軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

昇級試験3

それから、八時間が経過した。

既に太陽は沈んでいて、周囲を照らしているのは目の前の焚き火の明かりだけだ。

僕は焚き火の前にあぐらをかいて、手に入れたモンスターの素材を確認する。

「えーと……『一角ウサギの角』が三本と『雷リスのしっぽ』が一つか」

これだと全部で大銀貨六枚ぐらいだな。目標の金貨一枚には残り大銀貨四枚か。

残り時間が十四時間ぐらいだから、ペース的には悪くない。

ミルファみたいに白銀狼を見つけられれば、クリアできたんだけどな。今の僕なら、白銀狼はソロでも倒せるはずだし。

腰に提げていた魔法のポーチから干し肉を取り出し、一口かじる。

食事はこれと乾パンでいいか。体力も基礎魔力も十分残ってるし。

少し休んだら、滝のある場所に行ってみるか。

僕は視線を側に置いてある地図に向ける。

多少、離れてるけど、あの辺りなら、他の冒険者とモンスターの取り合いにならないだろう。

と、休憩中に紙のストックを増やしておくか。

僕は意識を集中させて、脳内で新しい魔式をイメージする。

光属性と風属性を付与させる魔法文字を追加して、一定の条件で爆発するような仕掛けも組み込む。

数秒後、目の前に黄金色に輝く小さな紙片が具現化した。その紙片を指でつまみ、魔法のポケットに入れる。

この紙は魔式が複雑で具現化に時間がかかるし、一枚じゃ意味がない。時間がある時にストックを増やしておかないと。

僕は頭を下げて、服についた十個以上のポケットを見つめる。そのポケットの中には、いろんなタイプの紙が入っていた。

状況に応じて、この紙を使っていけば、相手の意表をつくことができるだろう。紙を利用した攻撃は僕だけしか使えないんだから。

その時、後方から、ガサリと音が聞こえた。

素早く振り返ると、そこにはダズルが立っていた。

「こんなところにいたのか、ヤクモ」

ダズルは足音を立てずに僕に近づく。

「……雷リスを捕まえたのか。そいつは強くないけど素早くて倒すのが大変だよな」

「運がよかったんだ。逃げ場のない木の穴の中にいたから」

「へぇ、まだ運がいいみたいだね」

「何か用なの?」

「いやさ。金を貸してくれないかな?」

「……お金?」

「ああ。水晶ドラゴンを倒して、たんまり報酬をもらったんだろ?」

ダズルは片方の唇の端を吊り上げて笑った。

「大金貨一枚ぐらい僕に貸してくれてもいいだろ?」

「それは無理だよ。そんなに手持ちがないし」

「手持ちがないって、何に使ったんだ?」

「大金貨二枚は寄付したし、残った分も、ほとんど冒険用のアイテムを揃えるために使ったから」

「はぁ? ウソつくなよ。そんな大金を寄付するわけないだろ」

ダズルが声が大きくなった。

「いや。寄付したのは僕が育った孤児院なんだ」

「だからって、大金貨二枚はありえないぞ。お前、脳が溶けてるのかよ?」

「そんなに変なことかな?」

僕は首をかしげる。

「孤児院のみんなは家族みたいなものだし、僕もみんなが喜ぶ顔をみたいから」

「……ちっ! じゃあ、いくらなら持ってるんだ?」

「金貨三枚分ぐらいかな。でも、これは生活費と魔法関係の本を買うのに使いたいから」

「魔法関係の本?」

「うん。もっと魔法の勉強をしたくて。【紙使い】のスキルを強化できそうだから」

「あんなクズスキルを強化しても、意味ないだろ」

ダズルは不機嫌そうに唇を歪める。

「つまり、僕に貸せる金はないってことだな?」

「うん。悪いけど」

数秒間の沈黙の後――。

「……わかったよ」

ダズルは肩をすくめて口角を吊り上げた。

「お互いに昇級試験、頑張ろうぜ」

そう言うと、ダズルは右足で『雷リスのしっぽ』を蹴った。『雷リスのしっぽ』が焚き火の中に入り、燃え上がる。

「あーっと、ごめん。足が滑っちゃったよ。ひひっ」

ダズルは気味の悪い笑い声をあげた。

「あーあ、これはマズイよね。残りの素材は……大銀貨一枚と銀貨五枚ぐらいか」

「ダズル……」

「おいおい、怒るなよ。運の悪い事故だろ?」

ダズルはだらりと舌を出す。

「まだ時間は十四時間ぐらいあるし、なんとかなるって。じゃあな」

そう言って、ダズルは茂みの奥に消えた。

「ダズルらしい嫌がらせだな」

僕はため息をついて燃え続ける雷リスのしっぽを見つめる。

これで、残り大銀貨八枚と銀貨五枚分の素材を手に入れないといけなくなった。

「こうなったら、大物を狙ってみるか」

僕は焚き火の後始末をして、滝のある西に向かって走り出した。