軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エルフの戦士

「すまない! よりによってエリナたちを救ってくれた恩人を人攫いと勘違いして剣を向けてしまうとは……ッ!」

森の中に猛省した声が響き渡る。

俺を襲ってきたエルフだが、エリナたちが事情を説明するなり剣を納めて謝罪してくれた。

「まったくだ。もう少し人の話を聞いてくれ」

「……本当にすまない」

深々と頭を下げるエルフ。

その表情には申し訳なさが表れており、一切の言い訳をしない。

あまりの真摯な態度にこちらの毒気が抜かれてしまう想いだ。

人間に同族を攫われたのだ。一緒にいる俺を攫った相手として認識してしまうのも無理もない。

「大した怪我もなかったことだ。このことはお互いに水に流すとしよう」

「ありがとう。え、ええっと……」

「アキトだ。こっちは仲間のエレン」

「私はシリアージュ。長いので気楽にシリアと呼んでくれて構わない」

「じゃあ、シリアと呼ばせてもらおう」

自己紹介を済ませると、俺たちは改めて互いの状況を説明することにする。

俺とエレンはこの付近で討伐依頼を受けている最中、檻で運ばれるエリナたちを見つけて輸送していたキーマッシュと手下の男どもを倒した。それからエリナたちを故郷に送るために一休みしていた

ところだった。

「そうか。私たちの集落ではここ最近幼子を狙った誘拐が多発していてな。エリナ、ルル、スックが行方不明になったことに気付いて、慌てて集落の外に捜索へ出てきた形だ」

それで森の中にいる俺たちと遭遇したわけか。

「本当に三人が無事でよかった」

「うん、アキトさんとエレンさんが助けてくれたから」

エリナ、ルル、スックがシリアに抱き着き、三人を愛おしそうな表情で抱きしめるシリア。

血の繋がりがなくてもその結びつきは家族のように強固なのだろう。

「あれ? そういえば、三人とも首輪はどうしたというのだ? ハメられなかったのか?」

三人を撫でていたシリアがふと気づいたように尋ねる。

「アキトさんが解いてくれたよ?」

「【隷属の首輪】を解くことができただと!? もしかして、鍵を持っているのか!?」

「いや、それは俺のエクストラスキルで解いてやっただけだ」

「すまない。アキト、私たちの集落に同行してくれないだろうか?」

鍵ではなくエクストラスキルによるものだと説明すると、シリアがいきなり目の色を変えて俺の肩を掴みながら言ってくる。

「俺がか?」

「集落には救出されたエルフの子供がいるのだが、【隷属の首輪】を解くことができなくて困っているんだ! 【隷属の首輪】をハメられた者は支配者から遠ざかると痛みで苦しむことになる。子供た

ちを救うためにアキトの力を貸してほしい!」

誘拐が多発しているということは、この三人以外にも誘拐された子供がいたのだろう。

それを自力で救い出したはいいが、隷属の首輪を外すことができなくて困っているらしい。

「それは構わないが人間の俺が入ってもいいのか?」

森に住まうエルフは他種族に対して排他的だ。それに加えて誘拐事件のせいで人間に対するエルフたちの心証はかなり悪い。そんな状況で人間の俺が集落に足を踏み入れることができるのだろうか?

「構わない。子供たちを救うためであれば、族長や同胞も理解してくれるだろう」

「本当にそうならいいが、また襲われるのはゴメンだぞ?」

「安心してくれ。アキトとエレンの身の安全は私が保障しよう」

釘を刺すように言うと、シリアは真摯な口調で約束をしてくれた。

エリナたちの様子を見る限り、シリアは集落でもかなり慕われている様子だ。

その彼女が安全を保障してくれるのであれば、問題ないのかもしれないな。

「集落はこちらだ。ついてきてくれ」

シリアを先頭にして俺たちは大人しく後ろをついていく。

森の中は木々が多くて視界も悪い。

地面には木の根が隆起していて足場も悪い上に傾斜が多い。

幼いエリナ、ルル、スックが進むにはややハードな道のりなので進行速度はゆっくりなものになるかと思ったが、意外と彼女たちは体力がある上に森を歩き慣れている。

子供であってもさすがは森に住まう種族ということだろう。

道を進み、傾斜を乗り越え、川を渡り、獣道とさえ言えないような草むらを突き進んでいくが、それでもまだエルフの集落らしきものは見えてこない。

「あとどれくらいで着く?」

「もう目の前だ」

集落までの距離を尋ねると、シリアがきっぱりと答えた。

しかし、そうは言うが目の前には木々が広がっているだけでとても集落があるようには見えない。

小首を傾げていると、シリアが虚空に向かってほっそりとした白い腕を伸ばした。

彼女が虚空に手をかざすと、なにもなかった空間が突如として揺らいだ。

そう認識した次の瞬間、気が付けば俺たちの目の前の景色が変わった。

「なるほど。幻影魔法だな」

「ああ、許可なく異種族が立ち入れぬように魔法をかけている」

それなのにエリナたちが攫われたのは、恐らく幻影魔法の範囲の外に出てしまったからだろう。生活をしている以上は食料を確保する必要があるし、ずっと同じ場所にいられるわけではないからな。

霧が晴れたような視界の先には、奥には大きな木々が立ち並んでいた。

よく見ると木々には扉や窓が付いており、樹木をくり抜くことで居住空間を確保しているのがわかった。

木々には木造の橋が掛けられておりエルフたちが、荷物を運んだりして行き来している。

他にはロープのようなものが掛けられており、それに飛び乗って移動する無邪気な子供の姿や洗濯物を干している女性の姿なども見受けられ、実に生活感があった。

「こんなところにエルフの集落があったとは……」

「エルフの集落に訪れるのは初めてか?」

「ああ、滅多なことで入れる場所じゃないからな」

比較的、寛容だと言われるエルフ国ですら入るのには厳重な審査がいる。

そうでない辺境な集落に足を踏み入れるのは、ほぼ不可能だと言っていいだろう。

物珍しく集落を眺めていると、隣を歩いているエレンが妙にうずうずしているのに俺は気付いた。

「どうした?」

「いや、こうエルフの里を見ると、竜の血が騒いで無性に燃やしたくなる」

「確かに人間の街と違って、木造のものが多いからよく燃えそうだな」

「そうなのだ! ふーっと炎を吹きかけると、それはもうすごい勢いで燃え上がって――ふぐうっ!?」

「声がデカいっての」

エレンが予想以上に大きな声で過去話をしようとするので口を【施錠】してやった。

さすがにシリアたちの目の前で語るのは不謹慎だ。

エレンの昔話を聞く度に、封印を解いてやったことを後悔しそうになる。

本当に炎竜とやらはロクなことをしない奴だ。

などと思っていると、突如としてエルフの集団がこちらに向かってやってくる。

「シリア、そいつらは人間たちだろう?」

「集落に連れてくるとはどういうことだ!?」

シリアと同じくエルフの中でも戦士と言われる者たちだろう。

全員がシリアほどのレベルというわけではないが、それなりにレベルも高く、かなりの使い手たちだ。

戦士たちは剣、槍、弓、杖などを携えており、俺たちを囲んで敵意を剥き出しにしていた。