軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

異世界観光:本屋

予想外の良い物を買えてホクホク顔の俺は、案内役のくせに自分が夢中になってしまい、「ま、待って!!も、もうちょっとだけ!!」とおもちゃ屋のディスプレイに張り付く子供みたいになっていた勇者を埒が明かないので無理やり連れて案内させ、次なる目的地である本屋へと辿り着いた。

今ここには、俺しかいない。レフィが腹が減ったとうるさかったので、金の入った袋を勇者に押し付け、二人には先に食い倒れの旅へと向かわせた。後で合流する予定だ。

キィ、と扉を開いて本屋の店内に入ると、途端に漂う、古紙の香り。

中はとても静かで、少しだけ薄暗く、客も少ない。

異世界の本屋はどんなものかと思っていたが、これといって現代の本屋と違いはない。そのまま個人経営の古本屋、といった感じの趣だ。

しっかりとジャンルごとに整理されており、一目でどこにどんな種類の本があるかわかりやすく並べられている。

「……いらっしゃーい」

やる気の無さげに頬杖を突いているカウンターのおねーさんの声を聞きながら俺は、店の奥へと入って行った。

俺が本屋に来たがったのは、魔法関連の本――特に『魔術回路』についてのものが欲しいが故だ。

俺は『魔術付与』のスキルで魔術回路を物に付与出来るが、しかしはっきり言って、付与可能な魔術回路の数が少ない。

このままスキルレベルを上げて行けばそれも増えていくだろうが、俺は特殊効果増し増しの武器を作ってみたい。『まひ』+『どく』+『やけど』+『ねむり』+『こおり』みたいな。ポ〇モンですねわかります。

そんな害悪武器を作り出すには、やはり自分で勉強することも必要だろう。

「……お、あったあった」

店内の本棚に目を滑らせ、やがて俺が手に取ったのは、『魔術の心得~魔術回路~』と表紙に書かれた本の、初級から上級までの三冊だ。

俺は何気なくパララ、と開いて中を確認するが――。

「うわ……何じゃこりゃ」

わからん。さっぱりわからん。

どのくらいわからないのかと言うと、レポートの参考資料とか言って教師に渡されたよく知らん何かの文献ぐらいわからん。

いや、文字自体は読めるのだ。『言語翻訳』スキルのおかげで異世界の文字もばっちり解読可能なのだが、如何せんその内容がさっぱりわからない。

ぐ……けど、これ以外に魔術回路関連の本無さそうだしなぁ……。

仕方ない、大分苦行になりそうだが、ロマンを求めるためには時にこういう障害が立ち塞がるものだ。

これは、試練の時だ。俺のロマンに対する熱意が、どの程度のものであるのか、という。

いいさ、受けて立ってやる。

我が野望は、その程度の低き壁では止められないということを教えてやろう――。

* * *

買う物を買ってアイテムボックスに放り込み、店を出る。

さて、と、レフィ達は……。

マップを開き、味方を示す光点を確認する。

お、そこまで離れてはないな。五十メートルぐらいか。

彼女らの位置を確認した俺は、すぐにそちらへと足を向け――。

「――なぁ、いいだろ?奢ってあげるからさ、一緒に食べに行こうよ」

「あ、あの……お金には困っていないんで」

「そう言わずさ、ほら、そっちの銀髪の子も一緒に」

「そうだぜ、そんな固いこと言わずによ」

「…………」

「え、えっと……すいませんが、人を待っていますので……」

――遠くに見えた俺の連れの二人は、三人組の男達にナンパされていた。

あー、うん……まあ、二人とも美少女なのは確かだもんな。その内に眠る力はとんでもないけど。

見ると、レフィは完全に男達を無視して手元の肉を食べることに夢中となっており、男達の相手をしているのはもっぱら勇者だけである。

その勇者も、別にナンパ男達が悪人という訳ではなさそうなので、対処に困っている様子である。

そんなの、真面目に相手しなくていいってのに、律儀なヤツだ。

「……あー、すまんが、そこの二人は俺の連れなので、ナンパするなら他を当たってくれ」

「あっ、おにーさん!」

俺がそう声を掛けて間に割って入ると、勇者がホッと安堵の息を吐き出す。

勇者さんよ、魔王が来て安堵しちゃダメだと思います。

「む、やっと来たか。ほれ、ユキ、お主の肉じゃ」

「お、サンキューな。何だ、気が利くじゃねえか」

「それ、あんまり美味しくなかった」

「お前……まあ、食うけどよ。ネル、行くぞ」

「あっ、う、うん」

「っ、お、おい、ちょっと待っ――」

そのまま二人を連れてその場を立ち去ろうとした俺だったが、慌てて手を伸ばし、一番近くにいた勇者の肩を掴もうとした一人の男の腕を、彼女に触れる前にガシッと掴む。

「何か、まだ用か?」

「ッ……い、いや、何でもない、です……お、お前ら、行くぞ」

俺が男にズイと顔を近付け、いい笑顔で問い掛けると、男は一瞬怯んだ表情を浮かべ、そのまま未練そうにこちらをチラチラ見ながら、仲間の二人と共に帰って行った。

きっと、こんな上玉逃すのが勿体ないとでも思っているのだろう。

お前ら、むしろ俺に感謝した方がいいぞ。奢るって言っていたが、どれだけ 集(たか) られるかわかってないだろうからな。

「あ、ありがと、おにーさん」

「お前、ああいう輩は真面目に相手しなくていいんだぞ。つけ上がるだけだから」

「う、うん、わかった。気を付ける。……それにしてもおにーさん、何だか対処が手馴れてるね」

「あぁ、うん、まあ……」

前世でな。うん。今世では関係のない話だ。

「……それより、俺は腹が減った。ネル、美味い飯屋」

「そうじゃな、ネル、早く案内しろ」

「あの、レフィはいっぱい食べたよね……?」

「何を言っておる、この程度は腹の足しにもならん」

「……僕の倍は食べてたと思うんだけど……」

甘いぞ、勇者。レフィは俺の倍食べるからな。

見るからに胃袋小さそうなお前の倍の量ぐらいは余裕で食べるさ。

……いや、まあ、外見的にはレフィの方が胃袋小さそうだけども。