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一〇分早く生まれたデブ王子、選挙で勝ってラブラブ

作者: 満原こもじ

本文

――――――――――パイロザール王国双子王子の兄アンセル視点。

俺か。

俺は『呪いをかけられた王子』と呼ばれているんだ。

どういう意味かって?

弟に比べてデブでブサイクだからだよ!

呪いをかけられているのだったらどんなによかったことか。

だって呪いだったら美女のキスで解けるだろ?

しかし真のブサイクは解けない上に、役得であるはずの美女のキスもない。

何という理不尽。

何故俺がブサイクを嘆かねばいかんか、簡単に説明するぞ?

我がパイロザール王国に王子は二人。

俺アンセルと弟ハロルドだ。

俺達は双子。

俺のほうがちょっとだけお兄ちゃん。

ここでまたもや理不尽なのだが、ハロルドはイケメンなのだ。

女の子にキャーキャー言われるのはハロルドの役割。

双子なのに何故?

いやまあ、その程度のことはあり得るとして、長男の俺がパイロザール王国の次期王と目されているってことが問題なのだよ。

だって国民にしてみれば、美形の王だと誇らしいだろ?

俺はバカじゃないから、国は真っ当に治まるのがいいと思っている。

くだらない波乱はいらん。

だったらハロルドが王でいいんじゃないの?

ほんの一〇分先に生まれたから俺が王なんて、アホな原則論だと思う。

いや、これはハロルドが理不尽に思ってるかもしれないな。

何であのブサイクが兄なんだって。

ごめんよ、俺は王に魅力を感じていないのに。

王はハロルドであるべきと考えているのは本心だよ。

まあハロルドは王立学校で俺より成績もいい。

その内待望論が出てくるだろ。

俺はその時に賛成してやればいい。

俺自身はどうするつもりなんだって?

頼りになる王兄ポジションなんか最高だな。

望み過ぎかな?

王としての責務が大変なことくらいはわかってるから、少しは手伝ってやろうかと思ってるんだが。

俺にやる気はないな。

ハロルドにはあるから、やりたいやつに任せればいいと思うよ。

少しずつハロルドを目立たせてやろう。

ブサイクな兄の精一杯の心尽くしだ。

――――――――――弟王子ハロルド視点。

幼い頃から僕は遠慮を強いられてきた。

弟なのだから引くことを覚えろと。

納得いかなかった。

アンセル兄上とは一〇分しか生まれた時間が違わないと聞いているから。

才能や母の身分の違いでその後の未来が決まるのはわかる。

それは納得のいく理由だ。

しかし一〇分が王位に就けるか就けないかの壁になるのか?

理不尽だと思う。

双子だけにアンセル兄上と僕の才能は似たようなものだと思う。

いつも若干成績は僕がいいものの微差だ。

違うのは熱意だ。

断然兄上より僕のほうが王位に対する熱意がある。

他に兄上との差といえば……まあ外見は僕が恵まれているかな。

女子生徒の声援を浴びるのは、兄上より僕が多い。

王に関係のない要素ではあるが。

ああ、王位が人気投票だったらなあ。

……埒もないことを考えた。

僕は王弟として兄上を支えて生きていくのだろう。

つまらないことだ。

――――――――――王の間にて、王と宰相の会話。宰相ガードン・ベッツ視点。

「ガードンまかりこしました」

「うむ、ガードン。そなたの意見を聞かせい」

「はっ、何についてでしょうか」

「次期パイロザール王についてだな」

おやおや、随分ストレートなことだ。

話が早くて助かるが。

「今の段階で言及できるのはアンセル、ハロルド両王子についてのみですが」

「他の年若の王子を語る必要はあるまい」

ふむ、やはり陛下もそのつもりか。

次期王はアンセル、ハロルド両王子のどちらかに決定だ。

しかし……。

「長幼の序ということからアンセル殿下を本命視する声が多いのでは?」

「ほう、ガードンはアンセル推しか?」

「さようなわけではございませんが」

宰相というわしの立場で次期王について言及するのは障りがあるのだが。

陛下もわかっているであろうに。

いたずら好きにも困ったものだ。

「アンセルとハロルドをどう見ておる?」

「旺盛なやる気が見えるのはハロルド殿下ですな」

「王になりたい野望が透けて見えるな」

頷かざるを得ない。

お二人の資質が同じならやる気のあるハロルド殿下を推したいものだが。

「一方で視野が広いのはアンセル殿下だと思います」

「ふむ? その心は?」

「以前パーティーで殿下と話していた時、立ち眩みを起こした令嬢をいち早く見つけ、倒れる前に抱えたということがありました」

「ほう?」

「また別のパーティーでは、躓いた令嬢をさっと支えておりました」

「女好きなだけなのではないか?」

「ハハッ、いやいや」

アンセル殿下とわしの共通の趣味に甘いもの好きということがある。

かなり興が乗って語っていたのにアンセル殿下は気付いて、しかもあのぽっちゃりな身体にも拘らず、俊敏な反応だからな。

結構驚いた。

「陛下のお考えとして、そろそろ王太子を定めねばというのがあるわけですな?」

「まだ早いと思うのだがな。双子だから仕方がない」

普通なら長男優先でよかったろう。

双子だからややこしくなる。

しかも弟のハロルド殿下が王位に色気を見せているから。

放っておくと兄アンセル派と弟ハロルド派で割れると、陛下は見ているのだろう。

「どちらを後継者とするか、既にお決めになっているので?」

「いや、有権者に決めさせようと思っているのだ」

「は? 有権者?」

「王立学校の生徒達だ」

何々?

王立学校の生徒全員に投票権を与え、無記名でアンセル殿下とハロルド殿下のどちらかを次期王になって欲しい者として選ばせる?

「通常の生徒は一人一票だが、二人の婚約者候補や側近候補、大貴族の跡取りなどの重要度の高い生徒は、赤札として一〇票持たせる。誰が赤札の生徒かはあらかじめ公表する」

「ほう、凝ってますな」

赤札生徒は一〇人強と言ったところか。

ハロルド殿下は赤札生徒を取り込もうとするだろうが、そう簡単にはいくまい。

「大変に面白いですな。恨みっこなしで結果がわかりやすいのがいい」

「ガードンは賛成か」

「大いに」

「では王立学校校長に諮ってみることにするか」

アンセル殿下とハロルド殿下はどう動くだろうか?

――――――――――赤札生徒マデリーン・アッシュクラフト公爵令嬢視点。

「お嬢様、王立学校生で次の王を選ぶということでしょう? 面白くなったではありませんか」

「そうね」

侍女のニアと楽しくお喋りです。

話題は王立学校について。

何と陛下が、『アンセルとハロルドのどちらが次期王になってもらいたいか、王立学校の生徒の投票で決めよ』と布告を出したのです。

必ず結果の通りにするとは書かれていませんでしたが、お茶目な陛下のことですから、わたくしは投票結果に応じて王太子が決まるのだと思います。

「アンセル殿下とハロルド殿下は双子ですからね。後継者問題で揉めるのはよろしくないので、白黒ハッキリつけるという意味なのでしょう?」

「一番大きな理由でしょうね」

ハロルド殿下に王を諦めさせるという意図が大きいと、わたくしは感じておりますけれども。

アンセル殿下とハロルド殿下、おつむの出来は似たようなものだと思います。

ただその人間性に大きく違いがあるのですね。

アンセル殿下には協調性があり、ハロルド殿下には推進力がある。

どちらに王になってもらいたいかと言えば……。

「お嬢様は次期王の婚約者になると思われていますよね」

「そうなる公算が高いですね」

わたくしはアッシュクラフト公爵家という高位の貴族に生まれ、将来の王妃候補数人に施されているお妃予備教育を既に終えた唯一の者です。

それで投票権一〇票の赤札という評価をいただいているのだと思います。

「実質選挙でお嬢様のお相手を決めるようなものでしょう。当然アンセル殿下に入れるのですよね?」

「もちろんですよ」

「お嬢様はぽっちゃりでお優しいアンセル殿下が大好きですもんね」

「も、もう。ニアったら」

確かにわたくしがアンセル殿下をお慕い申し上げているのは事実ですけれども、そういうことではないのです!

わたくしが見るに、王に向いているのはアンセル殿下だと信ずるからです。

「ニアだって生徒ですよ。一票はどちらに投じるのです?」

「凛々しく麗しいハロルド殿下と言いたいところですけれども。お嬢様の運命のお相手に投票させていただきますとも」

「そ、そう」

ニアは誤解しているのです。

わたくしがアンセル殿下に惹かれていることと、パイロザール王国の将来の王は別のことです。

残念ながらアンセル殿下もハロルド殿下も、天才ではおありにならない。

となれば部下の意見を吸い上げる能力が必要です。

それはアンセル殿下の資質が勝っているだろうということ。

「いずれにせよ、楽しいイベントを企画してくださった陛下には感謝いたしますわ」

――――――――――赤札生徒ミッキー・ベッツ子爵令息視点。

決して家格の高くないベッツ子爵家の嫡男である自分が赤札なのは、爺上が現在の宰相だからだろう。

学校の成績がいいことや、将来の王の側近候補と見られているという面もあるのかもしれないが。

陛下の信頼の厚い爺上が、今回の選挙による王太子の事実上の決着というイベントを企んだのでは、とも言われている。

しかし爺上は言った。

『選挙に関してわしは関係ない。陛下の酔狂だ』

だと思った。

爺上は政治政策に対して真摯であるが、政略についてはさして興味がないから。

それが故に陛下に信頼されているのであるから。

『ミッキーは自分の思った通りに投票すればいいのだ。よく考えて結論を出すのだぞ』

とは言っても、一〇票って重いよ。

同じクラスのハロルド殿下にはよろしく頼むぞって、直に言われてしまったし。

となるとハロルド殿下に投票するのが筋に思える。

ハロルド殿下は一生懸命得票活動を行っているものな。

意欲が旺盛であるし。

……そんなことで投票先を決めていいのか?

爺上はよく考えて結論を出せといった。

自分は考えることを放棄していないか?

爺上は笑った。

悩むのは若者の特権だと。

年寄りには悩む時間さえもったいないのだと。

自分が今ここで悩むことは、人生に必要なことなんだなと思い返した。

ハロルド殿下に頼まれたことは一旦置こう。

そもそも自分の考えの中に入れてはいけない項目だ。

その上でやる気があるという一点において、ハロルド殿下に加点しよう。

他にアンセル殿下とハロルド殿下の差異はどこにある?

成績はハロルド殿下がやや上と聞いているが、ほとんど差がないはず。

双方と立ち合った感想では、剣術はアンセル殿下が勝っていると思う。

アンセル殿下は太ってはいても隙がない。

しかし微差だ。

次期王を決める根拠にはならないな。

なら性格とかの差?

アンセル殿下の周りには男子生徒が集まる傾向があるな。

ハロルド殿下は女子生徒にキャーキャー言われている印象。

選挙が行われると決まる前、次期王はアンセル殿下になるだろうというのが大方の観測だった。

だって長男が継ぐのが伝統だし、アンセル殿下に取り立てて欠点があるわけじゃないしな?

今回どうして選挙が行われることになったんだろう?

双子で能力に差がないなら、長男のアンセル殿下でよくないか?

そこで気付いた。

選挙活動を一生懸命やっているのはハロルド殿下だけだ。

アンセル殿下は特に何もしていない。

自分はそれを意欲の差と見ていたが……。

考えてみりゃアンセル殿下には落ち着きがあるな。

話を親身になって聞いてくれるのはアンセル殿下のほうだ。

元々次期王と見られていただけあって、自然にそういう態度が身についたのでは?

これは簡単に逆転できない差だ。

この選挙はハロルド殿下に負けを自覚させるために企画されたのでは?

穿ち過ぎかな?

いずれにせよ自分はアンセル殿下に投票すると決めた。

――――――――――赤札生徒サンドラ・ウィグルスワース辺境伯令嬢視点。

我もお妃予備教育を受けている。

が、将来王妃となるのはマデリーン・アッシュクラフト公爵令嬢であろうというのは衆目の一致するところだ。

我が今回の選挙で赤札をいただいたのは、アンセル・ハロルド両殿下の婚約者候補の一人であるからというよりも、むしろ国境の守りの要であるウィグルスワース辺境伯家の意見を重視したいという、王家の考えじゃないかと推察した。

そこで領地からなかなか出られない父上の代わりに王都詰めになっている叔父上に相談した。

「ふうん。生徒の投票で次期王を決めるのか。そんな愉快な催しに参加できるなんて、サンドラはツイているね」

「叔父上はのん気だな。我は一〇票を持つから責任を感じなければならない立場なのだが」

「サンドラはどちらに投票するんだい?」

「それを叔父上に相談しようと思ったのだ。我の一〇票はウィグルスワース辺境伯家の意見を反映させろという意味だろうから」

えっ?

叔父上が微妙な顔になった。

何故?

「……もしサンドラの言うことがメインの理由だとしたら、生徒間の投票にはならないだろう? 各貴族家に票を割り振るべきだ」

「それもそうですね」

「この選挙にはいくつか意味があるんだろうが、次代を担う君達が直接王を選ぶんだという意識を植えつけたいのだと思う」

「……忠誠心の強化という面から?」

「そうだね。自分達で決めた王なら自分達が支えなきゃって気になるだろうからね。自然次期王には多くの人材と意見が集まることになる」

叔父上の言う通りだ。

となると?

「またアンセル・ハロルド両殿下は一六歳と聞いている。これ以上結論を引き延ばすと両派で国が割れてしまうということがあるから仕方ないんだろうけど、王太子の決定には年齢的に早いと思うね」

「確かに」

「言い訳を残しておくということじゃないかと思うんだ」

「言い訳?」

「選ぶ側も選ばれる側も未熟でした。だから今回の選挙では決定しません、という」

「えっ?」

今回の選挙で次期王は決まらない?

あっ、そういえば『アンセルとハロルドのどちらが次期王になってもらいたいか、王立学校の生徒の投票で決めよ』という文言に、次期王を決定する結果になるとは書いてない!

「もちろん大差がつけば決定さ。それが民意だから。でも微差なら結論は持越しじゃないかな」

「叔父上に相談してよかったよ」

「ハハッ、もう一度聞くが、サンドラはどちらに投票するんだい?」

「アンセル殿下に」

我々は未熟だ。

賢者の意見には耳を傾けなければならない。

聞く耳を持っているのはどちらかと問われればアンセル殿下だから。

叔父上がいたずらっぽい顔をしているな?

「サンドラも両殿下のお妃候補なんだろう?」

「候補と言えば候補だが」

「つまりサンドラはアンセル殿下が好きと」

「違う!」

もう、叔父上は何を言っているのだ!

――――――――――赤札生徒ランドルフ・エクレストン侯爵令息視点。

王立学校の生徒会長を務める私は、アンセル・ハロルド両殿下より二学年上だ。

王家からの布告の文言に目を通す。

『アンセルとハロルドのどちらが次期王になってもらいたいか、王立学校の生徒の投票で決めよ』

実に意味深ではないか。

特に『次期王になってもらいたい』というところが。

『次期王に相応しい』としなかったところに意図を感じる。

つまり人気投票か。

この投票で次期王を決めるわけではないのだな、と最初は誤認した。

しかし投票によって一種のコンセンサスが形成されてしまうではないか。

となると結果にはそれなりの重みがある。

ある程度以上の得票差があれば、おそらく次期王は決定だ。

私はエクレストン侯爵家という大貴族家を継ぐ身であるから、赤札をもらったのは理解できる。

生徒会長でもあるしな。

巷では長男のアンセル殿下が王となるのだろうというもっぱらの噂だったが、私はハロルド殿下もあり得るだろうと考えていた。

学年が違うこともあり、王太子が決まってから接近すればいいだろうと。

エクレストン侯爵家の嫡男として、片寄った交友は厳禁だった。

しかし選挙という思わぬ事態となった。

結果イコール決定ではないにせよ、結構な影響力があると見た。

であれば私の持つ赤札一〇票は重い。

責任をもって投票せねばならぬ。

両殿下の情報をあまり集めていなかったことが裏目に出たな。

今更ながらアンセル・ハロルド両殿下の活動を観察してみる。

パッと見で目立つのは弟のハロルド殿下だ。

積極的に選挙活動を行っている。

女生徒ウケがいいようだ。

対するにアンセル殿下は何もしていないように見える。

弟が勝てばいい、弟が王でいいという声も聞こえてきた。

ふうん? どういうことだろう。

アンセル殿下は王になりたくないのか?

いや、長男のアンセル殿下は幼い頃から次期王と見られていたはずだ。

王の責務の重さを考える機会が多かったのではないだろうか?

そう考えると、双子とはいえ意識は違うものだな。

組織の長として自分にも共感できるものがある。

……急にハロルド殿下の活動が安っぽいものに思えてきた。

僕が勝ったらどうのこうのという選挙公約。

将来王たる者の言葉がそんなに軽くていいのか?

いやこれ、私自身の生徒会長選挙の悪い面を見せられているようで恥ずかしいのだが。

対するにアンセル殿下の堂々とした余裕のある態度はどうだ。

何もしなくても自然と人が集まってくる。

ともに笑い、ともに遊び、ともに歩み、ともに目指す。

あれこそが王たる者のあるべき姿ではないだろうか?

この投票は私にとってもかなり考えさせられるものとなった。

結果がどうこうということではなくて、王たる者の理想像とか、あるいは臣たる自分がどうあるべきかとか。

やはり意味深な布告であったと思わざるを得ない。

『次期王になってもらいたい』のはどちらか?

私にとっては主君として仕えたいのはどちらか、という質問と同じ意味だ。

明確に一つの答えがある。

私の赤札一〇票はアンセル殿下、あなたに。

――――――――――赤札生徒シミオン・ワーク視点。

「へえ。シミオンは赤札なんだ。どうしてなの?」

パッと答えられないだろ!

誰だ、ボクを赤札なんかにしたのは!

陛下?

文句言ってごめんなさい。

いや、誰だって疑問だよね。

だってボクの父親は一近衛兵に過ぎないと思われているんだから。

自分でもボクが赤札って発表された時は何で? って思ったもん。

ボクみたいなモブじゃなくて、もっと重要な生徒がわんさかいるじゃん。

まあ理由はわかってる。

僕の父親はいわゆる『王家の影』の長だから。

『王家の影』というのは王族のシークレットガード兼専属諜報員みたいなものだよ。

身分は近衛兵扱いだけど、やってることは隠密。

また僕自身も『王家の影』候補生なんだ。

その特殊な立場から赤札にされたんだろうけど、そんなこと言えないじゃん。

『王家の影』自体が秘密の組織なんだから。

困った困った。

「……思い当たる理由が一つある」

「どんな?」

「ボクはこの前の定期考査で、学年順位がちょうど真ん中だったんだ」

「珍しいね。でも何の関係が?」

「まあ聞けよ。思えばボクは毎回ほぼ真ん中辺りの順位なんだよね」

目立たないように成績も調節しているから。

「言われてみれば」

「ボク以外の赤札生徒って、大貴族の令息令嬢とか超優秀とかばっかりでしょ?」

「大体は両方だね」

「意見が片寄ると考えたんじゃないかな? だからキングオブモブを一人抽出しようとした」

「それがたまたまシミオンだったってことか。ありそうだね」

ホッ、ありそうと思ってもらえたか。

とりあえず偽装成功。

いや、これボクの訓練になっちゃってる気がするけど、まさかそういう意図があったわけじゃないよね?

疑い過ぎかな?

「で、シミオンはどっちに一〇票入れるの?」

「当然アンセル殿下だね」

「何で? 理由は想像できる気がするけど、一応聞いてみる」

「ハロルド殿下はモテモテだからだよ! いつも令嬢をはべり散らかしてるようなやつに、ボクみたいなキングオブモブの気持ちをわかってもらえるはずがない。だからボクは非モテの星アンセル殿下に入れる!」

「これっぽっちも想定外に踏み出さない答えだなあ。でもアンセル殿下が非モテの星ってのはどうだろう?」

「えっ? どうして?」

「アンセル殿下がマデリーン・アッシュクラフト公爵令嬢に惚れられてるってのは有名な話じゃないか。マデリーン嬢はメチャクチャ美人だぞ?」

「デブのアンセル殿下が美人一人に惚れられるのはアリだね。むしろブサイクにとってのロマンと言ってもいい」

「初めて想定外に踏み出したと思ったら、不敬罪方面の発言だものなあ」

アハハと笑い合う。

アンセル殿下はボクに話しかけてくれることがあるけど、ハロルド殿下はない。

アンセル殿下はボクが影候補生だってことに気付いてるのかもしれない。

どうせ王となる方に仕えるのだったら、鋭い人がいいじゃないか。

鈍いやつだと報告一つ取っても時間がかかりそう。

ハロルド殿下が鈍いやつだと断言しているわけではない。

が、アンセル殿下がハロルド殿下より広い範囲に目を配っているのは、時々感じることだ。

早い話がリア充殿下は近場の花だけ見ていろ。

「まあでもアンセル殿下のがいい人そうだよね」

「うん」

いい人か。

案外こういう何気ない直感ってバカにできないと思う。

――――――――――選挙後、王宮にてお茶会。弟王子ハロルド視点。

選挙が終わった。

赤札生徒の票を全部取られる惨敗だった。

やる気をなくした、が……。

「元々俺が長男だから、王位は俺が継ぐという認識だった者が多いんだろ。ハロルドにはハンデが大きかったよ。すまなかった」

「いや、謝られる筋合いじゃないんだが」

「実現したい政策でもあったら、どんどん意見してくれ。俺も王なんて荷が重いんだ。ハロルドが助けてくれると嬉しい」

どうも兄上の言いようには調子が狂うな。

もし僕が勝っていたら、兄上に対してこういう態度を取れたか?

これが王の器というものなのか。

負けた。

「アンセル様、あーんしてください」

「あーん」

選挙の結果が出てすぐに兄上とマデリーン・アッシュクラフト公爵令嬢の婚約が発表された。

大貴族アッシュクラフト公爵家のバックアップを得て、兄上はパイロザール次期王としての道を歩み始めた。

一組のバカップルが誕生した。

「マデリーン嬢が兄上のことを好きなのは知っていましたが……」

「晴れて婚約者となれたのです! 誰憚ることなく愛し合うのです!」

「選挙中はマデリーンのことが頭から抜けていたが、負けたらマデリーンを失うところだったのだな。今になって震える思いだ」

「まあ、アンセル様……」

ひしと抱き合う二人。

僕は何を見せられているんだろう?

僕が勝ってたらおそらくマデリーン嬢は僕の婚約者になったはずだ。

マデリーン嬢は僕にこんなにベタベタすることはなかっただろうなあ。

「どうした、ハロルド」

「……僕も婚約したいなあと」

「まあ、ハロルド殿下ったら。花を手折り過ぎてはなりませんよ」

「そうだぞハロルド。王家の評判が悪くなると迷惑だ。程々にしておいてくれ」

何この反応。

婚約したいと言っただけなんだが。

本当に心配そうな目を何でする?

「ハロルド殿下はモテ過ぎですからね」

「そうだそうだ。俺はマデリーン一人で十分だが」

「ああ、わたくしもアンセル様の愛でお腹がいっぱいなのです」

だから何これ?

そしてどうして僕が一人の相手じゃ満足できないみたいになってるの?

ここにいるのがバカバカしいんだが。

「失礼します。お二人で仲よくなさっていてください」

「ちょっと待った。ハロルドの意中の令嬢は誰なんだ? 俺の方からも父陛下の耳に入れておこう」

「えっ……特に意中の令嬢とかはいませんが」

「……いないのに婚約したいという話になるのか。モテ男は違うな」

「危険人物ですよ」

「危険じゃないよ!」

そうか、恋うる相手がいるから婚約したいとなるのか。

普通は。

自分でも笑えてくるなあ。

「恋に恋したくなる年頃なのですわ」

「ハロルドほどのモテ男がか。実に危険だな」

「早く婚約させるに限りますわ」

「とっとと希望を出せ」

「あ、ああ」

何故か僕の身辺が慌しくなる不思議。

この二人のパワーには勝てないな。

お幸せに。