軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第100話 温泉旅行

メデスは『精霊の工廠』 工房(アトリエ) 前まで来たものの、踏ん切りがつかず、いつまでも店の前をウロウロしていた。

(くそっ。なぜわしがロランの奴に頭を下げなければならないのだ。わしが一体何をやったというんだ? 悪いのはギルバートじゃないか。カルテットの奴らもロランのことを詐欺師呼ばわりして、ギルバートの詐術にまんまと騙されてたし……。特にエドガー! そもそも『精霊の工廠』対策を担当していたのはあいつじゃねーか! ドサクサに紛れてわしに全責任押し付けおって)

メデスがしばらくの間悩んでいると、やがて往来を通る人の目が多くなってきた。

いつまでも不審者のようにウロウロしているわけにもいかず、意を決して店の門をくぐるのであった。

しかし、生憎ロランは不在だった。

連日の働き詰めだったことから、長期休暇中とのことである。

(くっ、おのれ。こっちが鉱石不足で大変だというのに。よりによって休暇とは……)

その頃、ロランはというとモニカと一緒に島の東側にある温泉街を訪れていた。

火山地帯である『 火竜(ファフニール) の島』は、温泉の名所としても有名だったが、特に東側には質のいい名泉が集中しており、観光地として発展していた。

この地をロランと一緒に訪れたい、それがモニカの望みだった。

ロランは、休暇にもかかわらず仕事を手伝ってくれた彼女に報いるため、ようやく取れた自分の休暇を彼女のために使うことに決めた。

ロランと二人きりになれたモニカは、ウキウキでパンフレットを開きながら、これから行く場所について話していった。

「これから行くお店は 竜饅頭(りゅうまんじゅう) が名物で 竜茶(りゅうちゃ) と一緒に出してくれるんです。今夜泊まる予定の『竜泉の宿』では質のいい温泉に入れるだけでなく、露天風呂からは海と岸壁の絶景が見れるんですよ」

「へえ。凄いね」

ロランはモニカが観光地に詳しいのに感心した。

彼女の情報収集能力はこのような場面でも卓越していた。

「宿までの道に 龍饅頭(りゅうまんじゅう) のお店があるので、今日はそこに寄ってから宿に行こうと思います」

ロランはクスッと笑った。

「どうしたんですか?」

「いや、なんだか君の方が僕よりもずっとこの島について詳しいなと思ってさ。まだ来たばかりなのに」

「その……、ロランさんと一緒に観光したくて頑張って調べたんです」

モニカは恥ずかしそうに俯いた。

「モニカ……」

(わざわざ僕のために調べてくれたのか。いい 娘(こ) だな)

リリアンヌよりも先に出会っていれば、きっと間違いなく彼女のことが好きになっていただろう。

宿までの道すがら、

ロランとモニカは観光地の賑わいを楽しみ、美食と景観を堪能した。

旅館では二人一緒に部屋付きの露天風呂に入った。

温泉は聞きしに勝る効能、眼下に広がる景色も素晴らしかった。

しかし、ロランは景色よりもついついモニカに見惚れてしまう。

モニカは湯船の 縁(ふち) に腰掛けながらウットリと景色に見惚れていた。

バスタオルに包まれたその肢体のふくよかな身体つきは隠しようもなかった。

景色と温泉、そしてモニカのバスタオル姿を心ゆくまで堪能したロランは、部屋に戻ってモニカとお酒を酌み交わした。

眠る時は別々の布団で眠った。

メデスはロランが帰ってくる日に合わせて、『精霊の工廠』の前で待っていた。

あれから彼は周囲の冷ややかな視線と苦情に耐え続ける日々だった。

カルテットからは「まだ鉱石調達できないのかよ」という無言の視線が、『霰の騎士』からは「まだ装備は製造できないのか」という苦情が寄せられていた。

メデスはあっちに頭を下げ、こっちに言い訳をして回る毎日を送り、ようやく今日という日がやってきたのだ。

(さあ、こうして何日も待たせたんだ。取引しないとは言わせんぞ)

メデスがそんなことを考えながら待っていると、ロランが向こうからやってくるのが見えた。

傍らには誰かが連れ添っている。

「あれ? メデスさん?」

メデスに気づいたロランが声をかけた。

メデスはロランとモニカを見る。

モニカのことはついつい二度見してしまう。

(くっ、こいつ、こっちが困っている時に女と遊んでおったのか)

「メデスさん、どうしたんですかこんな朝早くに」

ロランが声をかけると、メデスは目をキョロキョロと泳がせて、身震いした。

「……ッスゥー…………いえ? なんでもありませんよ?」

メデスはそう言って身を翻し、立ち去って行った。

ロランとモニカは不思議そうに見送るのであった。

メデスが『竜の熾火』に帰ってくると、すぐにリゼッタに捕まって質問責めにされた。

「あっ、ギルド長。やっと帰ってきた。『精霊の工廠』との交渉はどうなったんですか? 鉱石を調達する目処は立ったんでしょうね? ロランとは話がついたんですか?」

リゼッタがそう聞くと、メデスは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「……フゥー。話は……ついておらん!」

「ハァ!?」

メデスはそのまま奥へ引っ込もうとする。

「ちょ、ちょっと待って下さい。それじゃあ『霰の騎士』からの依頼はどうするんですか?」

「うるさい! とにかく『精霊の工廠』との取引はなしだ。誰があんな奴と取引などするもんか! ちくしょうめぇーっ!」

メデスは帽子を床に投げつけると、奥へとズンズン進んでいく。

リゼッタは唖然として、それを見送るほかなかった。