軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 3人の勇者~王国からの逃走②~

アーロンが花音に隷属の腕輪を嵌めようとしたのを、何とかはぐらかしたがもう次ははぐらかせない。

俺と花音は逃げ出す機会を虎視眈々と狙っていた。

その機会は時を置かずにして訪れた。

いつものようにレベル上げと称した魔物狩りに行ったときのことだった。

冒険者ギルドで受けた依頼は、王都に通じる街道に最近になって出没するようになったオーガの討伐だった。

出てきたのははぐれオーガ1匹だったこともあって、オーガの討伐は問題なく終わった。

その帰り道のことだった。

街道を王都に向かって歩く俺たちの前に突然デカい狼が立ちふさがった。

「グルルルルル」

「あ、あれはAランクのグレートウルフ……」

「何でこんなところに……」

「と、とにかく倒すんだ」

レナードとアーロン、ルイーゼが武器を構える。

3人の反応からすると相当に強い魔物だ。

Aランクと言っていたから、かなり強い。

俺たち全員でかかって何とか倒せるかもというレベルだろう。

「櫂斗、花音、莉緒は魔法をッ!」

レナードから声が上がり、俺たちは魔法の詠唱を始める。

「燃え盛る火の球よ、我が敵を……」

詠唱を始めた俺たちにグレートウルフがものすごい速さで迫ってきた。

グレートウルフが俺たちに飛び掛かってきた瞬間。

「あああぁぁぁぁッ」

隣から叫び声が。

隣を見ると、莉緒の左腕の肘から先が消えていた。

「グレートウルフは風魔法を操るッ! 早く魔法を撃てッ!!」

おそらくアーロンだろう怒鳴り声が聞こえた。

その怒鳴り声を聞いたグレートウルフは、今度は3人の騎士に向かっていった。

俺たちにとってこれはチャンスだッ。

腕輪がなくなった莉緒も一緒に連れていくぞ。

「花音ッ、莉緒の手当てをッ」

俺はすぐさま魔法の詠唱に入った。

「燃え盛る火の球よ、我が敵を焼き尽くしたまえ。ファイヤーボール!」

「猛る炎の火矢よ、我が敵を穿ちたまえ。ファイヤーアローッ!」

ファイヤーボールを撃った後、今の俺の最大の攻撃魔法ファイヤーアローも撃った。

グレートウルフと3人の騎士がいた場所が爆散した。

「花音ッ、莉緒ッ、今のうちに逃げるぞッ!」

俺はそう声をかけると、足元がおぼつかない莉緒を花音と支え道の脇の森の中に分け入った。

我武者羅に足を動かして進んで行く。

前に進みつつ、莉緒に声をかける。

「莉緒ッ、大丈夫か?」

「…………」

莉緒は顔面蒼白で返事もできないようだ。

しかし、切断された腕の血は止まり新しい皮膚で覆われていた。

「支給されたポーションをかけて、回復魔法もかけて何とか血は止まってるわッ。死ぬことはないと思うッ」

そう答えたのは花音だ。

「花音ッ、とにかく西だ。西に向かってマルベール王国に入るんだッ」

「分かったッ」

レイセヘル王国の王都は王国のほぼ中央にある。

ここは王都の南側の街道だ。

ここからならとにかく西を目指せばマルベール王国に入るはずだ。

俺は王城から方位磁石に似た魔道具もこっそり持ち出していた。

とにかく西を目指す。

必死に足を動かして前に進んでいると、ついに莉緒がガクンと力なく倒れそうになる。

血を失ったせいで意識を失ったようだ。

俺は意識を失った莉緒を背負った。

「花音、とにかく西に進む。そして今はとにかく距離を稼ぐんだ」

「ええ。急ぎましょうっ」

俺たちは無言のまま森の中を西へと進んだ。

俺はグレートウルフと3人の騎士に向かってファイヤーボールとファイヤーアローを撃った。

着弾した場所は爆散して炎に包まれていた。

俺はもしかしたら、グレートウルフだけでなく3人の騎士たちも殺してしまったかもしれない。

言い訳になるけど、必死だった。

このままこの国にいれば、俺も花音も奴隷のように扱われる。

きっと戦争に駆り出されて、その先頭で戦わされることになるんだろう。

勇者に戦闘能力を求めることからしてもそれは明らかだ。

これから先の人生をそんな奴隷みたいに過ごすなんて絶対に嫌だった。

花音も俺が何をしたのか分かっているだろうけど、何も言わなかった。

それだけ俺たちは必死だった。

レイセヘル王国のいいように扱われるなんてごめんだ。

奴隷になんてなってたまるかッ!

俺と花音は必死に足を動かして西へと向かっていった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

暗くなったところで、大きな木のうろの中で夜を過ごすことにした。

アイテムボックスにできるだけ集めた食料の中から黒パンと水で夕飯を済ませ、見張りは花音と俺で交代にすることにした。

「最初は俺が見張ってる。休めるときに休んでおくんだ」

「分かった。交代のとき起こして」

夜の暗がりの中、目を凝らした。

時折、獣の鳴き声が聞こえてくる。

「絶対に捕まらないぞ……」

小さい声だがやけに響いた。

「そして、2人を絶対に守る」

それは俺の決意みたいなものだった。

最初は莉緒を見捨てようとした。

仕方がないと言い訳をして。

だけど、隷属の腕輪がなくなって、こうして一緒に逃げることができた。

莉緒の腕はなくなってしまったけど、これだって元に戻すことができるかもしれない。

なくなった腕が元に戻るポーションや回復魔法があるかもしれない。

これから先生きてさえいれば、そういうものを探すことだってできる。

こうして三人一緒に逃げることができたんだ。

絶対に2人を守るぞ。

少し長めに見張りをした後、花音と交代して俺も休んだ。

翌朝起きると、莉緒が目を覚ましていた。

「莉緒、大丈夫か?」

「ええ、何とか……」

「何があったか覚えてるか?」

そう聞くと、一応覚えてると返事があった。

何でも、レナードからあのブレスレット【隷属の腕輪】をもらった後、3日目くらいから自分じゃない感覚に襲われたそうだ。

自分じゃこんなこと言わないって言葉も平気で言うし、何かこうモヤモヤして自分が自分じゃない感覚になって、ずっと映画を観てるような感覚だったんだそうだ。

「莉緒が嵌められたあのブレスレットな、【隷属の腕輪】って言うらしい。それを嵌めると、主になったものの言うことを聞くようになって、その主しか腕輪を外せないらしいんだ」

「そう。だから、あのブレスレットをしていたときはレナードの言うことを何でも聞いてたのね…………」

「俺たちは奴隷みたいにはならない。絶対にな」

「そうよ。あたしと櫂斗と莉緒、みんなで逃げるの。マルベール王国に行けば、何とかなるわ」

「ああ、マルベール王国はこの国と戦争目前だからな。俺たちが召喚された勇者だとバレても、この国に送還されるようなことはないと思う」

「…………でも、私、腕なくなっちゃったんだよ。足手まといだよ……」

「何言ってんだよッ。そんなはずないだろッ。莉緒は魔法が得意じゃないか。魔法を撃つのに腕が必要か? 腕がなくても十分戦えるだろう。それに特に回復魔法は莉緒が一番じゃないか」

「そうよ。回復魔法は莉緒じゃないとダメッ。一緒にマルベール王国に行くのよッ!」

「櫂斗君、花音ちゃん……グスッ」

「絶対にみんなでマルベール王国に行こうな」

「ええ」

「うん」

俺たちは絶対にみんなで隣国マルベール王国に逃げ延びるんだと誓った。