軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百五十四話 熱くなったエルランド、恐るべし

「ふぅ~、これで内臓の取り出しは終わりましたね」

そう言いながら、青い血まみれの手のまま腰のベルトに掛けてあった布をつかんで額の汗を拭うエルランドさん。

その顔は満足感一杯の満面の笑みだ。

腐ってもエルフ、顔面偏差値の高いその美形な顔がキラキラと輝いていた。

このグロイ仕事をそこまで喜んでできるなんて、いろんな意味ですごいわ。

どこまでもブレないね。

ある意味尊敬するよ。

俺なんて、腸を引っ張り出すところを見ちゃって、危うく朝食をリバースしそうになったっていうのに。

げんなりした気分のまま、次の工程へと移るエルランドさんを眺める。

「次は、頭を落とします。そして、本当なら、頭の解体に移りたいところなのですが……」

エルランドさん曰く「眼球や牙、脳、頭蓋骨と興味深い素材が目白押しなのですが、それだけにそれ狙いの賊も多数現れそうですからね。ここはブラム様の提案通り冒険者ギルドで解体させていただくことにします」とのこと。

確かに頭だけなら、王都冒険者ギルドの倉庫でも解体はできそうだな。

「では、いきます!」

俺の貸し出した魔剣カラドボルグでスパンとリヴァイアサンの頭を落とすエルランドさん。

「ハァ、すぐにでもこちらを解体したいのに残念ですねぇ」

リヴァイアサンの頭を撫でながら、エルランドさんがそんなことをつぶやく。

この人のつぶやきは聞いちゃいけないね。

大抵キモイこと言ってるから。

「それじゃあしまいますからね」

そう言いながら、リヴァイアサンの頭をアイテムボックスにしまうと、「あぁ~」とか情けない声を出して名残惜しそうに手を伸ばすエルランドさん。

リヴァイアサンの頭とゴン爺が噛みついて傷がある首の部分については、俺のアイテムボックスで一時預かって、帰りに冒険者ギルドに置いてくることになっているのだ。

「あとからゆっくりできるじゃないですか。モイラ様がいないからって、好き勝手やって仕事を進めないとまた怒られますよ」

「わ、分かってますよ! ちゃんとやりますから!」

本当に分かってるんだか。

冒険者ギルドへの問い合わせが尋常じゃないくらいにあるらしく大混乱になっていて、ブラムさんをはじめとしたお偉いさん方や事務方の職員も大忙しで、エルランドさんの監視役のモイラ様も一時エルランドさんのそばを離れて助っ人に出ているのだ。

そういえば、さっき話を聞いて気になったんだけど……。

「あの、さっき賊も多数って言ってたじゃないですか。これだけたくさんの高ランク冒険者が警備に当たっているのに手を出すヤツなんているんですか?」

ついでにフェルとゴン爺の結界まであるんだぞ。

というか、昨日だってそんな話は聞いてなかったから、それまではそういう輩が出るんじゃないかって心配はしてたけど、さすがにこの厳重警備じゃあそういう輩も諦めるしかないんだろうなってちょっと安心してたのに。

「それがいるのですよ。嘆かわしいことに」

エルランドさんによると、俺が気が付かなかっただけで、冒険者に獲っ捕まった輩が大分いたみたいだ。

というか、うちのゴン爺とドラちゃんに獲っ捕まったのもけっこういるとか。

(ちなみにだけど、今日もゴン爺とドラちゃんは、解体場所に着いた途端に空からの警備という名の下に上空へと避難している)

ゴン爺もドラちゃんもそんなこと言ってなかったんだけどなぁ。

やっぱりちょっとでも手に入れば大金になるってことで、この厳重警備の中でも変な気を起こす者がそれなりにいたようだ。

まったく、こんなにたくさんの冒険者が警備してるんだから諦めりゃあいいのに。

「そこは今日も冒険者たちにがんばってもらって、次はいよいよ皮を剥いでいきますよ。幸いなことに、各地の解体の職員も集まりましたからね」

エルランドさんが集合をかけていたのか、ドンドンと人が集まって来る。

あ、ヨハンのおっさん見っけ。

向こうも俺を見つけたみたいで手を振ってきたので、俺も手を振り返した。

それからは、さすがプロ。

粛々と事は進んでいった。

ブラムさんをはじめ冒険者ギルドのお偉いさん方の意向で、皮はなるべく大きな一枚革にしたいということで、何人もの職員が連携して皮剥ぎに取り掛かっている。

とはいってもこの巨体だから、ところどころでエルランドさんが魔剣でぶつ切りにしたうえでだけれどね。

そのぶつ切りにされたそれぞれに職員たちが集まってどんどんと皮を剥いでいっている。

丁寧にかつ早く皮を剥いでいく手さばきは、みなさんさすが熟練という仕事ぶりだ。

リヴァイアサンの巨体から徐々に皮が剥がされていく様は正に壮観。

皮が剥がされて、リヴァイアサンの白い肉が現れてくると、寝そべっていたフェルもお座りして目を爛々とさせている。

『今日こそはリヴァイアサンの肉が食えそうだな』

そう言いながらフェルの尻尾がブンブンと揺れている。

『スイも楽しみ~』

スイもご機嫌にポンポンと飛び跳ねていた。

まぁ、そうなるといいけどね。

みんな本当に楽しみにしているし。

俺も、何作るか今からメニューを考えておかないとな。

そうこうしているうちに、今日の作業が終了した。

さすがにすべての皮を剥ぐ作業が終わったわけではないけれど、ぶつ切りにされたいくつかのブロックについては、皮を剥ぐ作業が終わっていて艶のある白い肉となっている。

『よし、皮を剥いだ肉はもらっていくぞ。今夜の飯はリヴァイアサンだ! やっとリヴァイアサンの肉にありつけるというものだ』

フェルはリヴァイアサンを食う気満々だ。

涎まで垂らしてるし。

『りばいあさんのお肉~♪』

スイも期待が高まっている様子。

『おお、ようやくリヴァイアサンの肉が食えそうだのう』

『ヒャッホウ、ようやくか! 待ちかねたぜ』

空からの警備に当たっていたゴン爺とドラちゃんも戻ってきた。

『ほれ、早く肉を持って帰るぞ』

フェルが鼻先で俺の背中を押して急かす。

「はいはい、分かったから押すなって」

とりあえずエルランドさんに声をかける。

「エルランドさん、その肉は持ち帰っても大丈夫ですか?」

そう聞くと、エルランドさんがクワッとすごい目力で「ダメです! 絶対にダメです!」と答えた。

あまりの剣幕に唖然とする俺。

『なんだと?』

エルランドさんの返答に、フェルが鼻にしわを寄せながら低い声でそう言った。

「なんだもなにも、まだ解体は終わっていないのですよ!」

フェルに負けじとそう答えるエルランドさん。

『終わっていないだと? 肉になっているではないか』

「なぁーにを言っているのですかっ! まだ骨があるではないですかっ!」

あ~、言われてみれば確かに。

まだ骨付きだね。

骨も素材としては大切ってことか。

フェルは肉が露になって、いよいよ食えると意気込んでいたけれど、エルランドさんの説明で納得だわ。

『ほ、骨などそのままでいい。骨付きのまま焼くという手もあろうしな。そうだろう?』

ちょっとフェルっ、急にこっちに振らないでよ。

「ム、ム、ム、ムコーダさんっ! あ、あなたまさか、リヴァイアサンの骨ごと肉を焼こうとしているのですかっ?!」

エルランドさんにガシッと両肩をつかまれて揺すられる。

「ちょっとちょっとちょっと! エルランドさん、落ち着いてください! やろうと思えば、骨ごと焼くってこともできるでしょうけど、やるとは言ってないじゃないですか!」

「やろうと思えばできるって、なんてことを言うんですか!」

あ、あかん。

この人、完全に熱くなってる。

「いいですか! 最初にも言ったとおり、リヴァイアサンというのは血の一滴から骨の一片まで、どれもこれも高値で取引される最高の素材なのです! その骨を焼くなどと、何を考えているのですか! リヴァイアサンの数ある素材の中でも骨はかなり優秀なのですよ! 武具にして良し! 薬にして良し! そんな素材をっ」

リヴァイアサンの骨は剣にして良し槍にして良し打撃系の武器にしても良し、しかも削って粉末にすれば薬の材料にもなるという超優秀な、誰もが欲しがる素材なのだそうだ。

そんな素材を~と、エルランドさんに1時間近く説教された。

フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイはそそくさとその場を立ち去ろうとしてたけど、今回ばかりはそうは問屋が卸さなかった。

エルランドさんに「どこへ行こうとしているんですか! あなたたちも聞きなさい!」と呼び止められて、俺と一緒に説教を聞くことに。

ざまぁ。

説教が終わったころには、俺たち全員這う這うの体だ。

フェルなんて『ぐぬぬ、フェンリルたる我に説教とは……』と悔しそうにしてるし、ゴン爺は『えらい目にあったわい』と疲れた顔。

ドラちゃんも『なんで俺まで……』とグッタリしているよ。

スイだけは『あるじー、お腹空いた~』と平常運転だけれど。

あ~、疲れた。

しかし、熱くなるとエルランドさんはフェンリルにも 古竜(エンシェントドラゴン) にも余裕で説教かますんだな。

恐るべし。