軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百九十二話 続・お買い物

「ここです」

アントンの実家であるセヴェリ工房は、ネイホフの街の中心部から歩いて30分くらいのところにあった。

手前が店舗になっていて、その奥の敷地に工房やらの建物があるのだそうだ。

「どうぞ」

みんなで店舗の中へ入っていく。

今回もフェルとドラちゃんは外で待っていてもらう。

「あ、坊ちゃん、どうしたんですか?」

店の中に入ると、店員がすぐやってきた。

「オロフか、いや先輩冒険者のムコーダさんの案内で来たんだけどさ、親父呼んできてくれるか」

「はい、ちょっとお待ちを」

「ムコーダさん、親父呼んでますんで、ちょっと待ってください」

いや、忙しいだろうしわざわざ親父さん呼ばなくても大丈夫なんだけどね。

少しすると、店員のオロフさんががっしりした体付きの50前後の男性を連れて戻ってきた。

「おうっ、アントン。先輩冒険者を連れてきたって?」

「あ、親父。こちらAランク冒険者のムコーダさんだ」

「Aランクだとっ?! 何でオメェがそんな高ランクの冒険者と知り合いなんだっ?」

アントンの親父さんが俺がAランクだと聞いて驚いている。

しかしながら、すんません、俺は実力が伴ってないAランク冒険者です。

「いや、いろいろあって、昨日知り合いになったんだ。そんで、今この街を案内してるところでさ。うちが工房だって知って是非見たいってことで連れてきたんだよ。この後にブリジッタのとこも行く予定なんだ」

「ほー、そうなんか」

「ムコーダと申します。アントンたちと知り合いになりまして、地元と言うことで案内をお願いしたんですよ。突然押しかけてすみません」

「いやいや、遠慮なくどんどん見てってください。さすがに工房はお見せできませんが、この店はうちの直営なんで、他の店へまだ卸してない新作なんかもありますから」

工房の方は企業秘密というか、それぞれ工房独自の技術があるためどこの工房も関係者以外が立ち入り禁止となっているそうだ。

そういやイーダさんが、各工房が魔法なんかも取り入れながらいろいろ工夫を凝らして独自に作製方法を編み出しているって言ってたもんな。

確かにそれだと簡単に見せるわけには行かないよな。

ここ直営店ってことで新作も並べられてるそうだし、早速見せてもらおう。

アントンの実家のここセヴェリ工房で作っているのは日本の焼き物風のもので、色も渋いものが多かった。

実に俺好みである。

親父さんも付いててくれて、いろいろ説明してくれた。

その中で特に気に入ったのが、親父さんの新作の藍色のコップだ。

「この色を出すのに苦労しました。それに、これは特殊でして。 釉薬(うわぐすり) にいくつかの魔石の粉を混ぜ合わせて使ってます。ですから、このコップに飲み物を注ぐと、中の飲み物が冷える仕組みになってるんですぜ」

なんと、自動冷却コップとは。

形といい色合いといい、まさしく俺好み。

これにビールを注いで飲んだら美味いだろうなぁ。

欲しいね、これ。

「これって、おいくらなんですか?」

「これだと……うん、金貨28枚ってところですね」

コップ1つで金貨28枚と聞いて最初はびっくりした。

でもよくよく考えたら魔石をいくつか使ってるっていうんだから、その値段なのも頷けた。

というか、魔石のことを考えるとこれでも負けてくれてるのかもしれないな。

これは目をつけておいて、ほかも見せてもらう。

いろいろ見せてもらって、気に入ったのが親父さんのお弟子さんが作ったという淡いベージュの大きめ皿の5枚セットと同じくお弟子さんが作った苔生したような深い緑色のちょうど丼にピッタリの器の5個セットだ。

このセヴェリ工房はネイホフでも有名らしく、俺が見せてもらっている間にも他の街からやって来た商人が買い付けに来ていた。

その商人が話してるのをチラっと聞いたけど、貴族にもこちらのセヴェリ工房の焼き物の愛好家がいるらしい。

うんうん、ここの焼き物味があっていいもんな。

いろいろ迷った挙句、俺は親父さん作のコップとお弟子さん作の皿の5枚セットと丼の5個セットを購入することにした。

親父さんのコップが金貨28枚、お弟子さんの皿の5枚セットが金貨15枚で丼の5個セットが金貨20枚で合計金貨63枚だったんだけど、金貨60枚に負けてくれた。

「なんだか、すいません」

「いやいや、うちのもんをAランク冒険者様が使ってくれるってんだからありがたいことですよ。これからもうちの焼き物愛用してくださいよ」

「はい、大事に使わせていただきます」

なかなかいい買い物ができた。

「おい、アントン、しっかり案内するんだぞ」

「分かってるよ」

俺たちはアントンの実家のセヴェリ工房を後にして、ブリジッタの実家のドヴァン工房へと向かった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

ブリジッタの実家のドヴァン工房は、セヴェリ工房から歩いて15分くらいのところにあった。

「お母さん、ただいま」

「あら、ブリジッタじゃないの。どうしたの?」

ドヴァン工房もセヴェリ工房と同じような造りで、手前が店舗になっていて、その奥の敷地に工房やらの建物がある。

店舗にはブリジッタの母親が店番しているようだ。

「あのね、知り合いになった冒険者のムコーダさんに街を案内しているの。それでうちが工房やってるって言ったら是非とも見たいってことだったから案内したのよ。ちなみにムコーダさんはAランクの冒険者よ」

「Aランクっ?! あらあらまぁまぁ、お父さん呼んでくるからちょっとお待ちになってくださいな」

そう言うと、ブリジッタの母親は工房へ走っていた。

途中「お父さんっ、大変よ! Aランクよ、Aランク! 店にAランクの冒険者様がきたのよっ!」という声が聞こえてきた。

それを聞いてブリジッタが手で顔を覆って恥ずかしそうに「お母さん……」とつぶやいていた。

こういう身内の姿を見ると恥ずかしいよな。

ここは触れないでいてあげよう。

店で少し待っていると、ブリジッタの母親が父親を連れて戻ってきた。

「お父さん、こちらがAランク冒険者のムコーダさんよ。失礼のないようにね」

「分かっとる。ブリジッタの父のドヴァンです。娘が世話になっとります」

「ムコーダと申します。突然お伺いしてしまって申し訳ありません」

「いやいや、うちのもんでよければどうぞどうぞ見てってください」

「後は私が説明するから、お父さんもお母さんも大丈夫よ」

ブリジッタがそう言うが、俺が何を購入するのか気になるようで父親も母親もその場から離れなかった。

「まったくお父さんもお母さんも……。ムコーダさん、ごめんなさい」

「いやいや、大丈夫だよ」

店内を見せてもらうと、ここドヴァン工房で作っているのは白を基調としたヨーロッパ風の陶磁器で花の絵柄が多く高級感がある感じだ。

「うちはお父さんの代からの工房で家族経営だからか規模も大きくないし、アントンのとこのセヴェリ工房みたいに有名じゃないけど、ここを立ち上げた当初からご愛顧していただいている方も多いんですよ」

へー、そうなんだ。

でも、高級感ある感じだし、この花の絵柄は女性にも好まれそうだな。

「お、これいいな」

目に留まったのは、縦に長くコップに取っ手が付いたような形のマグカップの5個セットだ。

これなら温かい飲み物だけじゃなく冷たい飲み物を出してもおかしくなさそう。

花の模様もそれほど派手ではなく、上の方だけにあるのも好ましい。

「それはですね、5個セットで金貨4枚です」

後ろからそう声がかかる。

「お父さん……」

工房に戻らず店にとどまっていたブリジッタの父親だ。

「い、いいだろ。Aランクの冒険者様が俺の作品を選んでくれてるんだぞ」

そんなやり取りをほほえましく見つつ、安ッと思う俺。

ブリジッタの言うとおり、ここドヴァン工房は有名処というわけではなさそうだ。

でも、綺麗だしいいものばかりだよな。

なんか安いし、いろいろ買ってもいいかも。

もっといろいろ見せてもらおう。

いろいろ見せてもらっているうちに、ブリジッタの父親がいつの間にか入ってきて説明してくれていた。

そんな父親を見てブリジッタは諦め顔だったよ。

いろいろ見せてもらって俺が購入を決めたのは、最初に見たマグカップの5個セットとケーキを載せるのにちょうどいい大きさの小皿の5枚セット、それから大き目の皿の5枚セットとスープ皿の5枚セット、あとはスープボウルの5個セットとティーカップ&ソーサーの5個セットだ。

どれも白地に鮮やかな花柄が描かれていてとても綺麗だ。

特にティーカップ&ソーサーは一層細かで鮮やかな花々が描かれていてものすごく綺麗だったものだから思わず買ってしまった。

この作品は、ブリジッタの父親曰くここ最近一番の力作とのことだった。

マグカップの5個セットが金貨4枚、小皿の5枚セットが金貨3枚と銀貨5枚、大皿の5枚セットが金貨6枚、スープ皿の5枚セットが金貨6枚、スープボウルの5個セットが金貨6枚、ティーカップ&ソーサーが金貨10枚で、合計金貨35枚と銀貨5枚だったが、端数は負けてくれて金貨35枚だった。

「たくさんお買い上げいただきありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそいろいろ見せていただきありがとうございました。いい目の保養になりましたよ」

いろいろ食器類がそろえられて良かったよ。

それにしても、さすが焼き物の街だね。

いろんな焼き物が見られてホントいい目の保養になったよ。

たまにはこういう買い物もいいもんだね。

ブリジッタの父親と母親に見送られて、俺たちはドヴァン工房を後にした。

買い物をしてたら、けっこういい時間経ってたね。

『おい、いい加減腹が減ったぞ』

『俺もだ』

『スイもー』

街中へと帰る途中に、フェルとドラちゃんとスイが念話で伝えてきた。

うーん、朝飯を遅めにとっていたとはいえさすがに腹減ったか。

『家に帰ったら飯にするから、ちょっとだけ我慢してな』

『『『分かった』』』

そうか、それなら5人には休みのところ付き合ってもらっちゃったし飯に招待するか。

「なぁ、今日のお礼に俺の家で飯食っていかないか?」

「いいんですか?」

アントンがそう言ったあとに他のメンバーと話し出す。

「「「「「ご馳走になります」」」」」

そう5人から笑顔で返答された。

みんな昨日食ったBBQが美味かったから期待してるとのことだった。

責任重大だな。

あんまり待たせられないから時間もかけられないし……。

家に帰るまでに考えなくちゃな。