軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百四十八話 モイラ様、強い

いよいよリヴァイアサンの解体が始まる。

王都冒険者ギルドから指定された場所は、やはり王都の前の草原だった。

ギルドマスターの言っていたとおりだね。

そして、その指定された草原に来てみれば……。

「すごい人…………」

大人数の冒険者ギルド関係者が忙しなく動いていた。

それに加えて、なんだか豪華なイスやらが置かれた観覧席まで設置されていた。

なにこれ……。

予想していた以上に大掛かりな現場になっていることに呆然とした。

こちらとしては解体してもらいたいだけなのに、なんだかとんでもないことになっているようなんだけど。

俺がここの様子を見て困惑していると……。

「おう、来たか」

別行動で朝早くからこちらに詰めていたギルドマスターが、俺たちを見つけて声をかけてきた。

「ギルドマスター……」

「お前、なに情けない顔してんだ?」

「なんなんですか、あれ……」

豪華な観覧席を指しながら、俺が困惑した顔でそう言うと、「ああ、あれか」となんでもないことのように話すギルドマスター。

「王様と王妃様がご観覧されるそうだぞ」

「エエェェェーーーッ?!」

「エーッじゃねえよ。リヴァイアサンなんて大物は一生のうちに一度でも見られたら相当運が良いって代物なんだぞ。それを解体するってんだから、注目するなっていう方が無理ってもんだ」

「だからって、王様や王妃様まで見に来なくても……」

「何言ってんだ。お前らが仕留めたからっていうのもあるんだぞ。フェンリルに 古竜(エンシェントドラゴン) 、それらを従えた冒険者。王様も無視はできんだろ。というか、豪華な献上品で王室に寄与していることで、王様や王妃様からの覚えめでたいんだからよ」

く~、献上品もっと少なくしてグレード落とせばよかったーっ。

「それからな、貴族様方の観覧希望も多くてな。それならってんで、あんな風になったわけだ」

あんな風にって、だからあそこだけやたらと豪華になってるのか。

てか、お貴族様もいっぱい来るのかよ……。

ハァ~っとため息をついていると、ギルドマスターが「リヴァイアサンなんてものを出すからだ。諦めろ」と肩をバンバン叩かれた。

いや、確かにそれはそうなんだけど……。

ここは食いたいって主張し過ぎる奴らが悪いんだよね。

そう思いながらフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイをジト目で睨むが『何だ?』と返されるだけで、まったく通じていなかった。

そうこうしているうちに……。

「ムコーダさぁぁぁん!」

猛烈に手を振りながらこちらに爆走してくる人影。

「ついに来たか……。エルランドさん」

見たくなかった姿を確認して、顔を引き攣らせる俺だった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「ムコーダさんっ、会いたかったです~。私もついさっき王都に着いたばかりなんですよ! それですぐにムコーダさんたちに会えるなんて、やっぱり運命ですね!」

ニッコニコでそう言うエルランドさん。

「いやいや、変なこと言うのは止めてもらえますかね。エルランドさんが会いたかったのは、ゴン爺とドラちゃんでしょ」

『ついに来やがったか、変態!』

ドラちゃんが辛らつな言葉を浴びせる。

もちろん念話だからエルランドさんには聞こえていないんだけど。

聞こえていたら号泣してるかもね。

『ハァ~、うるさい奴が来よったか……』

声に出して話しかけられるのが嫌なのか、ゴン爺も念話だ。

ドラゴンコンビの念話が聞こえていないエルランドさんは、とにかくテンションMAXで今にも小躍りしそうな様子だ。

「分かっちゃいます? フフフ、もうしばらくは会えないかと思って絶望していたんですけど、思わぬ好機が巡ってきました! しかも、それがリヴァイアサンとは! ムコーダさん、私の言葉を覚えていてくださったのですね~」

満面の笑みを浮かべて俺の手を握りブンブンと振るエルランドさん。

ゴン爺とドラちゃんの本音が聞こえていないのは幸せだね。

ものすごく嫌がられているからね、アナタ。

「いや、エルランドさんのためにとか、まったくもってそういうわけではないんですけどね。というか、手、放してもらえますか」

引き攣った顔でそう伝えるが、エルランドさんはまったく意に介していない。

「またまたぁ~。私の言葉覚えていてくれたんですよね! リヴァイアサンですもんね!」

「まったく、全然、違いますから」

繰り返すけど、アナタのためとか全然そういうのではないから。

ただただ成り行きで、ダンジョンにたまたまリヴァイアサンがいて、ゴン爺が仕留めたってだけだからね。

「ええ、ええ。分かってますって」

俺が全否定しているというのに、ニコニコ顔でそう言うエルランドさん。

ダメだこりゃ。

どんだけポジティブ思考なんだよ。

そんなエルランドさんに俺が呆れ果てていると……。

「コラァァァッ、アンタなにを勝手に突っ走ってるんだいぃぃぃっ!!!」

鬼の形相で怒鳴りながらこちらに向かってくるお婆さんの姿が。

「ゲッ」

ニコニコ顔でテンションMAXだったエルランドさんの顔が歪んだ。

「ゼェ、ゼェ、ゼェ……。こ、この馬鹿者が! いきなり走り出しおってからに!」

荒い息でそう話すのは、昔は相当美人だったんだろうなと思わせるエルフのお婆さんだった。

「ここでアタシの監視の目から逃れようとするとはいい度胸だねっ」

「い、いえっ、そんなつもりではまったくなく」

「フン、どうだか。アタシを派遣した本部の連中たちも雁首揃えてここに居ることだし、このことはしっかりと報告させてもらうとするよ。きっとアンタへのアタシの監視も延長になるだろうねぇ」

「そ、そんなぁぁぁっ」

絶望して膝を突くエルランドさんを冷たい目で見降ろしながら「フン、自業自得だね」と言うエルフのお婆さん。

この方は、もしかしなくてもウゴールさんが言っていたエルランドさんの監視役のモイラ様?

「アンタがムコーダだね?」

「は、はい」

「この馬鹿が迷惑をかけたね。アタシはコイツの監視役を任されてるモイラだよ。コイツがなにかやらかしたときは、いつでもアタシに言っておくれ」

「はい。頼らせていただきます」

力強い味方だよ。

なにかあった時には遠慮なく頼らせてもらおう。

「ちょっと、ムコーダさん?!」

「お黙り」

そう言ってぺチンとエルランドさんの頭をひっ叩くモイラ様。

モイラ様、強い。

「叩くなんてひどいですよ~、モイラ様~」

「フン、その歳になって叩かれるようなことをするアンタが悪いんだよ! だいたいアンタはここになんのために来たと思ってるんだいっ」

「そんなのリヴァイアサンの解体とゴン爺様とドラちゃんに会いに来たに決まっているじゃないですか!」

アチャー……。

当然だとでもいうような顔をして、それを言っちゃうの?

「この馬鹿! リヴァイアサンの解体のためだけだよ!」

モイラ様がエルランドさんの頭をまたぺチンと叩いてそう言った。

「イタッ! ペチペチ叩かないでくださいってば!」

「アホなことを言うアンタが悪いんだよ! それよりもさっさと行くよ!」

「どこにですか?」

「アンタあれほど冒険者ギルドに迷惑かけておいて、本部の連中に挨拶もしないつもりなのかい?」

「え、いや、それは、その」

「グダグダ言ってないで、ホラ、行くよ!」

そう言ってエルランドさんの長い耳を引っ張って連行するモイラ様。

「い、痛いです! モイラ様、ヤメテ!」

いってらっしゃ~い。

俺はドナドナされていくエルランドさんに手を振っておいた。

『あいつは婆ちゃんエルフに任せとけば大丈夫そうだな』

『うむ。安心だわい』

エルランドさんとモイラ様の一連のやり取りを見て、ゴン爺もドラちゃんも一安心した様子。

『どうでもいいが、リヴァイアサンの解体はまだ始まらんのか?』

今まで我関せずで黙っていたフェルが、しかめっ面でそう聞いてくる。

「いやぁ、まだ言われてないからな」

解体の前にはリヴァイアサンを出さなきゃいけないわけだけど、まだお声が掛からないしね。

『早くりばいあさんのお肉食べたいなぁ~』

スイも心待ちにしているようだ。

「ちょっと王都冒険者ギルドの人に聞いてみるか」

指示を出しているちょっと上の立場の人に聞いた方が話が早そうだな。

そう思ってそれらしい人を目で探していると……。

「ムコーダさん、久しぶり!」

「リタ?!」

声をかけられて振り返ると、笑顔を浮かべた“ アイアン・ウィル(鉄の意志) ”のリタがいた。

そして、その後ろにはドランのダンジョン以来の懐かしい顔触れがいたのだった。