軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百七十三話 ニンリル様の神託

声をかけてニンリル様の教会に入ると、グレイヘアの優しそうな初老の司祭様が出てきた。

「はい、なにかご用ですかな?」

にこやかにそう言う司祭様だったが、俺の後ろに控えたフェルとゴン爺を見て若干顔が引きつっていた。

俺は「まぁ、そうなるわな」と思いつつ、自分は冒険者のムコーダという者で今は王都にある各教会にお布施&寄付巡り中なのだとかいつまんで話した。

俺の話を聞いた司祭様の顔が引きつった顔から一転して「本当にありがたいお話です!」とニッコニコ。

「ええと、こちらは孤児院も併設されているのですか?」

「はい。ここは王都ですので、各地から孤児がやってくることもあり、ここも満杯ではあるのですが。子どもは宝です。出来得る限りは受け入れをしようと思っております」

ふ~む、信者数の少ないニンリル様の教会の孤児院さえも満杯とは。

王都ということで、最後の砦みたいな感じになっているのかもな。

親たちも王都の孤児院ならばなんとか入れてもらえるってさ。

そんな風に考えていたら、グンと頭頂部を押された。

『おい』

「……フェルさんや、頭に手を置くのはやめてもらえますか」

『つい今しがた、ニンリル様の神託が降った』

おい、無視かよ。

フェルよ『悪かった』の一言くらいあったっていいだろが。

『ニンリル様の神託~? フェル、そんなの受けたのか?』

パタパタ飛びながら疑わしげな目でフェルを見るドラちゃん。

『む、我はニンリル様の眷属なのだぞ。神託くらい受ける』

『ほ~、女神からの神託とは。お主だけに来るというのは、やはり眷属だからなんじゃろうのう。で、どんな神託を受けたのじゃ?』

女神からの神託と聞いて興味が湧いた様子のゴン爺。

ちなみにスイはゴン爺の背中で寝落ちしている。

ニンリル様の神託だなんてロクなもんじゃない気がするんだけど……。

『そこの小童の目を治してやるようにとのことだ』

そう言いながら司祭様の足元を鼻で指した。

目を向けると、司祭様の後ろに隠れるように、長く白い司祭服にしがみつく小さな女の子がいた。

大人し過ぎて、この子がいたのに今の今まで気が付かなかった。

ドラちゃんとゴン爺も、『女神って一人間を治せなんて神託するんか?』『いや、儂もわからんが……』などと言って小さな女の子を見て困惑している。

「目を治してやるようにって……」

その女の子の目をよく見ると、両目とも白く濁っていた。

「司祭様、この子の目は……」

俺がそう聞くと、ハッと我に返る司祭様。

「はい。この子の村が魔物に襲われて、その時に。両親もその時に亡くなったそうで」

司祭様の話によると、この子はアナベラちゃんと言って、5歳になったばかりだそうだ。

話にあった通り、村が魔物に襲われて壊滅状態に。

両親もその時に亡くなって、アナベラちゃんはなんとか生き残った村人に連れられて、3か月前に王都までやってきたそうだ。

しかし、村人も慣れない王都で生活していかなければならず、目の見えないアナベラちゃんまではさすがに養っていくことはできない。

それで、ここの孤児院に預けられたそうだ。

この世界、それこそ魔物に襲われたり流行り病やらで親を亡くしたりする子どもは多い。

だけど、それに加えて5歳で両目とも見えなくなるっていうのは酷過ぎやしないか。

痛ましい思いでアナベラちゃんを見る俺。

『だから、お主の出番だと言っているだろう』

沈痛な面持ちの俺の頭頂部にまたもやドンと重しが。

「フェル~、またお前……」

そう言って後ろに居たフェルを睨んでいると……。

「あ、あのっ、あなた様は、風の女神ニンリル様の眷属であるフェンリル様でしょうか?」

司祭様がおそるおそるフェルを見ながらそう声をかけた。

あ~、声に出してしゃべっているから気付いちゃったか。

『うむ』

そう言ってなんだか偉そうに頷くフェル。

おいおい、なに偉そうにしてんだよ。

『ニンリル様からの神託で、その小童の目を治すようにとのことだ』

「ニ、ニンリル様からの神託……」

『我はニンリル様の眷属だからな。時々神託を賜るのだ』

フェルがそう言って自慢するように胸を張る。

今回は意外にもまともな神託だったけど、俺のとこに来るのは『甘味が~』とかたいがいロクでもないことなんですけどねぇ。

そこんところ、どうなんですかね~ニンリル様。

『う、うるさいのじゃ! そんなことよりさっさとその子どもの目を治すのじゃ! お主が持っている、ほれ、スライムが作ったエリクサーならバッチリじゃ!』

やっぱりしっかり覗いているんですね~。

『覗いているのではないっ! 下界の様子を見ているだけじゃ! それより早く治すのじゃ!』

あー、はいはい。

エリクサーですね。

スイに作ってもらったスイ特製エリクサーも【神薬 毛髪パワー】の作製やらで残りも少ないんだけど。

まぁ、この子のためだもんね。

それに、 地竜(アースドラゴン) の血と肝も 赤竜(レッドドラゴン) の血とアイスドラゴンの肝も残っているから、スイにまた作ってもらえばいいし。

リヴァイアサンでもエリクサーの材料になるらしいから、いざとなれば今回手に入ったリヴァイアサンの血と肝がたっぷりあるしね。

やらない善よりやる偽善。

出し惜しみはしないよ。

アイテムボックスからスイ特製エリクサーの入った小瓶を取り出した。

そして、跪いてアナベラちゃんの視線の高さに。

「アナベラちゃん」

俺が目の前で名前を呼んでも、その視線は遠くを見ているようで、全く目が見えていないようだった。

「俺は冒険者のムコーダっていうんだ。ちょうど君の目を治すお薬を持っていてね、それを知った風の女神様から君の目を治すようにってお願いされたんだ」

「……かぜの、めがみ、さま?」

小さな小さな幼い声。

司祭様が「アナベラがここに来て初めてしゃべった……」と驚いている。

ショックでずっとしゃべっていなかったのか……。

そりゃあ両親も居なくなって、自分の目も見えなくなってじゃな。

でも、その過酷な運命もここまでだ。

両親は生き返らせないけれど、アナベラちゃんの目は治せるんだから。

「そうだよ。君の目を治すようにってね」

「……また、見えるように、なるの?」

「ああ。お薬を飲めば、また見えるようになるさ」

俺がそう言うと、司祭様が悲しそうな顔で声をかけてきた。

「ムコーダ様、この子の目は上級ポーションでも治る見込みがないらしいのです……」

ああ、司祭様は俺が持っているのが上級ポーションに見えたのか。

「ああ、これは上級ポーションじゃないんで大丈夫ですよ」

「え?」

『此奴が持っているのはエリクサーだ。心配いらん』

フェルがそう言うと、司祭様はポカン顔。

『なんじゃ、主殿、エリクサーなぞ持っておったのか?』

『あー、ゴン爺はまだ知らなかったか。スイがポーションを作れるんだぜ。材料によって“えりくさー”ってのも作れんだよ』

ドラちゃんがしたり顔の念話でゴン爺に説明している。

『ほ~、スイはすごいんだのう』

「フッフッフ。前にヒーリングマッシュルームの群生地帯を見つけてな、それをスイが食ってたらさ、ポーションを作れるようになったんだよ。すごいよな、スイ。さすが特殊個体のスライム」

追加の念話で説明しながら、まるで自分のことのように自慢する俺。

スイは強いだけじゃないのさ~。

『おい、そんなことはいいから、早くそれを小童に飲ませろ』

フェルに急かすようにそう声をかけられてハッとした。

「ゴホン。それじゃあアナベラちゃん、これを飲んでくれるかな?」

アナベラちゃんの小さな手にエリクサーの小瓶を持たせた。

「これを飲めば、お目々、なおるの?」

不安そうにそう聞いてくるアナベラちゃんに「そうだよ」と返事してやると、意を決したようにアナベラちゃんがエリクサーを口にした。

小さな喉からコクリコクリと音がする。

小瓶の中身を全部飲み終えると、アナベラちゃんの体が一瞬白く光った。

そして……。

「アナベラちゃん、どうだい?」

そう声をかけると、アナベラちゃんの目が今度はしっかりと俺を捉えた。

「見える! おじちゃんの顔が見えるよ!」

…………おじちゃん。

グハァッ。

アナベラちゃん、そこはお兄ちゃんって呼んでよ……。

『ゴホン。妾の子らよ、聞こえるか?』

そうニンリル様の声が聞こえると、ハッと我に返る司祭様。

「も、もしや、風の女神ニンリル様?!」

『そうじゃ』

途端に跪いて祈るように手を組む司祭様。

そして、それに倣うアナベラちゃん。

『妾の子らよ、よく聞くのじゃ。お主たちの働き、天から見ておったぞ。それ故、今回は、たまたま妾の眷属たるフェンリルが近くにいたため慈悲をかけることにした』

「ありがたきお言葉っ」

『そこの冒険者ムコーダも妾に縁があるものじゃ。ムコーダが“エリクサー”を所持していることが知られればどうなるかわかるな?』

「はっ。絶対に口外しないと誓います!」

『今回のことは、妾の慈悲じゃ。ゆめゆめ忘れるでないぞ』

「ははぁ~」

『では、妾の子らよ、これからも天から見守っておるのじゃ』

「ははぁぁぁ~」

五体投地でひれ伏す司祭様。

そして、それに倣うアナベラちゃん。

『そして、あとはお主!』

お、俺?

『そうじゃ。この声はお主にしか聞こえておらん。お主、月に一度の供え物はどうしたのじゃ?』

「あ……」

ヤベ。

いろいろあってすっかり忘れてた。

と言っても、過ぎたのは1日か2日でしょ。

『そうだと言っても過ぎてしまっているのじゃ! これは由々しき問題じゃぞ! すぐに供え物をするのじゃ!!』

へいへい。

『まったく! お主のことだから、きっと忘れているのだと思い、こうして神託をしてやっているのじゃぞ! だいたい妾の大事な大事な甘味を忘れるとは、大罪じゃぞ!』

プンプン怒るニンリル様。

……ん?

こうして神託をしてやっているって、もしかして、俺への催促の神託がメインだった?

『ぐ……。わ、妾の子らへの神託も、ちゃ、ちゃんと考えていたわ! し、信徒を増やさねばならんからのう』

えー、なんか、後付けのような気がするなぁ。

『う、うるさいのじゃ! し、信者数UPを目指しているのは本当のことなのじゃ! とにかくじゃ、早く供え物をよこすのじゃぞ! そうでないと、他の神々からの神託も来るぞ!』

はいはい、分かりました~。

確かに他の神様たちからも催促が来そうだな。

今晩にでも、ご希望を聞きますか。

遅れたことに文句言われそうだけど。

まぁ、お供えをちょい足しすれば大丈夫でしょ。

デミウルゴス様には週一のお供えをしていたけど、デミウルゴス様自体『出来るときでいいぞい』っていうスタンスだから、いろいろあったのもあって先週先々週とお供えしてなかったんだよなぁ。

だから、今回は多めにいろいろ考えとこう。

そんなことを考えながら、そろそろお布施&寄付を置いてお暇しようかななんて思っていると……。

ありゃりゃ、未だ司祭様が呆然として夢見心地のご様子。

とりあえず司祭様に白金貨8枚が入った麻袋を握らせて扉を閉めた。

扉を閉めるときにアナベラちゃんが「おじちゃん、ありがとう」って手を振ってくれたよ。

俺はおじちゃんじゃない(自分ではそう思ってるぞ。ってかそうだよなっ)んだけどな……。

「帰ろうか」

『うむ』

『そうじゃのう。腹も減ったし』

『ホントだぜ。で、今日の夕飯はなんだ?』

「うーん、特に決めてないけど、何が良い?」

『『『肉!』』』

「ハハ、そう言うと思った」

『ん~……、お肉~っ?!』

ゴン爺の背中で寝ていたスイが飛び起きた。

「スイ、起きたか。帰ったら夕飯だぞ~」

『お肉~』

「ハハ、お肉食おうな」

そう話しながら今日の夕飯は何にしようかと悩む俺だった。