軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

屋敷の用心棒

杖を持った男は全身に闇を纏ったかのような陰鬱とした雰囲気でありながら、その細い瞳は刃物のような冷たく鋭利な輝きを放っていた。

明らかに裏稼業を生業としてきた者だ。

ゾルザル

LV55

HP:353

MP:520/520

攻撃:285

防御:247

魔力:558

賢さ:468

速さ:276

スキル:【雷魔法】【火魔法】【風魔法】【身体強化】【隠密】【詠唱破棄】【MP自動回復(小)】【棒術】【暗殺】【短剣術】【逃走】【詐術】【毒薬調合】【雷魔法強化】

【分析】してステータスを覗き見ると、その実力はかなり油断できないことがわかる。

B級冒険者に匹敵するステータスを誇っていた。

魔法使いにも関わらず、攻撃、防御といったステータスも俺よりも上だった。

「こいつらを殺せばいいんだな?」

「あのエルフと赤髪の女はできれば捕まえて奴隷にしたい」

「……それは契約内容を大きく逸脱している。俺の仕事は貴様の安全を守ることだ」

「なら追加で金を払う! それでいいだろう?」

「契約成立だ」

話し合いが終わった瞬間にゾルザルの気配が一変する。

数多の殺し合いを潜り抜けてきた者の独特な雰囲気が細い身体を覆った。

エレンとシリアが駆け出していく中、俺はゾルザルに手をかざしてエクストラスキルを発動する。

「【能力せ――】ッ!?」

「【紫電】」

真っ先にゾルザルの雷魔法を【施錠】しようとしたが、それよりも先に光が迸った。

身体を投げ出すように転がると、俺のいた場所を雷撃が通り抜けたことがわかった。

遅れて轟雷のような音が響き渡る。

後ろにあった分厚い鉄扉は熱によって融解していた。

……なんて魔法の威力だ。

って、魔法の威力はさておいてどうしてあいつが一番に俺を狙ったのか不思議だ。

普通は真っ先に接近してくる前衛を狙うものだ。

「なんで俺を狙うんだよ」

「貴様が一番危険だと俺の勘が告げている」

俺のエクストラスキルを理解しているわけではないが、何となく厄介なことをしてくると警戒しているらしい。

封印者のように油断してくれていたら真っ先にスキルを【施錠】できるというのに厄介なものだ。

「【紫電】」

「わっ、危なっ! やめろ!」

エレンが敵に向かって接近していくが、ゾルザルは雷魔法を連発してくるせいで満足に近づけないようだ。

その度に俺は隙を伺ってスキルを【施錠】しようとするが、その度に狙い済ましたかのように俺に魔法が飛んでくる。実に面倒くさい。

雷魔法はその圧倒的な発動速度と威力を長所とする属性だが、それとは反面に正確に狙い撃つことが難しい。

守るべき護衛対象がいる中で発動するのは、それだけ扱うことに自身があるからだろう。

「ミュリアを返してもらうぞ!」

「【雷障壁】」

反対側からシリアが斬り込んでいくが雷の障壁によって防がれるだけでなく、雷は彼女の剣から肉体へと走った。

「ぐっ! があっ!?」

「【雷剣】」

ゾルザルは雷で剣を作成すると、動けなくなっているシリアに振り下ろそうとする。

「【ヒール】【キアリク】」

シリアが雷を食らい、追加効果の麻痺によって動けなくなっていることを察した俺はすぐに回復魔法を飛ばした。

麻痺状態から回復したシリアはすぐに転がると、遅れて雷剣が地面へと突き刺さった。

体勢を立て直したシリアは風を纏って後退する。

「助かった、アキト」

「礼を言うのはコイツを倒してからだ」

ミュリアたちを収容している牢屋は狭く、派手に動き回れるほどのスペースがないので不利だ。やはり、ゾルザルの雷魔法を【施錠】しないことには勝ち目はないだろう。

「俺が突っ込む。シリアはついてきてくれ」

「……何か策があるのだな?」

「ああ、奴の魔法は俺が何とかする」

「わかった。アキトを信じよう」

そんな曖昧な言葉にも関わらず、シリアは真っ直ぐに瞳を向けて頷いてくれた。

彼女が返事をすると、俺はゾルザルに向かって一直線に走り出す。

「バカめ! 俺に接近するよりも速く雷が貴様を焼き尽くすわ! 【紫電】ッ!」

ゾルザルが杖をこちらに向けて、バチバチと音を立てながら紫電を射出してきた。

雷はあっという間に距離を食い殺していくこちらを呑み込まんとする。

あまりの魔法の速さに回避することはできない。

しかし、装備している封魔剣を掲げるくらいのことは俺にでもできる。

封魔剣を前に掲げると、銀色に輝く刀身が雷を吸収した。

消耗していたMPが回復していき、身体に充足感のようなものが漲る。

かなりの魔力が込められただけあって吸収するMPも段違いだな。

「なにっ!? 魔剣の類か! 【雷障壁】」

そのまま距離を詰めると、ゾルザルは動揺を抑えて雷の障壁を展開。

この辺りの行動パターンは同じ魔法使いタイプの封印者と同じだな。

障壁を展開することを予想していた俺は、敢えてそのまま封魔剣を振り下ろす。

すると、俺の封魔剣がゾルザルの展開していた雷障壁を吸収していく。

その魔法はMPへと変換さえ、屋敷に潜入する際に消費したMPはすべて回復できたといっていい。

「魔法を無効化するのではなく吸収するのかッ!」

雷障壁が消失し、そのままゾルザルへと封魔剣を振るう。

しかし、奴は巧みに杖を操作して俺の腹部へと突きを入れた。

「ぐっ!」

衝撃に一瞬息が止まり、俺は後方へと吹き飛ばされる。

実戦経験が豊富だけあり、近づかれたら終了というようなチャチな魔法使いではないらしい。

だが、俺の作った隙によってシリアとエレンが距離を詰めることができた。

身体に風を纏わせたシリアが流れるようにしてゾルザルへと接近し、その反対側からは右腕を肥大化させたエレンが迫っている。

左右からの挟撃に対し、ゾルザルは杖を地面に打ち付けると自らを中心にバチバチと雷を迸らせようとする。

「【大雷解――】」

「俺から意識を逸らしたな?【能力施錠】」

バチバチと雷鳴を轟かせ、目が眩むほどの放電が始まろうとしていたが、それは突如として消失した。

「なっ! 俺の魔法がっ!?」

「よそ見をしていていいのか?」

「隙だらけだな!」

無防備となったゾルザルは肥大化したエレンの右腕によって殴り飛ばされ、待ち受けていたシリアがあっさりと斬り裂いた。

エレンの拳を最初に受けた時点で首が曲がってはいけない方に曲がっていたので明らかにオーバーキル

だな。

「お、おい! なにをあっさりとやられているのだ!? 大金を積んでいるというのに肝心な時に役立たずめ!」

ゾルザルの遺体を見て、ザーイッシュが動揺の声を響かせる。

「ミュリアたちを返してもらうぞ」

「近寄るな! エルフのガキたちがどうなってもいいのか!?」

シリアが剣を手にして近づいていくと、ザーイッシュが情けない声を上げながらミュリアたちへ近づく。

「ワシが命令すれば、この場ですぐに自決させることも――」

「口を【施錠】」

命令ひとつで殺すことができるのであれば、命令できないようにしてやればいい。

簡単なことだ。

「――ッ!?」

「まったくお前たちは親子でやることが同じだな」

危機に陥ればわが身の大事さに人質を取る。呆れるほどに思考回路が同じだ。

真っ先にミュリアたちを確保しなかったのもいつでも対策できたからだ。

口だけでなく目も【施錠】してやると、大した戦闘力を持たないザーイッシュは瞬く間にシリアに無力化された。

こいつの意識があるとエルフの子供たちも安心できないし、単純に邪魔になるからな。

「お姉ちゃん!」

「ミュリア、無事でよかった」

ミュリアとシリアが抱き合い、他の三人の少女たちも助かったことを理解したのか喜び合う。

「隷属の首輪を外すぞ」

「ああ、そうだったな」

「【解錠】」

俺はミュリアに近づくと、エクストラスキルを発動。

ガシャンッと音を立てると、彼女の首にハマっていた隷属の首輪が地面に落ちた。

「すごい。隷属の首輪をこんなに簡単に外せるなんて。えーっと、お名前を教えてもらってもいいですか?」

「アキトだ」

「ありがとうございます。アキトさん」

子供の割に随分と落ち着いた言葉遣いをするな。

質実剛健といったシリアとは違った性格をしているらしい。

「次は他の子供たちだな」

「ひっ、人間……」

俺が近づこうとすると、少女の一人が怯えた反応を見せる。

人間に攫われ、隷属され、このような場所に閉じ込められれば、恐怖心が湧いても仕方がない。

「大丈夫だ。アキトは悪い人間ではない。捕まってしまったエリナたちも助けてくれたのだ」

「エリナたちも!?」

「そ、そうなんだ」

シリアからの言葉ということや、友人を助けたということもあってか少しだけ怯えや警戒心は解けたようだ。

「【解錠】」

改めてエルフの少女たちに近づくと、エクストラスキルを発動。

ガシャンッと音を立てると、三人の隷属の首輪が地面に落ちた。

「あ、ありがとう」

分厚い黒い首輪がなくなったことを確かめると、エルフの少女たちは小さな声ではあるが礼を言ってくれた。

「上の方が騒がしくなってきたな」

エレンが天井へと視線を向けて呟く。

彼女の鋭敏な感覚も上の気配に気づいたようだ。

「さすがにあれだけ派手に暴れれば、上まで響いただろうな。早めに撤退した方がいい」

地下の存在を知らなかったこともあってか、まだ降りてきてはいないが様子を見にくるのも時間の問題だ。

「集落に戻ろう」

「そうだな」

俺たちは地上の用心棒や使用人に見つからないように屋敷を出るのだった。