軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5:私が作った世界の綻び

私の名前はアリエル・シュワード。

このカヴィル王国の伯爵家に生を受けた。

私には、前世の記憶がある。

二十一世紀の日本に生きた記憶。

既に前世のことは薄れているけれど、転生する前に、女神様らしき人に願いを掛けたことだけは覚えている。

前世で大好きだった、乙女ゲーム。

そのゲームみたいな人生が送りたい。

事実、私の人生は愛に満ちたものになった。

アカデミー入学当日。

伯爵令嬢として貴族子弟が集まるアカデミーの入学式に参列した私は、運命の出会いを果たした。

──王太子トリスタン・カヴィル。

彼には既に婚約者が居たけれど、運命の前にはそんなの関係ない。

お約束の展開なら王太子の婚約者が悪女として立ちはだかるのかな? と思ったけれど、彼女は大人しくて控えめな良い子だった。

だから、私の親友キャラにしてあげたの。

王太子は私のアプローチに少しずつ応えていって、ついには婚約者との関係を円満解消。

卒業を前に私にプロポーズをして、卒業後すぐに結婚式。

二人はめでたく結ばれた──はずだった。

だというのに。

「ねぇ、トリスタンはどうしたの?」

「さ、さぁ……私には王太子殿下のご予定は、分かりかねます」

声を掛けた侍女は、それだけ言うとそそくさと部屋を辞してしまった。

一人きりの寝室。

新婚だというのに、私は大きなベッドに一人で身を沈める日々を過ごしていた。

新婚初夜にあれだけ激しく求めて来たトリスタンだというのに、なぜかそれ以降、彼の足は遠のいてしまった。

公務に忙しいという話だが、新妻を放置だなんて酷くない?

侍女達も侍女達だ。

私が王宮に来た時は皆がちやほやしてくれたというのに、最近はまるで腫れ物に触るような扱いだ。

どうしてこうなってしまったのだろう。

「前は、皆もっとチヤホヤしてくれたのにな……」

一人の寝室で、ぽつりと呟く。

見目の良い男性は、何もトリスタンだけではない。

王国騎士に、宰相補佐。

何人も目を付けていた男性達は、しかし結婚式を挙げてからというもの、ちっとも私に声を掛けてこなくなってしまった。

夫が居ながら、危うい綱渡りを楽しむのも良いな……って思っていたのに。

私が王太子の妻だから?

皆ちょっと臆病が過ぎるんじゃないかしら。

もっと燃えるような恋、相手が王太子だろうと誰だろうと略奪してやるって気概の有る男は居ないのかしら。

「はぁ……なんだか喉が渇いちゃった」

ベッドからのそりと起き出し、寝室を出る。

侍女を呼びつけても良かったが、少し夜風に当たりたい気分だったのだ。

夜の王宮は静まり返っていた。

それでもところどころに警備の騎士が立ち、夜番らしき使用人や侍女達が時折廊下を歩いている。

「もう、どうして気付かないのかしらね。王太子殿下が来ないのは、彼女に飽きたからだって」

そんな中、廊下の先から侍女達の囁く声が聞こえてきた。

「そうに決まっているわ。殿下はここのところ、お一人でお休みになられているというお話ですもの」

「新婚早々、よほど魅力がなかったんでしょうね」

「初夜だけ盛り上がってあとは放置だなんて、ただの飽きられ妻じゃない」

(え──…)

侍女達の嘲る声。

その言葉の一つ一つが、胸を突き刺す。

「殿下がどうして来ないのかーなんて、私に聞かれても困ってしまうわ」

この声は、先ほど質問を投げた侍女だろうか。

「そもそも、伯爵令嬢の分際で、公爵家のご令嬢から王太子殿下を奪ったのだもの」

「あら、ってことは私達が王太子殿下を射止めるチャンスもあるってことじゃない?」

明るく楽しげな侍女達の声。

どうして。

なんでこんな風に言われているの。

私がトリスタンを奪った?

そんなはずはない。

あの子(クローディア) だって、納得していたんだもの。

そうなるように、私が望んだんだもの。

なのに、どうしてこんな風に言われなきゃいけないの。

この世界は、私の為の世界なのに。

私が作った私だけの乙女ゲーム世界は、ベストなエンディングを迎えた。

これからはエンディング後の幸せな生活が待っている。

あるいは、今後出会う人によっては、第二弾発売のような新たな展開が訪れるかもしれない。

そう思っていたのに。

どうして、主人公である私がそんな風に言われなきゃいけないの?

これまでは、望めば何でも叶った。

誰もが言いなりになった。

思うがままに、ルートを構築することが出来た。

でも、今はそれが出来なくなっている。

トリスタンは私の元を訪れないし、侍女達は私のことを悪し様に言う。

どうして。

一体この世界に、何が起きているの?

訳が分からないまま、私は逃げるように寝室へと走った。

夜の闇が広がるように、じんわりと心に不安が染みていった──。