作品タイトル不明
第四百四十二話 勇者スイ
階段を下りた先の最下層である47階層。
最下層ということなのか、今までとは様相が違っていた。
「扉、があるな……」
『その扉の先に 階層主(ボス) がいるってわけか。ワクワクするじゃねぇか』
『スイ、がんばって倒すー!』
明るいドラちゃんとスイとは対照的に、フェルは黙ったまま前足で目の前の扉を押した。
開いた扉の先は、巨大な岩山をそっくりくり貫いたかのようなドーム状の洞窟になっていた。
「おお、めちゃくちゃ広いな……」
広大な洞窟に少し驚いていると、後ろでガコンッという音がした。
『扉、閉まっちゃったねー』
固く閉じてしまった扉を触手でツンツンと触るスイ。
「え、マジか」
試しに扉を押してみるがうんともすんとも言わない。
「おい、どうするよ、フェル?」
声を掛けるが、フェルは相変わらず厳しい顔をしたままだ。
そして前方にある巨大な黒い岩を睨んでいた。
その巨大な黒い岩は広大な洞窟の中央にシンボルのように聳え立っていた。
「お、おい、あの黒い岩に何かあるのか?」
『黙っておれ』
フェルにピシャリとそう言われて俺は黙る他なかった。
まんじりともせず黒い岩を見つめ続けるフェル。
『お、おい、ドラちゃんとスイは何か分かるか?』
『いや、わからん』
『スイもわかんなーい』
微動だにしないフェルの後ろで念話でこっそりと話す俺たち。
どうしたものかと思っていると……。
「グギャオゥゥゥゥ」
「な、何だ?」
『ゲェッ、ありゃあ 黒竜(ブラックドラゴン) じゃねぇか!』
黒い岩の陰から飛び出してきたそれにいち早く気付いたドラちゃんが念話で叫ぶ。
「ブ、ブラックドラゴンだって?!」
目を凝らすと、巨大な黒い岩の前には真っ黒の禍々しい竜がいた。
「フェルはあれを警戒していたのかっ」
『おい、ヤベェぞ。前に狩った 赤竜(レッドドラゴン) 。あいつもドラゴン種の中では威張りくさってたんだけどよ、 黒竜(ブラックドラゴン) はさらに威張りくさってやがるんだ。だけどな、 赤竜(レッドドラゴン) と 黒竜(ブラックドラゴン) には決定的な違いがある。 黒竜(ブラックドラゴン) はドラゴン種の中でもめちゃくちゃ強えってところがな』
ドラちゃん曰く、悔しいけどドラちゃん単独では 黒竜(ブラックドラゴン) にはまだまだ敵わないだろうとのこと。
『しかもだ、これは俺も聞いた話だけどな、 黒竜(ブラックドラゴン) は自分の魔力の大半を使うことで即死級の呪いを使うことができるって話だ』
「そ、即死級の呪い?!」
『お前が身に着けてるそのペンダントがこのダンジョンで出てきたのも、最終階層に 黒竜(ブラックドラゴン) が出ることに繋がってたのかもな』
ドラちゃんにそう言われてハッとしながら胸元のペンダントの上に手を置いた。
39階層の森の中、アリの巣を殲滅したときに出た宝箱の中から出てきた解呪のペンダント。
どんな呪術も1度限り無効化するマジックアイテムだ。
俺の持ってる神様たちの加護(小)の重ね掛けで普通の加護と同等だとはチラッと聞いているけど、正直めっちゃ怖いし。
ということで、とりあえず加護(小)の俺が持つことになったんだ。
1回きりの使い捨てアイテムとは言え、あるとないとでは俺の気持ち的には大違い。
少しだけ心に余裕はできたものの、 黒竜(ブラックドラゴン) が強敵であることは間違いないことだ。
「で、どうすんだ? あの 黒竜(ブラックドラゴン) が最終階層のボスってことだろ? なんかめちゃくちゃやる気満々な雰囲気だぞ、あれ」
余裕綽々としながらも絶対に俺たちを逃しはしないという気概が伝わってきた。
前足を踏み鳴らしながら「ギャウギャウ」と声を上げる様はまるで「早くかかってこいよ」と言っているように見える。
『どうするって、あれがここのボスならやるしかねぇだろ』
『あのドラゴン強そう、でも、スイがんばってやっつける!』
ドラちゃんとスイはヤル気だ。
でも、トリオの中で一番の戦闘力を誇るフェルは未だに沈黙したままだった。
「おいっ、フェル、どうするんだよ?!」
黙ったまま動かないフェルに気を揉んで、そう聞いた直後だった。
ビタンッ―――。
黒竜(ブラックドラゴン) に黒い大きな何かが直撃して吹っ飛んだ。
吹っ飛ばされた 黒竜(ブラックドラゴン) は洞窟の壁にぶち当たってドスンと落ちる。
落ちた 黒竜(ブラックドラゴン) はピクピクと痙攣して、どう見ても瀕死の状態だった。
あまりの光景に口をあんぐりと開けて絶句する俺とドラちゃん。
スイもメタルスライムかと思うほどにピキリと固まっていた。
『うるさくするなと何度言えば分かるのだ? まったく馬鹿者めが』
耳に聞こえる重低音ボイス。
『フハハハハハ、この声はやはりお主か。 黒竜(ブラックドラゴン) を赤子の手をひねるように一撃で戦闘不能にするとは、少しは強くなっているようだな、爺』
「フェ、フェル?」
何が起きているのか訳が分からない俺とドラちゃんとスイは、おろおろするばかりだった。
『ぬ、この儂を爺とぬかすその声は……』
再び響く重低音ボイス。
そして……。
「え? は?」
洞窟の中央にあった巨大な黒い岩だと思っていたものが動き出した。
後ろ向きだったそれがゆっくりと動き出して、俺たちの方、正面を向いた。
巨大な黒い岩だと思っていたものは、 黒竜(ブラックドラゴン) が子どもだと思えるほどの超巨大なドラゴンだった。
「ド、ドドド、ドラゴン……」
その圧倒的な大きさと存在感に思わず腰が抜けて尻もちをついてしまう俺。
『 古竜(エンシェントドラゴン) だ……』
『おっきードラゴンさんだぁー……』
「あれが、エンシェント、ドラゴン……」
デミウルゴス様が言っていた最下層のってこのことかーーーっ。
やっぱり来なきゃよかったと深く後悔する俺だった。
古竜(エンシェントドラゴン) の出現に呆然とする俺とドラちゃんとスイを他所に、フェルと 古竜(エンシェントドラゴン) の会話は進む。
『いつぞやのフェンリルか。こんな所で会うとはのう』
『フハハ、そのいつぞやの続きをしようではないか』
獰猛な顔をしたフェルがそう言う。
『グハハハハハハ。続きか、いいだろう。儂も寝るのは飽きてきたところだったからのう。運動がてらに相手をしてやろうではないか』
古竜(エンシェントドラゴン) もフェルに触発されてかやる気満々の様子だ。
今にも戦いを始めそうな二大巨頭に、ガクブルの俺。
「な、なぁ、フェルと 古竜(エンシェントドラゴン) が戦いをおっぱじめたら、俺ら無事で済むのかな?」
引き攣った顔をドラちゃんに向けてそう聞いてみる。
『ど、どうだろうな? フェルの結界が 古竜(エンシェントドラゴン) の攻撃に耐えられるなら大丈夫だろうけどよ。……まぁ、さすがに無理だろうけどな』
「だよねぇ~……って、ホントどうするよ?! フェルの結界もダメなら、俺らを守る物が何もないってことだぞ! しかも扉も閉まって開かないし、逃げ場がないじゃんかっ」
万能とも言えるフェルの結界だけど、フェルとガチでやって引き分けるようなヤツの攻撃を想定してるはずもない。
そもそもそんな結界張ったらどんだけ魔力が必要になるんだよって話だ。
いくら魔力豊富なフェルでもそんなことは無理に決まっている。
結界がダメなら逃げられればいいけど、最終階層の入口の扉は閉まってビクともしない。
「な、なんか今にも始まりそうなんだけど、ど、ど、どうするっ? どうしよう?!」
『そ、そんなこと俺に聞くなよ! 俺だってどうしたらいいかわかんないんだからようっ!』
フェルと 古竜(エンシェントドラゴン) というまるで怪獣同士のような戦いが始まったら、俺たちにも被害が及びそうというか確実に被害を被るだろう状況にあたふたする俺とドラちゃん。
『そ、そうだ! お前が行って止めてこいよ!』
「ハァ? な、何で俺が行くんだよ?!」
この期に及んで突拍子もないことを言い出したドラちゃんにさすがの俺もイラッとくる。
『だってお前が主だろーが。従魔であるフェルの主がお前なんだから、止めるのも主の役目だろー!』
「何だよそれー! こういう時ばっかり主って言うなよぉー!」
『主は主なんだからしょうがないだろ! 早く行って止めてこいって。早く止めないと俺ら無事じゃ済まないんだぞ!』
「そんなこと言ったって、あんなのの間に止めに入れるかよー! そうだ! どうしても行くならドラちゃんも行こう! うん、それがいい!」
『ハァ? 何で俺が行かなきゃならないんだよー! 絶対行かないかんな!』
そんな感じで俺とドラちゃんがすったもんだしていると……。
『フェルおじちゃんも、ドラゴンのおじちゃんも、戦っちゃダメーーーッ!!!』
一触即発のフェルと 古竜(エンシェントドラゴン) の間に割って入ったのはスイだった。
「スイーッ?!」
いつの間にかとんでもないところに割って入っているスイに驚愕する。
『何じゃこのちっこいスライムは』
『我の仲間だ。手を出すなよ。……スイ、危ないから下がっているのだ』
『スイ、どかないもん! フェルおじちゃんも、ドラゴンのおじちゃんも、戦っちゃダメなの! あるじが困ってるんだから! あるじを困らせたらダメなんだからねー!!!』
「スイちゃん……」
俺のためにフェルと 古竜(エンシェントドラゴン) を相手に怯むどころかプンスコ怒るスイにちょっとホロリとくる俺だった。