軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百三十九話 水炊きで体の芯までポッカポカ

『おい、今日はここまでだ』

『そうだな。日も暮れてきたし、そうしよう』

短い念話のやり取りのあと、フェルの足が止まった。

辺り一面銀世界の45階層に来て3日目。

寒さの苦手なドラちゃんのためにも、この極寒の階層を抜けるべくひたすらに進んでいた。

フェルの背から降りて、ググッと背中を伸ばす。

「く~っ」

同じくフェルの背に乗っていたスイが俺の真似をして、プルプルボディを縦に伸ばして反らせている。

骨も筋肉もないんだから背中がこるなんてことないのにね。

そんなスイを見てクスリと笑う。

ちなみに俺の背中に引っ付いていたドラちゃんだけど、途中、寒さで気が遠くなったドラちゃんが落ちそうになるという事件があったことから、スイと交代して鞄の中にいてもらっている。

ネットスーパーで購入したフリースジャケットを毛布代わりにくるまって鞄の中でぐっすり寝てるよ。

ドラちゃんにとっては少々手狭なようだけどね。

「さてと、準備しちゃうか。フェル、結界を頼むよ」

『うむ』

フェルの張った結界の中で、俺はいそいそと野営の準備にとりかかった。

まずはネットスーパーで購入したブルーシートを敷く。

そして、その上にここ45階層で入手したスノージャイアントホーンラビットという魔物からドロップした毛皮を敷き詰めていく。

スノージャイアントホーンラビットは、この階層でやたらと出てくるウサギの魔物だ。

早く進もうとする俺たち一行の前にちょいちょい出て来ては進行を妨げてきた。

スノーとあるように、毛皮はもちろん角まで雪のように真っ白で大きさは大型犬くらいある。

Bランクの魔物で、フェルたちにとったら強さはそこまでではないものの、雪景色に溶け込むような真っ白な姿なのと隠密のようなスキルがあるのか近くに来るまで気付かないのがやっかいなのだ。

コッソリ近づいてきて鋭い角を向けて突進してくるんだもんな、怖えよ。

まぁ、そうは言ってもフェルとスイの敵ではなかったけど。

それでもここの階層はスノージャイアントホーンラビットにとっては楽園らしく、かなりの数が生息しているのか俺たちの前にも度々出てきたものだから、それに伴ってスノージャイアントホーンラビットのドロップ品もけっこうな数が手に入ったわけだ。

毛皮、角、肉、時々魔石のドロップ品の中でも、毛皮が一番ドロップ率が高かった。

その溜まった毛皮の一部を少しでも暖をとるためにブルーシートの上に敷いて利用しているわけだ。

スノージャイアントホーンラビットの毛皮は水気に強いのと保温性が高いこともあって、これを敷くだけでもかなり快適空間になるので重宝している。

ちなみに敷きつめた毛皮は、スイの分身体によってキレイに掃除されてるから清潔でフッカフカの肌触りになっているぞ。

そのフッカフカの毛皮の上に布団を敷けば寝床の完成だ。

手持ちの布団と毛布にさらにここに来て買い足した毛布もかぶってみんなでくっついて寝ればそこそこ暖かく眠れる。

寝床の準備ができたところで、鞄の中にいるドラちゃんをそっと起こして声をかける。

「ドラちゃん、寝床ができたぞ」

『あぁ……』

もそもそと起き出したドラちゃんがフリースジャケットを纏いながら鞄から出てくる。

そして、すぐさま出来上がった寝床の布団の中へと潜り込んでいった。

「ドラちゃんのためにも、この極寒の階層から早く抜け出したいな」

『明日か、少なくとも明後日にはこの階層からは抜けられそうだ。だが、今までのことを考えるとな……』

「この下の階層も同じような極寒の可能性が高いってことだろ?」

『うむ』

ここのダンジョンは同じ環境の階層が2階層続くことが多いからな。

「まぁその時はその時だよ」

『それもそうか。して、飯はまだなのか?』

「寝床の準備が終わったところなんだからこれから作るの」

ったくフェルは気が早いんだから。

「何にしようかなって、やっぱり鍋かな。体が温まって手っ取り早く作れるつったらやっぱ鍋だもんなぁ」

この階層に来てから連日鍋だけど、体を温めるなら鍋が一番だしね。

何より美味いし簡単だしさ。

『鍋か。あれは温まるし美味いから悪くないな。何なら昨日と同じく亀の肉の鍋でも良いぞ』

『スイもお鍋でいいよー。亀のお肉のお鍋美味しいもんねー』

「スッポン鍋か。美味いけど連日っていうのもねぇ。それに貴重な美味い肉なんだから、こういうのはたまに食うのが美味いんだし」

『なら何の鍋にするのだ? 肉が入ってるのは絶対条件だぞ』

「そりゃあ分かってるって」

君たちは主食が肉だもんね。

「それはいいとして、何の鍋にしようかな…………」

アイテムボックスをあさる。

「ふむ。これ使うか」

取り出したのは、この階でドロップされた採れたて新鮮な肉。

スノージャイアントホーンラビットと並んでこの階層でやたらと出てきたスノーコッコという俺の腰の辺りまである大きさのニワトリみたいな魔物のドロップ品だ。

このスノーコッコもトサカまで真っ白で雪景色に溶け込んで気付きにくかった。

『おい、その肉はここの白い鳥の肉だろう? それは焼き鳥にすると言ってなかったか?』

「ああ、もちろん焼き鳥にもするよ。でも、それは地上に出てからの話だからさ。たくさんあるから、今日の鍋にも使おうかなって。鍋にしてもきっと美味いぞ」

ちょっと味見した感じでは鶏肉と変わらないから、割となんにでもいける肉だからな。

『むぅ、その分の焼き鳥用の肉が減るのか。よし、明日からは白い鳥を集中的に狩るとしよう。スイもいいな』

『分かったー。明日は白い鳥さんいっぱい倒すー!』

香ばしく焼けた焼き鳥はフェルも楽しみにしていたらしく、その焼き鳥用の肉が減るのはいただけないらしい。

スイと一緒にスノーコッコを集中的に狩る宣言だ。

スノーコッコにとってはどえらい迷惑な話だろうけどさ。

『それで、どんな鍋にするのだ?』

「この肉を使って水炊きにしようかなと思ってな。あっさりしてるけど美味い鍋だぞ~」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

ネットスーパーで水炊きの材料を購入したら、いざ調理開始だ。

とは言っても、材料を切って煮るだけだから簡単なんだけどね。

まずは、土鍋に水と昆布を入れて30分程度置いておく。

その間に肉と野菜を切っていく。

皮の付いたスノーコッコのモモ肉を大きめの一口大に切って、白菜はざく切り、水菜は5センチくらいの長さに切って、長ネギは斜め切りに。

豆腐は3センチくらいの角切りにして、シメジとエノキは石づきを切り落としてほぐしておく。

肉と野菜を切り終わったところで、水と昆布を入れていた土鍋に顆粒の鶏がらスープを入れて火にかける。

専門店で食うような博多風の水炊きみたいな白濁スープにするのは時間も手間もかかってさすがに無理だから、鶏がらスープを足してコクをプラスする。

家庭で食う分にはこれで十分美味いぞ。

土鍋が沸騰する前に昆布を取り出して、沸騰したらスノーコッコの肉を入れる。

あとはアクをすくいながら肉を煮ていき火が通ったら、残りの具材を入れて火が通れば出来上がりだ。

「よし、出来たぞ~」

その声に布団にくるまっていたフェルとドラちゃんとスイが集まってくる。

「これはこのポン酢をかけて食うんだ。よそうからちょっと待っててな」

湯気が立ち上るグツグツと煮える土鍋から、水炊きをそれぞれの皿へと盛っていく。

そしてポン酢をかけて……。

「はい」

みんなの前に皿を置くと、すぐさまがっついている。

フェルとドラちゃんはアチッとなってフゥフゥ冷ましているけどな。

『美味しー。この鳥のお肉とちょっと酸っぱいタレがとっても合うね~』

熱いのがへっちゃらなスイは一足先に水炊きを味わっている。

『うむ、確かに。これはいくらでも食えそうだ』

口をつけられる熱さになった水炊きを口にしたフェルが、さっそくガツガツと肉を貪っている。

『あ~、やっぱり鍋は体が温まるわぁ』

水炊きを味わいながらしみじみそう言うドラちゃん。

俺も水炊きをポン酢でいただく。

「アチッ……、でも、美味い。こう寒いときにはやっぱり鍋が一番だなぁ……」

軟らかく煮えた白菜をホフホフ言いながら味わい、ポロリとそうこぼした俺の言葉にフェルもドラちゃんもスイも同意している。

『よし、どんどん食うぞ。おかわりだ。今度は肉だけでいいぞ』

『俺もおかわり。俺は野菜もな。汁気の多い野菜を食うと体も温まるわ』

『スイもおかわりー。お野菜も食べるけど、でもお肉もいっぱいねー』

「はいはい」

みんなのリクエストを受けながらおかわりをよそって出してやる。

すぐさまガツガツと水炊きを味わうフェルとドラちゃんとスイ。

「さて、俺ももっと食おう。そうだ次はあれを……」

アイテムボックスから小さな瓶を取り出した。

「柚子胡椒。これをちょっとつけると味が引き締まってさらに美味くなるんだよねぇ」

柚子胡椒をちょっぴり付けたスノーコッコの肉をフゥフゥと息を吹きかけて冷ましてからかぶりつく。

「うん、美味い。ポン酢もいいけど、柚子胡椒も爽やかな柚子の香りとピリッとした辛味が利いて美味いね」

柚子胡椒で水炊きを食っていると、ジーッとこちらを見つめる視線を感じる。

『おい、それは何だ?』

さすがフェル、美味いものを嗅ぎつける能力はピカイチだな。

「柚子胡椒っていう辛い調味料だ。でも、辛さだけじゃなく柚子の爽やかさもあるんだぞ」

『ほぅ、これにつけて食うと美味いのか?』

その問いに「ああ」というと、フェルが柚子胡椒を付けろと言うように水炊きの入った皿を俺の方に鼻で押してきた。

フェルの希望に沿って柚子胡椒を付けてやるが……。

『もっとだ』

「もっとって、これくらいでいいか?」

フェルがそう言うものだから、柚子胡椒を量を増やす。

『もっと』

「おいおいおい、これ辛いんだぞ。大丈夫か?」

『大丈夫だからもっとつけろ』

フェルに促されて仕方なしにつける。

そのたっぷりと柚子胡椒のついたスノーコッコの肉をバクリと頬張るフェル。

『おおっ、ピリッとして美味いぞ!』

「いやいや、付け過ぎだからね……」

そうボヤくもののフェルにとってはその辛さが病みつきになったのか、結局残りの柚子胡椒はフェルに食われてしまった。

俺と『俺も食ってみたい』というドラちゃんの分として、こっそりネットスーパーで柚子胡椒を追加購入したけどね。

もちろん俺とドラちゃんは適度に付けて水炊きを美味しくいただいたよ。

辛いのが苦手なスイはポン酢をかけた水炊きをパクパク食ってたな。

そんなこんなで〆の雑炊まで水炊きをたっぷり楽しんで夕飯を終えた。

〆はうどんにしようか迷ったけど、雑炊にして大正解だった。

スノーコッコの肉のうま味と野菜のうま味が溶け込んだスープで作った雑炊は絶品で、体の芯まで染みわたる美味さだったよ。

夕飯を食い終えた俺とフェルとドラちゃんとスイは、水炊きで温まった体のまま身を寄せ合って眠りについた。