軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1話 追放の鑑定士

ここは冒険者ギルド『金色の鷹』本部。

その石造りの大きな建物の最上階、ギルド長の部屋に鑑定士ロランは呼び出されていた。

彼は今まさに追放されようとしていた。

ギルド長のルキウスは言った。

「君と別れるのは残念だが仕方がない。ギルドにも事情というものがある。君の成績でこれ以上ギルドへの在籍を許すわけにはいかない」

酷い仕打ちだった。

散々ロランのスキル『鑑定』を利用して、パーティーメンバーを集めておきながら。

このギルドの躍進の隠れた功績はロランのスキル『スキル鑑定』によるものだった。

メンバーの隠れたスキルを見出して伸ばすのが、ロランの特技だった。

かつてはこの街の中堅ギルドに過ぎなかった『金色の鷹』だったが、今となっては最上クラスの戦士、魔導師、治癒師を多数抱え、会員数100名以上を誇る一大ギルドとなった。

このギルドが躍進する度にロランは影に隠れてルキウスに花を持たせてきた。

実質、ロランの手柄になる場面でもルキウスに譲り、ロランが脚光を浴びそうな場面でもルキウスに花を持たせて、ロランが昇進する場面でもルキウスが先に昇進できるよう道を譲る。

そんなことをするものだから、ルキウスはどんどん出世していくのに、ロランはギルドにおいてずっと平会員だった。

さらに言うとロランは『鑑定士』に特化したスキル構成になったため、基礎パラメーターが異常に低くなってしまい、冒険者として最低レベルの仕事もできないほどだった。

なのに用済みになればすぐにポイ捨てだなんて。

ロランは恨みがましくルキウスの方を見た。

とはいえ人と言い争いするのが苦手な彼は、わずかに不満そうな表情を見せるだけで、咄嗟に次の言葉が出てこなかった。

ルキウスはロランが自分に反抗しそうな気配を感じ取るや否やにこやかな表情をさっと引っ込めて、厳しい顔つきになる。

「何か言いたげな顔だな。しかし実際、直近の君の成績は散々じゃないか。ディアンナ君。今月の彼の成績を言ってみたまえ」

「はい。ギルド長」

ルキウスの秘書であるディアンナがファイルを手に前に進み出てくる。

彼女はスラリとした体型の美人だったが、少し冷たい印象があった。

今もロランに対して氷のように冷たい視線を向けている。

「彼のここ1ヶ月での成績は、モンスター撃破数は団員100名中98位、取得アイテムは76位、クリアクエストは86位、となっております」

ディアンナは含み笑いを浮かべながら言った。

「だそうだ」

ルキウスはことさら威厳を示すように、組んだ手の上に顎を乗せたポーズでロランの方をジロリと睨む。

「新人ならともかく、5年以上のベテランでこの数字は有り得ないよ。僕だって昔のよしみで君をずっと擁護してきたんだ。けれどもこの惨憺たる成績ではこれ以上擁護のしようがない。これ以上君を優遇していては、厳しいノルマを課している他の団員に示しがつかないよ」

ロランはこれにも言いたいことが山ほどあった。

ルキウスは明らかにロランが失敗するよう仕向けていた。

最低クラスの間違いなく足手まといになるようなメンバーをパーティーに入れたり、明らかにクエストに不向きな職種の者をパーティーに入れたり、必要なアイテムが肝心な場面でことごとく支給されなかったり。

明白な証拠はなかったが、ルキウスがどうにかしようと思えばどうとでもなるはずのことだった。

ロランはこれについて何度も抗議してきた。

しかしその度にルキウスは例のにこやかな笑みでこう言うのであった。

「僕は昔と違って上に立つ立場なんだ。ギルド全体のことを考えなくてはならない。君のことばかり贔屓するわけにはいかないんだ」

そう言いつつも、彼は自分のお気に入りの人間にはやたら便宜を図っていたが。

ルキウスは金貨の袋を渡した。

「せめてもの餞別にやるよ。退職金だ。君のような無能には破格の待遇だろ。それを持ってとっととこのギルドから去るんだ」

ディアンナを始めとしたルキウスの取り巻きの女の子達がクスクスと笑った。

ロランは退職金を片手に逃げるようにギルド『金色の鷹』を立ち去った。

ギルドを後にしたロランは冒険者に仕事を斡旋してくれるクエスト受付へと向かった。

ギルドを追放されたとはいえいつまでも落ち込んでなんていられない。

受け取った退職金なんてあっという間になくなってしまう。

これからはソロプレイヤーになるんだから、上から仕事が勝手に降ってきたりはしない。

自分で仕事を探さなくては。

何か自分にできるクエストがないかと受付所に行くと、元同僚であるギルド『金色の鷹』の団員がいた。

ロランはギクリとしてついつい柱の影に隠れてしまう。

受付嬢の弾んだ声が聞こえる。

「あら、『金色の鷹』のジル様ではありませんか。いつもお世話になっております。ジル様に丁度いいクエストが来ていますよ」

ジルはルキウスのお気に入りの勇者の一人だった。

彼女は今をときめく新人冒険者の一人だった。

その若さにも関わらず、既に冒険者ランキングBに認定されており、将来を期待されていた。

『金色の鷹』から初のSランク冒険者が輩出されるのではないかと専らの評判だ。

本来、彼女もロランが見出した才能の一人だったはずだ。

とはいえ、彼女が頭角をあらわすや否やすぐにルキウスが取り上げてしまったのだが。

今となってはロランは彼女に声をかける事すらかなわなかった。

受付嬢は上客である彼女に対し、徹頭徹尾、最後まで懇ろな態度で接し、彼女が帰る際にはわざわざカウンターから出て来て、扉を開けて送迎までするのであった。

彼女の後ろ姿に声をかけることまで忘れない。

「またのお越しをお待ちしております」

クエスト受付所の前に佇んで談笑していた人々は彼女の姿を一目見て囁き始める。

肩に『金色の鷹』の紋章をつけて颯爽と歩く彼女は注目の的だった。

その名声に加えて、流れるような金髪、赤を基調にした鎧姿と相まり、彼女が冒険者協会の廊下を歩くだけで人々は注目し、囁き合うのであった。

ロランはクエスト受付所の扉を彼女が出てだいぶ経ってから、受付に行くのであった。

「あー、ハイハイ。鑑定士のロランさんですね」

受付嬢はロランを見るや否や開口一番盛大なため息をついて、いかにもダルそうな仕草で受け答えした。

若くて可愛いく、初々しいところもあるけれども、感情があからさまに態度に表れる女の子でもあった。

先程のジルに対する態度とはえらい違いだ。

彼女は既にロランが『金色の鷹』を追放されたことを知っていた。

ロランが『金色の鷹』に所属していた時と違ってあからさまな塩対応だった。

「あるかなー。ロランさんに向いた仕事。多分ないと思いますよ。探すの時間の無駄だと思いますけどー。それでも探します?」

「ええ、お願いします」

「はーあ。しょうがないですね。メンドくさいなぁ」

彼女はいかにも渋々といった感じでクエストリストを引っ張り出した。

「あー、残念。無いですねーロランさん向けの仕事。凄い頑張ってリストの端から端までキッチリ目を通しましたけど、一切無いです。残念でしたね。そういうわけなんで、申し訳ないんですけれど、今日の所は帰っていただけます? 私もロランさんに仕事を出したいのは山々なんですけどねー、他の人の対応もしないといけないんで。では、またのお越しを」

彼女は、無駄な手間を取らせやがって、と言わんばかりの態度で、追い払うようにロランをカウンターからどかせた。

ロランが扉をくぐって出て行こうとすると、また再び、受付嬢の弾んだ声が聞こえて来た。

「え? スキル鑑定のお仕事ですかぁ? あります、あります。やっていただきたいクエストが山ほどあるんですよぉ」