軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百九十四話 使徒様

本日の俺たち一行は、ロンカイネンの街の教会と孤児院巡りだ。

ここのところ恒例になっているお布施&寄付回りだな。

俺たちはそんな感じで、“ アーク(箱舟) ”の面々はというと、次はダンジョンだってことで、その準備の買い物へと出かけている。

今朝、みなさんがダンジョンに行く準備としていろいろ買い物に出かけるっていうんで、食事は俺が担当するんで食料品は買いこまなくていいですよって伝えたら、“アーク”の面々の喜びようったらなかったよ。

そんなに俺の飯を食えるのが嬉しいのかなって思ったら、よくよく聞いてみると、もちろんそれもあるけど、何よりダンジョン探索で一番の荷物になっていた食料品が丸っとなくなるってことに喜んでいたようだ。

“アーク”では、ダンジョンに向かうときの荷物は個々で持つ最低限の荷物以外、フェオドラさんのアイテムボックス頼りだったそう。

フェオドラさんのアイテムボックスは、エルフのものとしては少し小さめなものらしい。

時には1か月以上にも亘るダンジョン探索だ。

その食糧だけで、アイテムボックスの大半が占められてしまうという。

しかも、その食糧も味は二の次で、干し肉やら硬いパンなど日持ちするものが中心になってくるそうだ。

そして、その他の空きに予備の武器やらポーション類、それから潜るダンジョンに合わせて必要になりそうな細々したものを詰め込むと隙間もないくらいいっぱいいっぱいになってしまうとのことだった。

ドランのダンジョンのときに、冒険者ギルドでダンジョンに潜る際の食糧の大切さは聞いていたけど、実際に冒険者であるみなさんから聞くと、その重要性や切実さがさらに伝わってきた。

それでもガウディーノさんは、「アイテムボックス持ちのメンバーがいるうちは、恵まれてるけどな」と言っていた。

加えて、「儂らは個々に飲料水用の魔道具を持っているのもデカいのう。早々に手に入れて正解のアイテムじゃった」とシーグヴァルドさんがしみじみ話していたけど、確かにそうだ。

人間、食糧だけでは生きていけないもんな。

水も必要だ。

飲料水用の魔道具を所持していない冒険者は、水を樽に詰めて持っていくという話だから、シーグヴァルドさんがしみじみと話す気持ちも分かるというものだ。

確か、普通の水魔法の水は飲料水にはできないってフェルが言ってたから、水魔法ができるメンバーがいれば水問題は即解決というわけでもなさそうだしね。

うちは加護持ちばかりだから、その辺は心配する必要がないけど。

俺のネットスーパーもあるし。

普通って言ったらあれだけど、“アーク”のような冒険者からの話はいろいろと勉強になることが多かったよ。

メンバーにアイテムボックス持ちがいない場合は、マジックバッグ頼りになるそうだけど、ダンジョンで運良くマジックバッグを見つけられればいいけど、そうでない場合は当然購入するしかない。

そうなれば購入資金に大金が必要になるわけだ。

しかも、マジックバッグ自体がそれほど市場に出ていない現状もある。

アイテムボックス持ちのメンバーがいない冒険者にとっては、マジックバッグはダンジョン探索には必需品と言ってもいい代物で、取得した場合もなかなか売りには出さないそうだ。

そういうわけで、ダンジョン探索をする冒険者もなかなか大変なのだそう。

それでも、ギディオンさん曰く「アイテムボックス持ちのメンバーがいるかどうか、マジックバッグを持っているかどうか、その辺が冒険者としてCランクを超えられるかどうかにも関わってくるからなぁ」とのこと。

やはり、レベルを上げるにはダンジョンが一番だそうで、一定期間ダンジョンに潜れるかどうかが強さにも大いに関わってくる。

強さに関わってくるということは、すなわち冒険者ランクにも大いに関わってくるということだ。

マジックバッグ、うちにはいくつもあるけどね。

フェルたちが狩りをするときの獲物回収用に必要だからさ。

まぁ、必要なもの以外は買い取りに出しているけど、みなさんからの話を聞いて、これからもそうしようと思った。

とにかくだ、世間では高ランク冒険者に分類されるAランク冒険者パーティーの“アーク”の面々でさえこんな感じだとは、冒険者稼業ってのも世知辛いものだ。

なんにしてもガウディーノさんたちの話を聞いていて、「俺ってかなり恵まれているな」としみじみ思ったよ。

ま、そんな話を朝飯がてらに話して、その後にそれぞれの用を済まそうと街へと繰り出してきたってわけだ。

オーソンさんから事前に聞いていた情報で、この街には風・土・火・水の女神様と、小国群に近いこともあって割と大きい戦神様の教会があることが分かっている。

お布施&寄付回りの後には、ご本人たちというか、神様たちへのお供えの仕入れ作業をする予定だ。

ダンジョンに行く前にお供えをしておかないと延び延びになりそうだから、この際済ませてしまおうと思ってね。

それこそ神様たちも切実に待っていらっしゃるから、日程が延びると面倒臭くなりそうだし。

ということで、昨日のうちに神様たちからリクエストも聴取済みだ。

いつもと同じリクエストではあるけど、品数があるからねぇ。

仕入れ作業をするためにも、お布施&寄付回りをさっさと終わらせますか。

まずは、ここから一番近い土の女神キシャール様の教会からだ。

「みんな、土の女神様の教会から行くよ」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「思ってたよりも時間がかかったけど、次の戦神様の教会で最後だな」

『さっさと済ませて帰るぞ……』

『うむ。それがいいのう……』

げんなりした様子のフェルとゴン爺。

『おいおい、フェルもゴン爺も大丈夫か~?』

『大丈夫~?』

フェルとゴン爺に乗ったドラちゃんとスイから声がかかる。

『彼奴ら、鬱陶しいのだ……』

『使徒様、使徒様とのう……』

そうつぶやくフェルとゴン爺に苦笑い。

最初はちやほやされてイイ気になっていたくせに何を言ってるんだか。

ルバノフ教の例の一件で、フェルとゴン爺は創造神デミウルゴス様の使徒認定されているらしく、訪れた女神様たちの教会でもえらい騒ぎだったのだ。

デミウルゴス様との話し合いで、四女神等ほかの宗教の主要な教会関係者には声が届くようにってなっていたから、ルバノフ教の例の一件は筒抜けだったからねぇ。

最初に向かった土の女神様の教会からして一番偉い司祭様をはじめ、教会関係者がずらりと勢揃いでフェルとゴン爺を前に膝を突いて、そりゃあもうすごかった。

フェルとゴン爺も悪い気はしていない様子だったから、ついつい俺もノリでお布施&寄付を「使徒様より」って渡しちゃったもんだからさ……。

もうえらい騒ぎだよ。

司祭様は嬉し泣きというより、号泣だもん。

教会関係者に囲まれて、なかなか帰れないしで大変だった。

ようやく次に向かった水の女神ルカ様の教会でも、同じように熱烈な歓迎を受けてなかなか帰れなかったしさ。

それにさ、ここでも使徒名義でお布施&寄付をしたから、また騒ぎになったし。

だって土の女神様の教会で使徒名義でお布施&寄付をしてあれだけ大騒ぎになったわけだろ。

いきなり俺名義でなんてしたら、それはそれで大問題になりそうな予感がしたからさ。

そんなわけで水の女神様の教会でも、最後は教会関係者に囲まれてなかなか帰れなかった。

それでも「次に行くところがあるので」って強行突破したんだけど、次に向かった風の女神ニンリル様の教会でも同じようなことになって、さらにその次の火の女神アグニ様の教会でも同様のことが。

教会関係者の“使徒様”猛攻勢には、さすがにフェルとゴン爺もげんなりしてしまったというわけだ。

そして、ようやく最後の戦神ヴァハグン様の教会。

中へ入ると、筋骨隆々のむさくるしい男どもが片膝を突いて左腕を胸にあてていた。

「使徒様、ようこそおいでくださいました」

中央にいた無精ひげが似合うひときわムキムキの中年男性がそう声を上げた。

『『う、うむ』』

先ほどまでの女神様たちの教会とは違った歓迎の仕方に少々戸惑い気味のフェルとゴン爺。

俺もではあるけど、今回はあくまで付き添いみたいな感じになっちゃってるから一歩引いた感じで見ているからね。

「我らは戦神の信徒、一つの言葉をいただくよりも一戦交えることこそが誉れ。是非とも私と」

おお~、このおっさんフェルとゴン爺にビビらず一戦申し込んだよ。

しかし、いきなり一戦申し込むとは血の気が多いな。

争いごとが多い小国群に近いことも影響してるのかね。

そんな風に考えていると、フェルとゴン爺が満更でもない顔をしていた。

『ほう』

『ふむ』

そう言ってフェルとゴン爺が見合う。

『して、どちらと遣り合いたいのだ?』

フェルがそう聞くと……。

「是非とも 古竜(エンシェントドラゴン) 様と」

おっさんはゴン爺を凝視していた。

す、すごい目力だ。

おっさんの返答を聞いて、少々不貞腐れるフェル。

『いいじゃろう。かかってくるがよい』

ゴン爺はノリノリでおっさんにそう告げる。

それと同時に、ゴン爺に乗っていたドラちゃんが俺の方へと飛んでくる。

『なぁんか面白いことになったな』

ドラちゃんはそう言うけど……。

「ゴン爺、ケガさせるなよ。ほどほどにな」

そう念話でゴン爺に伝えると、『分かっておるわ、主殿。だいたい此奴程度では儂に傷一つ付けられん。ただ、それが分かっていても儂に挑むその気概に応えてやるくらいはいいかと思ってのう』とのことだった。

そして、ゴン爺に挑むべく、ムキムキの無精ひげのおっさんが前に出てくると、それに続くように今度はムキムキのスキンヘッドのおっさんが声を上げた。

「私はフェンリル様に挑みたい!」

『フッ、いいだろう』

スキンヘッドのおっさんに、余裕でそう答えるフェル。

その時点でフェルに乗っていたスイを念話でこちらに呼び寄せた。

『あるじー、フェルおじちゃん戦うのー?』

「そうだよ」

『いいなぁ~。スイもやりたい』

「うーん、今回はフェルおじちゃんが戦おうって言われてるからね。スイは、ダンジョンでね」

この後のダンジョンは回避できなさそうだからね~。

『ダンジョンー! うんっ、スイ、ダンジョンでいーっぱいビュッビュッてやってやっつけるんだ~』

「ハハハ、そうしなね」

はぁ~、スイちゃんまたダンジョンで張り切っちゃいそうだね……。

「そうだ、フェルもケガはさせるなよ」

フェルにも念話で念押しすると、こちらも『分かっておる』と返ってきた。

無精ひげのおっさんが槍を構える。

スキンヘッドのおっさんはバスタードソードを構えた。

周りにいるむさ苦しい戦神の信徒たちは、固唾を飲んで二人を見守っている。

「いざっ」

「勝負!」

無精ひげのおっさんはゴン爺へ、スキンヘッドのおっさんはフェルへと向かっていった。

そして……。

ゴン爺は微動だにしないまま、頭で無精ひげのおっさんの鋭い突きを受ける。

フェルはその場を動かないまま、前足の爪一本でスキンヘッドのおっさんの斬撃を受けた。

ガキンッ―――。

スパッ―――。

無精ひげのおっさんの槍は、穂先からグチャッと潰れてしまった。

そして、スキンヘッドのおっさんのバスタードソードは中ほどからスパッと切断されてしまった。

呆然とする二人のおっさん。

そして、あんぐりと口を開けたむさ苦しい信徒たち。

いやいやいや、腕には自信あったんだろうけど、相手、 古竜(エンシェントドラゴン) とフェンリルだぞ。

とは言っても、さすがにこの状況はいたたまれないな。

などと思っていたら、フェルとゴン爺からの念話が入る。

『お、おい、今すぐ帰るぞっ』

『う、うむ。それがいいのう』

何やら焦った様子のフェルとゴン爺。

キョロキョロするフェルとゴン爺の視線を追うと……。

建物の陰や植木の陰からキラキラした目でフェルとゴン爺を見つめる子どもたちがいた。

はは~、子どもたちに集られる前に逃げようってことか。

ま、今回はそれに乗ってあげるか。

ということで、「使徒様からです」とお布施&寄付を近くにいた信徒に渡して、そそくさと戦神の教会を後にした俺たちだった。

『フゥ、助かった。小童どもは遠慮がないから苦手だ』

『確かに。儂ら相手でも臆することがないからのう』

今までにお布施&寄付で訪れた教会で散々にいじくりまわされてコリゴリしているようだ。

「別にいいじゃない子どもくらい」

『そうだぞ、子どもなんて適当にあしらっときゃいいんだよ』

『一緒に遊ぶと楽しいのに~』

俺とドラちゃんとスイの言葉に、苦虫を噛み潰したような顔をするフェルとゴン爺。

この世界で最強とも言える二大巨頭の天敵は、案外子どもなのかもしれないなと思いクスッと笑う俺だった。