軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百九十五話 グリーンドラゴンステーキ

作業台のまな板の上にドンと載った巨大な塊肉。

ほどよく脂ののった艶のある赤身肉。

解体したばっかりの 緑竜(グリーンドラゴン) の肉だ。

同じドラゴンだからなのか 地竜(アースドラゴン) や 赤竜(レッドドラゴン) に似ているが、若干それよりも脂が多い感じの肉質。

フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイの肉大好き食いしん坊カルテットもこの肉に目が釘付けだ。

食いしん坊カルテットから『早く食わせろ!』と言わんばかりの無言のプレッシャーを受けながら、いざ、ドラゴンステーキをっ。

『薄い』

グリーンドラゴンの肉を切り分けようとしたところに、フェルからの横槍が。

手を止めて、フェルを見る。

「いや、これくらいだろ」

『なにを言っている! もっと厚くだ!』

『儂もそう思うのう』

『俺も~』

『スイも~』

「くっ。じゃあ、このくらいでいい?」

俺は、手に持っていた包丁をずらした。

『もっと』

納得いかないのかそう要求してくるフェル。

フェルのその言葉にゴン爺もドラちゃんもスイも同意するように頷いている。

「もっとって……。じゃあ、これでいいでしょ」

俺は、手に持っていた包丁をさらにずらした。

『もっとだ!』

俺が示した厚さに、まだ納得がいかないフェルがそう強く言うと、ゴン爺もドラちゃんもスイも同意するように深く頷く。

だけど……。

「もう! これで十分だろ! これ以上の厚さになると中は生だし冷たいままで美味しくないと思うぞ!」

俺がそう言うと渋々納得する食いしん坊カルテット。

ったく、今だって超分厚いんだからな。

俺と食いしん坊カルテットとの攻防の末に超極厚に切り分けられることになったグリーンドラゴンの肉。

それでもフェルは『やはりそれくらいが限界か』と残念そう。

「そうだよ。ってか、前にドラゴンステーキを焼いた時だってこれくらいだったでしょうが」

まったく分かってるんだったら『もっともっと』って言わないで欲しいよ。

というか、お前らドラゴンステーキになると欲張って『もっと厚く!』ってなるのホント止めてほしいんだけど。

『なにを言うか。お主、最初はその限界の厚さよりも薄く切ろうとしていたではないか』

そう言いながらジト目で俺を見るフェル。

「ぐっ……。そう言うけどなぁ、あんまり厚くすると焼き加減が難しいんだよ」

『我は分厚いドラゴンステーキを食いたいのだ』

『うむ。儂もどうせなら分厚いのが食いたいのう』

『俺も~。どうせなら分厚いドラゴンステーキにかぶりつきたいよな!』

『スイもー!』

分厚いドラゴンステーキが食いたいったって限度があるでしょうがっ。

この~、肉大好きどもめが。

そもそも分厚けりゃいいってもんでもないっての。

俺は「分厚いと焼き加減が難しいんだよ……」とボヤキながらも、仕方なしに食いしん坊カルテット用に超が付くほど分厚くグリーンドラゴンの肉を切り分けていくのだった。

ちなみに自分用にはほどほどの厚さにな。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

ジュワァァァ―――。

熱されたフライパンで焼かれる肉の音。

その肉は、俺が持っている一番大きなフライパンにギリギリ収まる大きさで超極厚なグリーンドラゴンの肉だ。

香りだけで極上の肉が焼かれていると分かる。

フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイの食いしん坊カルテットが、ギランギランに輝く目で超極厚なグリーンドラゴンの肉が焼かれている様を凝視していた。

「俺の方は一瞥もしないってどうゆうことだろうね……」

そうボヤいてるものの、ドラゴンステーキに夢中な食いしん坊カルテットの耳には一切届いていないようだ。

「まぁ、いいんだけどさ。でも、ずーっとみていられるのもやりづらいんだよねぇ」

苦笑いしつつさらにそうボヤいてみるものの、やっぱり食いしん坊カルテットには聞こえていないよう。

俺は、フェルたち食いしん坊カルテットからの熱視線を受けながらドラゴンステーキを焼いていく。

そして……。

「アルミホイルに包んで少し休ませる」

『ま、まだなのか?』

『もう、焼けているではないか』

『もう食えるよな?』

『食べたい~』

「もうちょっと! この肉を休ませる時間が大切なんだよ。こうしてアルミホイルで保温したまま少し時間を置くことで中までじっくり火が通るんだから。もうちょっとで美味いドラゴンステーキが食えるんだから我慢我慢」

急かす食いしん坊カルテットに待ったをかけて肉を休ませる。

その間に自分のドラゴンステーキを。

熱したフライパンでグリーンドラゴンの肉を焼き始めると、強い視線を感じた。

フェルたちを見れば、みんなアルミホイルに包まれた肉に目を奪われている。

不思議に思いながらも手元のフライパンに視線を戻すが、やはりどこからか見られている感じがする。

キョロキョロと当たりを見回すと……。

いた。

解体場の柱の陰からコソコソとこちらを見つめる六つの人影。

「ヨルゲンさんたち、なにやってんの?」

って、ドラゴンステーキの臭いに釣られてなんだろうねぇ。

解体する代わりに肉も少し欲しいって言ってたから、報酬の一部としてふるまいますか。

「みなさんもご一緒しませんか~?」

そう声を掛けると、待ってましたとばかりにいそいそとこちらにやって来るハイエルフのみなさん。

「あの、解体する代わりに肉も少し欲しいっておっしゃってたんで、一緒にドラゴンステーキ食いません?」

そう言うと、ハイエルフのみなさんから「是非に!」と食い気味に返事が返ってきた。

それならばとみなさんのドラゴンステーキを焼き始めると……。

ジー。

…………フェルたちと行動パターンが一緒なのですが。

ジー。

ま、まぁ、放っとこうか。

そして……。

「はい、どうぞ~」

みんなの前にグリーンドラゴンステーキの載った皿が。

待ってましたとばかりにかぶりつく食いしん坊カルテット&ハイエルフ勢。

『『『『うまぁ~い!』』』』

「「「「「「うまぁ~~~い!」」」」」」

満面の笑みでそう叫ぶ一同。

「うんうん、そうだろう」

美味そうにガッツいている食いしん坊カルテット&ハイエルフ勢を横目に、俺もナイフで切り分けてパクリ。

「うまぁ~い」

やっぱりドラゴンの肉は美味い!

見た目通りにアースドラゴンやレッドドラゴンの肉よりも脂がのっているけど、全然しつこくない。

肉の塊自体大きかったから、切り分けた時点で「ちょっと俺には多いかも。全部食いきれるかな?」なんてちょっと不安だったけど、これならイケるわ。

まったく問題なくペロッと平らげられそう。

そんなことを考えながらもう一口。

「やっぱ塩胡椒だけでも美味いわぁ」

だけどもと、アイテムボックスをまさぐる。

そして、なにかとお世話になっている三本の瓶を取り出した。

フェルも大絶賛のステーキ醤油。

ペロッとイケちゃうと言ったって、俺ではさすがにこの一枚が限界だ。

ということで、一枚をいろいろな味で楽しんじゃう。

シンプルな塩胡椒は味わったから、次はステーキ醤油のニンニク風味だ。

切り分けたドラゴンステーキにちょっとかけてパクリ。

「うまぁ~い。ステーキにニンニク醤油は裏切らないわぁ」

ローストされたニンニクの香ばしい香り、たまりませんね~。

次はおろし風味。

「これもうまぁ~い。おろし風味でサッパリといただけるわぁ」

あらびきのダイコンおろしがサッパリした風味がこれまた肉とよく合うんだな。

そして最後はタマネギ風味。

「やっぱりこれもうまぁ~い。醤油と炒めタマネギが肉に合わないはずがない」

じっくりと炒めたタマネギの旨みと醤油だよ。

肉にかけて美味しくないわけないじゃんね。

ドラゴンステーキにステーキ醤油をかけて楽しんでいると…………。

『おい! お主だけズルいぞ! 我もそれを楽しむぞ!』

『それは肉にかけるととんでもなく美味くなるヤツじゃのう。儂も次はそれでじゃ!』

『俺も俺も!』

『スイもー!』

目敏く見つけた食いしん坊カルテットが、早くも次をと急かしてくる。

「はいはい、分かったから」

フェルたちの次のドラゴンステーキを焼き始めると、また視線が。

「えーと?」

「その黒いのはなんだ?」

ステーキ醤油の瓶を凝視しながらそう聞いてくるヨルゲンさん。

他のハイエルフさんたちもステーキ醤油の瓶に目が釘付けだ。

「あ~、これはステーキ醤油と言って、まぁ、肉に掛けると美味いソースですね」

「肉に……」

「掛けると……」

「美味い……」

ハイエルフのみなさんが自分の皿を見る。

塩胡椒をして焼いたドラゴンステーキはひとかけらも残っていなかった。

ハイエルフのみなさんはそれを確認してガックリと項垂れて悲しそうな顔をしている。

い、いや、そんな顔をするほど?

「あ、あの、まだ食えそうなら、追加で焼きますか?」

そう聞いたら、「お願いする!」と何度も頷いた。

フェルたちの分を焼き終わった後に、ハイエルフのみなさんの分も追加で焼いていった。

ハイエルフの女性陣は、三種のステーキ醤油をかけて「美味しい美味しい」と言いながら二枚目のドラゴンステーキもペロリと平らげていたよ。

ハイエルフの男性陣は、女性陣と同じように二枚目は三種のステーキ醤油で味わって、三枚目は自分の好みのステーキ醤油をかけて味わっていたよ。

ハイエルフのみなさん、スレンダーなのにどこに入っているのか不思議だよ。

俺は一枚で腹いっぱいだっていうのに。

俺って小食なのか?

いや、俺はあくまで普通だよなぁ。

ちなみにフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイはというと、食いしん坊カルテット用に切られた超極厚かつ巨大なドラゴンステーキを、ドラちゃんが五枚、ゴン爺が十一枚、フェルとスイが十三枚をペロリと平らげていた。

うん、俺の周りが食い過ぎなだけだよね。