軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二十八話 残念過ぎるエルランドさん

さてさて今日もダンジョン用の料理作りだ。

明日にはダンジョンに潜ることになるだろうから、なるべく作り置きしておきたいからね。

だけど、昼過ぎには冒険者ギルドに行かなきゃならない。

そんなことで昨日寝る前にせっせと挽き肉を作っておいたよ。

その挽き肉でハンバーグとロールキャベツを作ろうと思う。

ハンバーグのたねもロールキャベツのたねもそんなに変わらないからね。

ということで、ネットスーパーで半寸胴鍋とカットトマト缶、固形スープ、とろけるチーズを購入。

挽き肉こねてたねを作ったら、その半分でハンバーグを空気を抜きながら普通のハンバーグとチーズINしたものを形成していく。

残りの半分はロールキャベツに。

この世界で買ったキャベツの芯をくり抜いて1枚ずつ剥がしたらゆでていく。

葉についてる芯の硬い部分を削いだら、たねをくるっと包んで爪楊枝で止める。

このときチーズINしたものも作っていく。

寸胴鍋にロールキャベツを隙間なく並べたら、水とカットトマト缶をロールキャベツが隠れるくらいまでに入れて固形スープを手で崩しながら入れて、ケチャップも少し入れる。

そしたら煮ていくんだけど最初は中火で、沸騰してからはアルミホイルで落し蓋をして30分くらい弱火でコトコト煮込んで出来上がりだ。

煮込んでいる間にハンバーグを焼いていく。

昼まではそんな作業を続けた。

その後、みんなで昼飯を食ったら冒険者ギルドへと向かった。

ちなみに昼は簡単に挽き肉の残りを使って、挽き肉ともやしとピーマンの甘辛中華味噌炒め丼にしたよ。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

冒険者ギルドの受付に行ったら、直接倉庫に向かうようにとのことだった。

そこでエルランドさんがお待ちのようらしい。

というか、あの人が離れないんでしょきっと。

倉庫に行くと、エルランドさんが 地竜(アースドラゴン) 解体のために確保したという一角にいた。

作業台の上にズラッと並んだ、あれは 地竜(アースドラゴン) の素材か?を並べて、うっとり眺めてるんだけど……。

もんのすごい声掛けにくいです。

「あ、あの、エルランドさん……」

ありゃ、全然気付いてないわ。

ってかあれは完全に自分の世界入ってるでしょ。

「さすがドラゴンの血ですねぇ。この深紅色、すばらしい。ずっと眺めていたいです……」

赤い液体の入った瓶を両手で持って、そんな危ないことを呟いている。

ドン引きだよ、エルランドさん……。

この人、本当の本当に大丈夫なんだよね?

ギルドマスターやってるくらいだし、この人に 地竜(アースドラゴン) を託して大丈夫だったんだよね?

「エルランドさんっ」

「ん? おおー、ムコーダさんじゃありませんか」

強めに呼んでエルランドさんがようやく俺の存在に気付いた。

ムコーダさんじゃありませんか、じゃないよ~。

「あの、それで 地竜(アースドラゴン) の方は……」

「ええ、もちろん滞りなく解体させていただきました。この長いエルフ人生の中で1番すばらしい時間でしたよ……」

何を思い出しているのか、ハァ~とため息をつきながらエルランドさんがそう言う。

エルフ人生の中で1番てそれ言い過ぎなんじゃ。

というか、エルフ人生の中で1番が 地竜(アースドラゴン) の解体でいいんだろうか?

ちょっと危ないエルランドさんの話は置いておいてと。

「えーっと、 地竜(アースドラゴン) の素材の一部を買取でという話はどうなりましたか?」

「ええ、これも長いエルフ人生の中で1番悩んだ事柄でした。しかしっ、悩みに悩みぬいた末に私は決めましたよッ!」

こぶしを握り締めてエルランドさんが力強くそう宣言する。

「は、はぁ、それで何を?」

「良くぞ聞いてくれました。本当の本当に悩みましたよ。どれもこれも喉から手が出るくらいに欲しい素材ですからねぇ。その中で私が選んだのは……まずは、この 地竜(アースドラゴン) の血ですッ!」

エルランドさんが、作業台の上にズラッと並んだ赤い液体の入った瓶の1つを取り上げる。

「ドラゴンの血はですね、エリクサーの材料になるくらいですから一種の万能薬のようなものなんですよ。他の薬剤に混ぜますと、その効果を数段上げてくれたりします。しかも、ドラゴンの血で作った丸薬は滋養強壮に優れ、一粒飲めば1年間病気知らずだという話があるくらいなのですよっ」

へ、へ~。

エルランドさん、興奮し過ぎ。

「これを2本。1瓶金貨150枚で買い取らせていただきたいと思います」

…………へ?

1瓶、金貨150枚?

ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待て。

先の細い酒の瓶みたいなやつでコルク栓してあるけど、それ多分1リットルくらい入ってるよな?

作業台に目を移す。

作業台の上にその瓶がびっしり並んでるんですけど……。

これ、100本以上あるよね?

「ちなみに 地竜(アースドラゴン) の血はこの瓶で160本分取れました」

エルランドさんが笑顔でそう言った。

ヒャ、ヒャクロクジュッポン…………。

1瓶で金貨150枚、それが160本。

総額いくらだよ、考えただけでも……ううっ。

胃、胃、胃が痛くなってきた。

「それから次に買い取らせていただきたいのが、肝です。これも血と同じく万能薬的な役割なのですが、効果が血の数倍上と言われております。そうなると、是が非でも手に入れておきたい一品です。しかしながら、肝1つすべて買い取らせていただくには少々値が張りすぎますので、残念ですが、本当に残念なのですが、肝は半分だけ買取させていただくことにいたします。肝が半分で金貨1500枚とさせていただきました」

は、半分で、金貨1500枚…………。

助けて、胃、胃がぁ……。

「いやぁ~、この 地竜(アースドラゴン) は随分と立派な成体でしたからねぇ。肝も綺麗なもので、大きさといい色艶といい、恐らく肝1つで金貨3000枚は下りませんからね。さすがにそれですと、肝1つで買取が終わってしまいますからねぇ、非常に残念ではあるのですが半分とさせてもらったわけです」

肝1つで金貨3000枚、3000枚、3000枚……。

臓器1つでこの値段ってどうなってんの?

ドラゴンって捨てるところがないって言ってたから、他の臓器もあるわけだろ?

一体全体どんだけの価値があるんだか……。

ダメだ、胃がキリキリするよ。

ドラゴン完全に舐めてた。

他の魔物とは比べ物にならんわ。

「最後の一つの買取はですね、牙を1本いただくことにしました。これは金貨2000枚で買取させていただきます。実を言うと目玉と牙どちらにしようか相当悩んだのですが、やはりここは牙を選択させていただきました」

き、牙、1本で、金貨2000枚……。

ハァ~、もうため息しか出んわ。

「いやぁ、これでこの街でも有名な鍛冶師に頼んで剣を作ってもらおうと考えてるんです。相当の業物になりますよ。それこそ剣士なら死ぬ前に一度は握ってみたいと思うような名刀になりましょう。ムフフ、夢にまで見たドラゴンソードですよ、ドラゴンソード」

……それって、思いっきりエルランドさん個人の願望だよね。

夢にまで見たドラゴンソードとか言っちゃってるし。

そりゃこれだけドラゴンドラゴン言ってる人からしたら夢なんだろうけど、個人の欲丸出しだからね。

それで、そのドラゴンソードはどうするのか聞いてみたら、冒険者ギルドに飾っておくんだってさ。

「ドラゴンソードはですね、ダンジョンから出た魔剣にも匹敵する剣なのですよ。これはこのギルドにとっても目玉になること間違いなしです。ダンジョンがありますから冒険者は集まってきますが、ドラゴンソードがあれば更に冒険者を集める手立てになりますからね。やはり、ドラゴンソードは剣を扱う者にとっては夢の剣ですからねぇ」

エルランドさん曰く、冒険者というものは良い武器を見たがるものなんだそう。

だから、ドラゴンソードの噂を聞きつければ一目見にこの街に来るだろうってことだ。

更にこの街にはダンジョンもあるわけだから、冒険者としてはこの街に来ない理由がない。

この街は冒険者で潤っている街だから、街としても冒険者がたくさん来ることは歓迎すべきことだってことらしい。

一応街のこととか、冒険者ギルドのことも考えてはいるようだけど、どう考えても一番はエルランドさん自身が欲しい訳だよねぇ。

何か今も「ドラゴンソード……」とか呟きながらニタニタしてるし。

元がすごい美形だから残念感がハンパない。

「あの、じゃあこれはもらっていきますんで」

俺は作業台の上に置いてある 地竜(アースドラゴン) の素材を指してそう言った。

その中には驚くほど大きな 地竜(アースドラゴン) の魔石も含まれている。

さっさと帰りたいわ。

この人の相手疲れるよ。

「はい、ここの上の素材は全部お返しするものですから。そして、こちらの台の上のものがギルドで買取らせてもらうものです」

俺に返してくれる分とギルド買取分は最初から分けてあったようだ。

作業台の横にある別の台に血が入った瓶2つと茶色っぽい壺、それから太い牙が置いてある。

「買取代金をお支払いしときますね。金額が金額なので、大金貨で用意させてもらいました。血と肝と牙で金貨3800枚ですので、大金貨380枚です」

麻袋を1つエルランドさんから渡された。

中を覗くと大金貨が詰まっている。

「あ、そうだ、解体費用はいかほどですか?」

「いやいや、解体費用なんていりませんよ。本当ならこちらから解体させてもらうのにお金をお支払いしてもいいくらいですから。いや~この3日間は夢のようなすばらしい時間を過ごすことができました。 地竜(アースドラゴン) をこの手で解体できたのですから……」

あ、ああ、そ、そうですか。

いやタダでやってもらえるのなら、こちらもありがたいんでお言葉に甘えさせていただきます。

俺は作業台の上の 地竜(アースドラゴン) の素材をアイテムボックスにしまっていった。

地竜(アースドラゴン) の血が入った瓶が158本。

目玉の入った瓶。

臓器が入った壺等々。

目玉の入った瓶や臓器が入った壺には、保存液が満たしてあるそうだ。

保存液はその名のとおり、鮮度を保ちながら保存してくれるものなのだが、薬学をある程度修めたものでないと作れないそうだ。

でも、エルランドさんは冒険者をやる傍ら薬学も修めたそうで、この保存液はエルランドさんお手製なんだとか。

薬学を学んだのもドラゴンがエリクサーの材料の一つになってるからってのが主な理由みたいだけどね。

ドラゴンのために薬学も修めるとは本当に筋金入りだよな。

どんどん 地竜(アースドラゴン) の素材をアイテムボックスにしまっていって、牙をしまい最後はドデカい皮だ。

「 地竜(アースドラゴン) の皮、いいですねぇ~。さすがに高額過ぎて手が出ませんでしたけど、この鱗模様など1日見ていても飽きないですよ」

ドラゴンの皮を見て1日飽きないって言えるのはエルランドさんくらいのもんだと思うんだ。

「きっとこの大きさの皮ですと金貨1万枚はくだりませんね」

………………は?

今、この人、何て言った?

「あ、あの、今、金貨何枚って言いました?」

「金貨1万枚ですね」

ニコニコ顔でエルランドさんが答える。

「…………い、1万枚」

「ええ。1万枚ですね」

い、1万枚……1万枚……1万枚。

だ、ダメだ、胃が~。

そもそも1万枚だなんて買うヤツがいるのかよ?

「ちなみにですが、1万枚っていって買取ってくれる方っているんですか?」

「うーん、有力貴族の方々でも難しいでしょうかねぇ。いや、南方のボーヴェン公爵ならなんとかなりそうですかね。あとは国で買い取ってもらうかでしょうな」

高過ぎて買取手が限られるって、ダメじゃん。

価値があっても買取手がいないんじゃねぇ、どうにもならんよ。

こっちから買ってくださいって売り込みするのもねぇ。

そもそもそこまで困ってないし。

地竜(アースドラゴン) の素材は当分の間塩漬けだな。

血くらいなら他のギルドで買ってくれるかもしれないけど。

その辺はあとでエルランドさんに相談してみよう。

「あとですね、 地竜(アースドラゴン) の肉は冷蔵所で保管しておりますので。こちらです」

エルランドさんの後に付いて行くと、倉庫の奥の扉を開けた。

扉の向こうからひんやりとした空気が流れてくる。

冷蔵所である部屋の壁際下が溝になっていて、そこに氷が張っている。

氷魔法の使い手に頼んで定期的に氷を作ってもらっているそうだ。

「さすがにそのままでは入らないんで、3つに切り分けさせていただきました」

地竜(アースドラゴン) の肉は3つに切り分けられていてもかなり大きかった。

俺は 地竜(アースドラゴン) の肉をアイテムボックスにしまっていく。

「ムコーダさん、私にも是非とも 地竜(アースドラゴン) の肉を……」

ああ、そう言えばそういう話だったね。

「ええ、お約束ですから」

「本当ですかッ?! では、行きましょうッ!!」

「は? 行きましょうってどこに?」

「 地竜(アースドラゴン) の肉を食するに決まっているではありませんかっ」

『ぬ、終わったのか。それで、 地竜(アースドラゴン) を食うのか?』

いや、違うから。

『肉か? 肉食うのか? 肉肉~』

ドラちゃん、肉肉~じゃなくってさ。

「ムコーダさんは料理ができるんでしたよね? でしたら、私の家に。ドラゴンの肉を食しているなんて知れたら、どんな輩が集まってくるかわかりませんからね。落ち着いて味わって食すには私の家が1番です。さぁ、行きましょうッ!」

いやさ、行きましょうって、あなた仕事中でしょ。

「エルランドさん、まだ仕事中じゃ?」

「何を言ってるんですかっ、ドラゴンの肉を味わうことよりも重要なことなどありませんッ! それにこのギルドのことでしたら、副ギルドマスターがいれば問題ないので大丈夫ですっ」

え、ドラゴン肉を食うより重要なこと以外ないって言い切っちゃうの?

ってか、あなたここのギルドマスターでしょ、仕事しようよ。

この言いっぷりからして、仕事放棄して副ギルドマスターに押し付けるつもり満々だね。

「さぁ、行きましょうッ!」

うあっ。

俺はエルランドさんに引っ張られながら冒険者ギルドを後にした。

冒険者ギルドを出る間際、唖然とした顔をしたちょっとメタボで頭が薄いおっさん。

きっとあれが副ギルドマスターだろう。

苦労してんだろうなぁ。