軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百十五話 酔っ払いスイちゃん

「さぁてと、それじゃあ俺はキッチンで作業してるからな~」

腹いっぱいなのと予定外のドラゴンが食えたのに満足したのか、既にうつらうつらとしているフェルたちにそう声をかけて、俺は昼飯後の食休みを早めに切り上げてキッチンへと向かった。

キッチンの作業台の上には既に材料が並んでいた。

常温にしておく必要があるものがあったので事前にネットスーパーで購入しておいた。

「それじゃ作っていきますか」

作るのは以前にもウゴールさんに渡して好評だったパウンドケーキだ。

これは材料がすべて ネットスーパー(異世界) ではあるけど、気になるバフ問題もそれほど強力なものではなかったから大丈夫。

あ、もちろんヨルゲンさんたちにもローストドラゴンとは別にお渡しするぞ。

何てったって甘味だから別腹だろうしね。

あ~、甘味で思い出したわ。

甘味と言ったらあの駄目駄目な女神様……。

チッ、面倒だけど要求される前に一応その分も作っておくか。

一応ね。

それでだ、今回はプレーンと紅茶のパウンドケーキと、大人向けっていうんじゃないけど、モイラ様やヨルゲンさんたちへの分もあるからラム酒をたっぷり含ませたラムレーズンのパウンドケーキも作る予定だ。

こういう酒が入ったケーキってコーヒーと相性抜群だから、実は俺も楽しみにしていたりする。

ということで、もちろんうちのおやつとしても余分に作ることは決定しているんだけど。

って、そんなことは置いておいて、作業開始。

まずは、薄力粉とベーキングパウダーをふるっておく。

そして、パウンドケーキの型にクッキングシートを敷いてと。

「まずは基本のプレーンのパウンドケーキからいくか」

常温に戻した無塩バターをボウルに入れてひたすら混ぜ混ぜ混ぜ。

白っぽくなったら砂糖を加えてふわっとなるまでまた混ぜる。

卵を少しずつ加えては混ぜてを繰り返して、途中にバニラエッセンスを少々。

あとはふるっておいた粉を加えてゴムベラでサックリ手早く混ぜていくっと。

「あ~、手が疲れたわ」

あとは用意したパウンドケーキの型に流し込んで焼いていく。

「ある意味壮観だね……」

備え付けの家のオーブンと臨時で出したアイテムボックスで持ち運びしている魔道コンロのオーブンにズラリと並ぶパウンドケーキの型。

プレーンのパウンドケーキだけでこれだよ。

「焼いている間に次の準備だね」

次は紅茶のパウンドケーキだ。

再び無塩バターをひたすら混ぜていると……。

『あるじー』

テンテンテンとスイが飛び跳ねながらやってきた。

「あ、起きたのか」

『甘い匂いがしたー』

「あ~、パウンドケーキ焼いているからなぁ」

パウンドケーキを焼く甘い香りに釣られて起きてしまったようだ。

『ケーキ~!』

「こらこら。これはお土産用だぞ。まぁ、スイたちのおやつ分もあるけどな」

『ヤッター!』

「でも、まだまだ作らなきゃならないから全部できあがるまで待っててな」

『なら、スイもお手伝いする~』

「お手伝いしてくれるのか?」

『うん!』

「ありがとなぁ。そんじゃ、これを混ぜるのやってくれるかな」

『スイ、まぜまぜするよー!』

嬉しいことにスイが手伝ってくれるという。

ということで、泡だて器で混ぜる作業をお願いする。

「お~、やっぱりスイはすごいな」

一番力のいる作業も難なくこなす。

高速グルグルで無塩バターもすぐに白っぽいクリーム状に。

そこに砂糖を加えてまた混ぜて、卵を少しずつ加えてまた混ぜて。

あとはふるっておいた粉とネットスーパーで買ったちょいお高めの紅茶を細かく砕いたものを加えてゴムベラでサックリ手早く混ぜていくっと。

その生地をパウンドケーキの型に流し込んで準備完了。

第二陣として天板に型をズラリと並べて焼いていく。

第一陣のプレーンのパウンドケーキは紅茶のパウンドケーキの準備をしている途中に焼き上がって、型から外して冷ましているところだ。

甘い香りに我慢できないのかスイの意識がそっちにばかり向かっている。

無意識なのか時々触手まで伸びているのがちょっと笑っちゃうよ。

「はいはい、スイ。もうちょっと我慢」

『はーい……』

「それじゃあまた混ぜ混ぜお願いするぞ」

『分かった~』

ということで、またまた無塩バターをクリーム状になるまで混ぜてと、さっきの紅茶のパウンドケーキと同じ作業を繰り返していく。

ふるった粉をサックリと混ぜたところで、ラムレーズンを投入して生地全体にラムレーズンが回るようにムラなくサックリ混ぜ合わせたら準備しておいたパウンドケーキの型に流し込んで……。

「よし、第三陣のラムレーズンのパウンドケーキを焼いていくぞ~」

第二陣の紅茶のパウンドケーキも焼き上がって冷ましているところだから、このラムレーズンのパウンドケーキが焼ければ完了だ。

っと、ラムレーズンのパウンドケーキの上に塗るラム酒シロップも作っとかないと。

ラム酒はお菓子作りにもおすすめだというジャマイカ産のダークラムを使う。

わざわざリカーショップタナカで買っちゃったよ。

小鍋に水とグラニュー糖を入れて火にかけて、グラニュー糖が溶けたらあら熱をとってラム酒と合わせたらラム酒シロップの完成。

第三陣のラムレーズンのパウンドケーキを焼いている間に、あら熱がとれた第一陣のプレーンのパウンドケーキと第二陣の紅茶のパウンドケーキをラップに包む。

その様子をジーッと見つめるスイ。

パウンドケーキに視線釘付け。

「味見してみるか?」

嬉しそうに小刻みに震えながら『うん!』と元気な返事が返ってきた。

「それじゃあ半分ずつね」

プレーンと紅茶を半分に切って皿に置いたらスイの前へ。

すぐさまスイの触手がプレーンのパウンドケーキに伸びる。

『美味し~い』

「良かった~。紅茶の方はどうだ?」

『こっちもイイ匂いがして美味し~い』

「はは、そっかそっか」

『甘いのは美味しいね~』

「これもお手伝いしてくれたからだぞ」

『スイまたお手伝いするー!』

「ふふ、そうか。そうしてくれると俺も嬉しいな」

そうこうしているうちに第三陣のラムレーズンのパウンドケーキが焼けた。

型から外して熱いうちにラム酒のシロップを上面と側面にたっぷりと塗っていく。

あとは、他のパウンドケーキと同じようにあら熱をとるために並べていると……。

『あるじー、これもちょうだーい』

そう言うや否や、スイがラムレーズンのケーキを透明ボディの中へ取り込んだ。

「あ! それはダメーッ!」

『あるじー?』

「ああ~、食っちゃったか……」

『ダメだったの~?』

ショボンとするスイ。

「いやな、そのケーキはお酒が入ってるんだよ」

しかもたっぷり目にラム酒シロップを染み込ませてるし……。

「スイ、おかしなところないか?」

『ん~、なんともないよ~…………。ヒィック』

あちゃ~。

『あれれ~、なんかポカポカする~』

スイの透明ボディが心なしか赤く染まっている気が。

『ウフフフフフフ。なんか楽し~!』

バインバインとヨタヨタしながらも飛び跳ねるスイ。

「ス、スイ、ここキッチンだから、静かにね」

『ウフフフフフ、らのし~ね~! あるじ~!』

い、いかん。

完全に酔っている。

『見て見て~! ボーンッ!』

「ギャーッ、こ、ここで大きくなっちゃダメーッ』

俺の言葉は聞こえていないのかキャッキャッとはしゃぐスイ。

『フェルおじちゃんたちにも見せたげるー!』

そう言ってスイがピューッとリビングへとすごい速さで向かっていく。

「ちょっ!」

急いであと追う俺。

『フェルおじちゃん、ゴン爺ちゃん、ドラちゃん、見て~! ボーンッ』

一気にリビングの大きさと同じくらいにまで大きくなるスイ。

『ぐあっ、ス、スイか?! いきなりなにをやっている!』

『ぐおっ、ス、スイ?』

『うおっ、いきなり何だ?!』

昼寝中だったフェルたちもいきなりのことで焦っている。

『エへ~へ~。見ーてー見ーてースイすごいーでしょ~』

「ス、スイッ、い、家の中で大きくなるのはやめようね。ね、ね! ほら、小さくっ」

『ええ~』

「ね、お願いだからっ」

『も~、しょ~が~ないなぁ~』

シュルシュルと小さくなっていくスイ。

『じゃあね、じゃあね~、次は~、バーンッ!』

そう言って何体もの分裂体を出すスイ。

「ワーッ、だから家の中ではダメだってばーっ!」

またもやスイがキャッキャッとはしゃぐ。

カオスだ。

『おいおい~、スイはどうしたんだ?』

顔を引き攣らせたドラちゃんがそう聞いてきた。

『フム? スイから酒の匂いがするのう』

ギロリと俺を睨むゴン爺。

『おい、スイに酒を飲ませたのか?』

目を細めながらそう聞いてくるフェル。

「違うって!」

飲ませたんじゃないよ。

「酒の入った菓子を作っていたんだよ。それをスイが食っちゃって……」

そう言うとジト目で見てくるフェル、ゴン爺、ドラちゃん。

『『『お主(主殿)のせいだな』』』

「うっ」

く、くそぅ。

反論できない。

『あるじー、見て見て~! ボーンッ!』

「ギャーッ! だから家の中で大きくならないでってばぁ~!」