軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百三話 スッポン鍋、再び

巨大スイに乗り、湿地帯を移動すること一週間。

途中、“ アーク(箱舟) ”の面々に請われて停まったり、フェルとスイの運動不足解消のために適当な魔物と戦ったりしつつも、俺たち一行は順調に進んでいた。

ちなみにだが、“アーク”の面々はインコみたいな鮮やかな色の鳥を中心に狩っていた。

普通のインコの倍はありそうなこの鮮やかな鳥たちは、その鮮やかな色合いから、はく製にされたり、羽根はドレスや髪飾り、扇子などの装飾品として加工され、富裕層には絶大な人気があるのだそうだ。

しかしながら、この鳥、生息域が限られているうえに、そこは高ランク冒険者しか辿り着けない場所であるため、出回る数が極端に少ないという。

そういうことで、もちろん高値で買い取り対象となるわけだ。

弓使いのフェオドラさんが大活躍で、青や赤、緑色のインコもどきを6羽ほど仕留めていた。

もちろんここはダンジョンなので、ドロップ品になるが、インコもどきのドロップ品は全て羽根で、これでも十分価値があるとのことで“アーク”の面々もホクホク顔だった。

俺も、これはと思いドラちゃんとスイに頼んで10羽分ほどのドロップ品の羽根を確保してある。

家で待っているみんなへのお土産にちょうどいいかなと思ってさ。

羽根ペンとかに加工してもらったあとに渡してもいいし。

フェルとスイは、ブラックアナコンダ(エイヴリングのダンジョンにもいたやつだな)やエアレーとかいう巨大な茶色い牛の魔物を狩っていた。

どっちも肉が美味いっていうのが狩る基準だったのが、らしいっちゃらしいけど。

特にエアレーは肉が美味いらしく、水辺にいた群れを見つけると積極的に狩っていたよ。

おかげでまたまた大量の牛肉をゲットした。

ダンジョンのいいところは、ドロップ品として解体せずに肉の塊を得られることだよね。

偵察隊のゴン爺とドラちゃんは、目についた目ぼしい魔物をちょこちょこ狩っていたよう。

ドラちゃんにマジックバッグを預けていたから、その中にけっこういろいろ入っていたよ。

皮だの牙だのの他、いろんな肉がね。

中にビッグバイトタートルの肉があったのには、ちょっとびっくりしたけど。

ドラちゃんがエイヴリングのダンジョンで食ったのを覚えていて、沼地にいたのを見つけて狩ったそうだ。

この肉にはフェルもスイも反応して、その沼地に遠征して、みんなでせっせとビッグバイトタートル狩りに勤しんだりもした。

沼地にいたビッグバイトタートルを狩り尽くす勢いで嬉々として狩っていく食いしん坊カルテットに、“アーク”の面々はちょっと引き気味だった。

俺が「あれ、めっちゃ美味いんですよ」と言ったら、ギョッとした顔をして今度は体ごと引かれたけど。

あの食いしん坊エルフのフェオドラさんにまでさ。

解せぬ。

スッポン鍋、超美味いのに。

とりあえず、ビッグバイトタートルとその上位種のジャイアントバイトタートルの肉が手に入ったので俺も食いしん坊カルテットも大満足。

スッポン鍋は、“アーク”の面々にも食わせてやろうと思っている。

しかし、このデカいスッポンたちは本来はこんな風に沼地とかで生息しているんだろうかと思うと、エイヴリングのダンジョンでは水のない石壁ダンジョンの中をうろついていたのが不思議でならなかった。

まぁ、不思議もなにもダンジョンだからってことなんだろうけどね。

そんなこんなで、湿地帯の道なき道を進み、ようやくフェルとゴン爺から『そろそろだ』と告げられた。

いよいよボスと遭遇するわけだ。

ボス戦を控え、俺たち一行はしっかり休息を取ることにした。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

早めだが、俺は夕飯の準備を始めていた。

『別にそのまま行っても良かったのだがな』

その俺に向かって、フェルがちょっぴり不満そうにそう言った。

「フェルはそう言うけど、いろいろ準備ってものがあるんだよ」

主に俺の心の準備だけど。

ダンジョンって、どんなボスが出てくるか毎回ビクビクなんだよ。

「それに、今回は俺たちだけじゃないんだから念には念を入れておいたほうがいいだろう」

『フン、我らがいて手こずるわけがなかろう。一瞬で終わるわ』

「確かにフェルの言う通りかもしれないけどさ、それならそれで別に急がなくてもいいじゃん」

『ここは手応えがなかったから、早く次に進みたいのだがな……』

「じゃ、フェルはこれ食わなくていいのか?」

『いいわけないだろうっ。それとこれとは別に決まっている!』

「じゃあ文句言わないの」

まだフェルが『飯の話と一緒にする奴があるか』とかブツブツ文句を言っているが、聞こえないふりだ。

『なぁー、まだかー?』

「まだかかるよ」

一方、夕飯が待ちきれなくてソワソワしているのはドラちゃんとスイだ。

『早くできないかなぁ~』

「エイヴリングのダンジョンのドロップ品でたくさんあったと思ったけど、みんなで食ったら数回で在庫がなくなっちゃったからなぁ。今回手に入ってホント良かったよ、ビッグバイトタートルの肉」

そう、俺が夕飯にと作っているのはスッポン鍋だ。

エイヴリングで大量に得たはずのビッグバイトタートルの肉だったが、大食漢揃いの食いしん坊たちの前では長くは保たなかった。

というわけで、久々のスッポン鍋となる。

ボス戦の前だし、精がつくスッポン鍋はぴったりのメニューだろ。

『フハハ、フェルとスイが大食いだからなぁ』

「何言ってるの、ドラちゃんだってけっこう食うでしょうよ」

『バレたか』

バレたかじゃないよ。

フェルやスイほどじゃないけど、その小さい体のどこに入るのってくらい食ってるからね。

「しかし、ドラちゃんは良く見つけたよな~」

『フフン、前に食って美味かったの覚えてたからな! 沼から顔出してるの見つけて、絶対アイツだと思ったんだよ』

「お手柄だよ」

『ドラちゃん、おてがら~』

『まぁな!』

俺とスイからお手柄と言われて、ちょっと嬉しそうなドラちゃんだ。

『ふむ。あの亀はそんなに美味いのかのう? 見た目はまったく美味そうに見えなかったのじゃが』

盛り上がる俺とドラちゃんとスイを横に、そう言いながら疑うような目で調理風景を見ているのはゴン爺だ。

俺が出すものはいつも美味い美味い言いながら食うゴン爺だが、さすがに実物を見た後だと『本当か?』と思っているようだ。

確かに、あれを見ちゃうとねぇ。

でも……。

「ゴン爺って、確か鑑定持ってたよな? してみたか?」

そうコソッとささやいてみる。

『いや。まさか……』

そうボソリつぶやきながらも鑑定してみたのだろう。

ゴン爺は、その強面の爬虫類っぽい縦長の瞳孔の目を見開いて驚いている。

『これは! いやはや恐れ入ったわい。この見てくれで美味いなどとは誰も思わんぞい……』

確かにねぇ。

最初にスッポンを食った人って、マジで勇者だよ。

『我は鑑定で美味と出てたから食ってみたことがあったが、そのままではそれほどでもなかった。此奴が料理すると美味くなるのだ』

『なるほど。さすがだのう、主殿』

「いやぁ」

改めてそんなこと言われると照れるじゃん。

一方、そんな俺たちを遠巻きに見ていた“アーク”の面々。

「お、おい、マジでビッグバイトタートルを食うみたいだぞ」

「ムコーダさんの飯は美味いが、あれを食うのはな……」

「儂、大抵のものは食うが、さすがにゲテモノ食いは勘弁じゃぞ」

「私も……」

引き攣った顔でコソコソとそんなことを話し合っているが……。

「全部聞こえてますからね。ったく、そんなことばっかり言ってると、食わせてやらないからな」

スッポン鍋、めちゃくちゃ美味いってのに。

食わず嫌いは損するからね、ホント。

そうこうするうちにスッポン鍋が出来上がった。

「うーん、美味そう」

『ようやくか!』

『お鍋~!』

『よし、食うぞ!』

『楽しみじゃのう~』

今か今かと出来上がるのを待っていた食いしん坊カルテットは、すでに準備万端の様子。

「まったく今よそってやるから待ってなさいって」

深めの大皿によそい、みんなへ配る。

『うむ。相変わらず美味いぞ!』

『そうそう、コレコレ! この味! 美味いんだよなー』

『美味しーねー!』

スッポン鍋の味を知っているフェルとドラちゃんとスイは大喜びだ。

『ムムゥ。確かにこれは美味いのう! 見た目だけで判断するのは間違いということか』

スッポン鍋を食いながら唸るのはゴン爺だ。

そういうこと。

見た目だけじゃわからないってことだね。

まぁ、確かに俺も鑑定で美味いってあっても昆虫とかは勘弁だけど。

そして、こちらにもスッポン鍋を。

「今晩の夕飯のスッポン鍋です。どうぞー」

“アーク”の面々は湯気が立ち上るスッポン鍋を、引き攣った顔で凝視しながらゴクリと唾を飲み込んだ。

それ、美味そうのゴクリじゃないよね。

ったく、失礼しちゃうな。

「鍋、というと、この間ご馳走になったのと同じだな……」

ガウディーノさんがそうつぶやく。

「ええ。これはあれと同じくらい、いや、人によってはこっちの方が美味いって言うかもしれないくらいの鍋ですよ。それにですね、味もさることながら、滋養強壮効果もあるうえコラーゲンっていう肌にいい成分がたくさん入っているので、食った翌日は肌プルンプルンです」

そう言うとキラリと目を光らせたのは、フェオドラさんだった。

「肌、プルンプルン……」

スッポン鍋をジーッと見つめながらフェオドラさんがつぶやいた。

美形なエルフさんでも、そこはやっぱり気になるんですね。

一応お孫さんまでいる年齢みたいですから、お肌の曲がり角ということなのかな?

「ええ。プルンプルンです」

俺がそう言うと、カッと目を見開いたフェオドラさんがスッポン鍋を自分の取り皿によそった。

そして、意を決したようにスッポン(ビッグバイトタートル)の肉にかぶりついた。

…………。

「お、おい、どうなんだ?」

ガウディーノさん、ギディオンさん、シーグヴァルドさんが前のめりになってフェオドラさんの感想を待っている。

「みんなは食べなくていい。私が食べる」

そう言うと、取り皿に取った分を一瞬で食い終え、無言のままさらにおかわりをよそった。

いつものフェオドラさんだねぇ。

スッポン鍋、美味いでしょ。

「おいおいおい、私が食べるって感想になってねぇじゃねぇか! ってか、いきなり勢いよく食い始めるって、美味いってことなんだろ!」

黙々とスッポン鍋を食うフェオドラさんに、目の前の鍋が美味いものだと察知したギディオンさんが吠える。

「こうしちゃおれんっ。儂も食うぞ!」

シーグヴァルドさんもスッポン鍋を食うべく取り皿によそう。

「おい、フェオドラは食い過ぎだぞ。もうちょっと遠慮しろ」

「そ、そうだぞ! 俺らも食うんだからな!」

本当に一人で食べ切る勢いのフェオドラさんに、たまらず注意するガウディーノさんとギディオンさん。

そして……。

「こ、これが本当にビッグバイトタートルの肉なのか……」

「う、うめぇ!!!」

「あの見てくれからは想像もできん美味さじゃ……」

フハハハハハハ、だから美味いんだって何度も言ったでしょ。

『おい、おかわりだ!』

『儂もお願いするぞ』

『俺も!』

『スイも~』

「はいよー、今行く」

呆然とするガウディーノさんとギディオンさんとシーグヴァルドさんを残し、食いしん坊カルテットからのおかわりの要請に応えるべく立ち上がった俺だった。