアー) を控えさせている。

準備万端でこちらを待ち構えているといったところか。

一方で、ジャミルの方はザインの合流が遅れており、万全の態勢とは言いがたかった。

それでもここで戦いを仕掛けなければ逃げられてしまう。

裾野の森に入れば、もう街まで1日とかからなかった。

(同盟の中核はまだ健在。ロランが二度と立ち上がれないよう、ここはなんとしてでも同盟を叩いておかなければ)

ジャミルは攻撃を仕掛けるよう命じた。

両軍が激突する。

盾を構えて突っ込んでくる『白狼』側の 戦士(ウォリーアー) に、同盟側の 弓使い(アーチャー) は『弓射撃』を浴びせる。

白兵戦に移るところで、エリオが『盾突撃』して、敵の戦列を崩した。

そこにレオン達が加勢して、こじ開けていく。

ジャミルは劣勢になっていく自軍を辛抱強く見守った。

やがて『盾突撃』の勢いが弱まり、攻撃のチャンスがやって来ると 斧槍(ハルバード) の男とスピアの男を投入する。

(来た! 二人の槍使い!)

ロランは二人の槍使いの現れた場所に素早く移動した。

後ろにはカルラがついて来ている。

【カルラ・グラツィアのスキル】

『剣技』:B→A

『影打ち』:B→A

(おっと。『影打ち』の使い手か)

『スキル鑑定』Aで『影打ち』を察知したギルバートは、迂闊に敵へと近づかず距離を取った。

「何をしているギル! さっさと仕掛けんか」

セバスタが後ろから急かした。

「ダンナ。気を付けろ。盾持ちの後ろに控えている 盗賊(シーフ) 、あいつは『影打ち』を使って来るぜ」

「む、そうなのか?」

セバスタも距離を取る。

ロランは敵と接触するべく距離を詰めた。

しかし、セバスタはさらに後ろに下がる。

(今だ。カルラ!)

ロランが屈んで合図を出すと、カルラはロランの肩を飛び越えスイッチし、前に飛び出した。

目にも留まらぬ速さでセバスタの懐に詰め寄る。

(へっ。スイッチしてきたか。だが、こいつのスキルは『剣技』Bのみ。セバスタの旦那なら、難無くいなして、反撃に……)

「はああっ」

カルラは『回天剣舞』を放った。

カルラの間合いと攻撃力は一時的に跳ね上がり、周囲一帯に斬撃を浴びせる。

(なにっ!?)

セバスタの槍と鎧はズタズタに引き裂かれ、近くにいたギルバートの 得物(えもの) も弾き飛ばされる。

(これはただの『剣技』じゃない。まさか、ユニークスキル!? 『スキル鑑定』Aでは見出せないスキルを持っていやがったか)

【カルラ・グラツィアのユニークスキル】

『回天剣舞』:B(↑1)

(『回天剣舞』がBになった。この土壇場で広範囲に斬撃を浴びせる『回天剣舞』の真価を発揮したか)

「くそっ。計算外だぜ。仕切り直しだ」

ギルバートは斬撃を受けて、 深傷(ふかで) を負ったセバスタを背負い、退却した。

戦いはそのまま同盟側が優位に進め、『白狼』を敗走させる。

ロラン達は深追いせず、この日のうちに街へと帰還すべく裾野の森へと侵入した。

ジャミルは部隊の再編を急いでいた。

かつてないほどの速さで進めていたが、それでもロランを追撃するには到底間に合いそうもない。

そこへザインが弓隊を引き連れてやってきた。

「すまん。遅れた。ジャミル、同盟の奴らは?」

「ザイン、奴を、ロランを追えっ」

「なに?」

「奴は、ロランだけは、必ずここで仕留めるんだ!」

ロラン達は森の中を走っていた。

先の戦闘で部隊は消耗しており、行軍は遅々として進まないが、森の奥深くまで進めば敵の索敵を撒くことができる。

(よし。いける。このままいけば街まで逃げ切ることが……)

「ロラン敵だ!」

背後を索敵していたジェフが言った。

「なにっ!?」

「『 竜頭の籠手(ドラグーン) 』を持ってる奴がいる」

(くっ、『白狼』の奴ら。最後まで苦しめてくれる)

地を揺らす砲撃音が森にこだました。

消耗した部隊に動揺が走る。

敵はもうすぐそこまで来ていた。

前にいるエリオとレオンを呼び戻すこともできなかった。

彼らには前方に現れるモンスターに対処するという役目がある。

「どうする? ロラン」

「消耗していない 戦士(ウォーリアー) を後ろに! 『 青鎧(リフレクト・アーマー) 』なら、『 竜頭の籠手(ドラグーン) 』の砲撃にも数発は耐えられるはずだ!」

しかし、殿を務めている者達は皆、『 竜頭の籠手(ドラグーン) 』を恐れて我先に前へと進もうとする。

まだ装備に余裕がある者も自分達の利益を優先して、背後に下がろうとしない。

このままでは消耗の激しい者が砲撃を受けて 恐慌(パニック) に陥る恐れがあった。

(くっ、こうなったら……)

ロランは自ら最後尾に移って砲撃を受けることにした。

ザインはロランの姿を捉える。

「ふっ、わざわざ目標の方からこちらの前に来てくれるとはな。ありがたいかぎりだぜ」

ザインは『 竜頭の籠手(ドラグーン) 』を放つ。

ロランは砲撃をモロに受けた。

「ぐああっ」

「ロランッ」

「来るな!」

ロランは駆け寄ってこようとするジェフを制止して、よろめきながらも走り続ける。

「僕は大丈夫」

(こいつ、なんで……)

カルラは最後尾近くでロランのことを見ながら走っていた。

「みんなで街まで帰るんだ。絶対に!」

(なんで、ここまでできるんだよ)

カルラは目をギュッとつぶった。

(もう十分だろ。お前はもう十分このどうしようもない奴らのために働いただろ)

「守るんだ! 絶対に!」

(ようやく島民の意識も変わって、部隊を編成できるまでに成長したんだ。『精霊の工廠』も信頼を得て地元に根を下ろしつつある)

「ようやく灯ったこの火絶やさせはしない!」

カルラはますます目を固く 瞑(つむ) る。

(お前も島の外から来た奴なんだろ? この島の事情なんてお前には関係ないはずだ。切り捨てればいいだろ。これまでやって来た外の奴らと同じように……)

「目を開けろ。カルラ」

パトが言った。

「パト?」

「目を背けずによく見るんだ。この島の現実とS級鑑定士の姿を」

「……ロランを?」

「そう、ロランさんの戦う姿を、その目にしっかりと焼き付けておくんだ。何かを守るために戦うっていうのは、ああいうことだ!」

もう何度目かになる『 竜頭の籠手(ドラグーン) 』の砲撃がロランを襲う。

ロランのまとう鎧は粉々に砕け散った。

「がはっ」

ロランはその場にくず折れる。

しかし、ザインの砲撃もそこまでだった。

魔力切れである。

「ヤロォ。よくもロランを」

ロランが倒れるのを見て、たまらずジェフが反撃に出た。

無茶苦茶に矢を射ちまくる。

砲撃音を聞いて、レオンもやってきた。

「くっ、ここまでか。撤退だ」

ザインの部隊は引き下がっていく。

「ロラン。立てるか?」

レオンが肩を貸しながらロランを助け起こした。

「う。敵は……、部隊はどうなってる?」

「敵は引き返した。部隊は無事だ」

「そうか。……街まで……、あと少し……、止まらずに行軍を……」

「もういい。もうしゃべるな。お前はよくやった。あとは俺達に任せろ」

レオンはロランに肩を貸しながら先に進む。

ウェインは俯きながら森の中を進んでいた。

周りの冒険者達は一様に暗い顔をしている。

(くそっ。俺のせいだってのかよ。けど、ロランだって……)

そうしていると、後ろから騒めきが聞こえてきた。

鎧を破壊されてグッタリとしたロランが、レオンに肩を預けながら、かろうじて歩いている。

(ロラン!? まさか……負傷したのか?)

ウェインは呆然とする。

「騒ぐな。ロランの怪我は大したことねぇ。そのまま進み続けろ!」

レオンがそう言って動揺をおさめる。

ウェインはそれを聞いて、かぶりを振った。

(んだよ、脅かしやがって)

ロランは意識を朦朧とさせながら、傍を走る 戦士(ウォーリアー) が悪態を吐くのを聞いた。

「くそっ」

「なんだ? どうした?」

「この鎧ダメだ。使いもんにならなねぇ」

その 戦士(ウォーリアー) は鎧を脱ぎ捨てた。

【鎧のステータス】

耐久:2(↓28)

(粗悪な装備。まだ残っていたのか)

ウェインは『精霊の工廠』の紋様が入った鎧が地面に打ち捨てられるのを見て、立ち止まった。

(俺の……、俺の作った装備が……)

「何してる。足を止めるな」

側にいる冒険者に急かされて、ウェインは再び走り出す。

「くっ」

(チクショウ。俺は……何をやっているんだ)

ロランは薄れゆく意識の中、側を走るウェインの姿を見た。

ウェインは涙を流していた。

(ウェイン……)

『精霊の工廠』同盟はボロボロになりながらもどうにかその日のうちに街へと帰還する。