軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百二十六話 スイ激おこ

移動に費やすこと3日。

フェルの言ったとおり、40階層の森は39階層よりも広かった。

この3日で、皮やら角やら牙やらのドロップ品がわんさか溜まっていた。

肉があまりドロップしなかったことにトリオはブーブー言っていたけどこればっかりはね。

とにもかくにもようやくその広大な森を抜けた。

そして、その先で待ち受けていた階層ボスは……。

「な、何じゃありゃあ……」

木の陰から様子をうかがいながら、思わずつぶやいてしまう。

ポカーンと見上げるその先には、超巨大だと思った39階層のボスである4アームズベアーよりもさらに一回り大きな金色の鹿っぽい魔物がいた。

その金色の鹿っぽい魔物は、足元にある紫色の果実のなった低木をムシャムシャと 食(は) んでいた。

『ほ~、珍しい』

「知ってるの?」

金色の鹿っぽい魔物を見て目を見張る。

『昔、一度だけ見たことがある。本当なら戦り合ってみたかったのだが、逃げられた』

1000歳超えのフェルが1度だけしか見たことないってものすごいレアな魔物だな。

『あ~あれならやりそうだわ』

話を聞いていたドラちゃんがうんうんと頷きながらそう言った。

「何だよ、ドラちゃんも知ってるのか?」

『ああ。昔住んでた森にいたからな』

ドラちゃんの話では、その昔住んでいた森の 主(ぬし) のような存在があの魔物だったそうだ。

『あれは頭が良くて争いごとも好まないからな。基本的に自分から襲うような真似はしないし。きっと自分よりも明らかに強いフェルを見て逃げ出したんだろうよ』

そうは言っても、強い魔物であることは間違いないって話だけど。

『俺もよ、若かったんだよなぁ。あいつが戦ってるとこなんて見たことなかったもんだから、森の主とは言ってもたいしたことねぇと思ってたんだ。でもよぉ……』

そう言って苦々しい顔をしたドラちゃん。

何でもその森の主とやらは、オレンジ色の実のなる木の根元を 塒(ねぐら) にしていてその木を大切にしていたそうだ。

それこそ、その木に近付こうものなら誰であろうが容赦なく威嚇して追っ払うくらいに。

そんなに大切にしている木になっているオレンジ色の実は絶対に美味いはずだと当たりをつけたドラちゃんは、どうしてもそのオレンジ色の実が食いたくなったわけだ。

そして、森の主の目を盗んでオレンジ色の実をゲット。

だけどまんまと森の主に見つかって……。

『いやぁ、ものすっごい怒りようでな。あいつ、雷魔法使いであの金色の角の間にバチバチッて電撃が走るんだぜ。その強烈な電撃を俺目がけて容赦なく撃ちまくってきてよぉ。しかも、しつこくって結局1日中追い回されたんだぜ』

ドラちゃんがその時のことを思い出したのかブルリと震えた。

追い回されたおかげでオレンジ色の実は途中で落として食えず仕舞いなうえに、結局このことが原因で棲み処を引っ越しせざるをえなくなったそうだ。

まぁぶっちゃけドラちゃんの自業自得なんじゃとは思うけども。

さて、長命のフェルにも珍しいと言わしめ、若かりし頃と言ってもこの強いドラちゃんを追い掛け回したあの金色の鹿っぽい魔物は何て名前なんでしょうかね。

【 ズラトロク 】

Sランクの魔物。頭が良く、滅多なことでは襲わないが、大切にしている物に手を出すと激怒して執拗に攻撃を仕掛けてくる。

おぅ、ドラちゃんの説明そのまんまだね。

“大切にしている物に手を出すと激怒して執拗に攻撃を仕掛けてくる”だって。

ここにいるあのズラトロクが大切にしている物って何だろ?

それを避ければ戦わないで済むかもしれないし。

うーん……、あっ!

「な、なぁ、大切にしている物って……」

『あれな、果実が大好物なんだよなぁ』

森の主を思い出したようにドラちゃんがそうつぶやいた。

「ってことは、やっぱり足元に生えてる……」

『今も彼奴が食っているあの木だろうな』

フェルも同じ考えだった。

「ど、どうするよ? あの岩山の少し右手にある洞窟が下への階段に続く道だろ?」

『恐らくはな』

あの洞窟へ行こうとするなら、その手前に群生している紫色の果実のなった低木の間を通っていくしかない。

そうなればきっとというか絶対にズラトロクが怒るだろうなぁ。

『考えてもしょうがないだろう。倒さねば通れないというなら倒すまでだ』

フェル、もっともらしいこと言ってるように聞こえるけど、本音はただズラトロクと戦いたいだけだよね。

『飛べる俺ならあいつを避けて洞窟へって手もあるけど、お前らだとなぁ。フェルの言うとおりここはあいつを倒すしかなさそうだな。あいつはあの森の主じゃあねぇけど、ここで鬱憤を晴らさせてもらうぜ』

ああもう、ドラちゃんもやる気になってるし。

って、あれ?

こういうとこで1番やる気満々になっちゃうスイは?

フェルの背中にもいない。

俺の革鞄の中にもいない。

足元にもいない。

「なぁ、スイどこいった?」

『知らん。そこら辺にいるだろ』

『我も知らんぞ。……む、あれか?』

「どこどこ?」

『あそこだ』

「ちょっ、スイッ?!」

フェルが鼻先で指したのは、ズラトロクの足元に広がる紫色の果実のなった低木の上。

スイは低木の天辺に鎮座してズラトロクを見上げていた。

『ねぇねぇ、このむらさきの実って美味しいの? スイにもちょうだーい』

スイがズラトロクにそう念話で話しかけるのが聞こえてきた。

しかし、ズラトロクはというと……。

「キャーアアアアアア!!」

何とも耳に響く甲高い叫び声をあげていた。

そして、頭上に輝く2本の金色の角の間をバチバチッバチバチッと音を立てながら放電していた。

「お、おおおおおい、あれ、ヤバくないか?」

『めっちゃ怒ってんな、あれ』

『うむ、激怒しておるな』

「いやいや、何でそんなに冷静なのっ?」

そうこうしているうちにズラトロクの角から強烈な電撃がスイに向かって放たれた。

ドガンッ―――。

「うわぁぁぁっ、スイーッ!!!」

『落ちつけよ。ほら、スイはあそこでピンピンしてるぞ』

ドラちゃんの小さい手が指す方に無事な姿のスイが。

「スイー、良かったぁ……。って、きゅ、救出! スイを早く救出してよ!」

俺がそう言うと、当のフェルとドラちゃんはお互いに顔を見合わせて『救出ってなぁ』『必要なさそうだぞ』などと言っている。

「ちょっとちょっと何悠長にしてるのさっ?! 早くスイを……」

早くスイを助けに行ってと言おうとすると、再びスイの念話が聞こえてきた。

『もー、危ないなぁ。いきなりこんなことするなんて、ダメなんだからねー! スイ、怒っちゃうんだから!』

無事なスイを見てさらに怒り心頭になったのか、ズラトロクがまた耳障りな甲高い叫び声をあげた。

「キャーアアアアアア!!」

そして、再び強烈な電撃をスイへと放つ。

ズガンッ―――。

それを横っ飛びして避けるスイ。

『あー、また撃ったー! スイ、もう怒ったからねー! 許さないんだからー! エイッ』

ビュッ、ビュッ―――。

スイの酸弾がズラトロクの前足の間、ちょうど胸の辺りに吸い込まれていった。

「ギャーアアアアアアアァァァァァァ!!」

ビクッとするような絶叫のあと、ゆっくりと横に倒れていくズラトロク。

『スイは強いんだからねー!』

「スイちゃん……」

『だから言っただろ、救出なんてする必要ないってよ』

『うむ、強くなったなスイ』

何しみじみ言ってんだよ~、フェル。

そんなことよりも……。

俺は低木を掻き分けてスイの下へと急いで向かった。

「スイー、勝手に1人で行ったらダメでしょ~。心配したんだからな、もー」

スイを抱きしめてそう言い聞かせる。

『美味しそうにこの実を食べてたからスイも食べたくなっちゃったのー。あるじー、ごめんなさぁい』

スイのニュッと伸ばした触手の先には紫色の果実が。

「これかぁ。美味いのかな?」

大きさは巨峰1粒ほどの大きさの紫色の実だ。

『美味しいよ~。あるじも食べてみてー』

スイはもう味わったのかそう言って触手でつかんだ紫の実を俺に差し出してきた。

「お、ありがとな」

スイからもらった紫の実(鑑定ではヴィオレットベリーと出た。生息地が少なくかなり珍しい実のようだ)を口の中へ。

「お~、甘酸っぱくて濃厚な味わいだ。ブルーベリーの味に似てるな。ブルーベリーはたまにエグみのあるやつがあるんだけど、これは熟して本当に美味いブルーベリーだな。いや、それより美味いかも。このまま食っても、ジャムにしても良さそうだ」

『あるじー、ジャムって甘いのだよねー?』

「うん、そうだぞ」

『わーい、甘いの好きー。あるじー、ジャムいっぱい作ってー』

「そうか、それならこの紫の実をいっぱい採っていかないとな。よーし、スイも手伝って。ドラちゃんもだ。フェルはー、これの収穫は無理そうだな。フェルは見張り役を頼むぞ」

『ったく、面倒だなぁ』

『我は見張りだな。良かろう』

俺とドラちゃんとスイはヴィオレットベリーの収穫に精を出した。

面倒だなんて言っていたドラちゃんも甘いものは嫌いじゃないからけっこうがんばってくれたよ。

そして……。

採り尽くす勢いで収穫して、大きい麻袋5つほどを収穫することができた。

途中、ズラトロクが湧いてきて肝を冷やしたけど、見張り役のフェルが瞬殺。

ドラちゃんが『何だよ、主を相手にしてないの俺だけじゃん』とかブツクサ言っていたけど、次に出てくるまでなんて待たないからね。

「よしと、これだけあればジャムもけっこうな量作れそうだな」

『ヤッター! ジャム、ジャム~』

『おい、魔物から出たものを拾っておいたぞ』

フェルがドロップ品を集めてくれていたようだ。

それを見ると、ズラトロクの金色に輝く角、これまた金色に輝く蹄、極めつけは金色の毛皮、そして大きな魔石が2つ、あとは……。

「この白っぽい石と薄い青色の石は何なんだ?」

『我の鑑定では転移石と出た。白のは使い切りで、青のは5回使えるらしいぞ』

転移石だって?

そう言えばアークからもらった転移石もこれと同じ涙型だった。

それに……。

「30階で転移石が手に入るらしいから、それ以降は10階ごとに転移石が手に入るようになってるのかもな。でも運が良かった。必ずしも転移石がドロップされるわけじゃないみたいなのに2個も手に入ってさ」

実際、俺たちが30階層のボスを倒したときは転移石なんてドロップされなかったしな。

まぁ、使い切りと5回と使用制限はあるもののずっとこの街にいるわけじゃないし、俺たちにはこれで十分だ……、よな?

「なぁ、転移石が出たんだから1度地上に戻ろうぜ」

そう言うと、フェル、ドラちゃん、スイから一斉に否の声が。

「でもさ、2週間程度を予定してたし、まだそこまで経ってはないけど、これ以上進むと2週間過ぎちゃうぞ。神様たちへのお供えもあるしさ……」

ダンジョンの中からでもお供えはできなくはないだろうけど、やっぱり落ち着いてしたいし。

特に次はテナント問題もあるしさ。

『む、神への捧げものか。それは 疎(おろそ) かにはできんな。そういうことなら仕方がない。加護を 賜(たまわ) った身としてドラとスイもいいな』

『そう言われるとなぁ。しょうがない、戻ろうぜ』

『フェルおじちゃん、分かったよ~』

こうして俺たち一行は地上へと戻ることとなった。

洞窟を進んだ下へ降りる階段のその左手にある部屋が魔法陣の描かれた部屋だった。

地上にあった転移部屋と同じく、中央に立つ円柱に使い切りの白っぽい転移石を近づけて「1階」と唱えた。

転移部屋を出ると、見覚えのある石畳の通路と陽の差し込む入口を出入りする数多くの冒険者の姿が見受けられた。

ダンジョンから出て陽の光を全身に浴びて、ようやく地上へと戻ってきたと実感する。

「ふぅ、帰ってきた~」

『神への捧げものが終わったら、またすぐにダンジョンへ潜るぞ』

ホッとしたのも束の間、フェルが念話でそう伝えてくる。

『何言ってんだよ、少なくても5日はゆっくりするぞ。……て、あれ、俺、何か大事なこと忘れてないか? う~ん……、なぁ、次にダンジョンに潜るときって、転移石を使って40階層からってことだよな?』

『うむ、そうだな』

40階層で出た転移石なんだから、40階層までは自由に指定できるってことだから当然だよな。

40階層、40階……、あ。

『な、なぁ、もしかして、40階層に転移したらまた初めからってことになるのかな?』

『だろうな。30階のときもそうであったろう』

…………。

「ノォォォォォーッ、またあの広大な森を突き抜けなきゃならないのかぁー!」

突然叫び出した俺に注目が集まるが、それどころではない。

何日もかけてようやく突破した森をまたやり直さなければならないのだ。

『よっしゃ! これで俺も主と戦えるぜ!』

ドラちゃん、そんなにあからさまに喜ばないで。

余計に凹む。