軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一章エピローグその2(後書きあり)

「あらら。怒らせちゃったわね」

今まで無言だったエレナが口を開いた。

「まっ、給料半分って言われたら、怒るのは当たり前か」

「怒っているのは僕のほうだよ」

キルサスが視線をエレナに向ける。

「ガルディの失敗で大きな依頼が三つもキャンセルされたからね。それに団員の補充もしないといけなくなった」

「そうね。三日前なら、団員の募集をすれば、すぐに集まってくれたけど、今は状況が違う。聖剣の団の実力を疑問視する声が出てきたし」

「……月光の団が魔族を倒せなければ聖剣の団の評価が落ちることはなかったんだが」

キルサスはこめかみに指を当てて、ふっと息を吐く。

「こんなことになるのなら、僕が現場に行くべきだったな。そうしておけば、シルフィールと仲良くなることもできたかもしれない」

「あら、ハイエルフにも興味があるの?」

「種族ではなく、彼女が十二英雄だからだよ。いずれ十三番目の英雄になる僕としては顔なじみになっておくのもいいと思ってね」

「ふーん。十三番目の英雄って、大きく出たわね」

「それだけの力があるからね。僕には」

キルサスの口角が吊り上がった。

「まあ、僕が英雄になれば、今回の依頼で落ちた聖剣の団の信用もすぐに取り戻せるさ」

「そう願いたいわね」

エレナがつやのある金色の髪に触れた。

「それにしても、キナコのパーティーにヤクモがいるなんて、びっくりしたわ」

「あぁ、そうだな。パーティーの雑用でもやってるのかもしれない」

「……それは違うと思うよ」

「んっ? 違う?」

キルサスは首をかしげた。

「どうして、そう思うんだ?」

「この前のEランクの昇級試験よ」

「昇級試験がどうかしたのか?」

「あの時、アルベルが二番目にいい成績だったって言ったでしょ」

「ああ。覚えてるよ。それがヤクモと何の関係がある?」

「一番いい成績を出したのがヤクモよ」

「……ヤクモが?」

キルサスの頬がぴくりと動いた。

「そんな話、アルベルから聞いてないぞ」

「そりゃあ、アルベルは話さないでしょ。自分がヤクモに負けたってことだから」

エレナは肩をすくめる。

「ちなみに試験内容はモンスターの素材集めで、ヤクモは鎧ムカデを倒したみたい」

「鎧ムカデをヤクモが倒した?」

「ええ。鎧ムカデはBランクの冒険者でも倒すのが難しいモンスターよ。それをヤクモは一人で倒したってこと」

「バカなっ! ヤクモに鎧ムカデが倒せるわけがない!」

キルサスが首を左右に振った。

「ヤクモは紙を出す能力しかないんだぞ。そんなことはありえない!」

「ありえないって言っても、冒険者ギルドの職員が教えてくれた情報だからね。ヤクモは触角つきの鎧ムカデの頭を職員に渡したみたいよ」

「鎧ムカデの頭か」

キルサスは数秒間考え込んだ。

「ヤクモが鎧ムカデを倒したところを職員が見たわけじゃないんだな?」

「でしょうね。百人以上の冒険者が森の中で素材集めをしてるんだから、ずっと見てることはできないはずよ」

「そうか。ふっ……ふふっ」

口元を押さえて笑い出したキルサスを見て、エレナは不思議そうな顔をする。

「どうしたの? 突然笑い出して」

「いや、ヤクモがやった不正がわかったんだ」

「不正? ヤクモが不正をしたの?」

「ああ。ヤクモは鎧ムカデの頭を事前に用意していたんだ。多分、その鎧ムカデを殺したのがキナコだな」

「でも、昇級試験の内容は当日に発表されるんじゃないの?」

「モンスターを倒して素材を回収する試験は、過去にもあったからな。それを予想していて、魔法のポーチに鎧ムカデの頭を隠していたんだろう」

キルサスは自分の腰に提げている魔法のポーチに触れる。

「魔法のポーチの中なら、素材は劣化しない。その日に鎧ムカデを倒したと思わせるのは難しくない」

「でも、わざわざ、そんなことするかしら? たかがEランクの昇級試験よ?」

「Fランクがいるパーティーを避ける依頼主も多いからな。だから、ヤクモは何としてもEランクになりたかったんだろう。そして仲間のキナコに頼んだのさ」

「そんなこと、あのヤクモがやるのかな? 真面目な性格だったと思うけど?」

「聖剣の団を追放されて、彼も必死なんだろう。または、パーティーのリーダーの考えかもしれない」

「……うーん。その可能性もないとは言えないけど」

エレナは首を右側に傾ける。

「ヤクモが鎧ムカデを倒した可能性だってあるんじゃない?」

「老齢の鎧ムカデや大ケガをしている鎧ムカデなら、運よく倒せるかもしれない。ただ、そんな幸運が昇級試験で起こるとは思えない」

「不正をした可能性のほうが高いってことね」

「ああ。ヤクモに将来性がないことは前にも話しただろ。一流どころか二流の冒険者にもなれないよ。そんな奴が鎧ムカデを倒せるわけがない」

「じゃあ、ヤクモが聖剣の団の団員募集の話を聞いて、『戻りたい』って言ってきても、断っていいのね?」

「もちろんだ」

キルサスは笑いながら答えた。

「新人を入団させるにしても、将来性のある人物でないと意味がないからね」

「将来性のある人物か……」

――そんな人物が今の聖剣の団に入団してくれるとは思わないけど。

エレナは自身の尖った耳に触れながら、キルサスを数秒間見つめる。

「……わかった。じゃあ、私は団員募集の準備をするから」

エレナが部屋から出て行くと、入れ替わるように、アルベル、ダズル、カミラが部屋に入ってきた。

「キルサスさん、イタト村のゴブリン退治の仕事が終わりました」

アルベルが報告書をキルサスに差し出した。

キルサスは受け取った報告書を確認する。

「……問題はないようだな」

「はい。群れの数が予想より多くて八十体以上いたけど、余裕でしたよ」

アルベルは自慢げに胸を張った。

「今の俺たちなら、三人でオーガだって倒せます!」

「オーガか……」

キルサスは報告書を机の上に置いて、アルベルたちを見回した。

「アルベル、ダズル、カミラ。君たちも知ってると思うが、ガルディのミスで二十八人の団員の命が失われた。だから、君たちには新人気分でいてもらっては困るんだ。君たちは聖剣の団の中堅となり、その後は幹部になってもらわないと」

「か、幹部ですか?」

アルベルが驚いた声を出す。

「そうだ。君たちが強くなって実績を上げればそうなる。そして、僕はそれを期待しているんだ」

「俺、幹部を目指します!」

アルベルがこぶしを強く握った。

「僕も幹部になります」

「わ、私も」

ダズルとカミラが同時に口を開いた。

「君たちを信じているよ」

キルサスは順番に三人の肩に触れる。

――こいつらはまだまだ未熟だが、戦闘スキルを複数持っているし、上昇志向な性格もいい。早めにDランク以上になってもらって、しっかりと働いてもらうか。幹部の座をちらつかせておけば、気合も入るだろう。それに……。

一瞬、キルサスの脳裏にヤクモの姿が浮かび上がった。

――こいつらがヤクモより使えなければ、僕の判断が間違っていたことになる。まあ、そんなことは万が一にもないが。

キルサスはアルベルたちを見回しながら、唇の両端を吊り上げた。

第一章、END