軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

模擬戦

僕たちは店を出て、近くの空き地に移動した。

「さて……と」

キナコは僕に向き直ると、軽く首を回した。

「ここで俺と戦ってもらう。お前の攻撃が俺に当たったら、お前たちのパーティーに入ってやる」

「模擬戦ってことですか?」

「そうだ。わかりやすいルールだろ」

「たしかにわかりやすくはありますけど……」

僕はキナコを見つめる。

キナコは猫人族で、体格は人族より小さい。見た目も二足歩行で立っている猫だ。外見から強さを感じることはない。

でも、Aランクの冒険者ってことは、キナコは相当強いはずだ。

「安心しろ」

キナコが僕の太股を肉球で叩いた。

「ちゃんと手加減してやる。ほどほどにな」

「がんばってね」

アルミーネが僕の肩を叩いた。

「キナコはユニークスキルの【無手強化】を持ってるから、素手だと思って油断したらダメだよ」

「【無手強化】か。たしか素手で戦う時に攻撃力が上がるスキルだよね」

「うん。他にも【速度強化】の戦闘スキルも持ってて、実力はSランクに近いレベルって言われてるわ。だから、二つ名がついてるの」

「『魔族殺しのキナコ』か……」

僕の口中がからからに乾いた。

魔族は太古の邪神ドールズの血を受け継いだ種族で、人族と敵対している。外見は様々でモンスターに近いタイプから、人間に似ているタイプもいる。基礎魔力が多く、強い魔族は一体で町や村を壊滅させたこともある。そんな魔族をキナコは何十体も倒しているんだ。

見た目に騙されたらダメだ。

「さあ、さっさと攻めてこい」

キナコが軽く腰を落として、ピンク色の肉球を僕に向ける。

「……わかりました」

Aランクのキナコに僕の【紙使い】の能力が通用するかわからないけど、やれるだけやってみよう。

僕は意識を集中させて、五本の紙の短剣を具現化する。

短剣が放たれた矢のようにキナコに迫る。

この短剣は紙の剣を改良したものだ。紙の量を減らすことで攻撃スピードを上げることができる。刃は短くなったけど、大型のモンスター以外は、こっちのほうが使い勝手がいいだろう。

キナコは余裕の表情で紙の短剣を避けた。次々と短剣が地面に突き刺さる。

それなら、倍の十本だ!

十本の紙の短剣が具現化し、キナコに迫る。

「ふん。この程度の攻撃……」

キナコの両手の爪が二十センチ以上長く伸びた。その爪が紙の短剣を一瞬で細切れにする。

無数の白い紙片が風に舞って、ふっと消えた。

僕は口を半開きにして、キナコを見つめる。

すごい。動きが全然見えなかった。それに強度を上げている紙をここまで細切れにするなんて。 あの爪、魔法剣の刃以上の斬れ味がある。

「なるほど……な」

キナコは金色の瞳で僕を見つめる。

「これがお前の能力か?」

「はい。紙を具現化して操るユニークスキルです」

「……ふむ。紙の短剣とは思えない威力があるようだ。だが、俺には通じない」

白い牙を見せてキナコは笑った。

「これでわかっただろう。お前の攻撃は俺には当たらない。絶対にな」

「絶対ですか?」

「そうだ。納得がいかないのなら、いくらでも攻めてこい!」

「わかりました!」

僕は深く息を吸い込む。

キナコのスピードは圧倒的だ。でも、当てる手段はある。

僕は視線をキナコに向けたまま、意識を集中する。

キナコを囲むように三百本の紙の短剣が具現化した。その刃先が全てキナコに向けられている。

キナコの目と口が大きく開き、全身の毛が逆立った。

これで同時に攻撃すれば、キナコが避けるスペースはどこにもない。爪で短剣を斬るのも限界があるはずだ。

「待て待てーっ!」

キナコが慌てた様子で両手を左右に振った。

「なっ、何だ、この短剣の数は?」

キナコは金色の目を丸くして、宙に浮かんでいる短剣を見上げる。

「お前の基礎魔力はどうなってる?」

「それは僕が【魔力極大】のユニークスキルを持ってるからだと思います」

「【魔力極大】だと?」

「はい。さっきアルミーネに鑑定してもらったから」

そう言いながら、僕は短剣を指さす。

「じゃあ、いきますっ!」

「……もういいっ! お前の実力はわかった!」

キナコは不機嫌そうな顔をして、僕をにらみつけた。

「とんでもない男だな。ユニークスキルを二つも持っているとは」

「やったね、ヤクモくん!」

アルミーネが僕に駆け寄った。

「Aランクのキナコを降参させちゃうなんて、ほんとスゴイよ」

「降参したわけじゃないぞ!」

キナコが頬を膨らませて言った。

「戦う意味がないと思っただけだ。ヤクモが強いとわかったからな」

「じゃあ、私たちのパーティーに入ってくれるのね?」

「……ああ、入ってやる。約束は守る」

キナコの視線が僕に向いた。

「しかし、どうして、お前がアルミーネのパーティーに入ったんだ? お前なら、実力ある団から、いくつも勧誘があっただろうに」

「いえ。逆です。僕は使えないって言われて、団から追放されたんです」

「使えない? お前が?」

キナコは首をかしげた。

「よくわからんな。お前の実力なら、将来Aランク……いや、Sランクになる可能性だってあるぞ。そんな男を追放するのか?」

「その時は【魔力極大】のスキルが使えなかったから」

「それでも、紙を操るスキルがあるだろう? あれはなかなか使えるスキルだぞ」

「そんなこと初めて言われました」

【紙使い】のスキルを褒められるのは嬉しいな。今まで、バカにされ続けていたから。

「……ありがとうございます。キナコさん」

僕はキナコに頭を下げた。

「礼などいい。事実を言っただけだ。それと、俺のことはキナコと呼べ。これから仲間になるんだからな」

キナコはピンク色の肉球で僕の太股を叩いた。

「これでパーティーメンバーが揃ったね」

アルミーネが満足げにうなずいた。

「さあ、水晶ドラゴンを倒しにメガド山の鉱山に行きましょう!」