軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

屋敷に潜入

エレンの背中に乗って空を移動していると、エルダニアの街壁が遠目に見えてきた。

「あれがミュリアのいるエルダニアとやらか?」

「ああ」

エルダニアからエルフの集落まで徒歩で半日以上かかる。

それほどの距離だというのにエレンの翼を使えばたった数十分だ。

地形による障害物や魔物との戦闘も一切なく、空での移動はかなり快適だった。

「二人を気遣わずに飛べば、もっと短縮できる」

「いや、そこは安全を優先してくれ」

もっと早く飛行できることに興味がないでもないが、背中に乗っている俺たちの安全はまったく保障されないので意味はない。

「そろそろ降りるか」

かなりの高度を飛んでいるとはいえ、これ以上近づくと地上から目視される恐れがある。

街の近くにある森に着地し、そこから歩いてエルダニアに入るのがいいだろう。

「面倒だ。このまま空から行けばいい」

「いや、それをしようにもお前のデカい図体じゃバレるだろ」

それを俺も考えたが、どう考えても全長二十メートル近くあるエレンの体を隠すことはできない。降下する最中にバレて大騒ぎとなる。

「だったらこうすればいい!」

エレンはそんな言葉を漏らすと、赤い粒子を纏って人間の姿となった。

こいつ【人化】を解きやがった。

彼女の翼を頼りに空を飛んでいた俺とシリアは真っ逆さまに街へ落下する。

「おい、エレン! なにやってるんだあああああああ!?」

エレンの背中に乗ることができなくなった俺とシリアはもみくちゃになりながら落ちていく。

とんでもない風圧が顔や身体に辺り、目を開いているにも苦労する。

これだけの速度で落ちてしまえば、高いステータスを誇っていても死亡する可能性が高く、打ちどころによっては即死してしまうかもしれない。

「シリア! 風魔法で相殺できないか!?」

「さすがにこの勢いでは焼け石に水だ!」

シリアの風魔法を使っても完全に相殺することは不可能のようだ。

こんな時に【解錠&施錠】があっても何に役にも立たない。

スキルツリーを確認して状況を打開できるスキルはないかと探っていると、急に落下速度が緩やかになった。

いや、なにかに抱きとめられた?

視線を上げると、人間形態となったエレンがいた。

「人間の姿のまま降下すればバレることはないだろ?」

彼女の背中からは小さめではあるが、炎竜の翼が生えており浮遊していた。

どうやら人間の姿になっても背中から翼は生やすことができ、飛行することができるらしい。

「……そんなことができるなら早く言え」

「冗談がきついぞ、エレン」

「わははは、ちょっとした悪戯心だ」

ちょっとした臨死体験をしたせいかエレンの右腕に抱えられたシリアもぐったりとしているようだった。シリアの妹を救出したら何かしらの仕返しをしてやろう。

心の中でそんな決意を固めると、俺たちは人間の姿になったエレンに抱えられて上空から人気のない路地に着地する。

路地から顔を出して人々の様子を窺ってみるが、住民がパニックになっている様子もない。

怪訝な顔をして空を見上げている者もおらず、誰も俺たちの気配を悟った者はいないようだ。

ちょうど空が薄暗くなってきていたのも影響したのかもしれない。

「無事に街に入れたな!」

「誰かさんのお陰だ」

「うむ!」

皮肉を込めて言ったつもりだが、純粋なエレンには伝わらなかったらしく自慢げな表情をしていた。

「アキト、ワルム家との別邸とやらはどこにあるのだ?」

「西区画にあるらしい」

ワルム家の別邸がどこにあるかは【精神解錠】をしたキーマッシュから聞き出しているので間違いはない。

「では、すぐに向かおう」

「その前にこれを羽織っておけ」

走り出そうとするシリアに俺は全身を覆うことのできる灰色の外套を渡した。

人間と獣人が多いエルダニアではシリアの姿は目立ってしまい、相手に無用の警戒を与えてしまうことになるからな。

シリアは素早く外套を羽織ると、特徴的な尖った耳を隠すためにフードを被った。

全身を外套で覆っているというのにシリアの抜群なスタイルがわかってしまう。

目元が見えないまでも整った顔立ちをしているのが雰囲気でわかり、改めてエルフという種族の美しさが強烈なのだなと実感した。

「これで問題ないな?」

「……ああ、そうだな」

スタイルを隠すために詰め物をするのも手だが、それで潜入に支障が出たら目も当てられない。

これ以上の隠蔽は諦めることにした俺は、せめて目立たないように人気のないルートを使って西区画へ移動することにした。

西区画にやってくると道が石畳で綺麗に舗装されており、裕福そうな身なりをした人が増えてくる。他の区画よりも道幅も広く、歩行者より馬車で移動している者が多かった。

その頃には太陽は完全に沈んでおり、魔石を利用した魔力灯が通りを照らしていた。

そんな闇の中、いかにも冒険者の姿をした俺とエレン、さらに全身をすっぽりと覆ったシリアがうろついていれば、間違いなく巡回している兵士に呼び止められるだろう。

俺たちは巡回している兵士の目を避けて西区画を進んでいく。

キーマッシュから教えてもらった情報を頼りに通りを曲がって進むと、大きな敷地を囲う塀が見えてきた。

塀の中には大きな屋敷があり、正面には鉄格子で作られた門扉の前には用心棒らしき二人の男が槍を手にして立っている。

入口には光の魔道具が設置されているのかやけに明るい。

「あれがワルム家の別邸だ」

キーマッシュから伝えられた屋敷の特徴とも一致しているので間違いない。

「この屋敷の地下にミュリアや同胞が囚われているのだな?」

「恐らくな」

「正面から乗り込むか?」

「んなわけあるか。できるだけバレないように侵入するぞ」

血の気の多いエレンの提案を却下。

この辺りには兵士が多く駐屯しているし、私兵を抱えている商人や貴族も多くない。

騒ぎを起こしてしまえばあっという間に敵に囲まれることになる。

ミュリアたちの救出が最優先事項である以上、敵に気付かれないにようにするのが望ましい。

「私に任せてくれ」

シリアが風魔法を発動させると、自身の身体だけでなく俺とエレンの身体を風が包み込んだ。ふわりと身体が浮き上がって四メートルほどの高さの塀を越える。

音もなく着地すると、俺たちは敷地に入ることができた。

敷地の中にも用心棒をうろついているようなので俺たちは【隠密】を発動させながら素早く屋敷の裏口へと回る。

主に業者や使用人が出入りする扉には当然ながら鍵がかけられている。

「【解錠】」

「アキトがいると扉に鍵をかけようが無意味だな」

「侵入し放題だ!」

扉をあっさり開けるとシリアが驚き、エレンがやや人聞きの悪い言い方をする。

普通なら潜入するための鍵を手に入れるのが大変だったりするのだが、俺のエクストラスキルはそういった障害を無視できる。これほど潜入に向いた力も中々ないだろうな。

中に入ると、中はぼんやりと魔力灯が光っていた。

夜ということもあって裏口付近には人はいなかった。

「ついてきてくれ」

エレンとシリアに小さな声で囁くと、俺は【気配察知】【隠密】を発動しながら、キーマッシュに教えてもらった情報の通りに廊下を進んでいく。

別邸だからか常駐しているのはメイドや執事が数人ずつといったぐらい。

用心棒でもなく、冒険者でもないのでほぼ全員のレベルが低いので俺たちの気配を捉えることはできない。

入手した情報と照らし合わせるようにして進んでいくと、奥まった場所に分厚い鉄扉はあった。扉に鍵がかかっている上に南京錠のようなものも掛けられている。

「鍵を二重にしようが無駄だ。【解錠】」

エクストラスキルを発動させると、分厚い鉄扉が開いた。

扉の先には地下へと続き階段があった。

この先に囚われたエルフたちがいるのだろう。

「行くぞ」

「ああ」

シリアの力強い返事を確認すると、俺たちは地下へと続く階段を下るのだった。