軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百十七話 お見送り

「ええと、本当にそれで大丈夫です?」

「ん? 美味いぞ」

「ええ。さすがだわね」

ヨルゲンさんとアデラさんが平気な顔でボリューミーな焼き肉サンドにかぶりついている。

昨日のことがあったからか、朝食を買いつつ早めに集合場所の門へと向かうというヨルゲンさんとアデラさんが、わざわざ家に昨日の礼だと寄ってくれたのだ。

ちなみにエルランドさんは、家で待機。というか未だ結界の中で、この後すぐ回収して門に向かうとのこと。

ヨルゲンさんもアデラさんも昨日の件については恐縮しきりで「昨日は使いっぱしりみたいなことさせて申し訳なかった」と謝ってきて、昨日の詫びだとトリュフみたいな見た目の茸をくれた。

この茸はトリュフと同じく土の中に生えていて見つけることが相当困難なため大変貴重なものらしく、ハイエルフの間では 土中茸(そのまんまだな) と呼ばれていて、この茸を煎じたお茶を飲むと子どもができ難いハイエルフもかなりの確率で子を授かることができるのだそうだ。

そのためハイエルフの中でも珍重されているのだという。

「確か人の間でも貴重な精力剤という認識だったはずだ。売れば相当になるはず。もちろん自分で使ってもいいんだぞ」

そう言ってニヤリと笑うヨルゲンさん。

そんな相手いないわっ。

見てれば分かるでしょうよ。

引き攣った顔で「ど、どうも」と言いつつアイテムボックスへポイッ。

こんなんもらっても相手がいない俺には宝の持ち腐れだっての。

そんなやり取り後、どうせ俺たちも見送りに行く予定(最後の見納めっていうんじゃないけど、連行されるエルランドさんを確認したいと、ゴン爺とドラちゃんも行く予定で、そんならフェルとスイも付いていくって話になっている)だし「どうせなら一緒に朝飯食ってから門へ向かいませんか?」とお誘いして、今というわけだ。

ちなみに今日の朝飯は超簡単焼き肉サンド。

ダンジョン牛の薄切りをいつもの定番の焼き肉のタレで炒めものを、軽くトーストしたテレーザ特製の田舎パンにマヨと焼き肉のタレを混ぜたソースを塗り塗りしてアルバン印のレタスをのっけたところにドド~ンと焼肉をたっぷり載せてさらにマヨをかけて挟んだものだ。

当然これはフェルたち用のボリューム満点な朝飯だ。

さすがに朝からこれは俺には重過ぎるので、俺のは同じサンドでも、アルバン印のレタスとニンジンの千切りをたっぷり載せて目玉焼きをのっけて塩胡椒してマヨをかけてサンドした野菜たっぷりベジサンド。

ヨルゲンさんとアデラさんにどっちがいいか聞いたら、お二人とも当然のように焼き肉サンドを選んで朝食となった。

この焼き肉サンド、フェルたち用だからかなりボリューミーに作ってあるのでとりあえず一つずつヨルゲンさんとアデラさんに渡したのだが……。

お二人とも朝から見事な食いっぷり。

あっという間にペロリと平らげて、まだ足りなそうな感じ。

「も、もう一ついかがです?」

「「是非」」

追加で焼き肉サンドをだしてやると、再び美味そうにパクついている。

お二人ともシュッとしてスレンダーなのに、よく食うなぁ。

しかもこんな高カロリーでボリューミーなものを。

『我もおかわりだ』

『儂もじゃな』

『俺も!』

『スイも~!』

フェルたちもかよ。

お前らには十個くらい山積みして出してやったんだけどなぁ。

今日も朝から食欲旺盛なようで。

ま、そんなこんなで朝飯を終えて、お茶を飲みつつ食休み。

「あ、そうだ。これ、少しですが餞別にどうぞ」

ローストドラゴンをドンと机の上に置いた。

「こ、この匂いは!」

「グリーンドラゴンを焼いたものです。薄く切ってこのソースをかけて食ってください。さっきの朝飯みたいにパンに挟んでも美味いですよ」

「わわっ、ありがと~。ムコーダの料理がもう食べられないことだけが心残りだったのよ~」

「ああ、それだけがな。これは最高の餞別だ。ありがとう」

ヨルゲンさんもアデラさんも感激し切り。

お二人の嬉しそうな顔を見たら、作った甲斐があるというものだ。

「それとこちらも。ちょっとした菓子なのですが」

バスケットに入ったパウンドケーキセットが三つ。

「一つはお二人に。残り二つはモイラ様とウゴールさんへのお土産なので、アデラさんのアイテムボックスに入れていただいてドランに戻ったときにでもお渡しいただければ」

この後は王都に向かって、その後にドランってなるようだからね。

時間経過の遅いアデラさんのアイテムボックスで保管してもらえれば。

「わぁ~、お菓子まで! 嬉しいわ~」

菓子と聞いて目を輝かせるアデラさん。

どこの世界でもどんな人種でも女性が甘いもの好きなのは不変だね。

「あ、この中のこれは酒を使っている菓子なのでヨルゲンさんも楽しめると思いますよ」

「お、そうか? 酒を使った菓子とは初めて聞くな。楽しみだ」

作った時にちょっとした事故はあったけど、ラム酒をたっぷり染み込ませた大人な味わいになっていて俺としてもけっこう自信作だから楽しんでもらえると嬉しいな。

「お、もうそろそろ向かうか」

「そうね。エルランドを連れてこなくちゃ……」

「それじゃあ俺たちはこの家の前で待ってますね」

俺、フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイ、みんなで母屋の前で待っていると……。

「ちょっ、ヨルゲン爺! こんなグルグル巻きに縛るのはやり過ぎでしょ! というか、どこに連れて行こうっていうんです?! いつもの冒険者ギルドじゃないみたいですけどっ」

「いいから黙ってついて来い」

「ちょちょっ、引っ張らないで下さいよ~!」

「ハァ~。どこに行くかって、王都よ、王都。分かったら静かになさい、エルランド」

「はっ?! アデラ婆、王都って、なぜにまた王都くんだりまで行かねばらならないのですかっ。この街に来た最大の目的であるゴン爺様とドラちゃんにまだお会いしてないのですよ!」

「馬鹿者! それだ、それ! ドラゴンが好きというのは否定しないがなぁ、人様に迷惑をかけちゃいかんだろが!」

「め、迷惑などっ」

「かけてないって言えるの~?」

「あれだけ懇々と話して聞かせたのに迷惑をかけていないなんて断言するなら、お前は本当に人でなしのクズになってしまうぞ」

「うぐっ…………。ヨルゲン爺、アデラ婆……」

ヨルゲンさん、アデラさん、エルランドさんの姿が見えた。

話も聞こえてきたけど、言葉に詰まるってことは、エルランドさんはようやくだけど、少しずつ自分の行動が人様に迷惑をかけてるってこと理解してきたみたいだね。

ただ、まだまだドラゴン愛が勝ってというか溢れていてどうにもそっちの方に気持ちが傾いてしまうようだけど。

って、あ、エルランドさんがこっち見た。

「ゴン爺様っ、ドラちゃんっ!!」

目をギラギラさせてこちらに飛び出したエルランドさん。

だが、ビィィィンッと縄に引っ張られて尻もちをつく。

「うわぁっ」

「行かせるか、馬鹿者っ」

エルランドさんを拘束する手綱をしっかりと握ったヨルゲンさんがそう言った。

アデラさんも頭を振って呆れている。

ゴン爺もドラちゃんも、エルランドさんの執念にも似たドラゴン愛に顔を引き攣らせているよ。

「だいたいな、ドラゴンたちはお前のことを嫌がっていると言っただろうが」

ヨルゲンさんの言葉に大きく何度も頷くゴン爺とドラちゃん。

「そ、そんな、嘘です!」

信じたくない気持ちは分かるよ。

分かるけどねぇ……。

『いや、はっきり言って迷惑じゃ。お主、しつこいしのう。血をくれだの、唾液をくれだの、気持ち悪すぎてドラゴンブレスで消毒してやろうかと思ったわい』

声にしてきっぱりはっきりそう言うゴン爺。

おぉ、はっきり言うなぁ。

言い過ぎとも思わなくはないけど、このくらいはっきり言った方が伝わるか。

『そうそう。お前、とにかくしつこいんだって! やたらと触ろうとするしよう』

顔を盛大に顰めて、ドラちゃんもそう続く。

まぁ、ドラちゃんは念話だから言葉は伝わっていないだろうけど、その盛大に顰めた顔で嫌がっているのは十分伝わっているだろう。

「お前、死ななくて良かったな」

ポカンと立ち尽くすエルランドさんの右肩をポンポン叩いてそう言うヨルゲンさん。

「命拾いしたわね。本当なら骨も残らなかったわよ」

同じくエルランドさんの左肩を叩いてそう言うアデラさん。

「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

膝からガックリと崩れ落ちるエルランドさん。

って、今の今まで気付かなかったんかよ、あんた…………。

「うるさいな。アデラ、結界だ」

「そうね」

ヨルゲンさんとアデラさんがエルランドさんを結界で覆う。

「それじゃあ行くか」

ヨルゲンさんがエルランドさんを立たせて引っ張りながら待ち合わせ場所の門へ向かった。

俺たち一行は、ヨルゲンさんたち一行から少し離れて後に続いた。

…………なんだか気まずい。

エルランドさんがヨルゲンさんに引っ張られながらも俺たちの方を向いて、泣きながら口をパクパクしている。

結界に覆われているから声が聞こえないのはいいけど、なんかめっちゃ気まずいというか。

フェルもゴン爺もドラちゃんも、俺と同じ気持ちなのか目を合わせないようにしている。

『ねぇねぇ、あるじー。エルフのおじちゃん泣いてるよー。悲しいことあったのかなぁ』

ス、スイちゃんには通じなかったか。

「う、あ、いや、そっと、そっとしておいてあげようね。うん」

そんな気まずさを漂わせつつ、ようやく門へ。

モイラ様とウゴールさんたち一行は、既に準備万端で待っていた。

「昨日はすまなかった。昨日のことがあったから早めに来たつもりだが、待たせてしまったようだな」

そうモイラ様たちに声を掛けるヨルゲンさん。

「いやいや、アタシたちも急かし過ぎたと反省したよ。早めの行動はアタシの習性みたいなもんさ。気にしなさんな」

「モイラ様の言うとおりです。私も待ち合わせは早めに到着していないと気が済まないたちでしてね。ですから気にしないでください」

モイラ様とウゴールさんがそう返す。

「ムコーダも来てくれたんだね。アンタには本当に迷惑をかけたね」

「本当に。何度も何度もすみませんでした」

「いえいえ、お二人が謝ることじゃありませんよ。それよりも、お二人が過労で倒れないかの方が心配になりますよ」

一番迷惑被っているのがモイラ様とウゴールさんのお二人だもんね。

「あ、少しですがお土産も用意しました。アイテムボックス持ちのアデラさんに預けてあるので後で楽しんでください。ウゴールさんは知っているかと思いますが、前にも差し上げた菓子です」

「おお、それはありがたい。妻も子どもたちも喜びますよ」

「ほ~、菓子とは楽しみだね~」

「話し中の所すまんが、もうそろそろ……」

ヨルゲンさんがエルランドさんを繋ぐ手綱を両手で引っ張りながらそう言った。

見れば、ゴン爺とドラちゃんの方へと必死に向かおうとするエルランドさんが。

ちょっ、エルランドさん、何で元気になってんです?

滝のように涙流しながらだし、めっちゃ怖いよ。

「そうさね。さっさと王都に向かおう」

「ですね」

話はまとまり、号泣のエルランドさんを馬車の荷台にポイッと載せて、ヨルゲンさんとアデラさんも搭乗する。

モイラ様とウゴールさんは前の馬車に乗った。

さすが、冒険者ギルドのお偉いさん。

しっかりした馬車二台編成。

その周りを屈強な冒険者が囲んでいる。

「それじゃあまたいつの日かお会いしましょう」

ウゴールさんがそう言うと、馬車が進んでいった。

モイラ様やヨルゲンさん、アデラさんが手を振っている。

「またいつの日か」

俺は馬車が見えなくなるまで手を振った。

『またいつの日か、か。もうアイツには会いたくないけどなぁ』

『そうじゃのう』

ま、ゴン爺とドラちゃんはそうだろうね。

ヨルゲンさんが付いてるんだから大丈夫でしょう。アデラさんもいるし。……………多分。

頼みますよ、ヨルゲンさん、アデラさん。

『さて、面倒ごとも過ぎ去った。これで心置きなく狩りに行けるな』

『おお~、気晴らしにもなって良いのう』

『賛成!』

『狩り~!』

「なに言ってんの。行かないよ。だいたいゴン爺がブルーノさんたちと約束した酒宴もまだでしょう」

『ハッ! そうじゃったわい』

「それに、神様へのお供えもしなきゃいけないし」

『なぬ?! それを早く言え。ニンリル様への捧げものが滞るなどいかん』

「それにさ、次に行きたいところは決まってるんだよな」

『行きたいところ? そんなこと言い出すなんて珍しいな』

「まぁな。でも、ドラちゃんも行ったことある場所だぞ」

『あるじー、スイは~?』

「スイも行ったことあるぞ」

「そこはなぁ…………、肉ダンジョン!」

『『『肉ダンジョン(か)!』』』

行ったことのあるフェル、ドラちゃん、スイが反応する。

『肉ダンジョンとはなんじゃ?』

この中ではゴン爺だけが知らない。

『フッフッフ、肉ダンジョンとはな、我らにとっては楽しい場所よ』

『肉獲り放題だもんなぁ』

『お肉たくさん~』

ゴン爺に向けて、フェル、ドラちゃん、スイによる肉ダンジョン講義が始まるのだった。