軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百八十四話 バーサクマッドクラブ

ロンカイネンの商人ギルドは、聞いていた通りもの凄い混み様だったけど、冒険者ギルドのギルドマスターであるオーソンさんが一緒だったおかげで手続きもスムーズに進んだ。

フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイのうちの従魔ズが一緒だったことで、それを見た人たちが、逃げるように瞬く間に引いていったってこともあるけどね。

とにかくだ、家を借りるという目的はつつがなく終わった。

オーソンさんがいたこともあって、商人ギルドの担当者もかなりがんばってくれたのか、なかなかの良い家が借りられた。

話によると豪商が建てた家らしく、17LDKのデッカイお屋敷だ。

立地も、治安の良い地区に建っているうえに冒険者ギルドにもほどよく近い最高の場所。

ただし、庭だけは、フェルたちにとっては少々狭いということでぎりぎり及第点のようだ。

とは言っても、紹介できる家で一番庭が広い家がこの家だというのだから、どうしようもないんだけどね。

今まで他の街で借りてきた家と比べると、確かに少し狭いかもしれないけど、サッカーコートが丸々入るくらいの大きさはあるのだから、俺からしてみたら十分に広いと思うんだけど。

これだけの家なので、当然のこと家賃もそれなりにお高かった。

1週間で金貨117枚。

受けた依頼のこともあるし、魔道コンロの購入という何よりも重要なミッションがあるため、けっこうな金額だけどとりあえず1週間の予定で借りることに。

担当者の人が「すぐに借りていただけるなら」と115枚まで負けてくれたので、支払おうとしたらオーソンさんが代金は冒険者ギルドで持つと言い出した。

すったもんだの末に冒険者ギルド持ちになったものの、オーソンさんが金貨110枚まで値切ってたよ。

そこまでするなら、こっちで払うのに。

というか、冒険者ギルド持ちってことになると、さらに高ランクの依頼を回されそうで嫌なんだけどね。

先に受けた3件はしょうがないけど、魔道コンロの方が優先だから。

まぁ、そんな感じでロンカイネンでの家も決まり、初日は過ぎていった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「なぁ~、本当に行くのか? 昨日この街に着いたばっかりだし、今日くらい休みにしたっていいんじゃないのー」

朝飯に作り置きしていたダンジョン豚の生姜焼き丼をたらふく食って、食後にサイダーまで堪能したフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイは、早速とばかりに冒険者ギルドで受けた依頼に行くと言い出した。

『休みなどいらん。暇なだけだ。それよりも久しぶりにあれを食いたいからな』

『うむ。美味いと聞いたからのう。バーサクマッドクラブとか言ったか。儂もまだ食べたことのない魔物じゃし、早く味わってみたいのう』

『そうそう。美味いと聞けば早く食いたくなるってもんよ』

『スイも早く食べた~い』

ハァ、結局それなのね。

食欲が何よりも優先ってことかよ。

そういうところは、らしいっちゃらしいけどさぁ。

バーサクマッドクラブについて、あーだこーだとわいわい話すみんなを見て俺としてはガックリ。

今日くらいはのんびり過ごせると思ったのになぁ。

あーあ、みんな行く気満々だし、こりゃあ行くしかないわ。

『おい、早くしろ』

「はいはい、今用意するよ。ああ、行くって言っても、冒険者ギルドに寄ってからな」

『何故?』

「何故って、バーサクマッドクラブがどこら辺にいるかわからないだろ」

『そんなものは行けば気配で分かる』

『うむ、そうだぞ主殿』

はいはい、そうですか。

うちのご長寿たちはチートでしたね。

『早く食ってみたいな!』

『楽しみだね~』

ドラちゃんとスイは呑気にそんなことを言ってるし。

『まだか?』

『主殿、早く行こうではないか』

も~、そんな急かさないでよ。

「分かってるって。すぐ用意するよ」

こうして俺たち一行は、朝飯を食って早々にバーサクマッドクラブが生息する大河エレメイ川へと向かった。

『いたぞ。あれだ』

聞こえてきたフェルの念話に、しがみついていたフェルの背中からゆっくりと体を起こして前方を見た。

一面に広がる 水面(みなも) 。

「これが、エレメイ川……」

川と聞いていたから、川なんだろうなとは思うものの、対岸がまるで見えないそこはドデカい湖か海だと言われても素直に納得してしまいそうなくらいだった。

その大きさに圧倒されていると、フェルの念話が。

『おい、何を呆けている。川などどうでもいい。獲物はあっちだ』

フェルが鼻先を向ける方向に目をやると……。

ん?

ずっと目を瞑ってたから、目がちょっとおかしいのかも。

目を擦ってからもう一度前方を見た。

…………。

遠近感、おかしくね?

4トントラックくらいの大きさはありそうなガザミに似たカニが水辺をうろついていた。

そのとんでもなくデカいカニは、鋏を閉じて開いてガチガチと音を鳴らしながら周囲を威嚇している。

「何あれ。デカ過ぎないか?」

4トントラックのカニって、魔物だからと片付けるにしては大き過ぎるだろ。

『うむ、前に食ったものよりもデカいな。食いでがありそうだ』

『あれだけの大きさなら儂らも腹いっぱい食えそうだのう』

『ああ。でも、あの硬そうな殻は食えなさそうだぞ』

『硬くても美味しいならスイ食べちゃうよー』

『あの殻か。食えなくはないが、あれ自体は美味いものでもなかったな。あの殻の中の身が美味いのだ』

おいおい、フェル、殻まで食ったのかよ……。

そういや、俺と出会うまではみんな生でそのまま食ってたんだもんね。

そりゃそうか。

「って、カニの殻は普通食わないからね。中の身だけを食うんだぞ」

『む。なら、お主に任せるから、美味い料理を食わせろ』

「分かってるよ」

『フハハ、楽しみじゃのう』

『ああ。さっさと狩って食おうぜ!』

『スイがビュッてやって倒してくるー!』

「ちょっ、スイ?!」

スイが一足先にとばかりにススーッとバーサクマッドクラブへと向かって行ってしまった。

「みんなっ!」

『分かってるって。スイ、一人だけで行こうなんてズリーぞ!』

そう言いながら急ぎスイの後を追って飛んでいくドラちゃん。

『おー、スイもドラも元気じゃのう』

『ハァ、まったく彼奴らときたら……』

「ちょっと、フェルもゴン爺もそんな落ち着いてないで、スイを助けに行ってよ!」

フェルから飛び降りて、フェルとゴン爺の体を押す。

『スイが強いのはお主も知っているだろうが』

『そうだぞ、主殿。スイは強い』

「そりゃあ分かってるけど、スイはまだ子供なんだよ! 早く!」

そう言いながらグイグイとフェルとゴン爺の体を押した。

『分かった分かった』

『まったく主殿は心配性じゃのう』

ようやくスイとドラちゃんの下へ向かったフェルとゴン爺。

遠巻きにみんなの様子を見ていると、声が聞こえてくる。

『そんな攻撃、スイには通じないよー』

バーサクマッドクラブがガチン、ガチンと鋏を振り回して足元にいるスイを挟み込もうとしている姿が、こちらからも見えた。

『へッ、俺にだってそんなのろまな攻撃は通用しないぜ!』

今度はバーサクマッドクラブの頭上を飛び回るドラちゃんを挟もうとしている姿が。

『いっくよー!』

バーサクマッドクラブがドラちゃんに気を取られているうちに、スイが攻撃しようと触手を伸ばした。

『あっ、スイ、抜け駆けだぞ!』

『待て、スイ! 酸の攻撃はやめておけ! 其奴は身を食うのだから、溶かしてしまってはもったいないぞ! 倒すならあまり傷をつけない方法でだ!』

『んー、それじゃあお水の魔法だよー! えいっ!』

ヒュンッ―――。

バーサクマッドクラブがドスンッと音を立てて仰向けに倒れる。

『わーい、やったー!』

仰向けになって息絶えたバーサクマッドクラブの前で嬉しそうにポンポン飛び跳ねているスイが見えた。

「え? 何やったのスイちゃん……」

さっぱり見えなかったんだけど。

とりあえず、凶暴そうなバーサクマッドクラブの脅威がなくなったので、俺もみんなと合流した。

『ふむ。穴が開いているが、小さいな。まぁまぁの狩りだ。スイ、よくやった』

バーサクマッドクラブを検分しながらフェルがそんなことを言っている。

『わーい! フェルおじちゃんに褒められちゃった~』

スイがひと際高くポーンと飛び跳ねて喜んでいる。

『スイもなかなかやりおるのう』

『えへへ、ゴン爺ちゃんにも褒められちゃった~』

嬉しさを爆発させたスイがバインバインと高く飛び跳ねていた。

そんな中、不貞腐れているのがドラちゃん。

『ったくよー、一人で倒しちまいやがって、スイはズルいんだよ』

『スイのが早かったんだから、ズルくないもーん』

『次の獲物は俺が狩るからな!』

『えー、次もスイが狩るよー!』

『絶対に俺だ!』

『スイだもん!』

顔を寄せ合うようにそう言い合うドラちゃんとスイを引き離す。

「はいはい、ケンカしないの」

そう言いながら、息絶えたバーサクマッドクラブに目を向ける。

「それにしてもデカいなぁ~」

4トントラックのカニをしげしげと見やる。

「スイ、これどうやって倒したんだ?」

『うんとねー、フェルおじちゃんが溶かしちゃダメって言うから、お水の魔法で倒したの~』

「お水の魔法?」

『うんっ。お水をねビューッてカニさんに当てたの!』

お水をビューッか。

超高圧水鉄砲ってところか?

しかし……。

コンコンッとバーサクマッドクラブの殻を叩く。

「金属並みに硬そうなこの殻を貫通する水鉄砲って、どんだけの威力なんだよ……」

喜ぶスイを他所に、周りの影響でどんどんと戦闘特化になっていくスイがちょっぴり心配になってくる俺だった。